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❶ 私の姉はサイボーグ   作者: 内藤晴夢
戦いの節度
4/4

レジスタンス チワイ

下半身の修復をあの若い科学者にやらせたあと、私たち姉妹はまた故郷の父母に会いに行った。


「今回も犠牲が出たわ。」麗華が声を落とす。


「それは私たちの責任でもある。研究が足りなくてすまない。」父が頭を垂れた。


「水中での動きがあんなに悪いとは思わなかった。」私はサメロボごときに負けたことが悔しかった。


「サメロボットは水中戦闘に特化しているが、お前は人間だからな。」


「そうね。これ以上足が太くなるのも嫌だし。水かきつけるのもねえ。」そうは言いながら私はさらにバージョンアップした自分の脚を見せながらいう。


 今回セットした新しい脚の踵には実はスクリューが内蔵されている。


「やんわりとあの若い科学者に頼んだつもりなだけど、私をパワハラで訴えてきたのよね。」


「何したのよ。」と妹がにやにやしながら聞いてきた、


「あんたのせいでこうなったんだから何とかしなさいよっていいながらスリッパで頭を叩いたら、ちょっと力が入りすぎてむち打ちになっちゃったのよ。今の若い子ってやわなんだから。」と答えた。


 麗華は噴き出した。


「いや姉さん。腕も強化されてんだから気をつけなよ。」


「んー、そうね。」


「そういえばあなたの腕も少し太くなったね。」と麗華に訊ねると


「最近 女子も鍛えるのはやってるから。」と元気そうに返答したので安心した。


「なるほど。」麗華は憂鬱に引き込まれることなくなんとか持ち直したようだ。


 後日、私の得た情報から5つのサイボーグ基地が攻撃された。しかし残りにどのくらい残っているかはまだわからない。実はこれらの攻撃は一般の報道にはまだ公表されていない。


 つまりすでに戦争は始まっているのだが双方に都合の悪い部分があるので、戦闘状態であることを国民は知らされていないのである。


 国は福祉のための税金を増やすと言っているが、実際には福祉に当てられていた費用が巧妙に国防費に回されていた。


 本部に帰るとリー・ピョン・ジンが来ていた。


 「あなたが雪さんですか。」


 「お母さんを救えなくてごめんなさい。」私は気になっていたことをすぐに謝罪した。


 「私は日本軍に全面的に協力します。そして母を必ず救い出します。」


 リー・ピョン・ジンは日本に協力する見返りとして母親の救出を依頼していた。


 「私もお手伝いするわ。」側にいた麗華も協力を申し出た。私たちは固い握手をかわした。


 リー・ピョン・ジンと入れ替わり、その母親と接触している時に、母親の身体に特殊な染料によるマーキングをしておいた。そのマークは特殊な染料を使っており、衛星カメラで追うことができる。それで母親の所在が分かる。


