159.★番外編★後宮でのひととき
式典も終わり、今日は後宮でのんびりお茶会に参加する
ラディアさんにエスコートされて中庭にたどり着く
中庭に設置されたティールームにはお茶とお菓子が運ばれていて、辺りは様々な花が咲き誇り、華やかさに彩りを添えた
「色々、お気遣い頂きまして、ありがとうございました!」
私は先日の式典のお礼をした
お世話になりすぎて1個1個あげていったらキリがないけど、この方達が居なかったら、人前になんて出れなかった気がする
「フフフフ………」
アルバさんと、メリナさんが笑いを堪えられず楽しそうに話し出す
「普通なら、仕立て屋、商人、宮廷お抱えのいろんな人が入って式の準備をするのだけれど……」
「カイリ君がみさきさんをその人達の手に委ねることに断固反対されてて」
「『信頼できる者の手以外に、触れさる気は無い』って言い切って、朝廷で全ての奏上を一刀両断にしたそうよ………フフフフっ…」
そ、そうなの?
つまりは、お役人さん達みんな信頼してないと言っているようなものなのでは……
そんなことがあったなんて露知らず
お二人は、扇を片手にとても楽しそうに話を続けた
「だから、私達にみさきさんを飾り立てるお役目が回ってきたのよ」
「嬉しかったわ。こんな可愛い子を飾り立てることができるんですもの~」
貴族の皆様は、全て周りの人がやってくださるのでは無いのだろうか……?
あんな綺麗に仕上げる技術いつ使うのだろうか……
「お2人は、何でそんなにお上手なんですか?」
「「??」」
アルバさんとメリナさんは、お互いを見つめると、こちらを向いて、
「しゅ・み・よ・♡」
と、答えをくれた
趣味レベルであんなプロ級の腕前……
貴族の令嬢の習い事レベルでは無い気が……
「そういえば、シャボン玉綺麗に咲いてくれてよかったわ」
「さすが、みさきさんの魔力は綺麗ですのね」
いやいや。私。本来、自分で何にも使えないんですよ……トホホ……
「お気に召していただけたでしょうか?」
ライラさんが感想を聞いてきた
「びっくりしました。シャボン玉でバラの色が変わるなんて……」
トキ陛下がちょっと説明してくれたけど、そんなバラできるものなんだ?
「みさき様の光の魔力のおかげですわ!」
ライラさんは輝くような笑顔で力説した
「強い加護を受けた魔力は、生物に影響しますの。逆に、強く穢れた魔力を注げば生物の命さえも刈り取ることもできますわ。」
強い魔力ってそんなに影響があるんだ……
そっか……。
私は、宮廷の淀んだ空気を肌に感じたあの空間を思い出した
「みさき様の魔力をシャボン玉に閉じ込めて、国中に運ぶことが出来ましたのは、メリナ様のおかげです」
と言って、メリナさんの方へ視線を移す
微笑みながら優雅に扇をあおいでいるメリナさんと目が合った
そうだ。あの扇、魔法具なんだ
全然違和感がない
ただの優雅な扇にしか見えない
「あらあら。不思議そうな顔をなさってるわね?」
「お話して差しあげた方がよろしいのでなくて?」
「そうね。この扇はカイリくんと、トキくんから頂いた魔法具なのよ。魔法の威力を上げるアイテムだと思ってくれればいいわ」
「何かあった時に、自分の身を守れるように、お揃いの物を仕立ててくださったの」
何かあった時……
そんな身の危険が及ぶようなことがあるの?
「みさきさんはこれから、その辺も少しお勉強された方がいいかしらね」
「そうね。ラディアちゃんが居るとはいえ、本人の自覚がなければ気をつけようがないでしょうし……」
ラディアさんの方を向くと、
「私は公式にみさき様の護衛に指名されましたので、今後、お出かけの際は私がお供致します。ご安心ください」
そう言って片手を胸に当ててこちらを見つめている
いつでもかっこいいです。ラディアさん!
ラディアさんは、席を立ち、私の隣に歩みを進めると、
「あちらに、トキ陛下がご準備された花壇がございます。ご覧になりますか?」
と言って、噴水の方を指し示した
ラディアさんから差し出された手を取って立ち上がると、噴水に向かってそのままエスコートされる
色とりどりのお花を眺めながら、白いバラに囲まれた噴水までたどり着いた
さっきまで白いバラだと思っていたけど、光の加減で色が違って見える?
私が不思議そうな顔をしていると、
「こちらのバラは公園の花時計と同じ品種で、魔力に触れることで色に影響が出やすくなってますのよ。どうぞ、触れてみてくださいまし」
私、魔力を使えないんですが……
そう思いながら、バラの花に触れる
すると、花びらがキラキラと輝き、光を反射して、クリスタルローズとなった
「流石みさき様ですわ!!」
ライラさんは嬉しそうに両手を合わせて、こちらをキラキラした眼差しで見つめている
「トキ様が、どうしてもみさき様に素敵な花時計をご覧に入れたいと仰って、魔力の濃度や環境、あらゆるものの条件と、相性の良い品種の研究を連日お進めになったんです」
「花時計まで運ぶ条件に合う魔力濃度の選定と抽出にだいぶ苦労されてらっしゃったのですが、カイリ様のお力でそちらも解決致しました」
いつまでも忘れない
花時計の一面が青く色づき、あおいお姉様の気配をほのかに感じられたあの景色を
ラディアさんは噴水に歩み寄り、水を片手ですくうと、その水をバラの花びらに一雫垂らす
すると、バラの花びらは青く色付いた
「トキ様は、みさき様がいつでもあおい様とお会いになれるように、こちらの花壇を整備されたようです」
ラディアさんが私の隣に戻って来てそう言った
噴水の水を浴びて青く染ったバラを見つめてお姉様を思い出す
「これからこの後宮は、公には公表されないけれど、みさきさんのために私達が色々アドバイスをしてあげられるように、というのがお二人のはからいよ」
アルバさんが私の右に立ち、そう告げる
「みさきさんには私達を頼って欲しいの。姉のように、妹のように、友達のように、なんでもお話してくれていいのよ。困ったことがあったらなんでも聞いてね?」
メリナさんが私の左に立ち、そう告げる
「お力添え致しますわ!」
ライラさんが私の両手を包みながら、目の前で目を輝かせた
なんて心強い
「ありがとうございます!」
私は感謝の言葉を口にした
「早速だけど~……多分これから色んなパーティに出席しなければいけなくなると思うの」
「社交の場には、他国の貴族や王族の方も集まるから、色々お教えしておいた方がいいこともあるかしら?って思っているのだけれど……」
避けては通れない道なのはわかっていた……
「あの……マナーも何もイチから教えて頂けませんか?」
「「もちろんよ」」
「もちろんですわ」
こうして、レディになるためのマナー講座を受けることになった
もちろん、エスコート役を務めるのはラディアさん
マナーと、仕草、立ち振る舞いでいっぱいいっぱいになりながら
ちょっとずつこの国の王妃として、それっぽくならなくちゃ!と、奮闘するのであった