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ギルドがない!?〜召喚されたけど捨てられた〜  作者: 竹冬 ハジメ
4章 種蒔
11/31

二人の傭兵

「俺は傭兵斡旋所のアレックスだ。こっちは…なんだったか?」

「えっ」

 覚えてないのか、と思ったら美形が笑いながら言う。

「シャールリエント・アダラナスタ・イブリニクス・グレゴール。これでも短く略しているよ。ちなみに男」

「なっが…」

 思わず呟くと、シャールと呼んでね、と微笑まれた。

 そのままシャールが帽子を外すと、薄い金色のサラサラした髪が溢れて出てきた。

(耳!!)

 尖った耳もつるんと出てくる。

「ハーフエルフですよ」

「美人だから、大変そうですねぇ」

 思ったまま口にすると彼は苦笑した。

「初めて言われたよ。いつもは羨ましいとか、人生楽しいだろうとか言われるんだ。男にも迫られるし冗談じゃない…」

 ボヤく美しいハーフエルフを見てつい笑ってしまった。

「あなたも可愛らしい。苦労したのかい?」

「いやいやいや。全然苦労してませんよ。あ、私はランです」

 ずーっと太っていたし、痩せたのはつい最近だ。

 黒鹿亭の2階の居住区間にある、風呂場の大きな鏡はハリーの妻が居た頃に下宿生がヒビを入れてしまったので、よく見えない。

 未だに可愛いと言われても、社交辞令だと本気で彼女は思っていた。

 なお、大きな鏡は高価な上にお取り寄せで物凄く時間がかかるため、購入は未定だ。

「私なんて、別に可愛くもないでしょう」

 アレックスは首を傾げ、シャールはそれ以上突っ込まなかった。

「…俺は元騎士だ」

「そのようですね。私は一般人です」

 そう言うと片眉を上げる。

「王子を知っているようだったが?」

 もし質問されたらこう答えよう、と双子と考えていた言い訳を言う。

「地方の視察でお茶を頂いていた王子の、少し遠くを通っただけなのに、目障りだから失せろと言われましてね。町を追い出されました」

 これは実際にあった話らしい。

 不機嫌な時に目の前を通ると、王宮の侍従でさえクビになるという…チャービル王子の人となりをよく表しているエピソードだと思われた。

「それだけで?」

「いや、それがありえるんだ、シャール」

 シャールが首を傾げるが、アレックスはうんうんと頷いた。

「私は当時、今よりだいぶ太ってましてね。自分以外の者が太ってるのはお嫌いみたいですね」

「ええ?」

「…そういう奴だ、あれは」

 ふぅん、と呟きシャールはランを観察して言う。

「なるほど、苦労して…痩せてしまったんだね」

「ええまぁ…」

 異世界に来て会社がないから規則正しい生活でコンビニもないから甘味もジャンクフードもない。

 毎日採取で森を歩き回っていたから痩せただけ。

 …とは言わない。

「俺は怪我をして辞めた」

 左目の縦断した傷をそっと触る。

(なんか…百足が這ったような跡だなぁ)

 傷を雑に縫合したらこうなるかもしれない。

 目は無事だが紫色だ。左目は真ん中が黒く周囲は灰緑色。

(紫って…魔物の色だよねぇ)

 髪の色を紫にして双子に叫ばれたのを思い出す。

(魔憑きって言うんだっけ…)

