尖閣での戦い
平穏な日々が続いていた。
壊れた姉の身体は完全に修理され、沖縄のビーチで見事な肉体美を披露していた。
5歳年上とは言え、大人の女を感じさせる姉の容姿に・・・・正直、私は負けている。
姉と並んで歩くと、日頃スタイルがいいといわれている私が、幼児体型と揶揄される始末である。
群がりくる軟派師どもをさばいていると、姉のままぶたが僅かに痙攣した。脳内通信に内閣特務室から連絡が入ったのだ。
昨年いったんは攻撃をやめたかに見えた敵国の戦艦が、我が国の海域を超えて侵入してきたというのである。
しかも現場はここから近い。
すでに戦闘が始まっているが、敵の戦艦の周りにはサメ型のロボット魚雷がいて味方の艦を沈め、カモメ型の無人機が、味方のヘリや航空機に激突してくるため、苦戦しているのだという。
姉の身体は防水仕様になっているとはいえ、何ができるというのだろう。破損がひどければ身体に塩水が入り込み、ショートする。
「軍は依頼を求める相手を間違えているんじゃない?」濡れた髪をふききながら、私はつぶやいた。
「敵がサメとカモメだけなら私の出番はないだろうけど、どうもまだおまけがあって、この先の島を占領しようとしているみたい。」
「え?上陸して占領?」
「ええ。上陸するのは敵のサイボーグ部隊らしいのよ。」
「部隊というと、一人じゃないってことね。」
「敵は傷ついた兵士をどんどんサイボーグ化していたみたい。」
「こっちは人権の問題でサイボーグ計画は中止されたっていうのにね。」
「作戦がないと勝つのは無理だわ。」
「私たちもう退役したんだし。軍にまかせれば?」
「そんな私に電話してくるなんてよっぽどだってことだわ。」
姉は自衛軍の洗脳に染まっていると思った。私ならわざわざ出ていかない。
「義兄さんだって反対するわ。きっと。」
「いえダディはもう向かってるって。」
この馬鹿夫婦。
「しょうがないなあ。」
「なによ。」
「私が行かなきゃまたボロボロ半泣きでしょ。」
「民間人の出る幕じゃないわ。ひっこんでて。」
「はいはい。」
姉の暴言にもなれた。喧嘩することもなく、姉の言葉を軽くいなした。
私は上官を殴って勝手に姉を助けに行った件で軍法会議にかけられ、刑務所に入れられるところだった。
姉が、私を刑務所に入れるなら金輪際軍に協力しないといってくれたので、司法取引という形で姉が軍に復帰。私はお払い箱になったというわけ。
姉はすぐに前線に飛ぶというので、私は姉と別れ、母の実家に向かうことにした。母ならなにか策を用意しているだろう。
姉は木陰でサーフィンボードをバズーカにトランスフォームさせ、前回の修復で兵器化した身体をチェックした。
次の戦闘準備
声をかけようとしていたチャラい兄さんが、腰をぬかして失禁していた。海パンを履いててよかったね。
日本の自衛軍はすでに島に基地を作って敵の攻撃に備えていた。前回の姉の戦闘のことは軍部内では知れ渡っていて、姉は兵士たちはにリスペクトされ歓迎された。
「敵の上陸時間は何時頃になりそう?」
屈強でどこか俳優に似たイケメン司令官が問いに答えた。
「上陸はさせませんといいたいところですが、早くて明日の夜半には上陸するかもしれません。」
「敵の武器はサメやカモメのおもちゃの他には?」
「サメは陸上では問題外としてカモメは陸上でも厄介です。数が多ければ防ぎきれないかもしれない。それで我々は基地をこんな洞窟に設置しているのです。他にどんなおもちゃが出てくるかは予想できません。敵のサイボーグの性能については身体に兵器を内蔵しているそうです。」
「兵器の性能がわかるといいんだけど。」
「まだあまり表にでてきていないのでサーボーグ部隊の威力は把握できていません。あの、失礼ですがご主人もサイボーグだとか。」
