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60.トキ殿下の添い寝

日が暮れると夜が訪れる

重い雲に包まれた夜空からは、星の光は届かない


こんな日は不思議と良くない夢を見る

窓の外を眺めながら不安な気持ちになる


コンコン

ガチャ


静かな部屋に訪問者を告げる音が響いた


「やぁ」

トキ殿下はにっこりと微笑んで、手をヒラヒラ振りながら扉の前に立っていた


その優しい微笑みにフラフラと引き寄せられて、殿下のもとまで歩いていく


少し距離をとって立ちすくむと、トキ殿下は両手を軽く広げた


……ん?

なんのポーズだろう


私は疑問の眼差しでトキ殿下を見上げた


「あれ?違うのかな?」

殿下は小首を傾げながら私を見つめる


「寂しかったとかない?」

「………」


「不安だな~とか思うことない?」

「………」


「なんかちょっと人肌恋しい。とかない?」

「………」


「あれ?おかしいな?そんな顔してたと思ったんだけど、違ったかい?」

「………」


図星すぎて言葉が出ない

そうです。と言える訳もなく、モジモジと行き場の迷った手でブラウスの裾を掴む


「さぁ……おいで」

再度トキ殿下は手を広げてこちらを見つめた


私はトボトボとトキ殿下に向かって歩き、その胸にポフッと頭を預けた


「君は中々手強いね?」

そう言いながら、私を両手で包み、頭を優しく撫でてくれる

「もっと甘えていいんだよ」


トキ殿下の腕の中は居心地がいい

気づいたら私は抱き上げられてベッドの上に降ろされた


流されるまま、毛布をかけられ、おやすみの体制に整えられる

トキ殿下は、隣で片肘をついて体を起こして私の隣に横になっている

まさに、寝かしつけのシュチュエーション


私の胸上に手を置いてトントンとリズムを取りながら

「さぁ、寝よっか」

と、微笑みかける


いえいえ……眠れるわけないです

こんな状況で!!


「寝れません……」

「そう?じゃあお話しよっか?」

トキ殿下は姿勢を変えずに、私に話しかける


え?

このままの状況は変わらないんですか!?


私はトキ殿下の腕をすり抜けて体を起こした

殿下は私に合わせて腕を崩し、自身も体を起こして、ベッドにもたれた


「カイリがみさきのことを心配していたよ」

「君の記憶が封印されていたことは聞いている。あと、その封印を解いたこともね。」

そう言って、私の肩に腕を回して、自身の肩に引き寄せ、前髪をなぞると私の額に殿下の指がサラッと触れる


寝かしつけの腕から抜け出たと思ったのに、流れる動作で、スッとトキ殿下の肩に頭を預けさせられ、片腕でホールドされている


甘やかしのプロだ……


「過去のことで思い出した事とかは無い?」

「夢を………見ました」


「夢?」

「多分私が忘れている部分の記憶なんだと思います」

私は今朝の息苦しさを思い出して、足を抱えて、体を丸めた


「そっか。夢……ね」

「何か記憶に繋がるものに触れた時に急に思い出したりしたら、心の負担になるだろうからって、カイリが心配してたんだけど、夢だとちょっと手が出せないね……」

そう言ってトキ殿下は私の手を握った


「今日は、僕が隣にいるから安心で眠るといいよ」

「いや……えっと、子供じゃないんで……大丈夫……………です」


「うーん……」

トキ殿下は何かを考えるように目線をずらした


「でも、記憶の逆戻りが始まったってことは、これから、徐々に記憶が戻って来ると思う。それが苦しいことでも、辛いことでも、強制的にフラッシュバックすることになるんだ」


「え……」


怖い……。私の過去、そんな壮大な感じなんですか?

でも、確かに、今朝は苦しくて、朝エリちゃんが起こしてくれなかったら苦しいままだったのかもしれない……


「それが夢だとすると僕には手が出せないからね……。せめて、そばで見守らせて欲しいな?」


そう言って、人差し指を立てて、そこにフーっと息を吹きかけた


これと同じ光景を確か前にも見たことを思い出した

辺りにキラキラした光の粒が舞っている


「これは睡眠の香でね。この使い方だと一時的な効果しかないんだけど、君は僕らの魔力と、相性が良いのか、魔法が効きやすいから、これでも十分かな」


そうなんだ。このキラキラした綺麗な風景にそんな効果が


確かに、前にカイリ殿下が使ってた時もフワフワして気持ちよく眠りについた気がする


『おやすみ』


その声を聞くと、私はトキ殿下の腕の中で、ウトウトし始め、殿下に体を預けて眠りについた

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