 この国では研究者の家族が裏切った時、強制収容所送りになり、通常は処刑される。


 時間はあまりない。


 私は下半身の修復をしている間、電子脳で母親の行き先を探り、修復後すぐに潜入作戦を展開した。


 大使館は拉致に協力したとして、破壊されたが、大使館員はすでに国外に逃亡していた。大使館はもう使えない。


 強制収容所の警備員に内通者がいた。


 下半身の修復が終わると、私は再び現地に向かったが、今度は入国が難しい。


 反対側の闇ルートから変装して入国し、僻地の強制収容所まで飛行装置と加速装置のついた脚で近づいた。低空で飛ぶことで敵のレーダー網を回避した。


 情報によれば、リー・ピョン・ジンの母親は公開処刑されることになっており、その映像は全世界に向けて公表される。


 急がなければならない。なんとか収容されいてる施設の地域にたどり着いたが、警備が厳重で入り込むことができない。


 見かけは化けることができるが、記憶の転写ができないので話せばばれる。


 強制収容所は、日本の府中刑務所のように高い壁で囲まれていて、飛び越えて入れば警報が鳴る。入ることは簡単だが、その状態から救い出すことはできない。


 母親は独房に入れられている。しかも刑務所の奥深くで、外壁を破ることもできない。上空にはカモメ型ロボットが監視している。


 まず20機ほどあるカモメをなんとかしなければならない。警備しているのは軍だからバズーカも持っている。これらに対抗する策を練る。


 収容所の構造について、本部からデータをもらう。なんとリー・ピョン・ジンを警備し、亡命させていたあの女性警備員がこの収容所の情報を知っていた。


 本部の情報局はこの国のコンピューターをハッキングして、建物の構造を探り出した。


 地下三階、地上三階。母親が監禁されいるとしたらおそらくは地下だが処刑前には地上中庭に引っ張り出される。


 だがその時は全世界がみているという事で、警備はいつもより厳重だろう。敵の準備が整う前に救わねばならない。


 どこに監禁されているか、本部では地下三階の独房と記載されたデータがあったという。


 第二課別室の課長に連絡した。


「なんとか、攪乱できないかしら。強行突破は少しきついわ。」


「公開処刑の話を全世界にリークし、人道的措置としてそれを防ぐためということであれば無人機がとばせる。」


「しかし、科学者を拉致したことがばれて国際問題になってしまうのではないか。」


「リー・ピョン・ジンは母親を助けるためなら、協力してくれる。公開映像で、拉致ではなく、亡命であり助けを求めれば世論の指示を得ることができる。」


「すぐにやって頂戴。」


 仕事は早かった。1時間後にはネット配信。全世界でこの国の残虐さが知れ渡り、リー・ピョン・ジンが涙ながらに訴える姿に、敵国も動揺した。


 本部はアメリカと交渉し、人道的措置として無人の戦闘機を現地に飛ばし、この収容所の正門を破壊した。敵国の防備は正門に集中し、カモメはパックマン3によって撃ち落とされた。


 私は裏手から侵入し、地下三階の独房をさがした。部屋は多いが、看守室の端末で名前が確認でき、母親が監禁されている独房を発見した。


「リー・ピョン・ジンさんのお母さんですね。」


「はい、そうです。」


「いっしょに逃げましょう。」


 私は彼女に光学迷彩フードつきの防弾コートを着せ、本部の指示にしたがって敵の少ない脱出ルートを探索した。敵のカモメが群れを成して襲ってきたが、腹部に装填したパックマン3を投げつけて第一波を切り抜け、第二波を前腕のレーザービームでなぎ倒した。地下三階から地上まで彼女を背に担いで駆け上がったが、光学迷彩のおかげでなんとか切り抜け、少し離れた小籔にたどり着いた。


「これからが大変です。貴方を国外に連れ出さなくてはなりませんが、この板の上に寝てください。」


 私は背負っていた折り畳み式の担架に彼女をねかせた。


 「担架は私の電脳で制御されます。」というや否や少し浮き上がった。


 例のスリッパで頭をたたかれた若い科学者は、敵のジェットボードからヒントを得て、空飛ぶ担架を開発していたのである。意外に優秀だ。褒めてやらないとな。


「私はこの飛行装置で飛びますが、あなたの担架を国境まで誘導します。国境近くなれば味方の軍が待機しています。」


 二人は国境めざして移動し始めた。


 光学迷彩服を使用しているので気づかれにくい。


 途中何度かカモメドローンが上空を通り過ぎたが、光学迷彩を深くかぶって身を潜めただけで気づかれなかった。おそらくカモメは攻撃に特化して、銃弾や小型のミサイル兵器を内蔵するため、余計と思われる高度なセンサー類はとってしまったのだろう。


 国境には何重にも鉄条網が張り巡らされているが、山奥であり、さすがにカモメドローンもいなかった。


「もうすぐです。」


 私は彼女の担架を鉄条網のむこうがわに送り込み、あとは自分が乗り越えれば任務完了というところだった。


 だが、次の瞬間、背後に衝撃が走った。


 迂闊にも空中を浮遊するたった一騎のサイボーグに撃たれたのだ。


 飛行装置が破壊され、私は地上にころがり落ちた。敵は空中をとびまわりながら腕を変形させた銃で打ち込んでくる。私は前腕からせり出したビーム銃で応戦するが、動きが早く、当たらない。


