121.密談2
客室に着くと、先代のマリアに仕えていたユミと言う女性が立ち上がってお辞儀をする
隣に座っていたフェンの父親、カシェも立ち上がって、手を胸元に当て、礼をとる
「よい。すまない、待たせたな」
カイリは片手で仰々しい挨拶を静止し、2人に再度座ることを促すと、自分も2人の前のソファーに座った
「朝の議会って、なんで毎回同じようなことグダグダと議題にあげるんでしょうね?」
トキはカシェに話しかけるようにつぶやき、カイリの隣に座った
2人の側近であるフェンとロイは、館の結界を完成させるという仕事を終え、それぞれの主の後ろに控えた
そして皆が揃うと、カイリは
「2人には、さかのぼってもらいたい記憶がある」
と言って早速本題に入った
「ユミ。宮廷内に神殿があったと言ったな?宮廷内のどこにあったか覚えているか?」
「いえ……場所までは覚えてございません。私の記憶に残っているのは、クリスタルで出来た岩場と、そこに流れる水の風景でございます。」
「カシェ。覚えておらぬか?」
カイリは、カシェに問う
「神殿……」
カシェは首を傾け、記憶を辿る
「今、各都市の教会にあるクリスタルは、元は宮殿にあったものだ。先の紛争の後、分割して各都市に配置されている」
カイリが説明を加えると、カシェは、目を見開いてカイリを見つめた
「そう……そうです。そうでございます!」
何かを思い出したようだ
「宮廷内には神殿がございました。そこにあるクリスタルが魔力の浄化の要………。あ。あぁ………。」
「どうした?」
カシェが頭を抱えて小刻みに震え出したのを見て、カイリが声をかける
「私が……私が……………。」
震えながら言葉を絞り出すカシェは、明らかに何かを思い出している
「嫌がる娘を……無理やりクリスタルと同調させ、浄化の触媒としてクリスタルに………封印……致しました」
一同は、カシェのいきなりの告白に言葉を失った
沈黙を破ったのはカイリだった
「それは、誰に命じられたことだ?」
「エミル様でございます」
「まぁ、それ以外にいないよね」
トキは相づちをうった
カシェは床を見つめながら言葉をポツリと口にする
「私はなぜ、今まで、このような大事なことを忘れていたのでしょうか……」
「この件に関しては、大規模な記憶の置き換えが起こっていると仮定している」
「カシェ。人々の記憶を封印して、クリスタルのことにまつわる記憶を改ざんしたのは、お前では無いのか?」
カイリはカシェに疑いの目を向けた
と言うより、それを話すことで、カシェの記憶を引き出すきっかけを作りたいというのが本音だった
カシェの反応から見るに、隠していたわけてばは無い。記憶がなかったのだ
クリスタルのことを思い出したのをきっかけに、芋ずる式にその他の記憶も思い出していたなら話は早い
カシェは頭を抱えて答えた
「それは…思い出せません。」
「ですが……。」
カシェは、スっと顔を上げて息子のフェンを見つめて
「あの小瓶はどうした?」
と、声をかけた
すると、フェンはスっと小瓶を取り出し、無言でテーブルの上にコトンと置いた
それを見たユミは、ピクリと反応を見せる
カシェは、その小瓶を見つめながら言った
「この小瓶が、どうして私の手の中にあるかは分かりません。ですが、とても大切なものだったのです………。」
その様子を見て、ユミが言葉を挟む
「この小瓶は……あおい様のものです。」
やはり
みさきも同じことを言っていた
「ユミさん。この小瓶に入っている魔法薬はどんなものなのか分かるかい?ただの回復薬では無いよね?」
トキは小瓶を手にとり、蓋を開けて眺めた
「あおい様は様々な魔法薬をお作りになれました。回復薬はもちろん、浄化効果のあるものなど、マリアに助けを求めて来る皆様が幸せに暮らせるように。それがあおい様の願いでした。」
「どんな効果のあるものか、私は把握しきれておりませんが、その方の幸せを願ってあおい様がお渡しになったものでしたら、おそらくその時のカシェ様にとって、必要な何かがもたらされる効果があったものかと存じます。」
(どんな効果があるか分からない。でもカシェにとっては救いとなる何かがもたらされた……)
トキは考えを巡らせた
だが自分が持ち合わせている魔法薬の知識だけでは結論が出せない
情報が足りなすぎる
考え込んでいるトキを横目に、カイリは話を進めた
「では、2人とも、宮廷に咲くと言われているブルーローズについて、どこかで見た覚えはないか?」
ユミは、
「宮廷のことは存じ上げませんが、あおい様の魔力が強く影響する場所では、青い花をつけることが多くございます」
と言った
(魔力の影響……か)
神殿のクリスタルをあおいが浄化していたのなら、その周辺の花が影響を受けて青く色づいていたということか
宮殿にはバラが至る所に配されている
「申し訳ございません。私は記憶が曖昧で御座います。今まで忘れていたこと、なぜ忘れていたのか。クリスタルのことも、何もかも……」
カシェは困惑している
自分の記憶の曖昧さを整えることが出来ないのだろう
「わかった。何か思い出したら報告して欲しい」
カイリは2人を交互に見やると、立ち上がった
「フェン。カシェを頼んだ。私はユミを教会に送る」
そう言うと、フェンとロイが、跪いて指示を受ける姿勢をとった
「ご手配いまします」
2人のの従者によって馬車が手配され、フェンはカシェを連れて館を後にした
カイリ、トキ、ロイの3人は、ユミを教会に送り届けるべく、馬車に乗り込んだ