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第十話:お疲れ様会

「きたーー! 俺の時代来たわ!」


「おう、よかったな」


「今日も冷たい!?」


「お前が元気すぎるだけだから」


かなり扱いが雑である自覚はあるのだが、達也はそれでも「相変わらずだなあ」といって笑っているので気にしないことにする。


ただ、達也ほどではないにしろ、俺も少なからずテンションが上がっていた。吉野さんが学校で寝落ちするハプニングはあったものの、無事にテストも全日程が終わった最終日。今日は午後からの授業はなく、午前中で帰ることができる。


全学年同じ日程で行われる我が校の定期テストだが、このテスト最終日の午後が1年で最も空気の緩む時間ではないだろうか。日頃の勉強の成果もあって、徹夜で詰め込むほど追い込まれはしないが、締め付けられてから一気に解放されるこの感覚は格別である。


さて、これからどうしようかと考えるだけでワクワクする。


俺がこの後の予定を考えながら、とりあえず帰るかと荷物をまとめていると、その間にどこかへ行っていたらしい達也が鈴木さんと吉野さんを連れて戻ってきた。


「おーい、テストを一緒に乗り切った仲間同士、打ち上げいくんだけど、来るだろ?」


「あ、いくわ」


「さすが真斗! 会話には乗ってくれないのに遊びには乗ってくれる男!」


「会話はお前が俺を置いてけぼりにするから乗れないんだよ」


家でゆっくりしたり、本を読んだりなど色々と案はあったが、誘ってもらえるとせっかくだし行くかという気になる。俺は友達と遊ぶのも好きだが、積極的に自分から誘えるタイプではなく、何もなければ結局家で過ごすことになる。


なので、多少騒がしいが、いつもことあるごとに俺を誘ってくれる達也には感謝している。騒がしいが。


「では改めて、大魔王テストの討伐を祝しましてー、かんぱーい!」


「かんぱ〜〜い!」


例によっていつものファミレスで、達也によって取られた突然の音頭に吉野さんだけが完璧に乗っかり、俺と鈴木さんは顔を見合わせて苦笑するしかなかった。


「で、はしゃいているからには赤点回避できたんだろうな、達也?」


「……あーー、まあ大体な」


「大体?」


「だ、大丈夫だって! ったく、せっかくの打ち上げなんだからもっと楽しい話しようぜ」


「ふふっ、達也くんは英語できないもんね。赤点候補はそれかな?」


「ちょっ! さやか! それ言わなくていいから!」


今回は4人で集まってはいたものの、ほとんど2対2に分かれていたため俺が達也の勉強を見ることは少なかった。だから各教科の仕上がり具合までは把握していなかったが、ほとんど達也につきっきりだった鈴木さんにはお見通しらしい。


達也の英語の点数は気になるところだが、それよりも今言いたいことがあった。


「にしても……」


「ん?」


2人同時に首を傾げる。


「随分仲良くなったんだな」


「え、あ、あの……そ、そうかな?」


あからさまに顔を赤らめたり照れたりするわけではないが、鈴木さんのはにかんだ笑顔がむしろ等身大に感じられる。


「ふふふふふ、すみかちゃん勘繰っちゃうなあ〜」


以前帰り道で2人の仲について話した時のようなニヤケ顔で吉野さんが参加してくる。この年代の女の子が全員恋バナ好きだとは思っていないが、吉野さんはかなりの恋バナ好きなのだろうと思う。


ちなみに達也は、照れ笑いを浮かべている鈴木さんをニコニコしながら眺めている。余裕ぶった態度が妙にムカつくが、この光景を見て真っ先に湧く感情は、『さっさと付き合え』である。


しかし、先ほどは等身大の照れ笑いで流すことができていた鈴木さんも、「結婚式はいつですかな??」「スピーチは任せてねえ」など、吉野さんによる猛攻に耐えかねてすっかり塞ぎ込んでいる。始めは俺も一緒になって見ているだけだったのだが、さすがにそろそろ不憫になってきたので、助け舟を出してあげることにする。