 こちらの他の銃器の弾はすでに使い果たしている。前腕ビームしか武器がない。


 右に左に敵は回り込み、私は高速で相手の攻撃をよけた。


 「は、速い!このサーボーグはほかのと違う。」


 よく見るとボードではなく、脚からジェットが噴射しているようにみえる。敵国はついにボードなしで空を飛ぶサイボーグを開発したのだ。


 私は岩陰に隠れたがじりじりと追い詰められた。


 一発の弾丸が腰に当たり。下半身の動きが鈍った。高速移動は封じられた。


「クソっ」


 敵はにやりと笑った。どうやら私を生きたまま捕えようとしているらしい。


 敵の右手が銃の形に変化し、銃の先端がこちらに向けられたところで、私の意識は途絶えた。


 気が付いた時、私はキリストのように貼りつけにされていた。キリストと違うのは、私の下半身が、なかったことだ。


 敵の研究室らしきところで、やけに汚らしい。まるでバイクマニアの修理小屋だ。


 さっきのサイボーグが、盗撮魔のように下から覗きこんでいる。


「この変態ヤロー」思わず私らしからぬ下品な言葉が口をついてでた。


「ああ、すまん。修理しようと思ってな、動かないでくれ。」


 私の身体には国家機密がつまっている。敵に渡るくらいなら、自爆しなければならない。


「最初に言っておくが、私は敵ではない。軍に所属していない。」


 男は私の下からドライバーらしき道具を突っ込みながら話をしている。


「じゃなぜ攻撃した。」


「君が速かったから止める方法がなかった。」


「なぜ戦った。」


「説明する時間すらなかった。」


「早くもとに戻せ。」


「わかっている。君の国の技術は、やわだが繊細すぎて応急処置しかできない。」


「女の体は繊細なんだ、とにかく、下半身をなんとかしろ。」


「いまやっている」


 無骨な手で下腹部を探られるのは気持ちが悪い。だが事情がはっきりするまで自爆は、思いとどまった。

「お前は脱走サイボーグか?」


「まあ、そういったところだ。」


「ほかのサイボーグとは性能が違うようだが。」


「ああ、試作段階で逃げ出した。」


「よく逃げられたな。」


「能力を高め過ぎようとしたのが、裏目にでたんだな。」


「脳内に命令を受信して実行させる素子を埋め込まれなかったか?」


「当局はいつぞやの君たちの攻撃で、脳内素子が弱点になると知り、脳内素子なしで軍を組織する方法を模索していた。その過程で、・・・まあ失敗作である私が生まれたというわけだ。」


「軍と敵対するということは、亡命を希望しているのか?」


「いや・・・・」


「では、我が国の敵という事か?」


「自分の国を立て直そうという人間は、お前の国では敵なのか?」


「いや・・・」


「一般的な用語でいえばレジスタンスという事になる。」


「しかし、一人で?よくみつからないな。」


「俺の頭の中には国の探査技術がすべて入っている。その上を行くことはそう難しくはない。」


「・・・簡単に信じるわけにはいかない。私を狙ったのだからな。」


「それはすまないと思っている。しかし、実力が近接していると、相手にダメージを与えないで捕獲するのが難しいという事はわかるだろう。」


「それは理解できるが、脳内通信はできないのか?」


「そちらの電話番号がわからなかった。あんたの脳のガードが固くてね。」


「まあそうだな、簡単に教えるわけにはいかない。」脳内通信を許せばハッキングされるリスクがある。


 話を聞き、表情を分析する限りでは、嘘ではなさそうだった。彼は研究の出来損ないとして生み出され、自立して国を再建しようとしているのだ。


「何を話したかったのだ?」


「肉体との接合部が痛む。君の国ではその問題をどう解決したのだ。」


「国というより父が研究者で、ある技術を開発してくれた。」


「それは?」


「簡単には教えられない。お前を信じられない限りは。それだけか。」


「この国を変えるために手伝ってもらえまいか?」


「私の一存ではどこまで協力できるかわからない。私は軍の人間だ。組織の一員として動くことが義務づけられている。」


 偉そうなことを話してはいるが、私の下半身はないままで、腰から下をまさぐられているのだ。上から目線で話している場合ではないのだが、せめてそのくらいしないと、自分の立ち位置が保てない気がしたのだ。相手が比較的紳士的にふるまってくれているのが救いであり、それは認めてやらなければならない。


 無骨な男が下から言う。


「お前の国を全面的に信用することはできない。お前の国はアメリカの奴隷ではないか。」


 こいつは国家に不信感を持っている。物事を個人のレベルで考えるか、国家のレベルで考えるかはそれぞれだが。両者は根本的によって立つところが違う。普通話し合っても理解し合えない。