「ええ、しかも敵に改造されたね。間もなくここに到着するわ。でも1年もたっているから技術が格段に進歩しているでしょう。夫の情報が役に立つかどうか・・」
「ないよりはましでしょう。」
「・・・場合によってはない方がいいかもしれない。遥かに進歩しているかもしれないから・・予想外の動きをすると思うわ。」
姉は修復時に自分の身体を強化した。前回の戦闘では敵の作戦にはまり、スピードでは上回っていたが相手が見えないために遅れをとった。特定の能力が抜きんで居るだけでは勝てない。総合的な能力が勝敗を決する。
しかし相手が見えないと手の打ちようがない。
「とりあえず、相手は光学迷彩をすでに実用化しているので、見えない敵も想定して、小型のレーダー探知機を用意しておいて。
音波や金属探知機のポータブルなものも必要ね。といっても間に合わないかしら。」
「すでに用意してあります。このヘルメットは以前少佐が戦った敵の情報をもとに対サイボーグ様に作られています。昔の光学迷彩なら、この部分のグラスを目に当てれば電子的にみることができます。 」
少し離れている間にわが国の装備も変わっている。味方にとっては喜ばしいことだが、敵はその上をいってくるだろう。人権の国日本は、勝つこと第一の無法者国家の技術が予測できない。
私は母のいる実家の神社にもどり母に近況を報告した。案の定、母は今回のことを予知していた。
「こんどの敵は数が多いわ。」
「どれくらい?」
「サーボーグ百人だわね」
「ひゃ、ひゃくにん?」
「ええ」
「そんなにいるの・どうやって勝てるの?」
そこに夕の祭祀を終えた父が戻ってきて言った。
「力では勝てない。姉にそう伝えることがおまえの役目だ。まともにぶつかれば、いかに雪の身体がバージョンアップされていても勝てない。しかし私は母さんに40年前からこのことを聞いていたので手は打ってある。」
「え、ほんと?」
「敵が百人いても統率がとれていなければ攻撃力は下がる。つまり、統率を乱せばいい。相手の統率がどのような仕組みで行われているかがポイントだ。プログラムされているか、通信でコントロールされているか、あるいはその両方かだ。
雪の亭主の身体の仕組みを分析させてもらったが、敵は脳にチップを埋め込み洗脳する技術。衛星通信をハッキングする技術、その両方を持っている。この1年でそれが進歩しているとしても、基礎技術が飛躍的に変わったとは思えない。敵の通信を混乱させ、脳に埋め込まれたチップの機能を停止させる技術を開発した。」
「なるほど。でもそれでは姉さんと義兄さんもやられるのでは?」
「そう。だから一番いい方法は彼らが現地に行かずに、この装置をおまえが操作することだ。」
「でも、もう・・・行ってしまってる。てか、もう敵と戦っているかもしれない。」
「雪の脳内チップが機能停止すると否定的な感情があふれ出てや痛覚がコントロールできなくなって苦しむかもしれない。」
「死ぬことは?」
「直接的に生体を破壊することはないが、間接的に感情が暴発して一時的に錯乱状態になるかもしれない。そうなると自らを傷つけることもないとは言えない。」
「わかったわ。できるだけ姉さんと義兄さんを遠ざけて操作すれば問題ないのね。
「そうだ五百メートル以上離れてもらうことが必要だ。」
「でもね、その島小さいのよ。島から出てもらわないと無理だわ。」
「範囲を狭く調整することはできる。その部分を操作する。」
そういって父は機械の操作方法を教えてくれた。
「この機械は両刃の剣だと思ってくれ。刃は敵と味方にむいている。」
「ていうか例の剱に内蔵できなかったの?」
「バッテリーの開発が追いつかなかった。」
