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148.封印と触媒とお姉様

『大掛かりな黒魔術を行使すれば、それに気づく者は現れます。その魔力に縁のある人であれば尚更』


『当時、陛下の側近をされていたカシェ様が、この地下室へ足を踏み入れました。この無惨な現状を見て、取り乱さずには居られないでしょう。ましてや、自分の主君であれば……』


『私は今皆さんに行ってるように、カシェ様に声を届け、この地の封印に力を貸して頂きました。』


「カシェはみさきをクリスタルに封印したことも忘れていた。カシェの記憶を操ったのか?私も含め、この国の皆の記憶も改ざんされていると、私は思っているのだが」


『……。カシェ様はとてもお優しいお方です。エミル陛下の命令であっても、みさきをクリスタルに封印したことをとても悔いておられました。連日眠れなくなるほどに……。』


私をクリスタルに封印したのは、カシェさんってことなのかな


あの時の私は誰がやったかなんて気に止めて居られなかった

あの押し寄せてくる負の感情

あれはカラム陛下のものだったのかな

恨みや妬みや怒り……

元は、大切な人を失った悲しみや寂しさから生まれたものだったのかもしれない


寂しさに飲み込まれないために、この世全てを呪ったのだ


願いだけではその魂は救われない

でも、カラム陛下の魂が、どうか救われて欲しいと思っている自分がいた



『この地下室は、カラム陛下の怨念とも言えるべき負の魔力で、呪詛の塊となっておりましたので、普通の封印魔法では手が負えませんでした。ですので……』


『わたくしの魂を触媒にこの地に封印することに致しました』


「そんなことをしたら、あなたの魂は永遠にっ………!!」

そこまで勢いよく話して、トキ殿下は言葉を失った


『大き過ぎるこの呪詛を抑えるにはこれしか方法がなかったのです。魂と分離したとはいえ、私の体が全て滅びる前に魔法薬をいくつか用意しました』


『そして、カシェ様の魔法をお借りして、この地を私と共に封印して頂きました。その石版の下に見えている姿は魂の写しです。実態はありません。この場所は、この国の水脈の要ですので、私には都合が良い場所でもあります』


お姉様はこの地で呪いを封じながら、この呪いが水脈を通して各地に流れ出ないように浄化し続けている

その魂を使って


私はいつかの言葉を思い出してカイリ殿下の方をチラリと見た


カイリ殿下は怒りではなく、悲しみの表情でお姉様の言葉を聞いていた


--人が犠牲になって守られる平和に何の意味がある--


でも、誰かがその犠牲を負わなければ、守られないものもあるんだ……


それが肉体の無い魂だとしても、差し出さなければならない


でも、犠牲は他の遺恨を産む……



「カシェはその提案を了承したのか?みさきをクリスタルに封印したことに心を病んでいたのに?」

カイリ殿下が、重い口を開いた


『カシェ様には私の願いを叶えて欲しいとお願いしたのです。』


「願い?」


『この封印によって、この国の浄化が正常なものとなります。そうすれば、みさきをクリスタルに留めておかなくても良くなる。なので、国が落ち着いた頃に、みさきをクリスタルから分離して欲しいと』


「わたし……を…」


『ええ。私がこの地下室に閉じ込められてからあなたがどんなことをされて来たか、私の想像以上に辛い思いをしたことでしょう。目を覚ました時にその記憶で心が壊れてしまわないように。あなたの力を悪用されないように。私が守ってあげられる方法はこれくらいだったから』


「おねぇ…さま…」

私は泣き出しそうな気持ちをグッと抑えた


『カシェ様には、呪詛となりうる根源のこの石版の封印と、この地下室の場所を隠す結界を構築していただくようにお願いしました。』


そうだ。この結界は、フェンさんじゃなくて、何故か私が解くことが出来た

中庭の、あの不思議な空間もお姉様のお力?



『カシェ様は、結界は専門では無いと言って、息子のフェン様を連れておいでになりました。』


「「!!?」」

カイリ殿下とトキ殿下は同じようなリアクションをとった

さすが息のあった双子だ


『保管されていた私の血液を魔力の代用として陣を描き、魔法具を使用することで、結界を半永久的に解けないものとするように致しました』


「だからフェンではあの魔法具の結界が解けなかったのか」

カイリ殿下は納得のご様子


「でも、この中庭自体の結界はどうやって?」


私を通してしかガラスの結界を通ることは出来ないし、そのガラスに囲われた中庭に違うものが見えているし……


『なるべく人の魔力の影響を受けない場所の、循環している水をお持ち頂き、その水を浄化しました。そして、中庭の周囲一周に撒いて頂きました。後は中庭にある私の魔力の影響を受けた自然物を、お持ちいただいた水の地へ浮かべて道を繋げ、その水の循環によって場の浄化と、私の魔術の維持ができる仕組みを作ってあります。』


複雑で分からないけど、お水の結界と、それを維持する綺麗な魔力の供給源って感じなのかな?


「噴水……」

トキ殿下がつぶやく

「今後宮と成してる場所は、元は空き家で人は住んでいなかったはず。後宮の噴水の浄化の力が強いのは、もしかしてその噴水の水をここの結界に使ってたってことかな……?」


確かに。お姉様の魔力を感じたのは、お姉様の魔術が働いていたからなのかな

あの不思議な体験は、お姉様の魔術の一部だったのかもしれない


「カシェが大事そうに持っていた魔法薬の小瓶。あれはあおいが与えたものなのか?それで記憶を消したのか?」


きっとフェンさんに見せてもらったお姉様の小瓶の事だ


『そうですね。お2人には魔法薬をお渡ししました。フェン様はまだ記憶が浅いうちでしたので、記憶自体を消す消去の薬を。カシェ様の記憶は心と結びついた大きなものでしたので、消し去ることは心に影響をきたします。ですので、この出来事を忘れる忘却の薬を。それぞれ、ことが終わったら飲むようにと』


「そういう事か」

カイリ殿下は腕を組んで、片手を顎に当てて、何か納得した雰囲気だ

私は何かよく分からない


「カシェが『雨が全ての心を救ってくれた』と言っていたが、それはなんだ?」


『国が落ち着き、みさきをクリスタルから分離したのちに、三日三晩雨が降ったはずです。それが私の最後の魔法。皆の心の平和と、安らぎを願い、誰もが傷つけ合わず、手を取り、助け合い、平和な世の中になるように……』


「その結果が、僕たちの記憶に影響し、都合の良い過去をもたらしたということだね」


「なるほどな」


2人は納得して話を聞き終えると、立ち上がって石版を眺めた


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