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❶ 私の姉はサイボーグ   作者: 内藤晴夢
佐々木家の戦い
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雪と華と剱と

 大丈夫かなんて言葉が陳腐になるほどやられている。姉の無残な姿がスクリーンに映し出された。

 3058 戦闘型サイボーグは女の姿を利用して相手を油断させ、敵地に乗り込むために作られた.

 ほかならぬ私の姉がこのサイボーグなのだ。

 今回のミッションは敵サイボーグの破壊だった。敵サイボーグは衛星とリンクしてこちらの動きを察知し、味方の無人爆撃機やミサイルをことごとく迎撃していた。ひっきりなしに移動しているため、従来の攻撃システムでは敵を捉えて攻撃することが困難だった。そのため軍は現地に潜り込んで移動できる姉に、敵サイボーグを破壊する任務を与えたのである。

 その作戦がフォローなしの自力帰還だと私が知ったのは、姉がすで輸送機に乗り込んだ後だった。

 「あんたは敵のサイボーグがバージョンアップしていないと言い切れるのか!」

 ゲスナー上官の顎に一撃を食らわせ、私はいつも乗っていた戦闘機に飛び乗った。事情を知った整備員や管制塔が協力してくれて機は発信し、姉の乗った輸送機を追った。敵国の技術は常にこちらの先をいっている。援軍はいてもサイボーグが姉一人ではやられる可能性がある。ゲスナーが敵への攻撃を優先して、姉の救出を二の次にしたのはみえみえだった。 


 私は機を雲に滑り込ませ、姉のいく戦地に軌道をセットして操縦を自動に切り替えた。


 思い起こせば姉と軍に入隊してからずいぶん経つ。

 男女同権がまことしやかに語られ、人数を揃えろという掛け声が利用され、女性が多数軍部に誘致された。。初期のうちこそ女性は危険区域を避けて派遣され、事務職や、航空ショーで広告塔としてその能力を発揮していた。しかし戦況が悪化すると女性もどんどん前線に投入されるようになった。民間からの徴兵などやらぬと言っていた政府も、兵が足りなくなると手のひらをかえしたように召集の赤メールを乱発しはじめた。21世紀初頭、ジェンダーフリーなどというものを掲げたおかげで女が大量に前線に動員され、兵士として消耗されるようになった。姉も私もそんな時期に徴兵されて戦闘員となった。 

 第三次大東亜戦争は戦争を知らない世代の指導者が、後先考えずに始めた戦争だった。

 歴史は繰り返すというが、今回の戦争が他と異なるのは、女も積極的に前線に駆り出されたという点だ。男と女は戦場でも平等であるべきと主張された。私たちはこれをボーヴォワールの呪いと呼んでいる。20世紀、哲学者サルトルの愛人ボーヴォワールが「第二の性」という書物を書いて女性の自由奔放な生き方をまとめて世界的べストセラーとなった。家庭や結婚に縛られていた女性たちは「自由」な生き方への目を開かれた・・と思ったのだ。彼女らの後継者は女性の自由と解放の引き換えに、自らが戦地に送り込まれることなど考えてもいなかった。後の祭りである。女性が戦地に送られれば、子孫は減少する。次世代の国家は間違いなく弱体化する。もっともこうしたジェンダーフリーの運動家にとっては国家こそが余計なものだったのかもしれないのだが。


 そんななか、武技に長けた姉は真っ先に前線に駆り出されていった。


 私と姉はいつも仲が良かったわけではない。が、かといって絶縁していたわけでもない。

 姉が戦闘で半身を失ったと聞いたときは涙が出なくなるほど泣いた。なんとか生き返らせてくれ、何でもすると頼み込んだ。そして国のお偉方は、戦闘サーボーグとしての復活なら金を出すといいやがった。私は何でもいいから生き返らせてくれと、姉の気持ちも考えずに承諾書にサインをした。その時には軍の下心など気が付かなかった。とにかく姉が生き返ることを願った。・・・こんなことになるのだったら、あの時姉を安らかに逝かせるべきだった。

 

 姉の婚約者も徴兵でかりだされ、戦死したと聞いていた。その後、姉は夫の後を追うかのように危険な戦闘を志願して結果を残していった。

 姉は戦地に到着すると敵サイボーグの位置を探索した。敵の発する電波から敵が潜んでいるとおぼしき場所を特定した。彼は数名の兵士とともにここから前線軍に指示を出していた。

 ところが、突然、岩陰から死んだと思っていた婚約者が現れた。

 「あ、あなた。」

 思わず立ち上がって近寄ろうとしたところを、銃を向けられ、半身を吹き飛ばされたのだ。一瞬のことだった。

 後でわかったことだが姉の夫は、敵によってサイボーグにされ、彼女への対抗策として待ち伏せしていたのである。

 

 普通なら姉はそのまま死ぬはずだった。ところが姉が運び込まれた病院は、我が国の軍がサイボーグの研究を秘密裏に進めている病院だった。そして被験者を探していた。軍は敵のサイボーグ兵器への対抗手段として敵の妻である姉の改造を計画したというわけである。


 姉は目が覚めた後、自分が改造されたこと、夫も敵に改造されていることを知った。普段なら自分を見失って半狂乱になっただろう。だが、感情をコントロールする素子が脳に埋め込まれ、姉は事態を冷静に受け止めた。

