144.オープン・ザ
石版がゴトゴトと動き出し、床があらわになる
と、私はトキ殿下の腕を振り切って駆け出した
「みさきっ!」
静止する声を振り切り、伸ばされた手を振り払い、私は石版が移動した後の床に座り込んだ
床を見つめれば、そこには
「おねぇさまっ!!あおいお姉様っ!!!!」
無意識にバンバンと床を叩く
水が揺らめくように穏やかに
ただただ静かに身を任せ
透き通った水の中にたゆたう、あおいお姉様の姿があった
なんで?
どうして?
話したいことも、聞きたいことも、沢山ある
取り留めもなく堰を切ったようにように言葉が溢れる
一気に押し寄せてきた言葉を一気に言葉にできなくて、気持ちだけが溢れた
ポタポタと涙の粒が床を濡らす
慌てて追いかけてきたトキ殿下が、隣に座って、床を叩いていた私の手を握った
「痛いでしょ……」
床を力任せに叩いて赤くなった手をトキ殿下が優しく包む
その手を振り払えずに、床に力無く突っ伏した
結局私は何も出来ない……
『……みさき』
声が聞こえる
『みさき……』
お姉様の声が聞こえる
私は伏せていた顔を上げ、床の中に眠るお姉様を見つめる
その姿は何も変わらず、ただ静かに眠ってるようだった
カイリ殿下は辺りをキョロキョロ警戒して
「どこから……」
っと、ポソりとつぶやいた
トキ殿下は、私の隣であおいお姉様を見つめると
「この声はあおいさんの声……なのかな?」
っと私の方に振り向いて問う
私がコクリとうなずくと
『みさき。あなたがここに来てしまったということは、思い出してしまったのね……。辛い思いを……させてしまったわ……』
と、頭の中に声が響いた
どこから聞こえるでもなく、目の前のあおいお姉様が喋ってる感じもなく、でも、直接頭に響くこの声は、紛れもなくお姉様の声だった
「あおいさん。どこにいるんだい?僕たちの目の前にいるこの姿は……」
トキ殿下は床に手を当て、そこにたゆたうあおいお姉様に向かって話しかけた
『私はここに居るけれど、ここにはおりませんません。今は直接声を届けているに過ぎないのです。』
言葉が理解できない
どういうこと?
ここに居るの?居ないの?
何処にいるの?
この声はどこからするの?
分からないことだらけだ……
「何処にいる?みさきの記憶を封印したのもあなただと聞いている。この国の歴史をどうやって改ざんした?記憶操作をしたのもあなたなのか?だとしたら何故だ?この国の過去に何があった?」
カイリ殿下が矢継ぎ早に問いかける
『……御二方は、覚悟がおありになるかしら。過去を知る覚悟が……。』
悲しげな声でお姉様は2人に問う
カイリ殿下は通ってきた実験室にチラリと目線を向け、
「そのためにここに来ている。」
と、キッパリ言い切って、トキ殿下の隣にしゃがみ、肩にポンと手をのせた
トキ殿下は軽く頷くと、それに同意した
『みさき?この方達はあなたにとってどんな人?大切な人?それとも、大切にしてくれる人?』
次は私に質問が降ってきた
大切……
2人への気持ち……
どんな?と聞かれると、返答に困る
すると、トキ殿下が私に触れていた手をぎゅっと握った
それに誘導されるように、私はトキ殿下と、その隣にいるカイリ殿下を見つめた
『向き合いなさい。自身の心と。あなたの気持ちと。そうすればその力も使えるようになるわ』
自分の心と向き合う
私の心は……
感情に蓋をして、心と体を切り離した
あの時の私は……
私はひんやりとする床に触れながら、何故かクリスタルの中のことを思い出していた
『どこからお話したら良いかしら……。そうね、まず私の事から話しましょうか。』
お姉様はこの国の過去について話しを始めた