悪運
意気揚々と僕を貶めに来ていた柴田さん達は、予想だにしなかった僕の反応に興ざめしたのか、苛立ちながらその場を後にした。
少しだけ侘しい気持ちになりながら、僕は家へと帰宅した。
翌日の朝、朝食を食べ終えて家を出ると、紗枝が玄関の前にいた。
「遅い」
「ごめん」
そう怒られるが、そもそも今日一緒に学校に行こうと約束した記憶はなかった。一体、どうしたと言うのだろう?
「ちょっと気になってね」
「何が?」
「昨日、進路相談しに行ったんでしょ?」
「……ああ」
そう言えばそんな嘘を付いて、紗枝を撒いたのだったと僕は思い出した。
どうしようか。
昨日は嘘を付いてしまったが、その嘘は明るみにするべきか。明るみにしていけない理由はなくなった。秘め事ではなく僕を貶めるための行動だったのなら、彼女らの非を告げつつ、愚痴っても何も怒られないかもしれない。
「……まあ、言った通りだなって思ったよ」
「ん? どういうこと?」
僕は静かに、紗枝の前を先行した。
昨日の一件は、紗枝の耳に入れない方針で行こうと思った。色々と、思うところがあった。
ただ、何の根拠もなく意味もわからないことを言っただけではない。
思い出していたのは、元旦紗枝と一緒に初詣に行った際、引いたおみくじに書かれていた内容。
恋愛、控えるべし。
大吉にも関わらず、中々運が悪そうなことが書かれていたが、まさしくその通りになった、と僕は思ったのだった。
慣れないことはするもんではないな、と思いつつ、通学路を紗枝と一緒に歩いた。
紗枝の話を聞きながら、僕はぼんやりと昨日の一件を思い出していた。忘れた方が良い出来事なのだが、少し引っ掛かる部分があった。
何が気になったかと言えば、それは恵美さんの態度。
ずっと能面を貼り付けたような無表情の彼女は、彼女の嘘告白の後に出てきた柴田さん達と違っていた。そもそも、僕を貶めたい一心だった柴田さん達は下衆な笑みを浮かべていたにも関わらず、彼女はずーっと無表情だったのだ。
嘘告白に対して思うところがあったのか。
もしくは、そもそも嘘告白自体心外な行いだったのか。
そんなことを考え始めて、僕は首を横に振った。
これ以上昨日の一件で頭を悩ませるのは無駄なこと。それだけはハッキリしていた。
柴田さんから恨みを買った理由だって、僕は理解は示せた。僕としても、先日からあの件は僕の利己的な考えを前提に置いた上での行動なのだから、好意的な賛同を得られなくてもしょうがないと思っていたじゃないか。大多数の文化祭実行委員の皆はあの行いを賛同してくれた状況だったから、あの場で柴田さんがそれを言い出せない気持ちだってよくわかる。
だから、それで貶められそうになったって、恨みっこなしって話だ。
もうそれで良いじゃないか。
とそこまで考えた上で、ただ、一つ懸念があるとすれば……。
柴田さんの報復行為は、まだまだこれからも続くのか、と言うこと。
彼女の行いは陳腐で幼稚。あんな行いをしばらく続けられること自体は僕としては別に問題はない。
ただ、彼女が自分の所属するグループに罰ゲームと称し僕への嫌がらせを画策しているのは少し面倒だ。
そもそもこれは、僕と柴田さんのいざこざ。
その件で他人に干渉させるのは、いかがなものか。
後で、直接直談判でもしに行こうか。
土下座くらいで済むのなら、これ以上の被害者が生まれないことを考えればし得かもしれない。
そんなことをぼんやり考えていると、昼休みがやってきた。
「修也、あんたさっきから全然授業聞いてなかったでしょ」
「え?」
「ぼんやり黄昏てた」
紗枝には、僕の精神状態は筒抜けらしかった。
「まったく」
「ご、ごめん……」
「別に良いけど……ノート何も書いてないのは辛くない?」
「まあ、そうかも」
「じゃ、じゃあ……一緒にお昼でも食べながらノート見せてあげようか?」
「え、いいの?」
「ま、まあ……修也の頼みなら仕方ないかな」
紗枝と一緒に昼ご飯を食べれること。
ノートを見せてもらえること。
紗枝の提案はとてもありがたかった。だから、そのありがたい話に頷こうとした時だった。
「おうい、修也。お客さんだぞ」
扉の傍にいた板野君に、僕は呼ばれた。
「……えっと」
「……お客さん、優先しなよ」
「ごめん」
「ううん」
残念さと気まずさを感じつつ、僕は扉の方へと歩いた。
「……あ」
そこにいたのは、
「徳井君、どうも」
昨日、僕に嘘告白をした恵美さんだった。
おみくじ効果強すぎ。
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