 だが、実はなにを隠そう私も脳内素子が破壊されてから、こいつと同じく物事を必ずも国家レベルで考えてばかりはいなかった。


「国は奴隷でも、私は奴隷ではない。」


「ほう?」


 奴の手が止まった。


「君は軍の士官でありながら、個人として動けるのか。」


「場合によってはな。」


「では、私に手を貸すこともできると?」


「内容による。」


「内容とは?」


「戦争を望んでいない。平和的な解決を望んでいる。」


「平和的に奴隷になれと?降伏せよと?」


「そんなことはいってない。だがアメリカと事を構えて本当に勝てると思っているわけではないだろう。」


「もちろん、わざわざアメリカに戦争を仕掛けるつもりはない。しかし向こうがスパイを送り込んで国家の転覆を図ろうとするのであれば話は別だ。」


「それも時と場合によるだろう。国家は誰のものだ、国民は誰かの所有物なのか?違うだろう。お前の国も独裁的将軍がいながら民主主義が標榜されている。国民は将軍の奴隷ではない。つまり国民は将軍のものではない。国家として度が過ぎれば、アメリカでなくても私は口を出す。」


その時急に私の下腹部でキューンという音が鳴り始めた。


「よし、これでいけるだろう。」


 腕が括りつけられた私の十字架はゆっくりと横たわり、傍らにあった下半身が接合された。


「本当はそんな拘束、すぐはずせるんだろう。」


 彼が言うや否や、私は腕の拘束具を引きちぎって立ち上がった。


「まさか衣類をはがしてないだろうね。」


「実は・・」


「はがしたのか?」


「興味はあったが後が怖いのでやめておいた。」


「さっきの話の続きをしましょう。」


「その前にひとこと。一応応急処置なので、破損箇所はありあわせの部品でつないである。無理はするなよ。引きちぎれる。」


「それはなに、自分には勝てないぞっていう脅し?」


「おいおい。もう立ち回りはごめんだぜ。」


 そういいながら男はアルコールをあおった。


「痛いの?」


「うむ。アルコール飲まないとやってられない。」


「もし貴方の言う事が本当で協力関係を築けるならば、絶対に相手に秘密を洩らさないという条件で接合部分の秘密を教えるわ。」


「それを教えてくれるなら、全面協力する。ただし、立て直した国がお前んところのようにアメリカの奴隷になったのでは意味がない。」


「奴隷は言いすぎよ。」


「じゃあ犬。」


 私は苦笑した。一理あるからだ。


「で?作戦はあるの?立て直す。」


「君はリーピョンジン脱出の時、変身しただろう。」


「あら、知ってたの。」


「ああ、ハッキングして待っていたんだからな。」


「じゃあサイボーグの開発拠点すべてわかる?」


「さすがにそれは将軍と一部の幹部しかしらない。」


「だから君が将軍にハニートラップを仕掛ければ、情報だけでなく国を動かせる。」


「まあ、それが有効だってのはわかるけど、私にはこれでも夫がいるのよ。」


「なに?どうりで精密な下半身だと。」


「ゲスヤロウ!」


「ん?なに?翻訳不能とでたが。」いまさらながら、お互い違う言語を翻訳機を介して話していることを思い出した。


「まあいい。とにかく、変身で近づくのはいいが、ハニートラップには限界がある。」


「気にいった。一戦を超えないで将軍に近づく。」


「そこからが問題だろ。情報がどこにあるかだ。」


「将軍の頭のなかだな。」


「将軍を転写装置にかけるということか。」


「なんだそれは?」


「相手の記憶をデジタル化してこっちの脳内に転送する。」


「お前の国の技術は驚きだな、でその転写装置の大きさは?」