 時折、魔物に魅入られた者や、討ち取った魔物に呪いを駆けられて魔物の特徴をその身に宿す者がいるとモニクに習った。

「付加スキルは?」

「え?」

 アレックスがぽかんとした顔をしている。シャールがまたもや補足をした。

「この目ね、女性も男性も怖がるんだよ。ランは平気なんだね?」

 魔物をまだ見たことがないランは素直に答える。

「綺麗だと思いますけどね」

 その言葉に、アレックスは額に手を置き、シャールは微笑む。

「つくづく、変な女だ…。普通の人間よりも丈夫なだけだ。それと、月の特定の期間に身体能力が上がるだけ」

「そうなんですね。騎士団辞めたの勿体ない」

「…これが?勿体ない?」

 何を言っているんだ的な声音だ。

「戦う人だから、強くなる分には良いと思います。他の人より死ににくくなるでしょう?」

 そこまで言ってモニクの教義を思い出す。

「…あ。副作用があるんでしたっけ。今の発言は撤回します。すみません」

 頭を下げて謝ると、またぽかんとしたアレックスだ。その隣でシャールはクスクスと笑っている。

「それと、スキルを聞いてしまいましたから…私は魔物避けです」

「それはいいね。護衛には良いスキルだと言われているよ」

「そうなんですけど…」

 思わず半笑いになってしまう。

 自分はどう見ても護衛に向かないし、魔物避けスキルで魔物が寄けられたとしても向こうから突進してきたら止められないし、悪意を持った人はあっさりと通過する。

 攻撃魔法は教えてもらったが、実践で使ったことがない。

「僕は精霊魔法だよ。君は魔法を使えるの?」

「はい。生活魔法なら全般」

「それもいい。野営で助かる」

 ニコニコと言うシャールに先に告げておく。

「…護衛なんて、しませんからね?」

 そこにノックの音がした。

 アレックスが顔を上げて、どうした、と聞くとドアが控えめに開く。

「アレックスさん、ちょっといいですか」

「……」

 呼ばれて立ち上がり、ドアの所へ行くと何やら話している。

(傭兵を辞めたい、か…)

 先程の騒動を見て、こんな所にいると一緒にされる、と思ったんだろう。

 しかもやらかした相手はアレックスに殴られている。傭兵は根無し草で縛られるのを嫌うと聞いたが、その通りらしい。

 話がついたのか”抹消”という言葉が聞こえてきたあと、足音が遠ざかって行く。

 ドアを閉めたアレックスは少々暗い顔をしながらソファに戻ってきた。

「大変ですね」

 月並みな言葉しか掛けられないが、本心だ。

「…仕方ない。傭兵はちゃんとした奴を雇わないと依頼は来ないし、出ていく奴もいる。…それに、最近は魔物も少ないから護衛業も少ないなんだ」

 ため息とともに紅茶を飲んでいるが、自分がいなければ酒でも飲みそうだ。

「傭兵とは名ばかりで、何でも屋になりつつある。…それでもいい、町の人の役に立つならいいと言う奴もいるし、それが嫌な奴もいる」

「まぁ、そうでしょうね」

 護衛業は日々の穏やかな営みが送れない人、常に命のやり取りが伴う戦いの中に身を置きたい人…アウトローなイメージだ。

「…そろそろ雪が降る。その前に、次の町に行くしかないか」

 はぁ〜と深い溜め息をついている。場所と人に恵まれ儲かっている側としては、ちょっと可哀想になった。

「でも、それだと、町の人が困るのでは?」

 なんでも屋をやっていたなら、冬支度本番を迎えた今、力強い男手が減ると困る人も出てくるだろう。

「…おそらく、別の町から同じような傭兵屋が来る」

(でもそれって)

「悪い奴の可能性、なくない?」

 さっきランを掴み上げた者たちが徒党を組めば、ヤ◯ザの出来上がりだ。

「否定はできん。傭兵は定職に付けなかった奴だったり、力しか能がない場合もある」

 アレックスは吐露するように話しだした。

 騎士は貴族しかなれないし、警備隊は町に住居がありなおかつ長く住んでいる者という条件がある。だが、警備隊があるような大きな町には、よほどの功績がないと住めない。

 手に職を持つ親がいても、長男次男以外は家に居れない。独立するか、跡継ぎに使われる側になるかの二択。

「…だから、傭兵に自ら進んでなりたいという奴は、奇特な奴がほとんどだな」

 どんよりしたアレックスを、シャールがまたか、という目で見ていた。

 定期的にこうなるのかもしれない。

「力を持て余してるんですねぇ。ダンジョン、この町の近くにありますけど、活用は?」

「それも考えた。が、買い取りが月一しか来ないんでな。即金にならない」

「なるほど…」

 エドワードはこの町にある小さな店を拠点にしているが、普段は周囲の町や村を巡っている。

「だから、手っ取り早い護衛や、何でも屋のほうがマシなんだ」

 アレックスはお手上げポーズだ。

「即金かぁ」

 思わず呟くと、シャールが苦笑する。

「だからランが狙われたんですよ。…立ち居振る舞いや言葉遣いから、元貴族とでも思われたんじゃない?」

「これの、どこが」

 ドレスどころか町の娘が着ているようなワンピースすら着ていない。

 今日だって、ブラウスにベスト、スボンにブーツだ。髪も下ろしたり編み込んだりするのではなく、ポニーテールにしている。パッと見は少年に見えると黒鹿亭の常連が言っていた。

