表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

第12話 ズボンとチャンス

 ジェフが気になる物?アーティファクト…遺物……


 幼い頃の記憶や(今も幼いけど)、昨日見た夢の内容を思い出す様に、銀色の人が頭をよぎる…そうだよ!遺物だよ!それを探せといってたな。多分…。もうちょっとなにか思い出せそうだ。目を瞑り意識を集中させるが…


「どうしたの(にゃ)?」


 あっ!飛んだ…もう少しだったのに…


『ウィル様?どうされました?』


「ああ、ごめんジェフ、おれも少し思い出したよ。おまえの言うそれが、恐らくおれ達の目的だ。だがダンジョンの中にあるらしい。」


『地下牢?あ、いや、迷宮の事ですね。それでウィル様達は今そこに居ると?』


「いや、入口からは少し離れた場所だ。人が出入りしてて、管理されてるようで簡単には入れないみたいだな…無理矢理行っても後々面倒な事になるだろうし、一旦帰るよ」


 おれの、帰る、の一言でロックが出会って以来一番の笑顔を見せる。気持ちは分かるが失礼なやつだ、もう少し隠す努力をしてほしいものだ。




 

 街へ着いた頃にはもう日暮れ。広場へ行くと城壁で太陽が隠れ、辺りはオレンジ色に薄暗くなっていた。


 ロックをギルドに向かわせ、店仕舞いをし始めていた食料品売りのおばちゃんに、もう少し待ってくれと交渉。親切な串肉屋の親父の助けもあり、なんとか待ってくれるようだ。日が落ちて魔道具であろう広場の街灯が付き始めると、げっそりしたロックが小走りで戻ってきた。どうやら無事に任務を達成したようだ。

 おばちゃんから穀物やら日持ちする野菜を購入し、親父から売れ残りの串肉を3本買い、二人に礼を言って別れる。



「はいこれ、ヒーリングポーション。傷は治るけど痛みまでは引かないから。」


 換金と一緒に頼んでおいた傷薬を受け取る。


「センキュー!今日は本当に助かったよ、ありがとう。近いうちにまた来ると思うからよろしくな」


「え?!また来るの!?あ、いや、こちらこそ…でも今日みたいな事はもうやらないからね。切羽詰まってたとはいえ僕もどうかしてたよ…。」


「すまんすまん。でも世間を渡るにゃ、時に汚い事も必要だ。いい経験だと思ってくれ」


「したのはワルイことだけどにゃ」


「やかましい!元はと言えばおまえが原因だ!」



 ロックに別れを告げ、ダニーをリュックに仕舞い、食料の入った箱を持ち上げる。すっかり暗くなり、門から出るわけにはいかないので路地裏へと移動。城壁の上を巡回する衛兵の目を盗んで、壁を飛び越え脱出する。…あ!爺さんの事すっかり忘れてた…まあいいか、次来た時で。


 予定より大分遅くなってしまったが家へ到着。出迎えるジェフの隣には、寝込んでいたはずのテイラが仁王立ちしている。無理して起きておれに謝り倒すテイラに、リュックで寝ている猫をそのまま引き渡す。



_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


 

 

 街から帰還して1週間程経過。


 ロックの情報を元に、ダンジョンアタックへの準備を進めている。畑の復旧も順調、タマちゃんの数を増やし情報収集も行っている。ヒーリングポーションのおかげでテイラの体調も回復した。ジェフがどのように処方したのかは語らないでおこう…


 回復したテイラはおれに手合わせを提案。魔法が気になっていたのと、この世界に来て初の対人戦だ。試したい技もあるので了承する。


 手合わせ前に魔法を見せてくれと頼むが、猫獣人は元々魔法が苦手らしく使えないらしい。その分、魔力による身体強化が得意のようだ。機動力はあのゴミ箱を上回る動きをみせる。さすがに攻撃力の方は妙な兵器を搭載したポンコツの方が上だが。





「はぁ‥はぁ‥見かけも幼く魔力も感じないのに、とんでもないなウィル殿は…。」


「まぁ、インチキみたいなもんだ。あんま気にしないでもらえると助かる」


「ふぅ…わたしもまだまだだな…このままでは村へ戻るも難しいか…ところでウィル殿、魔法ではないようだが…その空中で動き回る妙な技はどうやっているんだ?」


 手合わせを終えると、浮遊術に興味を持ったテイラが尋ねてくる。

 

「似たようなことやってたし、すぐできるだろ。教えてやるよ」


 彼女も魔力を使って空中で軌道を変えるような事を行っていたが、浮き続けるようなことは出来ないらしい。


「ステップ1、まずズボンをしっかりずり上げます。いいか?大事なことだ。足がもつれて転びたくないだろう?巷で見かけるベルトの位置が目一杯高いおじさんは、安全を考慮してああなっているのだ。バカにしてると怪我するぞ?…そして…」


「ウィル様!」 




 パンツのゴムに両手を置いて弟子に奥義を伝授していると、家の方でジェフの大きな呼び声が。一旦切り上げそちらへ向かい、家に入るとダニーもいた。


「あ、ウィルにゃ、ロックをみつけたにゃよ。にゃっはっは!このカオはきっとおやつをなくしたカオにゃ、にゃはにゃふふ!」


 ダニーが持っているタブレットを覗くと、焦燥した顔のロックが映っていた。新しく作り、街に潜入させたタマちゃんから送られている映像だ。ジェフがお披露目した直後から、半分おもちゃになっているが… 


「どうやら街でお世話になった少年のようですね。焦っているようですし、声を掛けるならウィル様がよろしいかと思い、お呼びしました。」


「広場で会った時よりやばい顔してんな。よし、あそこまで行ったら話し掛けてみよう」


 ロックが人気の少ない道に入ったところを狙い、タマちゃんを通して声を掛ける。


「おーい、ロック、おれだよ、おれ、おれおれ」


「ウィル様、それでは誰かわからないのでは?」


『!?ゴーレム?…いや、この球は…ウィル君達が持ってた…その声、もしかしてウィル君?!丁度よかった!助けて欲しいんだ!』


 ミニタマを知っていたロックが声に反応する。


「ああ、ウィルだよ、よくわかったな。だが相手が名乗る前にその反応はいただけないな。そのうち悪い輩に引っかかるぞ」


『すでに一度引っかかったけどね…そうじゃなくて!先輩達が大変なんだ!助けて欲しいんだ!』




 焦る少年は救助の要請とダンジョンに入るチャンスを齎した。


 ロックが所属するパーティが、二日前にダンジョンに入って戻ってこない模様…ロックは勝手に単独で依頼を受けた罰として、トレーニングをしていた為に同行していなかったようだ。


 捜索隊も一応出てはいるらしい。だが目ぼしい痕跡も見つからず、よくある事なので捜索が打ち切られそうとのこと。ロック自身も他パーティにダンジョンへの同行を頼んで回っていたが、悉く断られたらしい。


 

 人の不幸はなんとやら…おっと、この場面では不謹慎だ。急いで街へ向かう準備をするように、ジェフへ指示を出す。おれも八ちゃん号を強化しに、小屋へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