157.花時計は永遠に……
公園の花時計の前にたどり着く
王宮や沿道の比じゃないくらいの人達がぎっしりと集まっていた
人が押し寄せないように、騎士団の人達が沢山配置されている
もちろんラディアさんもその一人
先日会った時に、『私は公園の方を担当致しますので、そちらにてお待ちしております』っと言っていたから、居ると思うんだけど……私はキョロキョロと辺りを見渡す
「どうした?」
カイリ殿下がそんな私の姿を見て声をかける
「あの……ラディアさんがこちらにいらっしゃるって聞いてたんですが」
あぁ。ラディアなら……
カイリ殿下の視線を追うと、銀髪をポニーテールに結わえた後ろ姿が目に入った
白い艶やかな生地にロイヤルブルーの刺繍が入ったパンツスタイルに身を包み、ラディアさんは腰元の剣に手を添えて立っている
視線に気づいたのか、こちらを振り返り、静かに歩いて私の目の前まで来ると、流れるような動作で、跪いた
片手を胸に置き、頭を垂れて礼をとる
「この度はおめでとうございます」
その所作はまさしく王子様のように輝いて見えた
ホントの王子は両サイドにいるのだが……
私がラディアさんに見とれていると、カイリ殿下が
「挨拶はよい。みさきを頼む」
と、ラディアさんに言った
「かしこまりました」
ラディアさんは、頭を下げたま勅命を承った
そして、スっと私の目の前で立ち上がると、その動作を目で追ってしまう
か……かっこいい……
このたたずまいのかっこよさ……さすがラディアさんです!!
すると、トキ殿下が耳元で、
「そんなキラキラした眼差しで見つめていると、妬けちゃうな」
っと囁いた
「いや!これは!!っ!ええっと!!」
しどろもどろになりながら言葉を探したけど、上手く言葉に出来ない
「そうだな。」
えっ?何に同意なんです?カイリ殿下?
「あの時も、選ばれたのは結局ラディアだったしな」
……まさか……あの第4都市の行きのことまだ根に持って……
2人の嫉妬の眼差しをもろともせず、ラディアさんは、私に手を差し出す
「さあ。参りましょう」
私は、その手を取って、ステージから少し離れた場所にエスコートされていく
2人のチクチクした視線を背中に感じながら……
「「あっ!みさきっ!!」」
揃った声のする方へたどり着く
サラサラの金髪を耳にかけ、白の式典服を身にまとっている2人は、羽織っているケープのようなマントをバサッとして、膝まずいた
片手を胸に当てて、少し顔を伏せ、手短に挨拶を済ませると、そのまま立ち上がり、ズイズイっと、私に寄ってきた
近いっ。この2人はいつも距離感が近い!
「ドレス綺麗だね!!」
「メイクも可愛いね!」
「いいなー兄上。ボクもみさきと結婚したい~」
「ルイ。そーゆー事言ってると、兄上の鬼のような視線が飛んでくるからよしなよ」
「え~だってぇ~」
2人はいつも賑やかだ
「そうだ!みさき。兄上から話は聞いてるよ。ダリア王女のこと壮大に勘違いしてたって」
「カイリ兄上は、嫌われたって言って、毎日しょんぼりしてたし、トキ兄上は振られたって言って、消えて無くなりそうな顔してたから良かったよ。」
え?
そんなことが?
いや、だって、ダリア様と結婚するって聞いたから……
……いや
もしかしたら、あれもダリア様が撒いて行ったウワサの種なのかもしれない
「見てられなかったよね……」
「うん……だから、もぅ指輪外しちゃダメだよ?」
「そんなに……?」
2人ともそんなに思い詰めててたの?
「カイリ兄上はあまり顔に出さないけど、内心相当へこんでたし……」
「トキ兄上からは毎日ため息しか聞こえなかったよ……」
お、おう……なんか、すいません……
「きちんとみさきに理由聞いたら?って言ったんだけど……」
「直接言われたら立ち直れないからって、2人共ちょっと距離置いてて、見ていられなかったよ」
なんか微妙な空気を私が作ってしまっていたんだ……ってか、2人ともそんなにへこんでいたなんて
私も……同じか
「だからボク達も頑張ったよね」
「だって、ダリア王女を王妃にとか、絶対無理!!」
2人は私の手をそれぞれ握って、私の耳に顔を寄せた
いや。だから、近いんですよ!!
「兄上のことで何か困ったことがあったら、ボク達に言ってね?」
「兄上のことで、嬉しいことがあっても、僕達に言ってね?」
んん?つまり、なんでも話して欲しいということ……なのかな?
「殿下方。その辺に致しませんと……」
ラディアさんがみんなの視線をステージ上の王子ふたりに誘導した
赤い瞳と紫の瞳は、こちらを凝視している。っというか、ルゥ君を威嚇しているようにも見える……これが、ルカ君の言う鬼のような視線なのか……
自分ばかりが不安になっていたって思ってたけど、2人も不安に思うことってあるんだ
私は空を見上げた
シャボン玉は、この公園にもフワフワと飛んできている
私も、きちんと言わないと
伝えないと
2人に
「さあ。殿下方はこちらを」
ルゥ君が渡されたのは、立派な王冠だった
戴冠式と言うからには冠が用意されている
ゴーン……ゴーン……
式典開始の鐘がなる
すると、ザワザワしていた空気が一変、静まり返った
この王冠をつけたその時から、2人をこの国の王として、新しい国家が誕生する
宝飾品で彩られた王冠は、光を反射して、キラキラと輝いた
花時計の前のステージでルイ君とルカ君の手から、カイリ殿下と、トキ殿下にそれぞれ王冠が贈られる
2人が立ち上がって正面を向くと、「カイリ陛下ーー!!」「トキ陛下ーー!!」っと、爆音の歓声が公園を埋めつくした
想像以上の盛り上がりにびっくりして、後退りした私は、自分のドレスの裾を踏んだ
あっ!!
バランスを崩しそうになったところを、ラディアさんが支えてくれた
「お気をつけください」
「ああぁ、ありがとうございますっ!」
危なかったァ………
びっくりして、焦って、ドキドキが止まらない
ラディアさんがかっこよく見えてしまうのも、吊り橋効果と言うやつか!?
そんな私がドキドキしている間に、2人はご挨拶を終えた
「これからは2人でこの国を治める」
パチパチパチと、拍手は鳴り止まずに公園中に響き渡った
「そして、今日は皆にもうひとつ祝福してもらいたい」
ついに、私の出番が来た……