「姉さんの身体のバッテリーを使えば?」
「足りない。」
「あの島にそんな電源ないわよ。」
「ヘリのバッテリーを使えばなんとかなる。」
「何回くらい?」
「一台のヘリで一回だ。」
「足りないわよ。」
「タイミングを狙うしかない。敵を一か所に集めて作動させる。」
「四方から狙われたら隙ができるわ。たぶんそうするだろうけど。」
「2軍3軍がいたらかなわないわね。」
「母さんの預言では敵は百体。いまのところそれが全てだ。人間をサイボーグにするには結構金がかかるが、あの国には金がないんだ。」
「百体が四方向から攻めてきてもかなりのものだわ。基地を狙わせる以外に手はないかも。」
「軍を撤退させるわけにはいかない、余裕もない。しかし姉さんと兄貴を撤退させなくちゃならない。敵を引き付けなくちゃならない。と忙しいわね。今回は。」
「その機械の近くで剱を使うと剱がアンテナの役目を果たして、機能に指向性が生まれる。」
「どういうこと?」
「剣先に向かって効果は遠くまで及ぶようになり、周囲への影響がやや減衰する。」
「つまりこれを敵に向けると、味方への影響は減って、敵は乱れやすくなるというわけね。」
「そうだ。」
「装置と剱との距離は?どれくらいがリミット?」
「およそ十メートル。それ離れると効果はない。」
「それはまた短いわね。」
「現代の技術とヘリコプターの電源ならそれが限界だ。」
「バッテリーと装置を身近に置き、敵を撃退するほかないわね。敵がこの機械を狙ってくる可能性もある。」
「それは予知能力で察知できるわ。剱で六感を鋭くするから。」それまで黙っていた母が口を開いた。
「敵がこの装置を狙い始めたらどうする?」
「電源をもとのヘリのバッテリーとセットにして移動するほかない。」再び父が言う。そろそろ父のアイデアも限界に近づいたようだ。
「このことは自衛軍には話したの?」
「いや、私は自衛軍とはいろいろあってね、あまりよく思われていない。」
「姉さんには話しておかなくちゃ。」
「そうだな心配かけまいと思って・話していない。」
「今の話、全部姉さんにも聞かせたからね。」
「え?」
私はポケットからスマホを取り出してスイッチがオンになっていることを見せた。
「家族には会話が必要なんだからね。」決め台詞を言って私は立ち上がった。両親が照れくさそうな顔を向けた。
「ありがとう。」
「そろそろ自立しなくちゃね。」
私は自衛軍と連絡を取り、事情を話して現地に送ってもらうことにした。間もなく軍のジェットヴィートルが迎えに来て両親に別れを告げた。
「これを雪に飲ませてくれ。」
父は懐から薬瓶を取り出した。
「万一のためだ、サイボーグの身体が破損したときに瞬時に防水機能を働かせるナノ薬剤だ。」
「わかったわ。」
「母さんからなにかメッセージはない?」
「着いたときには、たぶんすでに戦闘は始まっているわ。敵は上陸して、雪は前線で何体かのサイボーグと打ち合っている。雪は撤退しようとしてできない状況に追い込まれている。その時あなたは装置を使い始めるでしょうけど、雪や行雄さんの痛覚が戻って倒れるかもしれない。その時にその剱でエネルギーの矛先を敵に向けるのよ。」
「わかった。」
今回も姉が先走りしないで私に任せればよかったのだ。姉夫婦がいると余計なことに気を使って戦わなくてはならない。
母のよると、自衛軍が私の協力を求めに来るらしい。
「あ、来た。」
爆音をたてて自衛軍のヴィートルが、空き地に着陸する。この音、近所迷惑だわ。
「予想通り四方からこの基地に向かっています。間もなく上陸します。」
「敵はおよそ百。二十五人ずつ分かれて占めてきているわね。ここを死守するか前線に出るか。」
