表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
21/24

19 フランのたくらみ

 はじめは順調だった。予定通りいくつかの隠れ家を同時に急襲し、早々に首謀者とみられる男を捕らえることができた。パウル、という名のこずるい目をした男はフランの男爵家の三男で、金と爵位につられてこの仕事を引き受けたということであった。つまり、それなりの金と爵位を与えられる程度の黒幕がいるということだ。


 これまでの調査で、ここ数日で男たちが何かをフランから運び込んだことは分かっている。それが何でどう使うつもりなのか、を聞き出そうとしているものの、パウルは、のらりくらりと言い抜けようとしてレナートを苛立たせる。もう一つ気にかかるのは、先日アンヌマリーがシュノン城内で見かけた男が見つからないことである。アンヌマリーからの聞き取りをもとに絵姿にして兵にも持たせたが、見つかったという報告はまだない。パウルはその男のことも知らぬ存ぜぬで通している。


 嫌な予感がする。パウルに対する取り調べをきつくしろ、と指示を出そうとしたところへ、家令のアンドレからの使者が駆け込んできた。差し出された文書を読んだレナートは血の気が引く思いがした。


「くそ……っ」

「なにか問題でも?」


 隣で押収した文書に目を通していたラヴェルが驚いたように顔を上げ、黙って差し出された文書に目を通して、顔色を変えた。


「アンヌ、一体なぜ……」


 城内からアンヌマリーの姿が消えたという知らせだった。護衛騎士と侍女が昏倒した状態で発見され、アンヌマリーの姿がなくなっていたという。一台のアンヌマリーを乗せたという馬車が護衛騎士を伴って城門を出たことは分かっており、第二の城門を出た気配はないが行方が分からないと、書かれていた。




レナートとラヴェルがパウルを取り調べている部屋に駆け込むと、手足を縛られて床に座らされたパウルがにやにやと笑って出迎えた。


「おや、これは名高い辺境伯にようやくお目にかかれて光栄で……っ」


 おどけた挨拶の言葉が途中で途切れ、パウルは悲鳴を上げた。部屋に入ってきたレナートが黙って剣を抜き、その首元に突き付けたからだ。


「アンヌ様をどこへやった」


 一瞬表情を固めた男が、へへっとひきつった笑いを漏らした。


「そうか、そうか。デールがうまくやりやがった……」

「答えろ、アンヌ様をどうした」


 剣先が首元に食い込み、血が浮かび上がる。パウルはひっと息をのんだ。


「いいのか、俺を殺したらその女がどうなったのか知ることもできないんだぞ」

「レナート殿、ちょっと待ってくれ」


 ギラギラした目で、いっそ刺し殺そうかと力を込めようとするレナートをラヴェルが慌てて止めた。すとんと腰を下ろすと、パウルの耳元に顔を寄せた。


「本当に殺すよ、この方は。お前は一番手を出してはいけないところに手を出したんだ。馬鹿だな」

「俺を殺したら行方はわからないだろ」

「まあ、でもまだ城門をでてはいないようだし、今の感じだとアンヌを殺してどうこうと考えているわけでもなさそうだから、お前がいなくても見つけることはできるだろう」

「お、俺はフランの貴族だぞ、なにかあったら外交問題になるはずだっ」

「なるわけないだろう。戦いの際の捕虜なら別だけれど、平時に他国で非合法活動をしている男を処分してなんの問題があるんだ。ああ、我が国がフランに責任をとるよう迫ることはあるだろうね」


 そんな、とそれまでの余裕を掻き消してパウルは震えだした。


「ラヴェル殿、もういいか。少しの時間も惜しい。その男が答えないのであればさっさと始末してアンヌ様を捜しにいきたい」


 レナートがもう一度剣を突き付けて迫ると、「なんでも話します」とパウルが悲鳴をあげた。レナートとラヴェルはほっとしたように目を見かわした。




 

 フランでは、またリレイシェル侵略の機運が高まっているが、やはりその際の障壁になるのがブランノワ辺境伯の存在であった。八年前の戦いでは散々な目にあわされた相手だ。まず、ブランノワ辺境伯と王家の信頼関係に楔を打ち込み、戦力を弱体させることが必要だと考えたらしい。

