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第15話 叩く猫と鼠小僧

「お?あれが目印の灯りじゃねえか?氣で探っても誰もいない様だから行ってみようぜ」


 ダンジョン内には幾つも小部屋があるが、一つだけ扉の横に街灯と同じような魔道具と思われるランタンが付いている。ロックによるとダンジョン探索を行う者達が利用するキャンプ地らしい。そして先輩パーティとやらの最後の目撃地点でもあるようだ。誰もいないのは分かっているので遠慮なく扉を開ける。

 中に明かりはなく薄暗いのでマスクのライトを点灯させ、周囲を見回す。他の小部屋より比較的広く、中央付近には雑に作られた竈があり、火を焚いた形跡もある。こんな密室で火を焚くなよと思っていると パッ と視界が明るくなる。壁際でゴソゴソやってたロックが備え付けられていたランタンを点けたようだ。

 そのまま少し部屋の探索を行うが、目ぼしい手掛かりは見つからない。


「普通にキャンプした痕跡しかねえな。辺り一帯の気配も魔獣のやつしかしないし…酸欠で死んで食われてスケルトンになってたり、とか?」


「にくがついてないホネホネにようはないにゃ」


 おれとダニーの言葉にロックが顔を青褪めさせる。陸に上がった魚のように口をパクパクし、過呼吸になりそうな感じだ。


「すまん、冗談が過ぎた、おれが悪かったから落ち着け」



 ロックが落ち着くのを待つついでに、おれ達一行もここで休憩する事に…コケ等のおかげで部屋内で火を使っても大丈夫なようだ。煙を吸って酸素を吐き出すらしい、なんとも人様に都合のいい植物だな。


「ほれ、これでも食え。家の近所で獲れた猪の燻製肉だ、うまいぞ」


 普通の顔色には戻ったが、いまだ肩を落としているロックに肉を渡す。食事をとると険しかった表情もだんだんと和らいでいった。


「うみゃうみゃもぐもぐ おいしいおにくだにゃ やっぱりスケルトンよりおにくだにゃ」


 駄猫の一言があるまでは…


「ダニー!その話題はやめろ!忘れろ!…なあロック、最後の情報も正確にはこのキャンプを出て奥に行くのを見たって事だろ?この先に行けばきっと何か分かるはずだ」


 これ以上余計な事を言わない様に追加の肉を猫の口に放り込み、罪悪感を誤魔化すようにロックを励ましつつ今後の動きについて話し合う。




「捜索隊や他のハンターの話をまとめると、ここから次のキャンプ地点までの間で足取が途絶えてるみたいだな。ロックの先輩ってのはオーガにやられるほど弱くはないんだろ?」


「うん…二、三体程度なら対応出来ると思う、それ以上となると分からないけど…オーガが群れているとかそういう情報は噂でもなかったし…。」


 オーガは基本1体でダンジョン内をうろついている。この階層付近で一番強いのもオーガだ。だから魔獣にやられた可能性は低いだろう。


「ならばトラップに引っかかった可能性が大きいですね。その先で帰還出来ない状況になっているとか。となると余計に厄介です、時間的に迷宮内をくまなく探すわけにはいきませんから。」


「う~む…当てずっぽうで探しても無駄だろうし……ジェフ、ちょっとタブレットを貸せ。地図が見たい」


 他の皆が片付けをする間、一人でMAPとにらめっこ。ゲームで行き詰った時にやってた常套手段だ。ちっこい人差し指で操作しながら眺めていると、違和感を覚える場所が一つ…何もないかもしれないが闇雲に探すよりマシだろうと、そこへ向かう事に決めた。


「ウィル様、片付けも終わりいつでも出発できます。どうしますか?」


 ジェフの声に顔を上げると片付けも終わっており、おれ待ちの状態だ。立ち上がってタブレットを裏返し、三人に見える様に画面をかざす。


「ここへ向かってみようと思う」


「何か分かったのですか?」


「いんや、ただの勘だ」




 キャンプを出発し、少し歩調を早めて件の場所へと進んで行く。一応道中の小部屋や広間になっている場所も覗いてみたが、やはり魔獣がいるだけで手掛かりはなかった。

 やがておれが違和感を覚えた所へ辿り着く。ぱっと見、ただの行き止まりの通路。横の壁には龍の顔を模した石の彫刻が並んで突き出ているいる。入口の遺跡にあったやつや、所々見られる壁に彫られたものと同じようなオブジェだ。


「行き止まりだね…トラップもないようだけど、ここが怪しいの?」


 通路を往復しながらロックが尋ねる。


「ああ怪しいね、まずは地図を見てみろ。他の行き止まりは左右に小部屋があったりするが、ここは不自然に通路だけが伸びている。おまけにこいつだ」


 壁の彫刻に近付き更に続ける。


「遺跡の像は全身が彫られていたし、ダンジョン内の壁に彫られたやつはこんな風に突き出して通行の邪魔になるものはなかった。そして同じ彫刻が綺麗に四つ並んでいる。そう考えるとメチャクチャ怪しいだろ?」


 なるほどと頷くロックに壁に背を向け説明していると後ろの方で ゴン!ゴン! と叩く音…急いで振り向くと、ダニーが骸骨メイジから奪った杖で龍の頭を叩いていた。


「ちょ!?おまっ!やめれ!壊れたり罠が発動したらどうすんだ!」


 更に急いでダニーを彫刻から引き離す。脇を抱えて後ろへ下がると キュゥ とちょっと空気が漏れたようなかわいらしい声を出した。猫の空気漏れと同時に今度はタブレットを見ていたジェフが反応する。


「ダニー君、もう一度その杖で彫刻を叩いて見て下さい。」


「おいジェフ、大丈夫なのか?罠だったらどうすんだよ?」


 はい大丈夫です、と自信ありげに答えるジェフに任せて経過を見守る。ダニーに指示を出し四つの彫刻を順番や回数、リズムを変えながら叩かせている。

 叩くのに飽きた猫の尻尾がだんだんとたれてきて、地面にくっつきそうなあたりで もう十分です と終了の合図が。


「なんか分かったのか?」


「はい、解析にもう少し時間が掛かるのでその間にざっと説明しておきましょう。最初にダニー君が叩いた時に彫刻からエーテルの波動が発せられ、それが突き当りの壁に当たると微弱ですが量子の揺ら「ああ~…難しい話はなしだ、簡潔に言ってくれ」。」


「要は彫刻は電子ロックのようなもの、突き当りの壁は隠し扉です。魔力を込めて彫刻を触ると壁も同時に反応を起こすので後は簡単です。金庫の鍵開けと同じ理屈ですよ。」


 さすがロボット界のネズミ小僧、鼻掛けにした手拭いは伊達じゃない。そしてダニーの悪戯もたまには役に立つもんだ。


 解析を終えたジェフがダニーから杖を受け取り彫刻を叩きだす。恐らく杖に魔力がこもっているのだろう、叩き終えると奥の壁が スゥ と音も無く消え去り新たな道が現れた。

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