「身なりじゃないよ。…元騎士って言ったでしょう?貴族なら会話ですぐ分かるんだ」

「そうだ。嬢ちゃんはさしずめ、意に沿わない結婚から逃げてきた貴族の放蕩娘って感じだな」

(嬢ちゃんって)

 流石に無理がある。

「…31歳ですけど」

 ニコニコしながら告げると、2人はギョッとした顔になった。

 一拍遅れて声が出る。

「はぁ!?」

「…エルフでも混じってるの…?」

「人間ですよ」

(異界人だけどね!)

 ここまで過剰な反応をされると、世界と世界をまたぐ時に、年齢でも下げられたのかなと思ってしまう。そろそろちゃんと見える鏡が欲しい。

「まぁ、それは置いておいて…持ってきた素材は、商人が買い取ってくれるんですよね?」

「そ、そうだ。けっこう買い叩かれるが…仕方ないと割り切って売っている」

「という事は、あなたは適正価格が分かるんですね?」

 ランがそう言うと、アレックスは真面目な顔になった。

「…何をしようとしている?」

「いえ、別に。私が買い取ろうと思っただけです。適正価格で」

(資金は潤沢にあるし)

 シャールも真剣に聞いてきた。

「商人になるの?」

「違います。…ギルドを起こそうと思いまして」

 目の前の2人は顔を見合わせた。

「…ギルドって、探索者たちのような、団体かい?」

 双子もそうだが、探索者というちょっと奇特に見られる職業未満の人達がいる。

 彼らは後ろ盾もないまま、希少な素材を求めてダンジョンに潜ったり、危険な魔物に立ち向かったりするからだ。

 ランは人差し指を前に出してチッチッチ、と振った。

「私が作りたいのは、冒険者ギルドです!」

「冒険者…ギルド?」

「そうです!…町のなんでも屋から、ダンジョン探索、そして大型魔獣の討伐まで!

 ギルドはギルド員の保護をし、育て、仕事を斡旋します。

 そして町の人のお仕事や、魔物の素材から収入を得て、ギルド員に還元します。

 町の人との架け橋ですね!」

 ドヤ顔でいい終えると、アレックスが呆れた顔で言う。

「うちとやってることが変わりないが…?」

「全然違う!!!今日覗きに来ただけで強盗未遂ですよ!?全然架け橋になってないじゃない!」

「うっ」

「女性でも、老人でも、体の不自由な人でも、頼み事を頼めるようにしたいんです。…そして、目標があって達成されて、それがお金と経験になるとしたら、あなたたちもやりがいがあるのでは?」

 ランの真っ直ぐな目に貫かれて、アレックスたちは黙る。

「護衛が得意な人は、護衛の仕事だけを受ければいい。常に剣を振り回していたい人はダンジョンに潜ったり森で魔物を討伐すればいい。町の人との交流を大事にしたい人は荒事は避けた依頼をこなせばいい。…依頼によって人を振り分けるんじゃなく、各々が得意な依頼を受ければいいんです。自分の意志で」

