世界史詩『オルドヴァイ渓谷の礫石器』
歴史や神話伝説を題材とした詩、第12弾。今作は神々や英雄、偉人の讃歌ではなく、以前『大英博物館展―100のモノが語る世界の歴史―』という展覧会で見た「オルドヴァイ渓谷の礫石器」を題材につくった詩です。約200万年前、アフリカ大陸に現れた初期人類が、獣の骨を叩き割り、中の骨髄を取り出して食べるのに用いた石器なのですが、人類の黎明期を象徴するものとして印象に残ったため、今回これを題材に詩をつくりました。この礫石器をつくった太古の人類と、直接的な血の繋がりはありませんがその末裔というべき現代の人類すべてに、この詩を捧げます。
古の、人間が拾いて打ち割りし、
拳大の黒き石。
古人はこれをもて、
猛き獣が喰い残したる
獲物の骨を叩き割り、
内なる髄を得て、喰らう。
空き腹満たし、生き延びるため、
厳しきこの世を生き抜くために。
時は流れて百年、千年――二百万の年経た今や、
人間は力を養い、知恵をば磨き、文明築きて栄えたり。
されど嗚呼、拳大の黒き石――アフリカ、タンザニアの渓谷にて見つかりし、
古人の礫石器――そが大いなる英国の博物館、
その一室に置かれたる今も、人の苦しみ、悩みは尽きず。
いまだ飢える者は数多あり。食に困ることなき者も様々な 苦悩抱えて今の世生きたり。
果たして真に厳しき世は古今、いずれなりやと我、自らに問う。
大英博物館の一室にて、かつて古人が打ち割りし石――オルドヴァイ渓谷の礫石器をば、じっと見つめて。