137.判明した神殿
忘れる訳がなかった
クリスタルがあった神殿の空気、雰囲気、その景色……
ロイさんが上の階から階段で中庭に降りてきた
「ロイ。そこにブルーローズはあるかい?」
トキ殿下が問いかけると、ガラスの向こうからボヤボヤとした声が帰ってくる
「いいえ。そちらから見た景色と変わりありません」
ロイさんがあちらこちらを調査しているみたいだ
「……わかった。一度戻っておいで」
「かしこまりました」
ロイさんは階段を登って、上の階からこちらに戻ってくるようだ
私はトキ殿下を見つめて言った
「あの……もう1回ガラスに触れてみていいですか?」
「危険だっ!さっきは一瞬何が起こったのか分からなくて焦ったんだから!」
私も、まさかガラスが消えるなんて思わなかったから驚いたけど、わかっていれば対処出来るかもしれない
私はトキ殿下を引っ張って、中庭のガラスをコンコンと叩きながら難しい顔をしているカイリ殿下の元へ近づく
カイリ殿下を見上げると、やめておけという顔をしているのが分かる
でも、私はガラスに手を伸ばした
指がガラスを通り抜ける
やっぱり、私はこのガラスを通れるのかもしれない
カイリ殿下と、トキ殿下は、一瞬顔を見合せて、直ぐに目線を私に戻した
そして、そのまま中庭に足を踏み入れると
足と片腕が中庭に入った状態になった
2人は無言で私を見守ってくれている
でも、ものすごい警戒心が感じ取れる
私はそのまま体を中庭に進めた
警告のように、キーンっと強い耳鳴りがする
目をギュッととじて、耳元に手を添え、耳鳴りが収まるのを待った
耳鳴りが収まり目を開けると、目に入ってくる景色は、やっぱり外から見る景色とは全く違うものだった……
私は、トキ殿下と繋がっている腕を引っ張ってみた
すると、ガラスを超えて中庭の中に入れそうなので、そのままの腕をグッと引っ張った
少し驚いた様子のトキ殿下を、私が腕に抱きつくようにして中庭に引っ張りこむ
「こ……これはっ……!!」
トキ殿下にも、私と同じ風景が見えているようだった
辺り一面に咲き乱れるブルーローズと、壊された岩場……そしてその岩場は、かつて大きなクリスタルが置かれていた場所だった