136.気になる中庭
邸内をグルグルしてると、一角に中庭のような吹き抜けのお庭が見える
ガラス張りで覆われていて、中に足を踏み入れることは出来ないお庭……
どこから入るんだろう?
宮廷の中心に位置するようで、どの道を通るにも、この中庭の周りを経由するみたい
枝分かれする道を進み、私は、ある部屋の扉の前で足を止めた
「ん?気になる?」
トキ殿下も私に合わせて足を止める
私は扉に施されている細工に手を伸ばした
扉に触れると、無機質な金属の冷たさが伝わってくる
カイリ殿下が、
「どうした?」と聞いてくる
私は首を横に振り、かつての嫌な記憶を振り払った
邸内を一通り見てまわり、中庭に戻ってきた
「みさき。神殿がどこにあったか、気になるところはあるか?」
カイリ殿下に言われて、今回の本来の目的を思い出した
そうだ。神殿……クリスタルの……あった場所……
私は天井を見上げた
少し高い廊下の天井はアーチ型になっている
う~ん………
正直、私に場所の記憶は無い
その時の風景、気配、そんな記憶しかない
『ここです』という場所の記憶が無い……
でも………
私が唸っていると、
「無理はするな」
と言って、私の頭をポンポンと撫でた
気になっていると言えば……
「このお庭って……」
内側からはガラス張りに囲われている中庭に視線を移す
草木が生い茂っている中庭には、上へ続く螺旋階段が見える
「どうやってこのお庭に入るんですか?」
「あぁ。基本的に人が出入りすることは無いが、上から階段で降りれば中に入れる」
へぇ~
私は中庭に向かって歩き、螺旋階段の先の上の階はどうなっているのか眺めようとして、中庭を囲っているガラスに手を伸ばして上を見あげようとした
すると、ガラスなんて無かったかのように、空間に手を持っていかれる
「うわっ!!」
ガラスに体重をかけようとしていたところに、寄りかかるものが無くなったので、そのままバランスを崩して、前のめりになった
そして、バランスをとるために、中庭への境界線を超えて、足を1本踏み入れた
すると
キーーーンっという強い耳鳴りと共に、中庭の景色が一変して見えた
えっ?!
次の瞬間、トキ殿下に繋がれていた手を勢いよく引かれ、邸内に引き戻された
私は一瞬何が起こったのか、思考がついて行かなくて、パチクリと瞬きを繰り返している
「み……き……?……さきっ!大丈夫??!」
はっ!
私はトキ殿下の腕の中で意識を取り戻した
顔を見上げると、必死に私に話しかけているトキ殿下と目が合った
え?今のは?
私がモゾモゾしていると、トキ殿下は腕の力を緩めてくれた
体の方向を変えて、中庭の方を見ると、中庭は草木が生い茂った、さっきと変わらぬ風景を写していた
カイリ殿下と、フェンさんが中庭のガラスを確認している
2人はガラスに触れているし、確かにそこにはガラスの壁が存在しているみたいに見える
「何が起こった?」
カイリ殿下は私に聞くけど、私がうまく説明できる訳もなく……
「あの……ブルーローズが見えた気がしたんです……」
「「?!!?」」
皆びっくりして言葉が出ない様子だ
だって、今、ここから見えている中庭の風景は草木が生い茂った緑のお庭なのだから
そして、私が一瞬中庭に足を踏み入れて感じたことを述べた
「多分、この中庭が、神殿です」