球技
またまたタイトルを変更しました。大変申し訳ございません。
謝罪して許してもらえるとは思っていません。この十字架を一生背負、贖罪していこうと思います。
投稿頻度は減る。
柴田さんを断罪した事件から一週間。時が過ぎるのはあっという間で、特に話題事に欠かない学生生活の内に起きたそんな事件は、気付けばさっさと風化していった。
ともあれ、柴田さんは以前のように我が物顔で学校生活を送れているわけではないようだ。嘘告白の首謀者。そしてその罪を他者に擦り付けて、陥れようとしたその行為が彼女に対する周囲の心象に悪感情を与えたことは最早言うまでもなかった。
今彼女の周りにいるのは、恵美さんを除いた元の彼女のグループメンバー。意外なことに、柴田さんのグループメンバーは、あれほどのことをされても彼女と距離を置かなかった。自分達も悪意の片棒を担いだこともその原因の一つだったのだろうが、一番は多分、なんだかんだ柴田さんのことを大切な友達だと思っていたからそうしたのだろう。
ただ、そんな柴田さんグループに、もう恵美さんの姿はない。
「紗枝ちゃん。紗枝ちゃん!」
恵美さんは今、紗枝と一緒によく遊ぶようになった。
柴田さん達へ募った不信感は、切り捨てられた彼女にして相当のものだったはず。彼女達から距離を置くのは、当然の成り行きに思えた。
「……誤解しないで欲しいの」
と思った僕だったが、どうやら恵美さんはそうは思っていないらしかった。
「何を?」
「智恵達は、別に酷い人なんかじゃないよ。恋愛のいざこざって面倒なの。だからこじれた。でもそれがなければ、きっとこんなことにはならなかった」
友人を庇うためか。
今や一緒にさえいれなくなった彼女達に向けたその発言は、彼女の慈悲深さの象徴のようで、少し胸が温かくなった。
「君が言うなら、そうなんだろうね」
僕は微笑み、そう返した。
たった数日の出来事。そしてその事件からも僅か一週間だと言うのに、僕はあの件を通じて、少しだけ人として成長することが出来たような気がした。
あの事件では色々学ぶことが出来た。
人を貶めてはいけないこと。
友達をないがしろにしてはいけないこと。
そして、僕の中にまだあんなにも熱く滾る感情が残っていたこと。
友達のため、あんな行動がまだ出来ただなんて。僕は自分で自分に驚いていた。代償としてスマホを一つ破壊し、母からそれはもうこっぴどく怒られたが……とにかく、僕は僕に驚いたのだ。
あの時の感情は、とてもシンプルだった。
友達を守りたい。
友達を軽んじた連中を、許せない。
ただそれだけだった。
それだけ、僕は友達のことを大切に思えるようになった。
それだけ、僕は友達に肩入れすることが出来るようになった。
そんな自分の成長が、嬉しい。
でも、僕はまだ自分に自信が持てたわけではなかった。
あの日、僕は柴田さん達を断罪した。
でもその断罪は……前回の時間軸、僕が紗枝にされたそれと酷似していた。あの日、僕は柴田さん達と同じくらい、許されざる行いに乗じた。
そんな僕が、友達のために敵対者を論破したところで、それは成長と呼んであっているのだろうか。
わからない。
もっと、劇的な成長を僕は望んでいた。
もっと……、そう、それこそ紗枝に、振り向いてもらえるようなそんな劇的な成長をだ。
どうすればそんな成長を果たすことが出来るのか。
簡単だ。
僕はあの虚無の八年間、その術だけは学んできたではないか。
出来ないことに挑む。
そうすることで、人が自分の限界を知り、限界間際までのギリギリを出せるようになる。限界間際に挑み続ければ、いつか限界のボーダーは下がっていく。
僕はそれを、かつての社会人時代出来ないことをやれと散々言われてきて、実感してきていた。
出来ないことに挑もう。
僕はそう意気込んだ。
成長するため。
紗枝に振り向いてもらえるため。
そんな矢先のことだった。
水曜日のロングホームルーム。今週のこの時間は、来月に迫った球技大会へ向けての生徒間での話し合いの場となっていた。
「じゃあ、男子の方から決めようか」
黒板の前で、紗枝が言った。
男子の球技大会での競技は、野球だった。
各クラス、二チーム毎に選手を振り分けることになっていた。
「じゃあ、Aチーム」
……非情なことに、このクラス内での二チーム分けには暗黙の了解で一軍二軍の振り分けがあった。
クラスメイト全員はわかっていた。
いいや、クラスの男子全員はわかっていた。
……一軍は、女子にモテる!
水面下で既に男子間のバチバチとした視線がかち合っていた。その空気に気圧されることもなく、僕は思っていた。
……二軍が良い。
「じゃあ、修也は一軍ね」
「え」
変な声が出た。
「皆、お前の実力買ってんだぜ。野球でもその実力、見せてくれよ」
「……うん」
野球の実力など、これまで一度だって見せたことはないが。
ま、まあ……選ばれてしまったものはしょうがない。
しょうがないで済まないが、しょうがない……。
せめて、せめて九番とか楽な打順で頼む。
僕は切に願った。
「じゃあ、修也は四番だ」
頭湧いてんのか?
「期待しているぜっ!」
「……アハハ」
誤魔化すように、僕は苦笑した。
一体、皆どうして僕のことをこんなに買い被っているのか、酷く疑問だ。
一体いつ、僕が野球が出来るなどと言ったのか。
一度もそんなこと言ってないでしょうが。
僕は、野球は完全なる素人だった。
そんな僕が一軍四番の大役など、務まるはずがないだろうが。
そんな文句を言いかけて口を閉じたのは、丁度さっき出来ないことに挑戦しようと決心したばかりだったからだ。
誰かにその決意を他人に漏らしたわけではない。
でも、思ったことをこうもあっさり翻すのは、少しばかり決意が薄弱過ぎないか。
「じゃあ、男子の方は決まりな」
迷っている内に議論の場は打ち切られた。
「頼むぜ、修也」
教壇から戻ってきた板野君(一軍)に、僕は苦笑を見せた。
アオハルといえばスポーツでしょ。足が速い男子はモテる。スポーツ万能な男子もモテる。
モテたい。
評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!
なんとか日間ジャンル別1位になりたい。。。