「ここにいてください。最後の砦です。海岸には自衛軍の兵器もあります。できるだけ相手を倒しておきましょう。」
「犠牲も増えるかもしれない。」
「覚悟の上です。」
海岸に上陸したサイボーグはパワードスーツを装着しているため、普通の銃は役に立たない。自衛軍はバズーカを用意して敵を狙ったが、敵は弾をよけている。高性能のレーダーと俊敏な動作に改良がくわえられているのだ。速い。動きのスピードは夫の倍近くある。
「私もスピードはアップしているが、相手が複数では対応が難しい。」
対応が難しいとは、勝てないということを意味している。
「しかも光学迷彩をつけているから視認できにくい。」後から到着した姉の夫、すなわちわたしの義兄である行雄が姉の後ろについていた。
「このままではやられる。」雪が珍しく、標準的な日本語を使った。
「何か方法はないのか・」夫が心配そうに顔をしかめる。
「麗華がこちらに持ってくる兵器を使えば、相手の指令系統を混乱させられるわ。」
「そうか。」
「でも、その兵器は私たちにも作用する。素子の機能を混乱させ破壊するのよ。」
「つまり、これまで抑制されていた苦痛や恐怖を感じやすくするということか。」
「ええ、私達がいないほうが麗華も動きやすいと思うわ。」
「しかし今から撤退はできない。囲まれている。」
「耐えるしかないってことよ。」
敵のサーボーグは自衛軍の兵器の性能を知りつくしていたかのように回避して見せた。
「私が行く。」
雪は夫が止める間もなく敵前に向かった。
彼女の手にはサーフボードからトランスフォームしたバズーカがあった。
戦火の中
「バズーカを肩に担ぎながら俊足で移動し、脳内レーダーで相手をキャッチしながら狙いを定めた。新しい攻撃法である。
スピードはバズーカを持ってる分こちらが不利だ。だが相手のスーツはスピードではなく装甲を重視しているようで動きは同じくらいだ。スピードが同じなら地形を知っているこちらが有利だ。
雪は岩陰を利用して、敵のサイボーグの一体を吹き飛ばした。
すると他の24体が振り向き雪に襲い掛かってきた。
姉は腹部を開き、中から特殊な弾丸を取り出してバズーカに装填そうてんした。
向かってきた二十四体のど真ん中めがけてバズーカを放った。
バズーカの弾丸は勢いよく発射され、敵の近くで突然弾頭が拡散して小さな物体に分かれた。
「あれはなんだ?」
自衛隊の隊員たちが口々に叫んだ。敵も一瞬戸惑った。
小さな物体は遠目で見るとトンボか蠅のような形に見える。縦横無尽に動き回り、敵のサイボーグに回り込んでゆく。
「パックマン・スリー、妖精って言ってほしいわね」
姉はつぶやいた。
多人数対サーボーグ対戦を想定して自衛隊が秘密裏に開発したものだ。
よく見ると妖精のような形にも見える。
空中を飛翔する一種のロボットで、自動制御ではあるが、雪の脳内にリンクしている。
発射される時には細いペンのような形で弾丸に収まっているが、拡散後は羽根を出してターゲットに向かい、至近距離で爆発する。複数で狙うので捕獲しにくく回避しにくい。むろん相手のサイボーグよりも動きは速い。
相手の背後に回り込み、至近距離で爆発する。
ただ砲弾はこれ一発しかない。
「ウエストをもう少し太くすればもう一発入れられるのだが・・」という研究者をにらみつけた雪だが、
この期に及んで・・・・・も、「やっぱりウエスト優先だろ」という思いがよぎった。
パックマンは一つの弾頭に十体しか装填できない。すべてのパックマンが相手に命中しても正面の敵は十体しか倒せない。八体は命中したが二体は敵の銃で撃破された。
パックマンの攻撃をかいくぐってきた数体のサイボーグが雪に襲い掛かってきた。
すると斜め後方からユキの夫がバズーカをもって参戦して一体を撃破した。
