66.ひととき
私達は自然と体を離すと、カイリ殿下は顔を上げ
「すまない……ありがとう」
と口にした
「あ。いえ……あの……」
衝動的にギュッてしたくなったにもかかわらず
我に返って行動に移しきれなかった結果、
どうぞ甘えてくださいポーズをとるという不可抗力により
カイリ殿下の方から私の腕に収まるという現象が起きた
結果オーライ……なのか?!
私はとりあえず、カイリ殿下の隣に座った
ルゥ君達は、勝手に進む大人の話に、ただただ振り回されるだけで、自分達にかけられる言葉は嘘ばかりだったら、そりゃー2人だけの世界に閉じこもるのもわかる気がする
そして、トキ殿下のプロの甘やかし術で、あんなに心を開くようになった……のかな?
「ルゥ達はトキに会って、時間はかかったが、心を開いてからはあんな感じだ」
「トキ殿下の甘やかし術凄すぎませんか?」
魔法特性は甘やかしなのではないだろうか……
「そうだな」
カイリ殿下は、嬉しそうな表情を浮かべた
双子の絆は只者じゃない
きっと、トキ殿下が辛い時はカイリ殿下も辛い
トキ殿下のことで悪い噂が広まった事や、それに対してトキ殿下が今まで引きこもり……いやいや。幽閉されていたことも、多分辛かったんだと思う
それが国のためと言われても、そのために犠牲を払うことに憤りを感じている
私は、先日のカイリ殿下お怒り案件を思い出した。
トキ殿下は納得していたとしても、カイリ殿下は納得していなかった。寂しかったんだろうなぁ…きっと
「ところで」
カイリ殿下は顔を上げ、私の方に体を向ける
「記憶が戻ってきてるんだろ。体は大丈夫か?」
夢……今日も見るのだろうか
普段穏やかに過ごさせてもらってるからか、夢の中の気持ちの波の激しさに、感情が制御できなくなる
感情に呑まれて、支配されて、自分ではどうすることも出来ない……
ちょっと怖い
「今のところは…………大丈夫です」
「そうか」
そう言ってカイリ殿下は片手を差し出した
私は自然とその手を取ると、殿下はその腕を引き寄せる
「えっ!?」
バランスを崩してポフッと殿下に身を預け、そのまま首元に抱きつく形で殿下の腕の中に収まった
殿下は私の頭を撫でながら、軽く抱きしめてくれる
近すぎて心臓のバクバクが伝わっちゃうんじゃないかと思って、余計にドキドキする
耳元でカイリ殿下が囁く
「眠れそうか?」
いえいえ。こんな状況で眠れる訳ありません!
「………」
言葉につまる
眠れない要因がありすぎです
「ルイとルカの方がいいのかもしれないが、あいつら揃って寝相が悪すぎるからな……」
「なんでその2人?」
私はそのままの疑問を口にした
「心因性のものはルゥ達の魔力特性の方が相性が良い」
「私は起こったことに対して魔力を変化させることは出来るが、後手にしか回れない。トキは毒を持って毒を制すという感じだな。自分の魔力で事象を塗り替える。これはこれで荒っぽい手法だな」
魔力って、特性や使い方によって色んな方法があるんだ……
私は蕾に話しかけることしか出来ないと言うのに(涙)
そもそも、どうやって私の状態が分かるんだろう。全く感覚が分からない。
「どうやってそんなの分かるんですか?」
「ん?触れればわかる」
「?????」
触っただけで分かるの?
え。じゃ今この状態もなんか色々あれなんじゃないですか!?
「表面的なものであれば見ただけでも分かるが、内面的なものは、拒絶されれば魔力も反発する」
「強制的に影響を及ぼすことも出来るが……」
そう言って殿下の指は私の頭を優しく撫でる
「本意では無い……」
カイリ殿下の優しさが流れてくる
今までの数々の出来事を振り返っても、私が恥ずかしさに勝てなかっただけで、殿下にはものすごく、気遣われていたんだということを感じた
カイリ殿下は私の頭を優しく撫で続けている
癒される……
距離の近さに緊張はするものの、カイリ殿下はなんか癒しのパワー持っている気がする
これがカイリ殿下の魔力なのかな……
私は腕の中の居心地の良さに、力を抜き、身を預けた