「ほら、すみか、そろそろ許してあげなよ」


口に出した瞬間、しまったと思った。


「お?」


「あれ?」


しかし、手遅れだった。


「お前、吉野ちゃんのこと名前で呼んでたっけ?」


「あー……まあな」


「ふーん?」


先ほどまでは大人しくしてた達也が新しいおもちゃを見つけた無邪気な子供のような目でこちらを見つめている。


「・・・・なんだよ」


「いや、随分仲良くなったんだなと思って」


「いや別に」


先ほどの意趣返しと言わんばかりに、俺のセリフをイントネーションそのままに詰め寄ってくる。お前は照れまくってる鈴木さんでも見とけよ。というかさっさと告れよ。


と思ったが、先ほどまでは顔を真っ赤にして手で覆っていた鈴木さんからも、照れているようなそぶりはすっかり姿を消し、俺と吉野さんを期待のこもった眼差しで、交互に見つめている。


お前ら、自分達からターゲットを逸らすチャンスだからって、名前呼びくらいで大袈裟すぎやしないか?一度「せーの」のコールに合わせて無理やり呼ばされて以降、緊張して呼べず、次の日みっちり特訓されるはめになった俺の言えたことではないが。


「で、吉野ちゃん的にはどうして呼び方変わったんだ?」


ドリンクバーのメロンソーダにストローを挿してチューチュー吸いながら、こちらを呑気に観察していたすみかがようやくストローから口を離す。コップに並々注いでいた中身はほとんど残っていない。


「うーん、なんで? 真斗くん」


「俺に聞くなよ……」


「えへへー、そろそろ真斗くんが困ってるから真面目に答えると、私だけ名前呼びで気持ち悪かったからだよ」


そうだったのか。なら、なぜ最初からそう言ってくれないのかと聞きたくなるが、吉野さんに限って分かりきっている。おそらく特に理由はない。


「あー、確かにこいつ自分から距離詰めんの苦手だもんな」


「わかる、私とも若干距離置いたままだよね。あんま好かれてないのかなって今も結構不安かも」


「んなー! で、どうよ真斗、これ聞いて」


「……善処する」


正直達也だけなら、俺をからかいたくて言ってるだけの可能性が高いので全く当てにならないが、鈴木さんにも言われると少し胸が痛む。


不意に吉野さんの方を見ると、めちゃくちゃ頷いている。……これからは頑張ろうと思った。


「んでね、提案なんだけど」


あれから各々運ばれてきた料理を口に運びながらおしゃべりして、器を下げてもらった後、全員で1つ頼んだポテトを摘みながらすみかが真面目なトーンで話し始めた。俺を含めた3人が空気の変化を察して、思わず息を止めて聞く。


「キャンプ、行きたくない?」


「いいじゃん! 行こうぜ! な、真斗?」


「そうだな、楽しそうだし、俺は行くよ」


しかし、興奮を俺の背中を叩くことで表現するのは勘弁してほしい。


「ってなると、メンツはこの4人でいいのかな、さやかはどう?」


「うん。実はキャンプいったことないんだけど、それでいいなら。」


「大丈夫大丈夫! わたしもない〜」


いやないんかい。いやでも中学まではテニス漬けでそんな暇がなかったのかもしれない。あ、もしやこれって……


すみかは俺の視線に気がつくと、指を三本立てて『3』を表現すると、口をパクパクさせて『みっつめ』と言っている……と思う。


きっと、やりたいことリストの3つ目ということだろう。ならば、なおさら俺が参加しないわけにはいかないだろう。


「お! じゃあ俺たちに任せとけ! な、真斗?」


「わかった、わかったから、背中を叩くな! そろそろ痛い!」


やりたいことリストの消化は順調だが、本来の目標である自分が夢中になれるものを見つけるという目標のことを考えると胸に引っかかるものがあった。しかし、雑談しながら浮かんだその違和感について考える暇もなく、帰る頃にはすっかり頭から抜け落ちていた。

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