「特殊なへッドギアとソフト。PCだが、処理速度と早く容量が大きくないとだめだから。」


「研究室レベルのやつか。」


「そうね。」


 ぞの男はしばらくの考えこんだ。


「この国ではそんなコンピュータは軍事施設でないとないな。」


「もぐりこんで使うのは現実問題として無理ね。」


「将軍と接触すること自体が難しい。ガードが硬すぎる。日本のバックアップがほしいな。いいか?」


「ああ。」


「ただし約束だ。我が国を日本の属国にはするな。」


「政府が介入すれば、私の力だけではどうにもならない。かつて第二次世界大戦の時も石原莞爾という陸軍の策士が大陸の民族を救おうとしたが、軍に横取りされた。」


「結果がどうなるかではない。お前がどう考えるかだ。お前がこの国の再構築を考えるなら、それにかけてみたいと思っている。結果がどうなろうとそれはいいのだ。」


「・・・なに。お前私に惚れたのか?」


 笑いながら、酒をあおる。


「ん。やっぱり、布切れはがしておくべきだったな。」


「馬鹿野郎。」


 私は奴の尻めがけて回し下蹴りを放ったが、軽々とよけられた。


 私は直ちに本部と連絡を再開した。


「なに?その怪しげな男と宮殿に忍び込むだと?無茶だ。」

 篠崎課長は反対したが、私が頑固であることをよく知っている。


「君の場合はあの素子が頭の中に入っていてちょうどいいんだがな。」


「二度とごめんよ。」


 麗華が心配して通信に出る。


「姉ちゃん、また変な男ひっかけて。ダディが泣いてるわよ。」


「一線は越えてないと伝えておいて。」


「自分で言いなさい。」そう言って麗華は夫と通信を替わる。


「ユキあまり無茶をするな。サーボーグ機能を過信するんじゃないぞ。」


「ごめんねダディ。来週には帰れると思うわ。」


 家族との一通りの会話を終えて、今回の相棒の顔をしげしげと見た。


「ところであんた名前なんての?」


 彼はチワイと名乗った。何でもこの国を建国した人物を助けた民族の末裔らしい。


 将軍を狙うタイミングは晩餐会。ホステスとして忍び込み、将軍に接近する。宮殿のホステスの出入りは厳重にチェックされていたが、金を渡してすり替わった。仕事と仲間の性格やり取りなどをできるだけ細かく聞いいておいた。記憶の転移装置があれば楽なのだが今回はないからだ。


「あとで返せよな。」チワイと名乗った相棒が金を渡したあと、私につぶやいた。


「日本政府がついてるわよ。福祉の名目で吸い上げた血税だけどね。」


 晩さん会が始まり、将軍にわたるワインには媚薬を混ぜる。実は私の薬指には潜入用に媚薬が装填されている。ワインを飲んだ将軍の目つきは見る間にうつろに変貌してゆく。


 将軍は我慢できなくなって退席し、部下に命令をする。


 相手をする女性を連れて来いというのだ。


 晩餐会の途中で退席してまで、別室で行為に及ぼうとする。


 ゲスの極み


「なに?」チワイの義眼のモニターには翻訳不能と出る、


 チワイが聞き返す。やつの翻訳機には過去の日本のスラングの一部が欠けているようだ。


「いやなんでもない。それよりこっちの電話番号をおしえたからといって、ハッキングしようとしたら、貴様の脳を焼き切るからな。」


「おい、女が化粧室にはいるぞ。」


 指名された女がはいる化粧室は給仕のとは別のところにあり、女性の軍人が護衛についている。すり替わろうとしたが、隙がない。護衛を倒せば護衛官理者同士相互に連絡をとっているので気づかれてしまう。


 私は光学迷彩を使って将軍の後をつけ、部屋に入り込んだ。すぐに女がやってきて部下が退出するや否や、将軍は女をベッドに押し倒し、衣類を着たままズボンを下げて、のしかかった。