敵は二手に分かれて二人に向かってきた。敵は銃を発砲するが、雪や行雄のレーダーはそれを先に察知して弾をよけていた。敵はバズーカをもっていない。身体が重いので装備を軽くしたのだろう。バズーカでなければ致命傷まではおいにくい。
雪は左腕を敵に向けると腕の中から銃のような装置が繰り出して、敵にレーザーを照射した。これには敵も面食らった。
しかし、敵もこちらの攻撃方法に慣れてくると、巧みによけ始める。残り五体。しかし島の周りにはまだ七十五体はいるはずだ。
右手の岩陰からその一部が顔をのぞかせた。
雪とその夫がフル装備でも七十五体を相手にするのは無理だ。
雪と夫は脳に埋め込まれたチップのおかげで冷静ではあったが、自衛軍の敗北を計算していた。
「このままでは負ける。早く麗華が父の装置を持ってこないと・・。」
前方の敵が小型のレーザーを発射した。雪は弾切れのバズーカを投げてなんとか防いだ。
雪の右腕が捕まれた。強化した左手で相手の腕をつかみ捻り上げて蹴りを入れた。相手はもう一方の手を短剣に変化させて、雪の腹部をえぐろうとする。相手の短剣は腹部をかすめたが、雪は掴んだ相手の手を捻り折った。
相手は一瞬傾いたが痛みなど感じないように短剣を顔面に突き立ててくる。
「顔は女の命だっていってんでしょうが。」
雪は少々粗っぽい言葉を発しながら、突き出された短剣を交わして腕を絡ませ、小手返しで相手を投げ飛ばした。
「合気道はサイボーグでも役に立つわね。」
だが投げ飛ばした次の瞬間、別のサーボーグが雪の左腕をレーザー銃で破壊した。
「くっつ!」
細かい部品とともに雪の左腕が吹き飛んだ。
しかし、なんと雪の肩からは兵器のついたアームがせり出してきた。
腕を吹き飛ばされても体幹にもう一本銃付きのアームが装填されていたのだ。
そのアーム銃で雪は左腕を吹き飛ばした相手を粉々にした。
「まったく手の焼ける男だちだこと。」
最初の二十五体を始末したところで右手の二十五体が射程圏内に入ってきた。
自衛隊の武器はほとんど役に立たなかった。
雪と夫は自衛隊に避難するように指示をだした。
「いやそういうわけにはいかない。」
「あなた方がいると足手まといなんです。」背後の味方も気にしなければならないとなると動きが制限される
自衛隊員はプライドを傷つけられた。しかし、その判断が間違ってはいないと察して洞窟の奥に退避した。洞窟には奥に逃げ道が数か所あり、敵がそれに気づいていなければ、そこから海岸に逃げられる。
敵のレーザーが雪の脚に命中した。ところが今回は特別仕様のブーツで、レーザーや小型の銃では破壊できなかった。
「そう簡単には生足はみせないわよ。」
麗華が到着したときは、雪は顔面の軟組織がそげ落ちて、またメカバレモードで戦っていた。
「待ったわ。」
「素直でよろしい。」
私はヘリの電源に装置を接続した。
「姉さん引いて、影響があるわ。」
「そのままやって頂戴。引くのは難しい。」
状況は切羽詰まっている。雪の夫も片腕を失って、脚を引きずっている。私は一瞬ためらったが、スイッチを入れた。
「ぎゃーーーーっつ」
という声が鳴り響いた。サーボーグ戦士たちの脳内チップが停止し、苦痛と虚脱感が襲ってきたのだ。
姉とその夫もまたうずくまって叫んでいた。
何名のサイボーグに効いたのかわからない。まだ島の反対側に五十体はいるはずだ。
私はすぐに次のバッテリーとなる重機をさがした。使えるヘリの電源がない。敵の兵器カモメが徹底的に破壊していたのだ。しかし装甲の分厚い戦車の残骸が残っていた。
私は戦車に向かい、バッテリーに装置を父の作った機械に接続した。バッテリーが生きていた。