 アレックスは滔々と語るランを呆然と見て、シャールは顎に手をやり考え込んでいる。

「…大きくなれば、支所を他の町に作ってもいい。徐々に大きくしていって国中に支所を作って…」

 遠いところを見始めたランを、アレックスは大きな手のひらで遮った。

「待て待て待て」

 いつの間にか立ち上がっていた彼は、ランの肩に手を置く。

「話が大きくなり過ぎだ。…まずは、この町からやるんだろう?」

「そうですね」

「…ここに来る商人は、アイツだけだぞ?」

 狐頭の獣人、エドワードだ。

「それなら好都合です」

「どこが??アイツは守銭奴だぞ?」

 この建物を借りる時も、相当な値段をふっかけてきたという。

「だからこそ、です。他にない取り組みと聞いて、儲けの元と聞いて、放置する商人はいないでしょう?」

 親に見返してやろうと、躍起になっている彼なら飛びつく筈だ。

「駄目ならこの町の雑貨屋の販路を使うまでです。どこでもいいから商人ギルドを通せば、あちらは敵視してこないでしょう?むしろ、いい金ヅルだと思ってくれますよ」

 自信満々に言い切ったランに、とうとうシャールは笑いだした。

 アレックスはランの肩から手を外してソファに座り込む。

「…お前、怖いな…」

 そう言いつつ、彼の目は輝いている。面白そうだと思ってくれたに違いない。

(もうひと押し)

「この話に、乗りません?お代はさっきの貸しを帳消しでいいですよ」

「……」

 アレックスはすぐには答えない。部下を持つ身だ。当然である。

「部下を食わせたいんでしょう?それに、町の人の好感度が上がれば、結婚できる部下もいるかもしれませんよ?」

 そこまで斜めの想像をしてなかったのか、アレックスは「え?」と聞き返した。

「たくましい人で誠実な人に困ったことを手伝ってもらったら、惚れますって」

「そう、上手くいくとは思えないが」

「何事もキッカケです」

 ランは言い切り、続ける。

「だいたい、他の町に移動するって…傭兵斡旋所がない場所に行かないといけないし、調査費、移動費とかばかにならないでしょう?もう冬になるし、大変ですよ」

 ニコリと笑いかければ、アレックスが苦笑した。

「……お前、あくどいな」

「まだいい条件しか出してません。全然あくどくないですよ」

 ふん、と腰に手をやる。

「まぁ、新しいことにトラブルはつきものですからね。それをアレックスさんに締めてもらいたいです。細かいことは私が考えますから」

 そう言うと、ランは二人の返事を待つようにソファへ深く腰掛けた。

 しかしシャールが発言する。

「僕はその話に一枚噛もう。面白そうだ」

「シャール!?」

 アレックスを手で柔らかく制し、ランへ向き直る。

「ただ、教えて欲しい。なぜ、冒険者ギルドを作って国内に広めたい?」

 聞かれると思っていた事だ。ランは素直に答えた。

「私を助けてくれた…命の恩人である友人がですね、悪い魔法使いに呪いを掛けられたんです」

 二人が息を呑む音が聞こえた気がした。

「そいつがどこにいるのかも、他に犠牲者を増やしているのかも分からない。この国は…王都こそ騎士や警備隊で護られていますが、他の町は傭兵くらいなんでしょう?」

 肯定の頷きにランはため息を落とした。

「…指名手配犯の貼り紙なども見たことがないし。今は、悪事を働く者に対する取り締まりが一切ない。襲われた者は運がなく、泣き寝入りするしかない」

 3年間、双子は森の中で過ごしていた。ランが来なければ、この先もずっと…果てるまで日々を怯えながらあそこにいただろう。

 そうモニクは話してくれた。

「だから、私は冒険者ギルドを作って国内に広めて、悪い奴に見てるぞってことを知らしめたい。そして悪い魔法使いを見つけ出して、友人の呪いを解きたい」

(最後に…丸尾さんを助けたい)

 その目はどこまでも真っ直ぐで、目の前の二人を見ていなかった。

 彼女の言葉は、少しの楽しさと、大きな不安と、そしてどこかにいる友人のことを想って紡がれている言葉に、他ならなかった。

「…まぁ、私は剣も使えなければ、魔法も今ひとつ制御できませんからね。なんとかしたいと、あがきたいだけです。出来ることは全てやりたい」

 そうでもしなければ何も知らない異世界で、悪い魔法使い、という言葉だけを頼りに人探しなど、何十年とかかるか分からない。できれば彼女たちが若いうちに元に戻してやりたい。

 シャールはチラリとアレックスを見た。

 正確には、彼の傷跡を。

 呪いとも言えるそれを刻んだのは、とある魔法使いだ。

(彼女の友人は、僕のこの友人と同じく、苦しんでいるのだろう)

