友人
「おはよう」
コンビニで暇を潰し過ぎて、学校に着くのは始業間近に迫っていた。
前までならそそくさと一人紗枝の陰に隠れて自席に向かっていた僕だが、最近ではこうして教室に着くや否や挨拶をするようになった。
以前の文化祭での一年生部門での売り上げトップで、どうやら僕はクラスメイトにそれなりに買い被ってもらえたみたいだった。
快活な挨拶をいくつか聞いて、僕は自席へと足を進めた。
「おはよ、紗枝」
途中、席に付いていた紗枝に挨拶をした。
しかし紗枝は、僕に返事をくれなかった。
どうやらまだ昨日泊まりに行かなかったことを怒っているらしい。
「本当、ごめん」
僕は苦笑しながら、紗枝に謝罪して自席へと向かった。
「おいおいおい」
席に着くや否や、背後から驚きの声が耳に届いた。
振り返った先には、驚愕顔の板野君。
「おはよう」
「おう、おはよう。って、お前達どうしたの?」
「どうしたって?」
「お前と紗枝、喧嘩でもしたの?」
「……あー、まあちょっと」
喧嘩の理由は、語れなかった。
「早く謝った方がいいぞ。異性の喧嘩は、基本的には男が謝るべきなんだ」
「うん。……まあ、謝っているんだけどね」
「そうか? まあ、謝って許されないこともあるからな」
「そうだね……」
僕は顔に影を落とした。
謝って許されない事柄に、覚えがあった。
「ま、まあ、とにかく許してもらえるまで謝るしかないな」
「うん。そうするよ」
文化祭最終日。僕は岡田君のおかげで後悔のない人生を歩みたいと思ったばかり。こんなことで紗枝と不仲になるのは、後悔してもしきれなかった。
「ほら、そろそろ授業だ。いつまでも落ち込んでいる場合じゃないぞ」
板野君に言われ、僕はその通りだと思った。
すぐに暗くなる癖、どうやら直した方がよさそうだ。思えば、最近体調不良になる時はいつも、気分が滅入った時だった。
「そうだ。板野君」
「なんだ?」
「クリスマスの日、暇?」
気を取り直そうと、僕はさっきのコンビニでの出来事を思い出していた。
クリスマスムードに浮かれるディスプレイを見ながら、僕は今回のクリスマスをどうしようかと悩んだのだ。
前回の時間軸の高校一年時のクリスマスは確か、家族で浮ついた雰囲気もなくご飯を食べて終わってしまった。
今回はどうせなら、友達と過ごすのも悪くない。
むしろ、高校一年時のクリスマスはもう二度とやってこないことを考えれば、後悔しないためにも友達と過ごすべきだろう。
「あー、ごめん。その日は俺、部活だわ」
「そっか」
「なんだか少し意外だな?」
「何が?」
板野君は、苦笑していた。
「てっきり俺、お前はクリスマス、紗枝と過ごすもんだとばかり思っていたから」
小さい頃は、そう言えば家族間で仲の良かった紗枝一家と一緒にクリスマスパーティーもした。でも、次第に大人になるにつれ、そのイベント事は失くなってしまった。
「とにかく、ごめんな」
「ううん。僕こそ、忙しい中誘ってごめん。部活頑張って」
「おう」
それから授業が始まって、僕は浮かれたクリスマスモードから一変、勉強に集中し始めた。
昼休み。
午後の授業。
あっという間に時間が過ぎて、放課後はやってきた。
「おい、修也」
教室に顔を出したのは、岡田君だった。
「どしたの」
「マック行こうぜ」
悪い顔でニヤリと笑う彼は、少し面白かった。
ファストフード店までの道中、僕達は雑談に花を咲かせた。岡田君とはクラスが違うから、こうして面と向かって長々と話せるのは放課後くらい。だから、この貴重な時間を大切にしようと思った。
「聞いたぜ?」
「何を」
「お前、小日向さんと喧嘩しているんだって?」
どうやら、僕達の喧嘩は岡田君のクラスにまで噂が広まっているらしかった。
紗枝は目立つ人だし、まあ、そういうこともあるんだろう。
「小日向さんもお前も、有名人だしな」
「……え」
「なんだよ、その意外な顔は」
「……僕、別に有名人じゃないでしょ」
ハッ、と岡田君が鼻で笑った。少しイラっとした。
「文化祭実行委員の陰の立役者のお前の噂は、最早この学校中に轟いてるぜ」
「また変な仇名で呼ばれている……」
大層心外で、僕は頭を抱えた。
「別に悪いことじゃないだろ。過小評価されるよりは、断然マシだ」
「過小評価される前提だったらそうかもね」
「お前は、誤解されやすい性格をしているからな。過小評価されることも少なくないだろう」
「……自覚はない」
「自覚していないところが、お前の良いところだ」
褒められているような、貶されているような。
僕は呆れたため息を吐いて、陰鬱な気分になった。
しかし、まもなく僕は思い出した。いつまでも気落ちしていてはいけない。時間が勿体ない。
「岡田君、クリスマスの日、暇?」
「なんだよ、藪から棒に」
「一緒に遊ばないかなって」
「あー、楽しそうだな」
「だろ? 折角友達になったんだから、クリスマスの日、一緒に遊ぼうよ」
「うんうん」
岡田君は、深々と何度か頷いた。
「ごめん。その日は駄目だ」
「えっ、今の流れで?」
「おう」
「おうじゃねえ」
割り切りの良い岡田君に、僕は目を細めた。
「……そもそもさ」
釈然としない気持ちをぶつけようと思っていたが、先に口を開いたのは岡田君だった。
「お前、クリスマスは小日向さんと一緒なんじゃねえの?」
既視感を感じる問いかけに、僕は首を傾げた。
日間ジャンル別万年6位になりつつある…。
こんなこと大っぴらに書いてはいけないのでしょうが、なんとか5位に上がりたい…。
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