第12話 ズボンとチャンス
ジェフが気になる物?アーティファクト…遺物……
幼い頃の記憶や(今も幼いけど)、昨日見た夢の内容を思い出す様に、銀色の人が頭をよぎる…そうだよ!遺物だよ!それを探せといってたな。多分…。もうちょっとなにか思い出せそうだ。目を瞑り意識を集中させるが…
「どうしたの(にゃ)?」
あっ!飛んだ…もう少しだったのに…
『ウィル様?どうされました?』
「ああ、ごめんジェフ、おれも少し思い出したよ。おまえの言うそれが、恐らくおれ達の目的だ。だがダンジョンの中にあるらしい。」
『地下牢?あ、いや、迷宮の事ですね。それでウィル様達は今そこに居ると?』
「いや、入口からは少し離れた場所だ。人が出入りしてて、管理されてるようで簡単には入れないみたいだな…無理矢理行っても後々面倒な事になるだろうし、一旦帰るよ」
おれの、帰る、の一言でロックが出会って以来一番の笑顔を見せる。気持ちは分かるが失礼なやつだ、もう少し隠す努力をしてほしいものだ。
街へ着いた頃にはもう日暮れ。広場へ行くと城壁で太陽が隠れ、辺りはオレンジ色に薄暗くなっていた。
ロックをギルドに向かわせ、店仕舞いをし始めていた食料品売りのおばちゃんに、もう少し待ってくれと交渉。親切な串肉屋の親父の助けもあり、なんとか待ってくれるようだ。日が落ちて魔道具であろう広場の街灯が付き始めると、げっそりしたロックが小走りで戻ってきた。どうやら無事に任務を達成したようだ。
おばちゃんから穀物やら日持ちする野菜を購入し、親父から売れ残りの串肉を3本買い、二人に礼を言って別れる。
「はいこれ、ヒーリングポーション。傷は治るけど痛みまでは引かないから。」
換金と一緒に頼んでおいた傷薬を受け取る。
「センキュー!今日は本当に助かったよ、ありがとう。近いうちにまた来ると思うからよろしくな」
「え?!また来るの!?あ、いや、こちらこそ…でも今日みたいな事はもうやらないからね。切羽詰まってたとはいえ僕もどうかしてたよ…。」
「すまんすまん。でも世間を渡るにゃ、時に汚い事も必要だ。いい経験だと思ってくれ」
「したのはワルイことだけどにゃ」
「やかましい!元はと言えばおまえが原因だ!」
ロックに別れを告げ、ダニーをリュックに仕舞い、食料の入った箱を持ち上げる。すっかり暗くなり、門から出るわけにはいかないので路地裏へと移動。城壁の上を巡回する衛兵の目を盗んで、壁を飛び越え脱出する。…あ!爺さんの事すっかり忘れてた…まあいいか、次来た時で。
予定より大分遅くなってしまったが家へ到着。出迎えるジェフの隣には、寝込んでいたはずのテイラが仁王立ちしている。無理して起きておれに謝り倒すテイラに、リュックで寝ている猫をそのまま引き渡す。
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街から帰還して1週間程経過。
ロックの情報を元に、ダンジョンアタックへの準備を進めている。畑の復旧も順調、タマちゃんの数を増やし情報収集も行っている。ヒーリングポーションのおかげでテイラの体調も回復した。ジェフがどのように処方したのかは語らないでおこう…
回復したテイラはおれに手合わせを提案。魔法が気になっていたのと、この世界に来て初の対人戦だ。試したい技もあるので了承する。
手合わせ前に魔法を見せてくれと頼むが、猫獣人は元々魔法が苦手らしく使えないらしい。その分、魔力による身体強化が得意のようだ。機動力はあのゴミ箱を上回る動きをみせる。さすがに攻撃力の方は妙な兵器を搭載したポンコツの方が上だが。
「はぁ‥はぁ‥見かけも幼く魔力も感じないのに、とんでもないなウィル殿は…。」
「まぁ、インチキみたいなもんだ。あんま気にしないでもらえると助かる」
「ふぅ…わたしもまだまだだな…このままでは村へ戻るも難しいか…ところでウィル殿、魔法ではないようだが…その空中で動き回る妙な技はどうやっているんだ?」
手合わせを終えると、浮遊術に興味を持ったテイラが尋ねてくる。
「似たようなことやってたし、すぐできるだろ。教えてやるよ」
彼女も魔力を使って空中で軌道を変えるような事を行っていたが、浮き続けるようなことは出来ないらしい。
「ステップ1、まずズボンをしっかりずり上げます。いいか?大事なことだ。足がもつれて転びたくないだろう?巷で見かけるベルトの位置が目一杯高いおじさんは、安全を考慮してああなっているのだ。バカにしてると怪我するぞ?…そして…」
「ウィル様!」
パンツのゴムに両手を置いて弟子に奥義を伝授していると、家の方でジェフの大きな呼び声が。一旦切り上げそちらへ向かい、家に入るとダニーもいた。
「あ、ウィルにゃ、ロックをみつけたにゃよ。にゃっはっは!このカオはきっとおやつをなくしたカオにゃ、にゃはにゃふふ!」
ダニーが持っているタブレットを覗くと、焦燥した顔のロックが映っていた。新しく作り、街に潜入させたタマちゃんから送られている映像だ。ジェフがお披露目した直後から、半分おもちゃになっているが…
「どうやら街でお世話になった少年のようですね。焦っているようですし、声を掛けるならウィル様がよろしいかと思い、お呼びしました。」
「広場で会った時よりやばい顔してんな。よし、あそこまで行ったら話し掛けてみよう」
ロックが人気の少ない道に入ったところを狙い、タマちゃんを通して声を掛ける。
「おーい、ロック、おれだよ、おれ、おれおれ」
「ウィル様、それでは誰かわからないのでは?」
『!?ゴーレム?…いや、この球は…ウィル君達が持ってた…その声、もしかしてウィル君?!丁度よかった!助けて欲しいんだ!』
ミニタマを知っていたロックが声に反応する。
「ああ、ウィルだよ、よくわかったな。だが相手が名乗る前にその反応はいただけないな。そのうち悪い輩に引っかかるぞ」
『すでに一度引っかかったけどね…そうじゃなくて!先輩達が大変なんだ!助けて欲しいんだ!』
焦る少年は救助の要請とダンジョンに入るチャンスを齎した。
ロックが所属するパーティが、二日前にダンジョンに入って戻ってこない模様…ロックは勝手に単独で依頼を受けた罰として、トレーニングをしていた為に同行していなかったようだ。
捜索隊も一応出てはいるらしい。だが目ぼしい痕跡も見つからず、よくある事なので捜索が打ち切られそうとのこと。ロック自身も他パーティにダンジョンへの同行を頼んで回っていたが、悉く断られたらしい。
人の不幸はなんとやら…おっと、この場面では不謹慎だ。急いで街へ向かう準備をするように、ジェフへ指示を出す。おれも八ちゃん号を強化しに、小屋へと向かった。




