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悪恋〜ヴィランに恋する乙女の短篇集〜  作者: KUZUME
腕一杯の花束を、君に
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第4話

 応接室でペッシュ達がわいのわいの、ぎゃいぎゃいやっている内に、あっという間に魔王城はペッシュの故国の国軍に包囲された。

 国軍の中央から、拡声器で爆音の域にまで達した大声が迸る。


 「っあー!!聞こえるか大魔王!!貴様が拐った我が可愛いペッシュちゃんを返してもらいに来た!!大人しく我が娘を返せば良し、さもなくば…」


 一旦音声が途切れたかと思えば、一拍おいて轟音と共に魔王城全体が振動に揺れた。


 ──ドオオオオオオン!!!

 ──うわああああ!!

 ──ぎゃあああ!!こっ、攻撃されたぞー!?

 ──城壁の一部が破壊されている!

 ──人間軍が砲撃を撃ち込んできたぞ!?

 ──うわっ、えっ、ていうかなんで人間軍?拐ったってなんだ?

 ──お前知らないのかよ、大魔王様が例の人間の娘をまじで嫁にするらしいよ

 ──まじかよ、権力を持ったストーカーこわ

 ──えーじゃあ大魔王様の自業自得かあ

 ──ていうか俺らが攻められる理由なくね?


 魔王城内にざわめきが広がる。主に大魔王への非難で。

 状況を見極める為に魔王城最上部に設けられた、防御のしっかりと施された物見櫓(ものみやぐら)で、魔王城を包囲する人間軍の様子を望遠鏡片手に見ていたウルドランはちっ!と舌打ちをする。


 「くそが、大魔王の暴走の所為で歴史ある魔王城の城壁が…ちっ、修繕費は大魔王のポケットマネーからさっ引くか…」

 「うるせ───!!!ぺぺぺペッシュは我が花嫁となるのだ!!!誰が返すか馬──っ鹿!!!」


 と、その横でこちらも拡声器を所持した大魔王が国軍を率いる国王、ペッシュの父親へ負けじと叫び返す。


 「なっっ…なんじゃとおおおおお!?ペッシュちゃんをよ、嫁に…!?ふざけるな誰が許すかクソ野郎!!!大体ぺぺぺペッシュって誰じゃ!!!」

 「ちょちょちょ、陛下!!いきなり砲弾を撃ち込まないで下さい!!」

 「いきなり開戦しちゃうじゃないですか!!」

 「陛下お願いですから後方へ、後方へ下がって下さい危ないですから!お願いですから!!」

 「五月蝿いわい!!可愛い儂のペッシュちゃんが今もきっと恐怖で泣いてパパの助けを待って…あーっ!!離せ!こら!離さんか──っ!!!」


 拡声器を通じて人間軍側の騒動も魔王城へと届く。どうやら人間軍側にも暴走気味の頭がいるらしい。日頃大魔王の異常行動(ストーカー)に付き合わされている魔王城の臣下達は悟った。

 〝あ、恐らくこれは戦争にはならない…〟と。




♦︎




 魔王城内、先ほどペッシュが通された部屋とはまた違う長大な机がある応接室へ、大魔王始め重臣数名と人間軍側の代表が向かい合って着席していた。

 部屋には重苦しい空気が漂うが、机の誕生日席に座らされたペッシュは可哀想な程に首まで赤らめて羞恥に耐えていた。

 というのも人間軍、魔王軍共に武器を置いて此処で向かい合っての話し合いに持ち込むまでに、主に大魔王とペッシュの父との間ですったもんだのペッシュにとってはとても恥ずかしい大騒ぎがあった。

 拡声器越しに飛び交う子供同士の喧嘩のような馬耳雑言の応酬、から始まりペッシュの可愛い所好きな所、いかに自分の方がペッシュを愛しているか云々。

 ペッシュは羞恥に悶え、それぞれの軍の者達は呆れ返り心を一つにした。

 曰く、俺達は一体何を聞かされているんだ、と。

 そしてそんな状況を収束させたのはお察しの通り頼れる大魔王の優秀な部下、もとい裏の大魔王との呼び声高いウルドランだった。




♦︎




 「では…まず事の発端のそちらの国の王城への破壊行為についてですが、魔王軍として人間側に攻撃をした、という意思は全くこれっぽっちもございません。全てプライベート時の大魔王による個人的なちょっとした認識の行き違いによるものだとの事です」

