責任
お昼の授業がまったく集中出来なかった。ノートと教室を広げた机の僅かな木目を見ながら、ぼんやりと考え事をしていた。
答えが出る気配はまるでなかった。
昼休みの事。
昨日友達になった岡田君に、駐輪場へ呼び出され、された話は彼の秘め事の話だった。
僅か一日の交友関係ながら、岡田君と人間の性格の良さ。勤勉さは目の当たりにさせられた。周囲に人気のある男子だが、どうやらそれは彼の容姿だけに引き寄せられた結果ではないと、そう断言出来た。
『俺は……小日向さんが好きだ』
そんな彼の秘め事は、紗枝に関する好意だった。
頬を染めて、俯いて、照れくさそうにそう言い切った彼の顔が、脳裏にこびり付いて離れなかった。
僕は彼に言われた。
協力して欲しいと、そう言われた。
紗枝と付き合うための協力をして欲しいと、そう言われたのだ。
僕は、その場を保留にした。
少し考えさせてほしい。そう言って、その場を締めた。
岡田君の告白から今の時間まで、頭の中はごちゃごちゃだった。
彼は、とても良い人間だと思う。昨日紗枝が言っていた言葉が蘇る。僕とすぐに仲良くなれる人は多くない。
僕は偏屈な性格をしているし、友達付き合いだって疎かにしがちな奴だ。
そんな僕に嫌な顔を一つも見せずに友達になってくれて、僕が過労で倒れれば激怒し、マックにまで誘ってくれた。
そんな良い人を……僕は知らない。
そんな彼の人柄の良さを知って、紗枝への告白を協力してくれと言われ、まず僕が考えたことは彼女と岡田君が付き合った末の光景。
果たして岡田君と付き合って、紗枝は幸せになれるのだろうか。
答えは、出なかった。
いくら人柄の良い彼でも、紗枝を幸せに出来るかはわからない。その反面、板野君は前回の時間軸での実績がある。
あの場ですぐに岡田君に協力しようと思えなかったのは、そういう経緯での結果だった。
ただ、今更僕は自己嫌悪に陥っていた。
紗枝の幸せのためとは言え、他人をものさしで計って勝手に評価を下すだなんて、碌な人間のすることではない。
そう思って、僕は自分が碌な人間ではなかったことを思い出した。
僕は……かつて、大失態をやらかしたろくでなしだった。
気付けば、放課後がやってきた。
岡田君は今日も文化祭実行委員の仕事にやってくるだろう。そしてそうなれば、保留の結果を僕に求めるに違いない。
たった数時間の考え。
それなのに、随分と胸を締め付けられる想い決断を迫られている。
……でも、僕は責任を取らなければならない。
『あんたの顔なんて、もう二度と見たくないっ』
あの日、紗枝を泣かした……大失態の責任を取らないといけない。
「おっす、徳井君っ!」
「……あ、新田先輩、どうも」
「……あ、うん」
気の抜けた僕の態度に、文化祭実行委員の皆から不安げな視線を寄せられていたが、僕がそれに気付くことはなかった。
定例会。初めて無言でその場を終わらせ、そして作業の時間はやってきた。
「おい、修也」
「ん?」
「お前、大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
誰のせいでこんなに悩んでいると思っているのか。
岡田君に内心で文句を言いつつ、作業は開始した。
木材に釘を打ちながら、頭ではずっと考え事に勤しんでいた。
僕は責任を取らなければならない。
僕は、紗枝を幸せにしないといけない。
僕は……岡田君に、友達に、なんて答えるべきなんだろう。
「ごめんな」
しばらくして、隣から静かな謝罪が聞こえた。
そこにいたのは、申し訳なさそうに作業に打ち込む岡田君がいた。
「……ごめん。辛い協力を仰いでしまって」
しばらくして、僕は岡田君の謝罪の意図を悟った。
主人公のメンタルが躁鬱傾向。と思ったけど鬱鬱傾向だった。
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