156.テラスでは優雅に
1歩1歩、歩みを進める
だんだんと、下に集まった人達が見える位置に来ると、辺りから歓声が上がった
テラスから下に降りる階段の手前で足を止めると、カイリ殿下とトキ殿下は、私の手を解放し、集まった国民の歓声に片手を上げて答えた
その光景に呆然と立ち尽くしていると、トキ殿下が耳打ちしてきた
「手、振ってあげて」
私が?
みんな、2人の殿下を見に来ているんじゃないのか?
私のお手振りって必要なんです?
とりあえず、言われた通りに手を振った
すると、後ろからフワッと柔らかい風を感じる
気持ちいい風……
優しくて、肌心地がいい、冷たくも暑くもない、気持ちいい風がフワッと通り抜ける
後ろを振り向くと、アルバさんとメリナさんが、扇をあおいでいた
優雅だ
メリナさんと目が合う
すると、メリナさんは扇を上へ掲げ、塔の上に向かってフワフワと振った
私はその塔の先を見つめる
塔の上からはフワフワとシャボン玉が空に舞い上がった
「さぁ、降りようか」
トキ殿下の声にパッと前を向くと、集まった人達は空に舞うシャボン玉に気づき始め、歓声が大きくなった
2人に支えられながら、気をつけて階段を降りる
「メリナは風の魔力を持っている」
カイリ殿下は階段を降りながら何故かこのタイミングで説明してくれた
「あの扇は魔法具だからな」
「ええっ!?そうなんですか!?」
いつも優雅に貴族のたしなみみたいに持っていた扇って。魔法具だったの!?
「この風に乗って、これから塔のシャボン玉が国中に届けられるんだよ」
私は空を見上げた
塔からフワフワと出てきたシャボン玉は宙を舞い、メリナさんの作り出す風に乗って、集まった人たちの元に届けられるように広がって行く
綺麗……
シャボン玉はクリスタルのように光を反射してキラキラと輝き、幻想的な空を彩った
「全てはライラの演出だ」
演出?!そんなプランニングまでやるんです?ライラさんって
下に集まっている人々は、色とりどりのバラを手にしている
お祝いの気持ちの花を1人1人が手に携え、こちらに熱い眼差しを送っていた
『なんだか心地よい風が……』
『お妃様は派手なお方ではないのね?』
『魔力が使えないってほんとかしら?』
『風に乗ってシャボン玉が!見て!綺麗だわ~』
『マリア様だって言う噂もあるけど、ほら……』
人との距離が近くなると、声がしっかり耳に入ってくる
ううっ……華のない、魔力もない、美しくもない、そんな不出来な娘ですみません
ってか、私でほんとにいいのか?
不安は加速する
無事に階段を降り終わると、ステージっぽく作られた広場に降り立つ
そこに、ライラさんがブーケを手に現れた
「みさき様。こちらをお持ちになってくださいまし」
ピンクのリボンでまとめられたブーケを渡される
この花……
「みさき様の魔力で開花したクリスタルローズですわ」
ブーケにまとめられていたのは、以前ライラさんに頂いて、私の魔力で咲くと言われていた薔薇だった
宮廷の地下室の件で開放された私の魔力の影響なのか、次の日の朝一気に開花して、数日のうちに1つの植木に無数の花をつけた
しかも、不思議なことに、そのバラの植木は、枯れることなく、今。ブーケになるまでに、その美しさが朽ちること無く咲き続けていた
私はブーケを受け取ると、色んな角度から花を見つめた
「綺麗……」
光の加減で虹色に輝くクリスタルローズ
ベースはピンクっぽい色をしていそうだけど、太陽の光を反射して、花びらはクリスタルと同じ虹色の輝きを見せた
「みさきの魔力の力だよ」
トキ殿下は私の腰に片手を回して、耳元で囁いた
「空のシャボン玉と同じ色だね」
そう言われて、私はブーケを空に掲げた
空を漂うシャボン玉と同じくクリスタルのように光の加減で虹色に輝く、クリスタルローズのブーケ
カイリ殿下がブーケを持っていない方の手を取り、私は2人に左右をホールドされた状態でエスコートされ、ステージから門へ向かって伸びる沿道へ歩みを進める
塔から風に乗って空に漂うシャボン玉はフワフワと触れられる位置まで降りてきていた
あのシャボン玉全然割れなかったんだけど、このまま落ちたら、今度街中がシャボン玉で溢れるのでは?!
そんなことを考えていると、
「そろそろだな」
と、カイリ殿下が呟いた
「何が?ですか?」
事前に今日のタイムスケジュール的なものは教えて貰ってたはずだけど、何か忘れていたことがあったのか不安で、カイリ殿下に聞いた
「民が花を持っているだろ?」
「はい」
「よく見ているといい」
カイリ殿下はそれだけ言って、ゆっくり進み続けた
私は、何が起こるのか分からなくて、トキ殿下に目線を移した
トキ殿下はニッコリ微笑んで、エスコートを続けた
何が起こるんだろ?
すると、
『わぁっ!!』
『綺麗だわっ!!』
どこからか歓声と、どよめきが起こった
空から降り立ったシャボン玉は、みんなの持っている花に触れると、割れて、シャボン玉の虹色で花の色を塗り替えた
「えっ?!」
色とりどりの薔薇達が、みんなクリスタルローズに変化していく
不思議な光景にキョロキョロ辺りを見渡す
『素敵だわ!見て?!お妃様と同じよ!』
『これがお妃様の魔力なのかしら。美しいわ~』
『なんだか癒されるわ……』
各所で賞賛の嵐だ
一人一人の花の元にシャボン玉に乗って、私の魔力が届く
シャボン玉にこんな効果があったなんて……
いやいや。でも、私そんな魔力使えませんけど……
カイリ殿下とトキ殿下は、満足そうにその光景を眺めている
「みさきの魔力は光の属性が強い」
カイリ殿下はそう言って、手を伸ばすと、シャボン玉のひとつに触れる
触れると、シャボン玉はパッと消えて、キラキラした光の粒が散らばった
これが……私の魔力……?
「これでみんな、みさきの魔力にメロメロになっちゃうかもな~妬けちゃうな~」
そう言いながらトキ殿下も、シャボン玉に触れると、キラキラした光の粒を手のひらの上に納めた
シャボン玉は集まった人達一人一人の元に降り立ち、花を彩る
沿道に集まった国民は皆、笑顔だった
良かった。みんな、嬉しそうだ
「不安要素は減ったかな?」
と問われて、私はトキ殿下を見上げてコクリと、頷いた
「じゃあ……」
カイリ殿下はこちらを見ると、私の頬をサラリと撫で
「笑顔を向けてくれるか?」
そう言って私に優しく微笑みかけた
そのカイリ殿下の表情を見逃さなかった国民たちの悲鳴のような歓声が上がる
「は……はいっ」
カイリ殿下を見上げながら、私は笑顔で答えた
二人にしっかりエスコートされたまま、門を出て街中を歩き、シャボン玉を街中に届けながら、ついに公園の花時計の前にやってきた