 確かに今までも被害者と思われる人はいたが、王家は何もしてくれなかった。

 王族をかばって呪いを受けた彼を、多額の手切れ金で王都から追い出した。

 アレックスも彼女を真剣な目で見ている。

 決まったかな、とシャールはランを見た。

 アレックスが膝の上に腕を置き、手を組んだ。

「…分かった。お前は誰かを救いたいというが、人を救いたいというのは、俺の本望でもある」

 だからこそ、騎士だったのだ。

「仲間内には、煩わしい護衛などしたくない、戦いに身を置きたいという者もいる。…さっきのような奴だ」

 ランは頷いた。

「しかし、逆に町に溶け込みたいと…定住したい者もいるのも、確かなんだ」

 静かにアレックスを見つめるラン。恐れや蔑みもなく、同情でもない。ただただ、自分の中身を見ているような目だ。

 呪いを受けてからというもの、中々こういう目線はない。

(決めた、コイツに掛けてみよう)

 アレックスは、パン、と膝に両手を置いた。

「俺も、…この傷は呪いだ。おそらく、お前と同じ魔法使いを探している」

「!」

 ランは目を見開いた。

「呪いの強弱はあるが、相手が苦しむほどの呪いを掛けられる者というと、限られてくるからな」

「やっぱり他にも犠牲者がいるんですね…」

 目を伏せて下唇を噛む。悔しそうだ。戦いはできないと言うが、気概だけは十分戦士だ。

 その態度でアレックスは腹をくくった。

「だから、お前に協力を申し出よう」

 ぱちくり、と目を見開くラン。

 そして次の瞬間には、輝くような笑顔になった。

「ありがとうございます!!」

 ランが手を差し出すので、アレックスが首を傾げるので説明する。

「これは私の故郷でのあいさつです。互いに手を取り合うことで…交渉が決まった時や、挨拶、親愛の情でもあります。…うーん、まぁ、仲良くやりましょう!って意味ですよ」

「わかった。握ればいいんだな?」

「はい!」

 二人はガッチリと握手をした。

 アレックスの手は大きく、皮が厚くてガサガサしている。剣を持つ人の手はこうなんだ、と改めて知った。

「…詳細はこれからか?」

「そうですね。箇条書きにしたものはありますが、もう少し詰めてから…お二人に見せます」

 アレックスとシャールは顔を見合わせて頷いた。

「わかった。じゃあ俺たちはまだこの町にいる。仲間に説明をしておこう」

「はい、お願いします!」

 話が決まった後は早い。

 ランは笑顔で手早くメモを取ると、やばい、食堂の時間!と叫んで傭兵斡旋所を出て行った。


◇◇◇


 室内に残されたアレックスとシャールは、ホッと息を吐いていた。

 アレックスは左目の傷跡に触れている。

「痛む?…まだ、満月は先だよね」

 シャールの問い掛けに、彼は首を横に振った。

「いや…アイツに触れた時に…初めて、これが、動いた」

「!」

 目を見開くシャールに頷く。

「しかも、こう…嫌がるような動きだ。コレにとって、ランは天敵らしいな」

 ランの内にある明るさから逃げようと身を捩るような動きだった。

「じゃあ…」

「ああ、徹底的に協力するぞ。散々嫌がらせを受けたんだ。そろそろやり返さねば」

 ニヤリと笑うアレックス。

 久々に、心の底から滲み出た笑みだ。

「それに…そろそろあいつらも鬱憤がたまってるだろう。…傭兵という言葉がもう、限界な奴らを表す言葉だからな…」

 他の職に付けない者が、賊に身をやつす前になる職業とまで言う土地もあった。

「冒険者、面白い言葉だね」

「ああ。自分から危険をおかすとは、おかしな言葉だ。かといって、変な言葉でもない」

 揶揄でも、底辺でもないが、高尚さもない。

「僕たちとあまり変わりないんじゃない?」

 苦笑するアレックス。

「そうかもしれん。…が、何かが違う気がする」

「うん、僕もそうだよ」

 お互いに笑い合う。

 それは、強がりでもなく、慰め合いでもなく。

 アレックスについてシャールも王宮の騎士団を出て長く放浪をしてきた。

 ようやく…それは小さな小さな遠い星のような光だけども。

 その光を見つけて、笑い合えた二人だった。

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