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158.祝福

きききき緊張する……


さっきまでのは準備運動で、これからが本番みたいなのだ……

「わたくしがついてございますので、ご安心ください」

そう言って、ラディアさんが私の隣に立ち、腰元に手を添えてくれた


ラディアさんにエスコートされながら、二人の待つ花時計の前に作られたステージへ向かう


「皆も知っての通り、この国の魔力はマリアによって浄化され、平和が維持されている」


「その、当代マリアであるみさきを、私たちは王妃に迎える」


2人はこちらを振り返ると、私に手を差し伸べた


ザワザワ……


私はその手に導かれるまま、二人の間に立った

視線が……多くの人の期待と、疑念の眼差しが一斉に集まる


ですよねぇ~………


国民の誰もがマリアの存在は知れども、誰がそのマリアかは知らない

隠された存在

そうしたのはきっとお姉様が私を守ってくれていたから

誰がマリアなのか知らなければ利用されない


困惑の眼差しと、期待の眼差しと、複雑な視線を沢山浴びながら、私はドレスの裾を少し持ち、片足を引いて膝を折ると、ゆっくりと、わりと優雅に挨拶のお辞儀をした


私は、この挨拶の練習だけは死ぬほどやった

なんたって、礼のひとつも知らない

貴族の皆様のような気品も、優雅さも、微塵も持ち合わせていない

だから、自分の中身がどれだけポンコツでも、優雅で自然な気品溢れるアルバさんとメリナさんのように、とりあえず挨拶だけはどうにか取り繕おうと、メチャメチャ特訓してもらった

視線、姿勢、速度、色々ポイントを教えて貰って、ようやく形になった

御二方には感謝しかない


ゆっくりと姿勢を戻し、顔を上げると、花時計のスプリンクラーが回った


え?なんで?!


全面がバラでカラフルに彩られている花時計

その上を霧状の水の粒が覆っていく


お水をあげる時間なのかな?

何故?今?!何故今なの?


民衆の目線も花時計というより、スプリンクラーに釘付けだ


ん?


そのスプリンクラーのお水と一緒に、一瞬、青くて小さな花が舞った気がした


『……ヒトミソウ?』

集まった人にも見えているらしい


そうだ。ヒトミソウ。水辺に咲くって……

フェンさんが教えてくれ……


そんなことを思い返していると、

スプリンクラーの水は、太陽の陽射しを浴びてキラキラと輝き、水の粒が花時計のバラを全て青く染めた


ビックリしすぎて声も出ない

私はトキ殿下とカイリ殿下を交互に見つめた


「驚いたかい?」

トキ陛下は、ニッコリして問いかける

驚きすぎて声が出ない私は、コクコクと頷いた


敷き詰められたブルーローズの上で、時計が時を刻む


ブルーローズ……お姉様の……

ほのかにお姉様の気配を感じる


「強い魔力ほど、その影響力は強い。強い魔力が影響して、咲く花の色を変えることもある。王宮に咲いていたブルーローズのようにね。まぁ、僕とライラの研究の成果ってとこかな。君に驚いて欲しくって、気合い入れて準備しちゃった」


トキ陛下はパチっと軽くウインクして私を見ている


お姉様はここにいる

何時でも見守ってくれる

私もなれるかな

祈ることが

想うことが


色んな気持ちが溢れてきて、トキ陛下の胸元にギュッと抱きついた


すると、カイリ陛下が隣で解説を足した

「あおいの魔力の影響が強い後宮の噴水の水を使っている」


後宮の?


「まぁ、この研究を進めたのは、僕とライラだけど、実際に魔力の影響力を分析して、水を運んで、操作してるのはカイリだから」


私はカイリ陛下を見つめた

その横顔は、いつもと変わらず涼やかな表情で花時計を見つめている


私のために色々考えて、みんながいっぱい準備してくれて、沢山のものを私に与えてくれる

でも、私は何も返せていない


国民は皆、お祝いのお花を持ち、声援を贈っている


私には何ができるだろうか

この国のために、そして、私を想ってくれるこの2人のために


私は、カイリ陛下に向き直り、首元に腕を回して、顔を引き寄せた

カイリ陛下は、ちょっとバランスを崩してビックリした表情を見せたけど、そんなのお構い無しに私はカイリ陛下の頬にチュッと口ずけをした


カイリ陛下は、私の思いもよらない行動に、リアクションが取れずにキョトン顔をしている


私はそのままトキ陛下の方を振り返ると、こちらも、私の行動にキョトン顔をしている顔に向かって両手を伸ばした

トキ陛下は行動を察して、かがんで顔を寄せてくれる

私はトキ陛下の頬にもチュッと口ずけを贈った


そして、2人の片腕ずつを引き寄せて、耳元で囁いた

私を愛してくれるこの2人に伝えたい気持ちを

「私も……愛しています。」


すると、公園に植えられているバラの蕾がいっせいに開花した

その花びらは、光を反射して7色にキラキラと輝いている


そして、その光景を見た国民は先程までの歓声とは比ではない大きさの声を上げた

『みさき様ー!!!』

『マリア様ーー!!!』

カイリ陛下やトキ陛下を叫ぶ声に交じって、私を呼ぶ声も聞こえる

公園が大きなスピーカーになったみたいに盛り上がって、すごいことになっている

皆は各々自分の持っている花を天に向かって、いや、ステージに向かって掲げた

辺り一面に花が咲いたように、クリスタルローズの絨毯が公園を埋めつくした

その光景は美しく、暖かい気持ちに満ちていた


「みさきにはほんと、驚かされるな~まさか、公園中の蕾を咲かせるなんて」

トキ陛下が公園に咲いたクリスタルローズを見回しながら穏やかな表情でこちらを見つめる


「これは、皆の祝福の想いだ」

カイリ陛下は、皆が掲げたクリスタルローズを見回し、穏やかな表情でこちらを見つめる


ガラーン………ゴローン……

遠くの教会から鐘が鳴る

祝福の音色を聞きながら、カイリ陛下とトキ陛下は、片手を振って、国民の拍手と声援に答えている


私はこの光景を一生忘れないと思う

幸せに満ち満ちたこの空間を

この国の平和と皆の幸せを願い、全てを許し、この国の魔力を浄化することで、皆の心の平穏を保つ


すっかり忘れていたけど、私の生まれた世界にもこんな未来があったんだろうか?

辛いことの先に幸せは待っていたんだろうか?


ふっとそんなことが浮かんだけど、そんなのどうでも良い

今、この幸せを、抱きしめて生きていく

私はこの世界で、これからも、2人と共に………



END









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