 そのための作戦の一つとして、シュルツ侯爵の娘で現在は戦争推進派の一人であるベッヘル伯爵の妻となっているファリアに目をつけたらしい。有名な恋物語の相手で、辺境伯が今も結婚していないのはその存在ゆえだと、フラン国内でも今でも囁かれている。その伯爵夫人をなんとかブランノワ辺境伯の懐柔に利用できないかと考えていたところへ、王都から貴族の娘がブランノワ辺境伯にやってきたのだ。辺境伯と婚姻しようとしているその女が、辺境伯の居城の中に昔の恋人がいるのをみつけたらどうするだろうか。わざわざ辺境までやってくるほどの女であれば、王都に帰って賑やかに囀ってくれるだろう、それはきっと、リレイシェルの王家と辺境伯家の信頼関係を損ねることにつながるだろう。そうした信頼関係の弱まったなかで、フランの貴族夫人を誘拐したことを問題にして戦いを起こせば、ブランノワ辺境伯も以前の戦いのような働きはできないだろう。

 夫であるベッヘル伯爵も協力者の一人であった。そのため、うまくファリアをブランノワ辺境領の城下町に連れ込むことはできた。しかし、今日いよいよファリアをシュノン城に連れ込もうとしたところで、辺境伯の捕縛の手が伸びたのだった。

 パウルは震えながら、知っていることをべらべらと話し始めた。しかし、どうもパウルはフランの支援者とのやり取りをするためのお飾りで、本当に活動を主導していたのはアンヌマリーがシュノン城内で見た中年の男デールであったらしい。パウルは、デールのことを勝手に動くと怒ったように言っていたが、結局デールはパウルを信用していなかったのだろう。肝心なことはなにも話していなかった。だから、パウルはファリアが今どこにいるのかもどうやってシュノン城に連れ込もうとしていたのかも知らされていなかった。

 そして、アンヌマリーのことも。早朝に隠れ家が急襲された際に、アンヌマリーを連れ出してファリアと対面させるということだけを言い置いて、デールは一人姿を消したらしい。ファリアとアンヌマリー、その二人が見つかっても見つからなくても、辺境伯にとっては痛手になる。


 アンヌマリーの行方を知らない、パウルが言った瞬間にレナートは時間を無駄にさせた相手を殴り飛ばした。そして、部下を呼び寄せ、領都内をくまなく捜索するように命じた。まず、アンヌマリーを。ファリアに関しては緘口令のもと、捕らわれた貴族女性の捜索を。



 しかし、二人の発見につながる情報はなかなかあがってこなかった。レナートとラヴェルは押収した書類に目を通しながら、じりじりとした思いを抱えて、待つことしかできなかった。まさか八年もたってファリアがこのような形で利用されるなど、レナートは想像もしていなかった。そして、アンヌマリーがそれに巻き込まれるなどということも。レナートは握りしめたこぶしを何度も机にたたきつけた。


「レナート様、孤児院の子どもが、兵士が町の捜索をしていることを知って何か手伝えることはないかと来ておりますがどういたしますか」

「孤児院の子ども? ああ、アンヌ様が確か優秀な子どもがいると言っていたな」

「ええ、町のことならば役に立てると申しております」

「デールの似顔絵と情報を渡して捜索を手伝わせてくれ、今は猫の手も借りたい」


 アンヌマリーに続く糸があるのなら、なにひとつ逃すつもりはない。ただ待つだけでは時間が惜しいと、レナートは再び書類に目を通し始めた。

 そして、薄闇で書類が読みづらくなったころ、ラヴェルが眉を寄せてレナートに問いかけた。


「レナート殿、ボーモンという家をご存知ですか?」

「ボーモン? 確か商家だったと思うが」

「二度ほど金のやりとりがあるようですが、これは……」

「いや、確かボーモンはフランとの取引はないはずだ」


 二人が顔を見合わせた時だった。


「レナート様っ、有力な情報が……ほら、お前たち、早く来い。領主様にご報告しろ」


 ラウールが、レナートも見覚えのある二人の少年を連れて駆け込んできた。二人をレナートとラヴェルの前に突き出すと、後ろから早くしろとせかす。


「あの、東門の近くにあるボーモン家の今は使っていない別邸に昨日今日と、黒塗りの馬車が入ったのを見たやつがいます。そのとき、よくわからない言葉を話しているのを聞いたそうです」


 二人のうちがっしりした体格の少年が話すと、隣の華奢な少年もうんうん、と頷いた。

 ボーモン、符号があった。


「東門の近くだな、お前たち案内ができるか?」

「はい」

「よし、こい」


 レナートは立ち上がると、駆けるようにして休ませていた馬に飛び乗った。少年の一人に手を差し伸べ、自分の前に乗せてやる。遅れてやってきたラウールももう一人の少年を馬に乗せた。そのあとにラヴェルも続く。


「小隊はついてこい」


 短く命令すると、レナートは馬を駆った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