114.それは始まり
最近夢にお姉様が出てくる
……気がする
きちんと覚えてないけど、目が覚めると『あおいお姉様はどこにいるんだろう?』っと言う気持ちになる
窓際の薔薇の蕾を眺めて
「ねぇ。どこにいると思う?」
「どこかないるかなぁ?」
と、問いかけるけど、もちろん返事は無い
一時咲きかけたと思った蕾はなんだか元気がないような気がする
天気が悪いからかなぁ……
外はどんより曇り空
「はぁ…。」
色々とため息しか出ない
コンコン
ドアをノックする音を聞いたけど、居留守を使ってみた
今は誰にも会いたくない
窓際のソファーに横たわりながら、ぼーっとドアを眺め続ける
声をかける気配も無い
立ち去った足音もしない
というか、この部屋に近づいてくる足音もしなかった
誰だろ……
エリちゃんもユミさんも、きっとドアの外から声をかけてくれる
カイリ殿下やトキ殿下は、そのまま入ってくる気がする
誰?
え……誰っ!!?!
ちょっと怖くなってきた
この教会の結界は特殊だから、そもそも簡単に外部の人が入ってこれる訳では無い
でも、じゃあ、誰?!
ドアの外を確かめる勇気を持てず、そのまま奥の寝室へドタバタと駆け込んで鍵をかけた
返事しとけばよかった
でも、返事したら誰が入ってきたの?
…………。
考えれば考えるほど、勝手に恐怖心は増して行った
体が震え始める
怖いと思ったらその思念に覆われてしまう
体にまとわりつく恐怖の念が振り払えない
トキ殿下と満月の泉に行った時もそうだった
あの時は、トキ殿下に触れている安心感に救われた
でも今は、トキ殿下はここには居ない……
私はベッドの上で枕を抱きしめながら、小さく丸くなる
すると、サイドテーブルに置かれたピンクの小瓶が目に入った
トキ殿下が作ってくれる魔法薬は、私の魔力の乱れを整えてくれる
体調や気持ちの浮き沈みも大体魔力の乱れが原因だ
自分でコントロール出来ないものを、薬の力を借りて整える
今、まさに、その時かもしれない!
私はピンクの小瓶に手にとり、蓋を開けると、中の液体を飲み込む
魔法薬はまとわりつく恐怖心から私を解放してくれた
ちょっとフワフワする
大体いつもそうだ
魔法に対する耐性が弱いからなのか、癒されすぎて気持ちよくなってしまうからなのか
そのまま眠気のまどろみがやってくる
このウトウトとした気持ちよさに抗うすべを私は知らない
私は何もかも忘れて、枕を抱きしめたまま、眠気のまどろみを堪能しながら眠りに落ちていった