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150.指輪と結晶石

私は中庭を振り返る

クリスタルが掲げられていた岩場は綺麗に無くなり、一面にブルーローズが咲き誇っている


空気は澄んでいて、時折キラキラとした光の粒が天井に向かって登っていくように見えた


「みさき?」

隣に立つカイリ殿下の声は耳に届いているけれど、私は中庭から目を離せずにいた


「何かあるのかい?」

トキ殿下の気配を感じて、チラリと目だけを向けると、トキ殿下は中庭を真っ直ぐに見つめている


これからは、ここの重たい空気も変わるかもしれない

良い国家の始まりに……

そうだ

今なら、心穏やかに、言える気がする


「これで……心置きなくダリア王女をお迎えすることが出来ますね」


「「はぁ??」」

2人は珍しく、ちょっと大きめの声で声を揃えて、両サイドから私を見下ろした

「それどういうこと?」

「なんの話しを……してるんだ?」



「え?だって、ダリア様と結婚するから、 王宮綺麗にしたかったんじゃない……んですか??過去を精算して……新しい国家に……」


「はぁぁっっ!?なんでそうなる!!?」

カイリ殿下が必死な表情で、ガシッと、勢いよく、私の肩を掴む


私はびっくりして、足を1歩引いた


「待って!カイリ!!落ち着いて!!」

カイリ殿下と私の間に体を差し込みながら、トキ殿下がカイリ殿下の手を私の肩からはぎとった


カイリ殿下の勢いにびっくりしすぎて体に力が入らない


私はヘナヘナとしゃがみこんでしまった


「みさき?」

トキ殿下がしゃがんで私と目線を合わせて優しく語りかける


ゆっくり顔を上げると、中庭のガラスに体を預けながら絶望の表情で、うなだれているカイリ殿下が目に入った


トキ殿下は隣でうなだれているカイリ殿下を無視して話し始めた

「さっきの部屋で母上の指輪を見たよね?」


「……はい」

あの指輪は地下室と共に昇華してしまったのだろうか


「結晶石の指輪はね、生涯を誓ったものにしか送らない特別なものなんだよ」

「結晶石には祈りを込める。他のいかなるものにも、君を傷つけさせはしない、と。僕達が守るという誓いだね」


私はワンピースのポケットをぎゅっと握った


すると、カイリ殿下がうなだれながら、ボソボソと呟いた

「前に送ったペンダントにも外部の魔力からの守護を付与していたんだが、ダリアの魔力のせいで派手に砕けたからな」


あ……あのペンダント守ってくれて……


「あの時は焦ったよね」


「みさきに大事がなくて良かった」

カイリ殿下は顔を上げ、ちょっと後ろめたい表情をしながら話す


「いや~…。僕はカイリがダリア王女に危害を加えなくて良かったなと安堵したものだよ」

「………。」


「別室でどうやってダリア王女をとっとと帰すかって話してたら、いきなりカイリがみさきの名前を呼んで飛び出して行ったから」

「自分の魔力を込めたものだ。どこにいてもその反応はわかるからな」


「みさきに何かあったら、ダリア王女に手をかけそうな勢いだったよ?」

「………そんなことは……無い」


あ……誤魔化した?

カイリ殿下は目を逸らして口ごもった


「よく我慢したよ。よしよし。」

トキ殿下はカイリ殿下の頭を撫でている

カイリ殿下はちょっと不貞腐れながら大人しく頭を撫でられている


「ねぇみさき?僕たちにもう一度チャンスをくれない?」


「チャンス?」

私は首を傾げた


「カイリ。やっぱり、絶対遠回しなの伝わらないって。今度はストレートにいこう?僕は何度振られても告白し続けるから」


振られる?!誰に!!?



トキ殿下は改まって、真剣な眼差しで私を見つめる

「君が不安にならないように、毎晩愛を囁くよ。そして、うんと言ってくれるまで、僕は毎日君に告白する。君のことが好きなんだ。ずっと僕のそばにいて欲しい」


カイリ殿下も、先程までのどんよりモードから一変、体をこちらに向き直り、真っ直ぐに私を見つめる

「こんなにも心を傾け、こんなにも相手を想うなんて、自分でもびっくりしている。これが好きだという感情なんだと知った。みさきにどれだけ嫌われても、この気持ちに整理が着くまで、好きでいることを許してはくれないだろうか?」


嫌われる?誰に……?


「…………………。」

私はポケットの中の指輪を取り出して、手のひらの上で見つめる

赤と紫に輝く鉱石で彩られた指輪

2人の結晶石でできた……

この世に2つとないだろう……指輪

この指輪の意味を

送られた意味を


そして、それを信じきれなかった私は……


じんわりと涙が滲む

2人はいつでも私を気遣って、気持ちを届けてくれていた

なのに

私は

壮大に勘違いして、この指輪を外してしまった

2人の気持ちを、自分から……



ポロリ……

感情の制御が出来なくて、涙としてポロリとこぼれた


「ごめん……なさいっ…。わたし…ずっとっ……勘違いして……っ…」


「顔上げて?」

頬を伝う涙をトキ殿下が指でスっくと拭う


あげられない

合わせる顔がない

こんなにも私のことを想ってくれて、こんなにも大切にされてたのに


2人の気持ちを、私は否定し続けてしまった……


カイリ殿下は、私の頬を片手で包むと、顔を上向きになぞりあげる


「答えを聞こう」


私は目の前の2人に勢いよく抱きついた


「…………デス。」

「2人のことが……スキ……ですっ!」


言葉にしたら、心の中で何か引っかかっていたものが取れたみたいに、全ての感情が溢れた


『心を育みなさい』

お姉様の言葉が頭をよぎる


それは、自分の気持ちと向き合い、人の心を知り、想い、願い、自分も含めて、善悪全ての人の幸せを想うことなんだ


カイリ殿下と、トキ殿下は、私を撫でながら、私の気持ちが落ち着くのを待ってくれた


私は2人からスっと体を離し、握っていた手を開くと、指輪を2人に差し出した


「もう一度、つけて頂けますか?」


「「もちろん」」


2人は、私の左手をとると、スっと薬指に指輪をはめた


「もぅ、嫌われるのはゴメンだ……」

ポソリとカイリ殿下が呟いた


あ。そうだ

「あの……1つ、聞いてもいいですか?」

私は、この際だから、気がかりなことを聞くことにした


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