過去
こんな時間に投稿してるけど明日も仕事がある悪夢。
文化祭初日の放課後、僕達文化祭実行委員の作った正門からたくさんの生徒が帰っていく中、僕と紗枝は二人『ゴミ捨て』係の仕事に勤しんでいた。
「重っ」
「紗枝、僕が持つから。こっちの軽いやつ持ちなよ」
「あ、ありがとう」
制服に着替えた紗枝と、ビニル袋を両手に、僕達は歩いていた。陽が沈み真っ暗な外で、僕達は歩いた。
教室の窓から漏れる明かりは、いつもよりも少なかった。
今日は部活も禁止だし、居残りするような人も文化祭実行委員くらいしかいなかった。物理室に灯った明かりを見ながら、僕達は校舎裏のゴミ置き場へと歩いた。
「まだ皆、仕事しているみたいだ」
「明日で終わる仕事。皆、最後まで精一杯頑張りたいんだよ」
「そうだね」
朧気な前回の時間軸の文化祭の記憶を呼び戻していた。
あの時、少なくとも僕はこの時間には既に学校を去っていたと思う。
「修也の頑張りのおかげだね」
微笑む紗枝に、僕は微妙な顔を見せていた。しかしその顔は、暗黒に包まれた末に紗枝に届くことは多分なかった。
『ゴミ捨て』係の仕事も終わり、物理室に戻ると、残っている生徒はあまり多くなかった。新田先輩と、明日の閉会式で動画を見せる予定の岡田君と桜内さんくらいだった。
「あ、二人共お疲れ様」
「お疲れ様です。新田先輩」
「ごめんね。二人の帰還を待たせなくて、皆、疲れ溜まっているみたいだったから。明日に備えて帰ってもらった」
「構いません。先輩は、まだ仕事を?」
「そうだね。もう少しだけね」
「手伝います」
紗枝が、我先にと新田先輩の元へと向かった。見れば新田先輩の当たっている仕事は、明日のプログラムの確認と書類の整理のようだ。
そこまで人員は不要だろうと判断し、僕は岡田君達の仕事に交じることにした。
「手伝うよ」
「悪いな。力仕事後で大変だろうに」
「いいよ。困った時はお互い様だ」
「ありがとう、徳井君」
それからしばらく、僕達は動画編集の作業に打ち込んだ。
そして、坂本先生が未だ残る僕達を怒ったことで、この場は解散と相成った。
お別れの言葉を告げて、僕達は散った。
僕と紗枝は、鞄を教室から持ってきて物理室に向かっていたから、一足先に玄関へと向かった。
玄関から校門へ向けて歩き、僕は足を止めた。
「修也、どうかした?」
僕は足を止めて、正門を見上げていた。少しだけ、侘しい気持ちになっていた。
「あれだけ頑張って作ったこれも、明日にはキャンプファイヤーになって消えていくのかと思うと、少しね」
僕達が作り上げた正門は、前回の時間軸で作った正門に比べて立派な仕上がりになっていた。全員が一致団結し、一つの方向に意識を合わせ、妥協を許さなかった結果だった。
でもそれが、明日には燃えカスになるかと思うと、少し寂しい。
「資材置き場でもあれば、来年にも使いまわせるのにね」
「そうなれば、文化祭実行委員の仕事も減るし、設営準備に人手も回せるし、一石二鳥なのにね」
「……好意的に解釈するとさ」
紗枝は続けた。
「過去を振り返るなってことを言いたいんじゃないかな」
過去を振り返るな、か。
「楽しかったこと、苦しかったこと。成功したこと失敗したこと。色んな体験を生きている内にするだろうけどさ、どれだけのことをしたって、残念ながら過去に戻ることは出来ないわけだしね。だから、過去は糧にはしても縋っちゃ駄目なんじゃないかな」
紗枝の言っていることはわかったが、僕は気持ちの整理が付かなくて返事をすることは出来なかった。
色々と引っ掛かる話だった。
でも一番引っ掛かった言葉は、人は過去に戻ることは出来ないって話だ。
それは、あまりにも正論。あまりにも真実。
でも僕は、どういうわけか今、過去に戻ってきてしまった。
そうして隣には、あの時絶縁した紗枝がいる。謝罪をすることが出来なかった紗枝がいる。
……神は、一体、どうして僕をタイムリープさせたのだろうか。
以前散々考えて答えの出なかった問いは、今考えても答えは出そうもない。いつまでそれを考えたら、答えは見つかるのだろうか。
もしかしたら一生見つからないのかもしれない。
少しだけ、闇夜に乗じて、気落ちした。
「小日向さんっ」
そんな時、背後から声がした。
聞き覚えのある声。
顔を上げた先にいたのは、暗い茶髪の見知った男だった。
「……岡田君?」
暗闇の中、少しだけ馴染み始めた目で、僕は岡田君の顔色に気付いた。切羽詰まったような、悲痛に滲む顔つきだった。
「何?」
紗枝が返事をした。
「明日、少し良い?」
要領を得ない質問だった。
「明日……キャンプファイヤーの前、少し良い?」
「どうして?」
紗枝の声は、少し冷たかった。
「話したいことがある」
「どんな話?」
「……ここでは言えない。明日話したい」
一瞬、紗枝がこちらに目配せしたのがわかった。
でもまもなく、戸惑った僕の顔を見つけた紗枝は、
「わかった」
不承不承と、頷いた。
「ありがとう。じゃあ」
それだけ言い残して、岡田君は帰っていった。
驚きの展開だった。
「岡田君の話って、何かな?」
紗枝が僕に尋ねてきた。その声は、尋ねていながら答えを知っているようだった。
「さあ、わからない」
「修也、岡田君の友達じゃん。……わからないの?」
「うん。まったく」
淀みなく僕は言った。
ただ、紗枝同様僕もわかっていた。
岡田君は、明日紗枝に告白をするつもりだろう。
元々は、僕が岡田君と紗枝を引き合わせる話だったのに、随分と強引な手に打って出たもんだ。
ただとにかく、僕の口から岡田君の秘め事を告げるわけにはいかなかった。
「ふうん。そっか」
紗枝も、淀みなく返事をした。
その後は静かに、僕達は帰路に付いた。
おやすみ!
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