 「認識の行き違いじゃと?姫を拐っておいてなんじゃその言い草は!」

 「だぁら、お前の娘を嫁に寄越せって再三手紙を送ったのにお前が無視するからだろうが!!だから自分で迎えに行ったんだよ!!城壊したのはごめんね!!」

 「まああだふざけた事をぬかしよるかこの大魔王!!じゃからこちらも再三その申し出を断っておるじゃろうがいい加減に諦めんかい!!ごめんねじゃねーわ!!」

 「…」


 ギャーギャーと喚き続ける大魔王とペッシュの父に、ウルドランも人間側の代表もため息を吐く。


 「…お父様、わざわざ自ら救出に来て頂いた事は感謝しますが、一国の王として恥ずかしいので子供の喧嘩のような物言いはその辺りになさって下さい」


 大魔王の公開プロポーズのような叫びと実の父親の親バカっぷりを公衆の面前で大音量で叫ばれ続けたペッシュはまだ頬の赤みを残したままで父を諌める。


 「うっ、他でもないお前が言うならば…。しかし儂らもここまで来て何もせずに帰る訳にはいかぬ」

 「はぁ…分かっております。こちらに非があるのは確かですから。大魔王が破壊した城の修繕費はこちらが補償致します」

 「うむ、あと──」


 キリリと表情を引き締めたペッシュの父が、国王としてウルドランと交渉に入る。

 真剣なやり取りをする部下を見てから、大魔王はばつが悪そうに唇を尖らせて斜め向かいに座るペッシュにこそっと小さい声で話し掛ける。


 「…ぺ、ぺ、ぺ…ペッシュよ」


 国王はウルドラン達との交渉で大魔王への注意が逸れているらしい。大魔王が娘に声を掛けている事に気づいた様子はない。


 「はい?」


 ペッシュが不思議そうに大魔王に返事を返す。


 「……その、いきなり拐ってしまい、すまなかった」

 「え…」


 昨夜拐われてきてから初めて見る大魔王の肩を落とした姿に、玉座の間で見せたあの高圧的ではない態度に、ペッシュはきょとんと目を瞬かせる。


 「…気持ちが急いてしまい、お前への配慮が足りなかった事は認める」

 「大魔王さん…」

 「しかし、お前の故国がなくなってしまえばいいと思ったのは事実だ。本当はこのままお前を返したくない」


 大魔王は真剣な眼差しでペッシュを見つめる。

 大魔王のそんな瞳の輝きに、うっかりペッシュがどくんと鼓動を一つ跳ねさせてしまった時、バチン!と勢いよく手を叩く音が部屋の中に響き渡った。

 驚いたペッシュが視線を大魔王から前へ移すと、なんとも言えない顔をしている父とほくほく笑顔のウルドランが何か書類にサインをしながら拍手をしていた。


 「いやあ!国王様がお話の大変分かる方で良かったです!!」

 「くそぅ…食えない男じゃのう、お前は…。まぁ、こちらとしても国内にない資源を融通してくれるのは助かる」

 「ええ、ええ!実はここ数年、大魔王領内でも人間側との交流を望む声が上がってきておりまして、どうにか足掛かりが出来ないか頭を悩ませていた所だったんですよ」

 「ふむぅ…確かに豊富な資源に、こちらにはない文化、技術を放置しない手はないからの。実際、大昔とは違って今はそなたらと敵対関係を続けているわけではないのじゃし」

 「はい、これからの時代は異文化交流、ですよ。国王様」

 「ほっほっ!まあ異文化交流とは言っても我が娘をそこの馬鹿者に嫁がせはせんがな!」


 和やかに談笑している人間と魔族に、どうやら双方に良い形で交渉が進んだのだとペッシュは胸を撫で下ろす。

 ペッシュ自身には非がないとはいえ、何やら自分がこの騒動の原因の一旦を担っているらしい以上、戦争に発展しないかペッシュは気が気ではなかった。


 「なんだ?人間の国と国交でも結ぶ気か?ウルドラン」

 「あんた私がここ最近渡していた仕事の書類に目を通してませんね…?散々人間の国との交流についての意見を纏めていたでしょうが…」


 ウルドランの怒りの着火を感じ取った大魔王はわざとらしく視線を逸らして国王へと声を掛ける。


 「それで国王!!今回は悪かったな!まあこれからは宜しく!!!」

 「ふんっ!なーにが宜しくじゃ!そっちのお前さんの部下に感謝するんじゃな!!本当だったら儂のペッシュちゃんを誑かすようなクソ野郎の国なんぞとは宜しくしたくはないが…ううん!こんなに良い条件をこれほど並べられたら頷かないわけにはいくまいて!」


 ペッシュはぐっと首を伸ばして書類をちらりと見てみる。

 確かに人間側に大分良い条件での契約らしい。しかしそれとは別に城の修繕費についての欄に、大魔王の私財から上限なく使用可能との一文があるのだが…いいのだろうかとペッシュはちらりとウルドランに視線を遣る。すると彼からとても良い笑顔が返されたのでペッシュもこくりと一つ頷いておいた。

 たった一日だが、ウルドランという人物には反抗しない方がいいとペッシュは感じ取っていた。


 「さて」


 国王が席を立つ。

 それに倣い、人間側の代表達も同じように立ち上がるとその内の1人がペッシュの元まで歩み寄る。


 「王女様、大変不自由をお掛け致しました。帰還致しましょう」

 「ええ、ありがとう」


 差し出された手を取ってペッシュは立ち上がる。が、ペッシュが立ち上がりきらない内にくいっと軽くドレスの裾が引かれる。

 何事かとペッシュが視線を落とせば、ドレスの裾をちょいと申し訳程度につまんだ大魔王が視線は向けないままにぼそぼそと言葉を紡ぐ。


 「…ぺ、ぺッッシュよ、俺がお前宛に手紙を出したら…今後は返事をくれるだろうか…」

 「…」


 ペッシュはしおらしい大魔王をまじまじと見つめる。

 大魔王、不可侵の近くて遠い隣人。たった一日前までは、名前しか知らなかったひと。

 そういえば最初に玉座の間に連れて来られた時も、こんな風に頬を染めていたな、と思い出す。


 「…部屋を破壊して手紙を届けたりしなければ、もちろん」


 誘拐された衝撃が大き過ぎたけれど、案外可愛いひとなのかも知れないと笑みをこぼした。




♦︎




 はてさてその後、今まで不可侵だった人間の諸国と大魔王が治める暗黒大陸は、人間側のある一国と大魔王との国交樹立を皮切りに交流が出来る事になったそうな。

 後に暗黒大陸史には、時の大魔王が人間の花嫁を迎えたとの一文が記される事となる。

 その花嫁の名は──


【腕一杯の花束を、君に】完

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