155.最後の準備はにこやかに
テラスへの入口にはアルバさんとメリナさんが待っていた
「あまり崩れなかったわね。クスクス」
「二人ともみさきさんが可愛すぎて、逆に手が出せなかったのではなくて?クスクス」
お二人はカイリ殿下と、トキ殿下を見ながら、扇を片手に楽しそうだ
「その通りだか何か問題はあるか?」
カイリ殿下が二人に真剣に言い放った
おっ。おうっ……。どーゆー………こと?
「二人とも。ありがとう」
トキ殿下はお礼を述べた
アルバさんとメリナさんは、満足そうにニコニコしている
「さ。お進み下さい。国民が待っています」
ロイさんがどこからともなく声をかける
後ろから、気配なくスっと現れて、トキ殿下に白い手袋を差し出した
そう言えば、トキ殿下はいつも黒い手袋をつけている
特別な日である今日も例外では無かった
いつもの事だから、あまり気にしていなかったけど、手袋の上に手袋をつけるの?
変じゃね?
「トキ。いい加減にそれ外したらどうだ?」
カイリ殿下の言い方だと、何度か外すことを提案していたらしい
「いや~ほら……自分じゃなかなか外せなくて~」
トキ殿下は珍しく、歯切れの悪い言い方をした
前に聞いた話だと、あの手袋は拘束具だって言ってた
大切なものを傷つけたくないからって……
「あの…。私が外してあげましょうか?」
「!!えっ!!?!」
トキ殿下が驚きの声を上げた
いや。だって……二重手袋とか変じゃん?
「大人しく外してもらえ」
カイリ殿下はニヤニヤしながらトキ殿下に促す
トキ殿下は片手で自分の口元を覆うと、もう片方の手を私に控えめに差し出し、目を逸らして遠くを見つめた
えっと……この仕草って
すると、カイリ殿下が私の肩にポンと手を置き、私の耳元に顔を寄せると
「自分だって同じ行動をとっていることに、トキは気づいてると思うか?」
と言って、私の顔を覗き込んだ
私はさっきトキ殿下が言ってたことを思い出してクスクス笑ってしまった
カイリ殿下は私が笑ってるのを満足そうに眺めた
そして私はトキ殿下の照れ顔を見ながら、その手袋を外した
手袋の中からは白くて細い指先が現れる
カイリ殿下もそうだけど、トキ殿下も綺麗な指をしていた
「なんか……めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……」
トキ殿下は手袋を外した白い指で、口元を覆いながら目を泳がせている
「照れてる場合じゃない。行くぞ」
カイリ殿下はその光景を楽しみながら声をかける
2人は、それぞれの側近に渡された白い手袋を片手に握り、空いてる方の手を私に差し出した
あれ?手袋はつけるものじゃないのかな?
じゃあ二重手袋にならなかった?
2人が差し出した手をとるとテラスに進んだ