その間2体のサイボーグに襲われたが、敵の射撃をかわしながら斬鉄剣で切り抜けた。ただ敵の動きは以前よりも数段速くなっており、予知をしてもよけて返すのはぎりぎりだった。
もし、あと1年先ならこちらも新兵器を開発しないと勝てない。
姉と姉の夫が気になるが、背後の残りの五十体も気になる。
自衛隊は逃げようとしていたが、逃げ道を防がれて、徐々に元居た洞窟内中央の指令室に戻らざるを得なかった。
「この装置はサーボーグの脳内チップを混乱させますが、大量の電気を食います。ヘリや戦車のバッテーリーをできるだけ集めてください。」麗華は自衛軍に大声で叫んだ。
自衛隊はやっと仕事を得たかのように、洞窟から繰り出していった。バッテリーが使える戦車は5台、つまり装置が使えるのも5回。
「バッテリーを外して、洞窟の中央に集まってください。入口から近づいていくる敵が分かるよう伝令を置いてください。ただし撃たれないよう気づいたら早めに引いてきて結構です。無駄死にする必要はありません。」
私は母の予知を聴いていたのでこの危機を回避できると思った。
いったん洞窟にもどり、みなを集め敵の一陣が洞窟内に近づいたところで一回目の攻撃を行った。洞窟内でどのくらいの効力があるかは実際わからない。
電波を利用している限り、威力は制限されるだろう。普通の人体には影響がないので敵の配置を把握する伝令は敵の動きが止まったことを伝えてきた。
装置の操作方法を司令官に教え、敵が洞窟の入り口に近づいたという報告があったらスイッチを入れるように伝えた。私は姉が心配になり、正面の海岸に見に行くためにその場を離れた。。
脳内チップが破壊された後、強烈な頭痛と虚無感が海岸のサイボーグ達を襲っていた。
ただ、驚くべきことに姉はその中で頭を抱えながら立ち上がり、傷ついた夫を岩陰に隠し、よろめきながらも近くのサイボーグ兵士の背部に忍び寄ってアーマドスーツのバッテリーと銃を外していた。
「姉さん。」
私は声をかけて近寄った。
「こいつのバッテリーはあの装置に使える。小型だが我が国よりも進んでいる。貴方のもってきた装置と接続して携帯化しなさい。」
「あの、あたし、機械は苦手で。」
「隊にエンジニアがいるから聞きなさい。」
私は姉を置いて洞窟内にもどった。
ところが指令室になる洞窟の中央はすでに攻撃を受けた後だった。隊員の屍が転がっていた。
敵のスピードは予想以上に早く、伝令が司令官に敵の接近を連絡する前に倒され、敵は司令官が装置のスイッチを押す前に装置をすべて破壊して隊員を抹殺してしまったのだ。
待ち構えていた敵が私を狙って銃の引き金を引いた。速い。やっとの思いでよけ、来た道を引き返した。やり返す余裕もなかった。
「私のせいだ、わたしのせいだ。」隊員たちの無残な姿が頭に焼き付いて離れない。
状況を姉に説明する。
「しまった。洞窟に誘導した私の責任よ。」
姉は頭痛に顔を歪めながら、必死に打開策を考えようとした。
「お父さんからもらったのはあれだけ?」
「あと、防水用の薬だけ。」
「防水用の薬?」
「ナノ薬とか。」
姉はその薬を私から受け取ると飲んでみた。飲んで30秒ほどで、破損した身体部分が半透明の膜で覆われはじめた。
「なるほどね。」
洞窟から敵が出てきた。まだざっと五十体は残っている。
「母さんの預言とはちょっと状況が変わってきたわね。」
「装置がないと私たち勝てない・・。」
「実はね。」
「何?」
「父さんが開発した装置は自衛隊がこっそり監視して、同じものを作っていたの。ただこれはあくまで最後の一手。私の身体に埋め込まれているから、さすがに私の脳神経にどのくらいのダメージが来るかわからないのよ。」
「それをバッテリーにつなぐ?」
「ええ。やるしかなさそうね。」