 騒動を起こしたくない私は、部屋のすみで事が終わるのをまたねばならなかった。


 将軍は狂ったように何度も行為を重ねたが、やがて疲れたようにベッドに横たわった。


 20分ほどして媚薬の効果がきれると、将軍は接待中であることを思い出し、女に退出を命じ、服を整え始めた。


 私の右手の第三指には自白剤が装填されている。女が部屋を出た次の瞬間、将軍をうつ伏せにおさえこんでまたがり、自白剤を首に打ち込んだ。


「サイボーグ開発の拠点は何カ所ある?」


「35箇所」


「全部いえ」


 将軍は酩酊状態で拠点をあかす。私は電子脳にその情報を刻みこむと同時に本部にその情報を送る。


 最後に戦いの切り札を聞く。


「奥の手は?」


「サイボーグに内蔵した核兵器で都市を壊滅させる。」


「なに?」


「小型の核兵器を開発しているのか?」


「試作機に搭載したが、逃げられた。」


「そいつの名前は?」


「チワイ3057Bと呼ばれている。」


「!」


 相棒と思っていた通信の相手、チワイが、つぶやく。


「私だ。」


「何故話さなかった?」


「いうタイミングがなかった。亡命しなかったのはそのためだ。俺が亡命すれば、いつか迷惑がかかる。」


「わかった。信じよう。」


「え?これはまた簡単に・・許してくれるんだな・スパイだったらとうするんだ。」


「お前の音声を分析して嘘でないことがわかる。しかも作戦中だ。疑えば私が命を落とす。他に聞き出すことはないか?」


「核以外になにかあるか聞いてみてくれ。」


「ほかになにかあるか?」


 将軍は流延を流しながらうつろな目でいう。


「サリン部隊、VXガス部隊、細菌部隊が準備されている。すでに日本・アメリカには潜入部隊が潜んでいる。」


 私は驚かなかった。平和の国日本は潜入天国でもある。この国のように潜入に対して厳重にガードがなされていない。


やりたい放題なのだ。これはやっかいだ。


 その時、ドアがノックされた、部下が呼びに来たのだろう。


「誰か来たようだ、そろそろ撤退する。」私は再び光学迷彩で身を包み、部下がドアを開けて入るタイミングで出ていく。


入るときは厳重だが出るときはガードが甘い。


 ただ相手がサーボーグなら見つからないようにしなければならない。彼らの中には義眼の特殊な機能で光学迷彩を見破るものがいる。


 相手がサイボーグかどうかは私の方からは義眼と電子脳で見分けがつく。出入り口に構えているのがサイボーグである。しかも義眼を持っている。そうなると騒動を起こさず切り抜けるのはかなり難しい。


「私が騒動を起こす。」


 チワイが門の外側に遠隔の鳥型ドローンを飛ばした。敵もカモメ型ドローンを用意していたが、チワイのドーンは燕型でスピードが上回る。


 こいつ、技術も優秀だな。燕ロボットはカモメロボット3体の間をぬって、出入り口近くに小型の爆弾を落とした。


 これで義眼のサイボーグは持ち場を離れた。


 私はこの隙に宮殿の外へ出て、義眼のサイボーグに見つからないよう門に向かった。


 だが門までの距離は100メート以上ある。私の足では1秒かかる。


 義眼のサイボーグは私が走る音で気づいたらしく、顔をこちらに向けた。


 高速で駆け抜けると義眼のサイボーグも高速で追いつこうとする。


 宮殿で警護しているだけあって優秀なサイボーグだ。スピードは互角。


 門をでる一歩手前で、腕をつかまれた。  


 だが腕をつかんだのが運の尽きだ。私の腕は兵器満載。瞬時に腕からレーザーが飛び出して、目の前のサイボーグを破壊した。


 捕まえようとせず遠くからでも銃で狙えばよかったものを。


 もっとも銃で狙ったところで私はよけるだろう。まあ、それが分かっていて私を捕まえようとしたんだったら、その点はほめてやりたい。


 門を出れば後はカモメ型ドローンしか敵はいない。宮殿内のサイボーグがボードで押し寄せてくる前に、チワイが待機している車に乗り込む。チワイの車はこれまたただの車ではない。一種の装甲車で近寄るカモメをことごとく撃ち落とす。


「敵のサイボーグ部隊が追ってくるのでは?」


「彼らの脳にはまだ例の素子が入っている。私はあの素子に命令が伝わるのを阻止する技術を開発した。一種の妨害電波を発するのだが、君たちが尖閣で使った兵器を改良したものだ。あれはエネルギーを食うが、私が開発したものは車のバッテリーで稼働する。相手の素子を破壊する威力はないが、一時的に機能を混乱させる力がある。それを宮殿のまわり12か所に設置しておいた。」


「お前ほんとに優秀だな。」


「お、信じてもらえるかな?」


「技術と誠実さは一致しない。」


「それは日本のことわざか?」


「私がつくった。」


「あいわかった。」


 車は時速200キロで街を走り抜けた。


 

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