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高校時代にタイムリープした僕は、絶縁した幼馴染にただ幸せになって欲しいだけだった。  作者: ミソネタ・ドザえもん
告白をやり直す。

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坊主

 放課後、クラスメイトの皆が帰る中、僕はこれからやってくる球技大会へ向けてわかりやすく気落ちしていた。


「あんた、大丈夫なの?」


 そんな僕の元へ、一人の少女が近寄ってきた。誰かってそりゃ、紗枝である。


「あんた、野球なんてやったことなかったでしょ」


「……うん」


「……うんって。だったらなんで出来ないって言わなかったの?」


 なんでか?

 まあ確かに。悩む内に話が打ち切られて、ロングホームルームの場ではあれ以上の議論は出来なかったが、その後で板野君あたりにそのことを相談するチャンスはいくらでもあった。

 でも、僕はわかっていながらそれをしなかった。


「皆の期待が重い……」


 僕は顔を青くして言った。

 ロングホームルームからその後の放課後まで、僕は数人の男子に話しかけられた。短時間でそれだけの人に話しかけられる機会は、この時間軸に戻ってきてからそんなに多い経験ではなかった。

 そんな珍しい経験の中、僕が皆に言われたことと言えば……。


 お前、バッティングセンスありそうだもんな、だとか。

 お前がいれば百人力だ、だとか。


 俺、球技大会優勝したら三船さんに告白しようと思ってんだ、だとかっ!


 他力本願過ぎるだろ。もっと自分で頑張る努力しろってば。


「……まさか、こんなに皆からの評価が高かったとは」


「文化祭実行委員に文化祭のクラスの出し物に、果てにはこの前の恵美の元居たグループへの公開処刑。あんたからしたら謙遜なんだろうけど、鼻につくからあたし以外にはそれ言うのやめた方がいいよ」


「……そう?」


「うん」


 そうか。

 前回の時間軸ではやらかしばかりだから、僕は不当に自己評価を低めにしていたのかもしれないな。

 客観視出来てなかった。

 どうやら僕は、数々のきっかけを経て、皆にそれなりに頼られるくらいには認めてもらえたらしい。


「でも、次の球技大会でそれも砂上の楼閣になると」


「もうちょっとオブラートに包んで言って欲しいです」


 刺々しい紗枝の言葉に、僕は目を細めた。紗枝は、悪戯っぽく笑っていた。


「まあ、所詮球技大会だし、そうはならないんじゃない?」


「そんなことになる保証はどこにもないじゃないか」


「馬鹿真面目。だったらどうするの。この一ヵ月で誰かに特訓付けてもらうの?」


「ああ、それだ」


「どれよ」


「誰かに特訓付けてもらうよ。シーズン六十一本ホームラン打てるくらいの強打者になって見せる」


「刻まずに言いなさいよ。みみっちい」


 そうと決まれば、誰か野球が得意な都合の良い人はいないだろうか。

 そんなことを考え始めた僕達の教室へ向けて、二つの足音が近づいてきていた。


「紗枝ちゃん!」


 二つの足音の内の一つが、快活な笑顔で教室に顔を出した。恵美さんだった。


「お疲れ、恵美。あんた、球技大会どれに出るの?」


 女子の種目は、バレーとバスケの二種類あった。


「あたしはバスケ」


「おっす、修也」


「そうなんだ。奇遇だね。あたしもそう。試合になったら絶対に負かすから」


「えー、負けないよ」


「……ふふっ。そう言えば、チーム分けはどうなった? 柴田さん達とは」


「うん。同じ種目だよ」


「え、それって」


 僕は心配げに恵美さんを見た。途中、蚊帳の外にいる男がいた気がしたが、一旦無視することにした。


「あたしがそうしてって言ったの」


「……あんた」


「いつまでも紗枝ちゃんにおんぶにだっこじゃ、折角の学校生活も楽しめない」


「恵美さん……」


 いつか流されやすいと自己評価していた恵美さんからして、それは大いなる大躍進の一歩だと思えた。


「頑張って」


「応援しているよ」


「ありがとう。頑張る」


「そろそろいい?」


「ああ、いたんだ岡田君」


「お前、親友にそんな態度よく出来るよな」


「またまた、場を和ませるために時々口挟んでツッコミ待ちだった癖に」


「その通りだけど、それはこの場で言わなくていいやつな」


 アハハ、と僕達四人は笑い合った。


「さっきまで、岡田君が激励してくれていたの」


「そうなんだ」


「……別に。自分から選んだ道の癖に、放課後になっても椅子から立たずに俯いて青い顔してっから。心配になっただけだ」


「ツンデレ」


「それだけは止めろ。マジで需要ない」


「そんなことないと思うよ?」


 紗枝が微笑むと、岡田君は微妙な顔で口をつぐんだ。告白し振られた仲だが、意外にこの二人の仲も良好だった。

 ただ、岡田君は紗枝に頭が上がらないようだった。


「それで修也。お前は野球、一軍二軍?」


「その言い方は止めた方がいいのでは?」


「一軍だよ」


 序列を付ける言い方に文句を付けると、紗枝が答えた。


「なんだよ、僻んで言っているのかと思ったらそうじゃないの。ヘヘッ、俺と一緒だな」


「岡田君、野球上手いんだ」


「ああ。中学まではシニアに入っていたからな」


 なんだって?

 僕は一つの光明を見つけた気がした。


「へー、どうして辞めたの?」


「坊主が嫌だから」


「……え?」


「坊主が嫌だから」


 それ、だけ?

 僕達三人は黙った。

 ただ言われてみると、岡田君は高校生にして暗めながら茶髪に染髪しているし、それなりに髪の毛に拘りがあるらしい。


「これでも一応、シニアでショートの四番を務めてた。全国大会にチームを導いたりしたぜ」


 鼻高らかに岡田君は自慢していた。


「凄いね、岡田君」


 そう言って岡田君を褒めたのは恵美さん。


「……修也」


 そして、僕同様何か思いついているのは、紗枝。


「うん」


「うん?」


「適任じゃない」


「そうだね。そう思うよ」


「……何が?」


 岡田君は明らかに戸惑っていた。


「岡田君、僕に野球の練習を付けてくれ」


 僕がそう言って頭を下げると、岡田君は微妙な面持ちで困惑していた。

そんな簡単にシーズン61本打てたら苦労しねーよと。

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