そういって姉は腹部から端子を引き出し、先ほどの敵のスーツから取り出したバッテリーと接続した。
すでに姉の脳に埋め込まれた素子は最初の一撃で機能を停止している。そのため姉は、機械との接合部分にかなりの痛みを感じているはずだ。
姉はバッテリーの一つを腹部の弾頭の入っていたスペースに入れた。
「麗華。剱を敵に向けて。」
「分かった。」
姉は体内スイッチをオンにした。とたん声を挙げながらうずくまった。同時に敵の五十体も悶絶して転がり始めた。
私は敵の群れに単身踏み込み、斬鉄剣で敵のスーツを切り裂き、相手の銃とバッテリーを奪った。
「コノヤロウ、コノヤロウ。自衛隊の司令官はイケメンで私好みだったのに。」
おそらくこれで全部だと思われたが、姉の脳内レーダには敵の影がまだあった。姉の身体が赤くなりはじめた。オーバーヒートし始めている。
「姉さん!」
「あ、熱い!」
私は姉の近くにもどり、姉の腕をもって海にむかって引きずった。
「ジュッ」という音がしたかのように思えるほど発熱していた。
姉の生身の部分がダメージをうけていないかが心配だった。
おそらく父はこれを怖れて、姉の体内に装置を埋め込まなかったのだ。
妙な形で父のナノ防水薬が役にだった。海水が姉の身体を冷やした。
姉を浅瀬に置いて、10m以内。波が時々脚を洗うところで、私は敵を迎えた。
敵は洞窟の入り口から日本軍から奪ったバズーカでわれわれに狙いをさだめた。私は剣先を洞窟にむけ姉の顔を見た。
姉は奪ったバッテリーを装着し直し、頷いた。
音もなく正面にいた敵が倒れるとともに、背後の姉も、海中に倒れ込んだ。
「ねえさん!」
私は姉を抱えてもう少し浅いところまで引き上げた。
その時、左から再びサイボーグ部隊が現れた。
姉はすでに気を失っている。
敵は10人。武器はレーザー、バズーカ、守らなくてはならない姉。
さすがにあとは運を天に任せるほかない。
神経を研ぎ澄ませ、相手の動きを予測した。どう動いても勝てる方法が見えない。
万策尽き、天に祈った。
神を我に力を与えたまえ。
すると剱の先が天に向けられ、いわゆる天剱の型をとった。
なにかが剱に満たされ、剱先が螺旋を描いて回り、敵に向かった。
私は無意識のうちに剱に内蔵されたレーザーを敵のもつバズーカに照射した。敵の動きがとてもゆっくりに見える。
次の瞬間私は敵の背後に回り、5体のアーマドスーツを切り裂いていた。
何が起きているのかわからない。残りは45体。だが突っ立っていてこちらに気づかない。
とにかく剱が動くのに身体がついていくだけだった。
次の瞬間、私は姉を担いで洞窟の入り口にいた。敵のサイボーグはすべて武器を破壊されて倒れていた。
「麗華!」
姉の声で我に帰った。
「今のは何?」
「え?今のって?」
「みえなかった。みえなくなったわよあなた。」
「わからない。」
事態をなんとか把握しようとした。天剱のあと、私はたぶん高速で動いて敵をなぎ倒したのだろう。だが記憶がほとんどない。
「何をやったか自分でも覚えていないの。」
島で生き残ったのは敵と姉と私と姉の夫だけ。味方が全滅した。悲惨な戦いだった。
姉は父親が作ったナノ薬剤の思わぬ作用で意識が飛ばず、生身が守られた。防水だけではなく、生体を急速に回復させる作用もあった。つまり脳に埋め込まれた素子がなくとも、苦痛や虚脱感が軽減されるようになった。
しかしそれでも派遣されていながら隊を全滅させた責任は負わなくてはならない。
「姉さん残念だったわね、イケメンだったのに。」深刻な気分を払拭させようと冗談を言った。
「バカ、ダーリンの前で言うセリフじゃないでしょ。」姉もすべてを理解したうえで軽口をたたいた。
苦痛に顔を歪めていた夫が苦笑いした。