55.お散歩は森の中へ
馬がゆっくりと歩き出す
人気のない道を通り、大きな関所の門の前までやってきた
「あれ?王都出ても大丈夫なんだっけ?」
トキ殿下に問われる
そもそも、ほぼ教会から出ない生活をしているので、どこまで出ていいかとか考えたことがなかった
「わからないんですが、あまり人が多いところには行けなくて……」
「ん~そうだよね。まぁ、人が通らないような道を少し散歩するくらいだから大丈夫かな?」
今日の目的はお散歩だったんだ
草木が生い茂る道、舗装されていない通りは、通る人も誰も居なくて、馬がゆっくりと歩く音だけが響いている
途中、バサッと大きめの鳥が目の前を横切った
「うわっ!!」
びっくりして、トキ殿下をぎゅっと抱きしめる
「ぉおっ?!大丈夫?」
トキ殿下は一旦馬を止めて、私の背中に添えた手でトントンと撫でながら、私を見つめる
「びっくり…しただけです」
「そぅ」
静かに囁くと、またゆっくりと馬が歩き始める
そよ風が肌をかすめ、ゆっくりとした時間が過ぎていく
自然って気持ちいいな……
それに、トキ殿下の腕の中は妙に落ち着く
うっかりすると、ずっとここに居たい。ってまどろんでしまいそう
最近気づいたことがある
魔力の中にも感情があって、その思念みたいなものを肌に感じることが出来る
私が苦手な魔力は人の負の感情の塊で、グサグサ体に何か刺さってくるような感覚になる
それを浄化しなければ、その魔力に囚われてしまって争いが起こるのだろう
その浄化のために私がいるらしいんだけど、正直、こんなに弱々なのに、浄化できてるのか不思議だ
そういえば、私、泉で浄化できなくなってしまったんだけど、大丈夫なんだろうか……
今のところ全然なんとも変わりないけど
もしかしたら、もらったペンダントのおかげなのかな?
胸元のペンダントを手に取り、見つめる
カイリ殿下の瞳の色と同じ、赤い宝石がちりばめられたペンダント
お守りのように、どこに行くにも肌身離さずつけている
そんなことを考えていたら、トキ殿下は馬を止めた
ん?どうしたんだろ
パタパタと瞬きをして当たりを見渡すと、うっすらと霧がかかっていて、方向が分からない
「離れないで」
トキ殿下は少し警戒した声で私に告げた
すると、目の前の霧が道を開けるように晴れていく
「これは……」
目の前に広がったのは森の入口
「通れ。ということかな?」
霧に導かれるように、森の中へ馬を進めた