85.ロイさんの魔力
門で待つと、ロイさんとフェンさんがお迎えに現れた
フェンさんは謎の噴水事件があってから、姿を見るのは久しぶりだ
2人は、片手を胸に当てて軽くお辞儀をした
堅苦しい挨拶が苦手なので、略式なのはありがたい
フェンさんが不安そうな顔で口を開いた
「みさき様。お加減はいかがでしょうか?」
フェンさんはとても真面目な人だ
きっと、私のために色々と気を使って行動してくれている
ラディアさんと相性が悪いと言ってはいるけど、それによって、私に影響が出るのを懸念しているんだろう
が、故に、謎の噴水事件のことを気にしていないはずがない
「大丈夫です。いつもお気遣い頂いて、ありがとうございます」
「それは、よろしゅうございました。それでは、あちらで皆様がお待ちですので」
と言って、見慣れた魔法陣の施された場所に道を指し示す
すると、ロイさんが音もなく私の隣に現れ、スっと手を差し出した
白い手袋に包まれたその手を取る
トキ殿下は黒だけど、ロイさんは白い手袋をしている
服装も、役人というより、秘書に近い感じだ
あと、なんか、気配がなくて、毎回ちょっとびっくりする
「失礼致します」
そう言って、私を抱き抱えた
「え!あの!私大丈夫です、何回か、渡ってるんで、多分、ここまでしなくても……」
「私が人を運ぶのが初めてでして、魔力特性的に、方向を見失われて、時空で迷子になられるといけませんので……。ぜっっったいに、離さないでくださいね?」
離さないでください?
離れないでじゃなくて?
意味深な物言いが気になったけと、ロイさんは、それでは。っと言って、転移の魔法陣に向けて足を踏み入れた
一瞬目の前が歪む
いつもはこのまま、気づくと目的地に足を下ろすのだが、今回はわけが違った
天地が、左右が、分からない
ロイさんに抱き上げられているはずなのに、地に足が着いている
いや?地に足は着いていない?
ロイさんはどこ?
私の手はどこ?
私はどこ?
ここは誰?
私はどこ?
パニックになる
どれもが正しくて、どれもが正しくない
何もかも投げ出して全てをリセットしたくなる
『離さないでくださいね』
あっ!!!!!
私はギュッと、手を握った
自分の手がどこにあるかさえも分からない
とにかく、よくわからないまま手を握った
すると
「みさき様!!??」
はっ!!!!
パチッと目を開けると、ロイさんは私を腕に抱えながら、心配そうに見つめていた
「あっ!え??なんか、今……」
さっきの方向感覚パニックがまだ抜けきらない
「申し訳ございません。やはり、私では危のうございますね」
なんだったんだ。さっきのは……
「私の魔法特性は『偽り』です。幻術と少し似ていますが、物、空間、方角、存在、ありとあらゆるものを偽ることが出来ます。諜報向きのスキルなので、人をお運びするのには、やはり不向きでしたね……」
離さないでと言われた理由がわかった気がした
離れなければ良いというものでは無い。その対象物を見失ってしまうのだ
偽りの先の真実を離さない!!という強い意志が必要だった
同じ魔法を使っても、使う人の魔力特性の違いで、こんなにも影響が違うなんて……
少しすると、感覚が戻ってきた
ロイさんは、私を丁寧に降ろすと、門の前で馬を準備しているみんなのところに歩み寄る