相談
「まず最初に質問なんだけどさ……お前達って、付き合っているの?」
岡田君に呼び出されて向かった先は、駐輪場。昼休みのここは人気がなく、それが岡田君にとっては好都合だったらしい。
僕としたら、冬場に外に駆り出された時点で寒くて寒くて若干の恨みを抱える始末だった。
「お前達って……誰と誰のこと?」
「お前と……小日向さんだよ」
小日向さん?
……ああ、紗枝のことか。
「いや、付き合ってないよ」
寒さによるものか。突拍子もない岡田君の質問によるものか。
……考えるまでもない。後者だった。
僕は、返事をしながら気落ちしていた。
岡田君がこんな質問をした意味。それも、恥ずかしそうに照れくさそうに、こんなことを聞いてきたわけ。
それは、あまりにもわかりやすい話だった。
ただ、そうじゃないことを祈っていた。
そうであれば僕は……。
僕は、一体どうするべきなんだろう。
「付き合ってないのに、一緒に帰るのか?」
「家が近所なんだ。所謂幼馴染ってやつ。まあ、腐れ縁さ。彼女の両親が家を空ける時とか、紗枝はウチにご飯を食べに来たりする」
「そっか」
安心したようなため息を、岡田君は吐いた。
そうであってほしくないと願うのに、そうであると警笛が鳴らされる。
「なあ、修也。一つ質問いいか?」
「何?」
「……お前は、小日向さんのこと、どう思っている?」
ドキリ、と心臓が跳ねた。
どう思っているか。
僕が、紗枝を……どう思っているのか。
そんなの……。
「わからない」
それは事実であり、嘘だった。
「そっか」
さっき安心したようなため息を吐いた時と同じ言葉を、今度は緊張の面持ちで岡田君は言った。
「俺は……小日向さんが好きだ」
そして、岡田君はそう言い切った。
今最も聞きたくなかった言葉を……僕に、言ってしまったのだ。
「どうして、好きになったの?」
「うぇええ?」
どうしてそんなことを聞いたのかわからなかった。
でも、無言で尋ねた僕に、岡田君は気圧されているようだった。
「大した理由はない。一目惚れだよ」
岡田君は、照れたように困ったように頭を掻いて続けた。
「俺、こんな身なりしているだろ? 勿論、自分から勝手にしたことだし、それをとやかく言われて苛つくこと自体おかしな話なんだけどさ。でもやっぱり……そう言う目で見られると、時々どうしてもムカつくんだ。で、大体皆俺をそう言う目で見るわけ。
……でも、小日向さんは違ったんだ」
「……そっか」
「うん。ちゃらんぽらんな俺相手にも、笑顔で、時には怒って、優しくて、そんな彼女に、気付いたら恋してた」
言い切って、岡田君は大きく息を吸った。
「修也、頼みがある」
「頼み?」
「もし嫌なら全然聞かなくてもいい。でも……もし、少しでも良いって思ってくれたのなら、そうなら……協力して欲しい」
「協力?」
「うん。……協力」
岡田君は、真剣な眼差しをしていた。
真剣すぎて、思わず気圧されてしまいそうになるくらい。自分の邪な部分が見透かされているようで、自己嫌悪に陥るくらい。
岡田君は、真剣で……真っすぐで、邪念のない瞳で、僕を見つめていた。
「小日向さんへの告白、協力してくれないか?」
僕は今、誰に聞くまでもなく、自分がどんな顔をしているか……わかった。
曇天模様の空から、まもなく雪が降ってきた。
十二月に入ったばかりの初雪は、実に数年ぶりとなるくらい……珍しい天気だったらしい。
前回の時間軸での僕は、そんなことを知る由もなく、のほほんとした日をこの日も過ごしていたことだろう。
こうして、紗枝に恋した一人の男子のことも知ることなく、頼られることなく。一人、早く今日も学校終わらないかな、くらいに一日を過ごしていたことだろう。
そんな当時の僕が、僕は羨ましかった。
後に、あれほどの失態を犯すと言うのに、羨ましくて仕方なかった。
今にも停止しそうなくらい強く締め付けられた心臓。
何とか口から息を吐いた。真っ白な吐息が、空へと昇った。
「……岡田君」
僕は……。
ようやく明かされるヒロインの名字。とっくに明かしてるだろうと思って、何だっけと探したら見つからなかった。
実は別の名字だったらごめんだけど、叙述トリックだから。叙述トリックだから!
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