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第14話 チリチリと地獄耳

「よし、さっさと先へ進むぞ。ジェフ、リュックを寄越せ」


 ジェフが下ろしたリュックからガスマスクを三つ取り出し、ダニーとロックに渡す。


「ほれ、おまえらの分だ。こうやって着けるんだ、…ええい!ダニー、邪魔すんな、よく見てろ」


 締め付けのゴム紐にじゃれてくる輩を、足で追い払いつつマスクを装着。


「毒や粉塵を防ぐだけでなく、酸素も供給してくれる優れものだ。洞窟とかは酸素が薄かったり、動物の糞や埃もすごいからな。ましてやダンジョンだ、毒ガスの罠とかきっとあるはずだ」


「なんかへんなかんじにゃよ。においがぜんぜんわからんにょ」


 首輪を嫌がる猫のように体をくねらせた後、地面を嗅ぎながら匍匐で進んで行く猫…を追いかけるジェフ。それを後目にロックも装着。


「あ、ありがとう…空気は大丈夫だと思うけど、毒ガスの罠は聞いた事があるから助かるよ。…でもジェフさんのは?大丈夫ですか?」


「あ…ああ、予定になかった同行者が一匹増えたから三つしかないんだ。あいつは面の皮が厚いから毒も平気だし、空気も読めないから酸素もあまり必要じゃない。だから大丈夫だ、知らんけど」


 マスクやらタマちゃんやら出しておいて今更だが、さすがにジェフがロボットだとバレたら面倒なので、適当な言い訳で取り繕う。小声で言ったので聞こえちゃいないだろう。


「ま、まぁ、マスクも問題ないようだし行くぞ!」




 先に行った二人を追いかけるように奥へと進む。進むごとに通路に設置してあったランタンのような光源が少なくなり、なくなる頃には真っ暗になると思われたがそうはならなかった。壁のコケや不思議植物等が光を発しており、月が明るい夜ぐらいには辺りが見える。


「ファンタジーな植物のおかげで意外と明るいもんだな。奥へ行くと真っ暗かと思ってたよ。ライトはあまり必要なさそうだな」


 辺りを見回し、マスクに付属しているライトをカチカチしながら呟く。


「ヒカリゴケや光花はこういう洞窟なら大抵生えてるからね。でも魔獣と戦うにはいささか暗いから灯りはあった方がいいよ。まあほとんどのハンターは戦闘時に視野を強化してるけどね。ダンジョンに入る条件の一つに身体強化を一日維持出来る事、ってのがあるんだ。僕はまだ半日ぐらいしか出来ないけど…。」


「身体強化で見やすくなんのか?そう感じたことはないけどなぁ……ほら、やっぱあんま変わんねえや」


 魔法や魔力的なもんが関わってんのか氣を込めても変わらない。魔法と同じくおれには出来ないらしい。ま、氣を使えば辺りを把握できるので気にしないでおこう。


 気にしないと言いつつ、マスクの下でひどい形相を隠し、顔に力を入れ目をギョロギョロしながら歩く。諦めの悪いおれを置いてロックは先に行った。しばらく進むと前方がなにやら騒がしい。



 ボン! (ダニー君危ないですよ!こら!待ちなさい!) ガキン!


 ジェフの声と共に金属音や爆発音が小さくが聞こえてきた。目に集中していたら少し離れすぎたようだ。急いで現場へ向かう。


 が、到着したら事は終わっていた。ロックの前にはバラバラの人骨に錆びた剣や鎧。恐らく動く骸骨、スケルトンだろう。少し離れてまた人骨に杖のような棒切れが転がっている。そのそばには亡骸にパンチを繰り返す尻尾がチリチリになった猫と、それを止めようとする顔面が煤だらけのジェフがいた。


「おいおまえら大丈夫か!?」


 問うおれにロックが答える。とりあえず三人共に大事はなく、顛末を聞くに曲がり角で待ち伏せていたスケルトン二体に襲われたそうだ。杖を持った方が不意打ちでダニーに向かい火球の魔法を放ち、それを庇ったジェフの顔面に直撃。余熱で近くにいたニャンコの尻尾はチリチリに。同時に斬りかかってきたもう一体をロックが相手していると、怒ったニャンコが杖持ちに突撃し、警棒で頭蓋を粉砕。そのまま返す刀でロックが相手しているスケルトンの背後から強襲、腰骨をホームランしたら試合終了したそうだ。


「遅れてすまんかった。怪我はないようだが…ジェフ、その顔おまえ大丈夫か?」


 ダニーを脇に抱えたジェフが答えるが、なにやら少し棘のある喋り方だ…


「ええ、大丈夫ですとも。私は面の皮が厚いのであの程度の攻撃など問題ございません。火球で酸素がなくなろうとも必要ありませんからね。ええ、何も問題ありません。」


 うげ、どうやらあれが聞こえていたようだ。そんなに耳がいいなら待ち伏せに気付けよと言いたいがやめておこう。さらに機嫌も悪くなるし、遅れたおれが言える事ではない。

 話題を逸らす為にダニーの方へ視線をやる。


「おいダニー、出発前に言ったよな?勝手に動くな、と。今回は焦げただけで済んだが次は分からんぞ?しばらくジェフのリュックの中へ入ってろ!」


 喋りにくいのでマスクを外す。すると暴走猫が珍しく尻尾と耳を下げて素直にリュックへ入っていく。後で聞くとおれの顔がいつもより恐ろしかったらしい。どうやら力と氣の入れすぎで表情が固まっていたようだ。



「うし、ジェフが顔を拭き終えたらまた進むぞ。今度はおれが先頭で行く。ロックは後ろで警戒とダニーが飛び出さないか見張ってくれ。ジェフ、マッピングはどんなもんだ?」


 ジジイの手拭いで顔を拭きながらタブレットを取り出すジェフ。


「ロック君が集めた情報を元に、遭難地点と思われる場所までは完了していますが…所々センサーが効かない場所があります。特に下層はジャミングされているようで全く探査出来ません。何かしらエネルギー波が漏れているのが分かるくらいです。」


「とりあえず分かってる場所まで行ってみよう。多少なりとも手掛かりは見つかるだろ」


 



 ローマの地下都市のようなダンジョンを、観光したい気持ちを抑えて目的地まで一直線に進んで行く。階段や通路が上下左右にと交差し、正に迷宮だがジェフが作成した地図があるので問題無し。なかったら5分もしないうちに遭難しているだろう。

 

 奥へ進むと比例して魔獣の数と種類も多くなった。先程騒動を起こしたスケルトン、お馴染みの緑色に、かつて追い回された狼や猪だ。初めて見るでかいトカゲやカエル等もいた。だがこちらも大した問題はない。拠点付近の山にいた大猪の方が余程おっかない。

 

 道中は他のハンターとも度々遭遇したが、忍び込んでいるのがバレたら面倒なので迂回する。幸い戦闘中だったり、罠や小部屋の探索をしていたのでおれ等の存在には気付いていないだろう。まあ姿を見られてもマスクしてるし、ジェフは手拭いで顔を隠しているから大丈夫だ。


 そして以前ロックがビビっていたオーガが徘徊する深度に達すると、第一目標地点は目の前だった。

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