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第1話 プロローグ
あはれ、寂しくて悲しい獣。
愛を知らねば、人ではない。
緑豊かな魔法が息づく王国。
とある森の奥深く、鬱蒼とした木々に隠される様にして豪奢な、けれどどこか重苦しい空気に侵された屋敷がありました。
屋敷に住まうは人ではないもの、異形のもの。その全身は野生の動物の様な毛に覆われ、眼光は鋭く見る者に恐怖を与え、口は大きく裂け牙が覗く。
夜の闇に紛れる様な漆黒の姿はまるで獅子。けれど人の様に二本の後ろ足で立つ獣。
国中の人々が声高らかに話します。決してあの森には近づくなと。
──その獣は、血に飢えた獣なのだ、と。