139.探索
「これが……」
中庭に入ると、カイリ殿下はブルーローズを手に取り、トキ殿下とあれやこれや考察中だ
トキ殿下が私の手を離してくれない
なので、私はそばで2人の会話を聞いている
フェンさんは、この結界を構築するものを捜索している
さすが専門家!
すると、フェンさんが岩場近くでしゃがんで、何かを見つめて考え込み始めた
何かわかったのかな?
しばらくすると、立ち上がってこちらに歩いてきて、カイリ殿下に声をかける
「魔法具が見つかったのですが……」
何か問題があるのかな?
煮え切らない報告に、みんなで岩場に向かって歩く
かつて大きなクリスタルがあったその場所は、クリスタルと分離する時に砕かれたのか、粗雑に岩が積み上げられている
辺りにも大小様々な形の岩がゴロゴロと転がっていた
ある場所で足を止める
そこには、岩陰に1本の杭のようなものが刺さっていて、何かの文様が刻まれている
この杭みたいなものが魔法具なのかな?
「この魔法陣は……」
トキ殿下はこの文様がなんなのかわかってるようだった
「………」
フェンさんが言葉に詰まっている
「覚えが無いのか?」
カイリ殿下がフェンさんに問う
「………」
会話の流れ的にフェンさんは記憶を辿っているようだけど、身に覚えがなくて困っているって感じなのかな?
この文様が何か問題なのかしら?
すると、フェンさんが言葉を振り絞った
「この魔法陣は……確かに私のものです。魔法具や触媒を要する結界の魔術を使う際に、魔力で文様を刻みます」
え?フェンさんが作った結界ってこと?
じゃあなんで……???
分からないことだらけだ
「ですが……」
フェンさんは魔法具に刻まれた文様に触れる
「魔法陣は私のもので間違いないのですが、この魔法陣を刻んでいる魔力が違います……」
そう言って、赤黒く光る文様に触れる
「どういうことだ?」
カイリ殿下は説明を要求した
「この魔法陣は、間違いなく封印の文様です。例えますと、箱に封をして、中身が出ないように外から封印する。すると、外からは容易に蓋を開けることが出来ますが、中からは開けることができない。と言った仕様のものでございます」
「つまり、この魔法具は中庭の中の何かを封印してるってことかな?」
「本来、この文様を崩すことで術を解くことが出来ます。ですが………刻んだ魔力が私のものでは無いので……」
そう言って、フェンさんは再度杭に触れると、描かれた魔法陣を指でサッとなぞった
刻まれた魔力が魔法陣を守り、文様は変わることなく、周りになんの変化もない
封印って、指でなぞるだけで解けちゃうものなの?!
いや。でも、消させないために魔力で守ってるのかな?だから魔力で魔法陣を刻む……のかな?
正直よく分からない
どんな感じなんだろ?
私は、魔法具に手を伸ばした
フェンさんがやったように、魔法陣の文様を指でサッとなぞる
すると、まるで乾かないインクを指でこすったように、文様がにじんだ
「あれ?!」
ガタガタガタっと地鳴りがするように地面が振動した
トキ殿下は、手をグッと引き寄せて、辺りを警戒しながら私を抱き寄せる
え……どうしよう……なにか良くないことをしてしまったのでは?!?!
少しすると、振動はおさまり、魔法具の杭はパックリと真っ二つに割れていた
壊してしまったけど……いいのかな……どうしよう……
困った様子でトキ殿下を見上げると、
「大丈夫?頭痛がするとか、体調悪いとかない?」
と、心配してくれる
そうじゃないんです……
「私は大丈夫なんですけど……」
といって、私は割れてしまっている杭に目線を送る
トキ殿下は、私の髪を撫でながら、
「この手の魔法は、おそらく对になっている。多分もう一本がどこかにあるはず……」
そう言ってカイリ殿下の方に視線を移す
カイリ殿下とフェンさんは、岩を動かしながら周辺をなにか探してるようだった
「これだな」
カイリ殿下は、もう一本の魔法具の杭を見つけた
その魔法具にも同じように魔法陣が刻まれていて、フェンさんが触れても、カイリ殿下が触れても何の変化もなかった
2人は顔を見合わせて、こちらに振り返った
その視線に答えるように、私はさっきみたいにサッと魔法陣を指でなぞった
すると、魔法陣は滲み、文様が崩れた魔法具は、やっぱり真っ二つに割れた
一瞬空間が歪む
あれ?
回る……
グルグル目眩がして、私は平衡感覚を失ってヘナヘナとしゃがみ込んだ
「ん?どうした?みさき?大丈夫?」
トキ殿下が私に合わせてしゃがんで、顔を覗き込んでくる
声はクリアに私の耳に入ってくるのに……
でも、視界が歪んで……
「目が……回る……」
私がポソりとつぶやくと
「みさき?僕の目を見れる?」
と言って、私の頬に手を添えて視線を誘導した
私は、まだ目眩が収まらなくて、ボヤっとした視界と、目が回ってるような視界の歪みの中で、焦点が合わないままトキ殿下を見つめた
体が熱い気がする
いきなり熱が出るとか、そんなことある?
自分の体なのに、何が起こってるか全く分からない
「カイリ」
トキ殿下は私の頬を解放すると、カイリ殿下を見上げた
私はグルグル回る感覚が収まらなくて、うつむいて地面を見つめた
カイリ殿下が私の隣で片膝をついてしゃがんだ
「魔力に酔ったか?」
そう言って、下からすくうように私の目元を覆った
ひんやりした手がちょっと気持ちいい
そして、私はなされるがままに体を預けた
腕の中に収まっていると、体の熱っぽさが引いてくる
カイリ殿下の手を基点に視界のグルグルも収まってきて、平衡感覚が戻ってきた
その様子を見て、カイリ殿下が手を離す
「どうだ?」
私は目眩が収まった視界でカイリ殿下を見つめた
「大丈夫です」
カイリ殿下は、私の手を取って立ち上がらせてくれた
そして、トキ殿下をちらっと見ると、私の手をスムーズに受け渡した
私はどうしても誰かと手をつないでなけらばいけないらしい?
迷子に……なりませんよ?
そんな全く関係ないことを考えていると、フェンさんが、カイリ殿下を呼んだ