30.記憶のない目覚め
目が覚めると自分の寝室だった
朝日がいつも通り窓から差し込み、部屋の中を明るく照らしていた
あれ?私、確かルゥ君達とおしゃべりしてた気が……
「目が覚めたか」
赤い瞳が心配そうに私を覗き込む
カイリ殿下は私の左手を両手で握りしめ
「……良かった……」
と、呟いた
右手はルカ君と繋がれていて、ルカ君はルイくんと手を繋いで私のベッドにもたれて眠っていた
これは一体どんな状況?!
カイリ殿下は私の前髪をサラリとなぞると、髪を撫でながら
「具合はどうだ?」と聞いてくる
なんかちょっと頭が痛い気がするけど、別にいつもと変わらない
私は体を起こしながら
「大丈夫です……けど……これ、どんな状況ですか?」
と、ルゥ君達を眺めて殿下の方に向き直る
「これは………。」
カイリ殿下が話始めた途端、右手につながっていたルカ君がパッと目を覚まし、私のお腹に飛びついた
「ええっ!?どうしたの?!」
ルカ君はそのまま何も言わずに頭をグリグリとして甘えてきた
「ルカ」
カイリ殿下が優しく声をかける
ルカくんは顔を上げ、もう片方の手に繋がっているルイ君を抱き上げると、ソファーに寝かせ、手を握って様子を見ている
「ルイはどうだ?」
「大丈夫。今日1日は眠るかもだけど、問題ないよ」
その言葉を聞くと、殿下は片手で鳥の絵を描き、1羽の鳥を作り出す。その鳥を羽ばたかせ、ルカ君に言った
「今フェンに遣いを送った。来たら一緒に戻って寝室で休んでいろ。」
程なくして、ユミさんがルゥ君達を呼びに来た
「何かあったら知らせろ。夕方頃一旦様子を見に行く」
カイリ殿下が言葉をかけると、ルカ君はルイくんを抱き上げて部屋を去っていった。
なんか、ただならぬ何かが起こった後。みたいな空気がひしひしと伝わってくる
(何があったんだろ。多分私のせいな気がする……)
「食事はできそうか?」
「はい。あの~……何かあったんでしょうか……」
例えるならば、お酒に酔って記憶を飛ばした人が翌朝ケロッと何事も無かったようにしていると、周りの視線が痛い……くらい気まずい……
カイリ殿下からの答えは無く、ソワソワしながら、テーブルに並べられた軽食を食べようとベッドから降りる
途端、頭がズキッとしてバランスを崩した所をカイリ殿下に支えられ、そのままソファーにエスコートされた
「どこか痛むか?」
「頭が……」
変な痛みに眉をしかめていると、殿下は、私の額に手を当てた
その手の温かさに、自分の体が冷えきっていたことを自覚した
寒いわけじゃないけど、なんか、「冷たい」そんな変な感覚……
カイリ殿下の手に癒されながらぼーっとしていると
「無理にとは言わないが、食べれるなら食べた方がいい」
そう言って、殿下は軽食が並べられたテーブルに手を伸ばす
(え。いやいや。ちょっと!!!自分で食べれる!食べれますから!!)
その手を止められる訳もなく、カイリ殿下は1口サイズに切りそろえられたサンドイッチを手に取り、私の口元に持ってきて、はいア~ンの姿勢をとった
腰元は、もう片方の手で支えられていて、逃げられない状況……
私を心配するその表情を見て、恥を捨て、口を開けてサンドイッチを受けいれた
私がもぐもぐ食べている姿をずっと見届けられる
(こんなに見られながら食事なんてできません……消化不良起こしちゃうよ……)
「あの、自分で食べれますので、大丈……」
言いきる前に次のサンドイッチが、口元に届けられる
「ん?」
食べないのか?と言われた気がする……
私、言葉少ないカイリ殿下に順応しつつあるのでは?
私は大人しく2つ目のサンドイッチを受け入れた
こうして羞恥に耐えながら食事を終えると、食後の紅茶を手に取り、心を落ち着かせた
そして、食事の前に答えが貰えなかったことを再度聞いてみた
「あの~……昨日何かあったんでしょうか……記憶がなくて……」
すると、同じく隣で紅茶を手に取っていたカイリ殿下が、ティーカップを置き、
「どこまで覚えている?」
と聞いて来た
「ルゥくん達とお話してた気がするんですが……」
「そうか……。そうだな。どこまで覚えてるか分からないが、話の途中で君は意識を失って倒れた」
そう言って、その後の出来事をざっくりと説明してくれた