表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/174

146.歴史2

『宮廷に来てから、私はまず神殿のクリスタルの浄化を始めました。元々循環してる水の流れで、クリスタルが浄化されるようにできていたのですが、それでは浄化しきれない程の穢れた魔力が溜まり続けておりました』


『そして、この異常なまでの負の魔力を生み出す温床を、探していてこの地下室にたどり着いたのです』


お姉様は地下室を見つけて、出られなくなったのかな……


『ある日、私はクリスタルに触れるカラム陛下を見つけ、その持っている負の魔力の大きさに、彼が元凶なのだと悟りました。』


『私は、カラム陛下を追ってこの地下室にたどり着き、そして拘束されました。カラム陛下はわかっていて私をここまで誘導したのだと思います。』


「カラム…父上……」

カイリ殿下は顔を歪ませながら言葉を振り絞った

その表情は、びっくりしたようでもなく、怒っているわけでもなく、強いて言うなら、落胆したような感じがした


『カラム陛下は生涯愛し続けると誓ったローラ様を甦らせるため、この実験室で魔術、秘薬、呪術……あらゆるものを研究されていました。そして最後には黒魔術に手を出しました』


「黒魔術……」

えりちゃんの話を思い出した

黒魔術の触媒として、負の魔力を溜め込んだ人が使われる……


『カラム陛下は、私の全てを実験に使いました。髪の毛、皮膚、体液、私の魔力の触媒となるもの全てを…… 』


「そんな……」

トキ殿下は絶句した


じゃあ、さっき見た小瓶の中にあったたくさんの生体実験物や、臓器の一部は……っ


私はハッとして、通ってきた実験用具の棚の方に目を向けた


『みさき。あれは私ではないわ……』


私の考えを察してお姉様が否定の言葉を届ける


『言い方が悪かったわね』

『あの保管された生体物のほとんどはローラ様のものよ。』


私は反射的にカイリ殿下を見た

なぜそうしたのかは分からない

けど……


『カイリ殿下?あなたはもぅお気づきになられているのではなくて?』


「………」

カイリ殿下はトキ殿下の方をちらりと見ると、トキ殿下に触れている手を離して、床に腰を下ろし、膝の上に肘をのせ、手で頭を支えるような、うなだれる姿勢をとった


ここからだと全く表情が見えない

いや。隠したのかもしれない……


「トキ。落ち着いて聞いて欲しい……」

「何?」


「見ただろぅ。さっきの椅子に座っていたミイラ……」


あ。やっぱりあれミイラだったんだ


「あれは母上だ……」


「「えっ……」」

私とトキ殿下の声が揃った

でもそれ以上は言葉にならなかった


「あの生物標本が母上のだと聞いて確信した。父上は、亡くなった母上を甦らせるために、体を保管した。内蔵を一つ一つ取り出し、体は腐らないように手入れをしたんだろう……」


「いやでも……母上はきちんと埋葬されているはず……っ」

トキ殿下は声を震わせている


「指輪……」

「指輪?」


そうだ。布の隙間から見えた指らしき部分には、キレイな指輪がはめられていた


「あの指輪はカラム父上の魔力の結晶石が埋め込んである、この世に2つと無い特別なものだ。」


そうなんだ……

私は、自分のポケットに入れてきた指輪に意識を向けた

結晶石の指輪って、やっぱり特別なものなんだ……

そう思うと少し胸が苦しくなった


「カラム父上の母上に対する愛…いや。執着は異常だ。じゃなきゃトキを牢に入れたりなんてしない」


トキ殿下が牢で過ごしている間、カイリ殿下は陛下をそばで見てきたんだ

ずっと……


「この石版で行われた黒魔術……」

カイリ殿下は言葉を絞り出すように話す


「父上は触媒に自分を差し出したのではないか?……。父上ならやりかねない」



え?

ええ?

自分を?

いや……だって……


『察しが良いわね……。』

あおいお姉様の優しい声が脳に響く


「想像にしか過ぎない……」

カイリ殿下の力のない声が地下室に響いた


私は立ち上がり、カイリ殿下の前で目線を合わせてしゃがんだ

カイリ殿下の表情は見えない


いつの時かと同じだ

心が泣いている

自分にはどうしようも出来なかった後悔と悲しみだ

カイリ殿下が負うことは無いのに……


私は両手を広げて、うつむくカイリ殿下をそのままぎゅっと抱きしめた


トキ殿下も後ろからカイリ殿下に抱きついた


こうして悲しみを分け合えるのならば良いのかもしれない


カラム陛下はローラ様を失った悲しみを共にできる人が居なかったのかな


深い悲しみはいずれ遺恨となり、失った者を想い続けることでしか埋められなかったのかな


原因となるものを処罰してもローラ様が生き返ることはなく、どれだけ願っても再び目を開けることの無いローラ様のそばにずっと居ながら、研究に没頭して

エミル陛下は新たな王妃を迎え、カラム陛下は共に愛したはずのローラ様を簡単に忘れてしまえるのか。と憤りを覚えた


その気持ちが大きくなって、全ての人を恨み、全ての人を呪った……


ただただローラ様が蘇ることに生きる全てをかけて、生涯愛し続けて

でも、ありとあらゆる手段を使っても、失った悲しみは誰も埋めてくれることは


無かった……



カイリ殿下は両手で私をギュッと抱きしめると、ボソリと何かを呟いて手の力を弛めて顔を上げた


ちょっと力ない表情だけど、いつものカイリ殿下だ


私とトキ殿下は、そばに座って、お姉様の話に再度耳を傾けた


『カラム陛下は、最終的に黒魔術で魂の置換を行うことになさいました……』


あおいお姉様は、話の続きを語り始めた


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