 この素子の開発は戦争前には反対が随分あった。この素子を使えば人をロボットのように操れる。本人の意思を無視して違法な命令をも無感情で受け止め、実行してしまうからだ。しかし戦時中は狂気も正当化される。素子は議会など関係なく戦争兵器として実用化されていた。 

 姉の吹き飛ばされた脳の一部は電子回路によって補完され、超人的な計算、記憶能力、判断能力を身につけるようになった。

 また関節にはめ込まれた高速モーターは姉を一流選手の倍の速さで動くスプリンターにした。敵のサイボーグが以前のスピードと性能を持ったままであったら、たやすく敵を仕留め、自力で戻ってきただろう。

 しかし、現実はそんなに甘くない。私は現場の戦闘でそのことをいやというほど経験していた。技術は急速に進歩し、敵はこちらの技術を見切っている。おそらく敵は新たな対抗手段を用意しているだろう。

 姉が勝てる保証はない。


 ところで、生身の私が行って何になるのかと思われているだろう。


 実は私には軍にも友人にも隠していた秘密がある。

 私の家は何代にも渡った神主の家系で、時々私のような能力を持つものが現れていた。世間には奇異の目でみられるために自分の能力を隠して生きてきた。

 数十分、数分、時には数秒先が見えるのだ。つまり予知ができる。

 断片的でコントロールが効きにくいが、先の映像が浮かんでくる。

 すでに姉の悲惨な姿がイメージとして浮かび上がっているが、私が行くことで、姉が助かるとことまでみえている。

 私の父は神主であるが、同時に工学博士でもあった。母は遠縁の親戚から嫁いできた女で、遠い未来の予知をする。娘たちが危険な目に合うことを私が子供のころから予知していた。

 

 父は母を信じて私たちのために、特殊な武器を開発していた。この武器を持つことで、私の予知能力は精度があがり、戦闘中に敵の攻撃が読めるようになるのだ。つまり、私の第六感と武器がリンクするようになる。

 それがいま手元にある剣だ。

 これまでの戦闘ではもちろんこんなものをぶら下げて参加することはなかった。

 だが、今日こそこれを使うときである。

 この剱は先祖に伝わる太古の特殊な金属で作られていて、めったなことでは刃こぼれしない。また先端からはレーザーが発射できるように細工されていた。

 更に父は刃の部分に特殊な加工を施して、金属を切断できるようにした。

 父も母もこの日のために準備してくれていたのだ。

 姉は予知能力はなかったが、身体能力が私より優れており、剣の腕前は私より上だった。

 しかし夫の戦死後、母の忠告に従うことなくたびたび激戦地に出撃し、身体を半分失う羽目になった。父母は今回の救済を私に託していたのだ。やはりこの時が来た。全身の血が逆流するような気がした。


 思い出に浸っているうちに現地近くに到着した。

 戦闘の黒煙が見えてくる。

 機を降りて姉の姿をさがした。

 姉は黒煙の中無残な姿で立っていた。

 姉のボディはあちこち損傷していて中のメカがむき出しになっていた。

 左胸には矢が突き刺さっている。

 「矢?」

 よく見ると特殊な矢で、兵器のようだ。普通の矢なら姉の硬い合金の胸板を貫けるはずがない。 

 姉は胸の矢を引き抜きながら、近づくなというジェスチャーをして妹の接近を私の接近をとどめようとした。

「まだいける。」

 姉は昔から強がりだ。

「ばかな。死ぬ気?」

「もう半分死んでるから。」

 私は姉を守ろうと走り出した。

 その時、私に向かって矢が飛んできた。私は剣を抜いていなかったので、とっさに予知できなかった。

 姉は飛んできた矢をつかもうとしたが、矢が左腕を貫通し、弾け飛んだ。



 同時に右足に別の矢が飛んできて爆発し、姉の俊足は失われた。

「くっつ」姉が顔をしかめた。痛みのせいではない。感覚は素子で制御されるが、ミッションを達成できないという悔しさが姉の顔を歪めたのだ。

 私は黒煙に身を隠しながら姉の右腕を取ってを肩に引き上げながら、安全な場所に移動した。

「姉さん重いわね、ダイエットしなきゃ。」

「悪かったわね。みせる相手があいつだからねって何言ってんだろあたし」

「もういいでしょう。やるわよ。他にいい人見つけてやるから。」

「・・・・わかった。」

 そんなこんなで私はサイボーグと化した姉の夫つまり義兄と戦う羽目になった。姉は心残りがあるようでそれが仇になった。だが、知ったこっちゃない。姉をこんな姿にしたあいつは許さない。


 敵は光学迷彩で身を隠していた。これが今回の新兵器だ。

 さすがの姉も敵の姿が見えなければ動きをつかめない。音で何とか相手の位置をみわけようとしたが、音は別の音で錯乱される。相手はその準備もしていて、あちこちに小型の発音機をばら撒いていた。

 だがこれも私には関係ない。「別に」ってわけだ。

 予知は超自然的な能力だ。物理的な干渉は受けない。予知したところを予知した角度で攻撃する。それだけだ。


 目をつむって柄を握りしめる。

 剣は見事に機能した。敵の位置が分かる。敵の動きが手に取るようにわかる。私は剣が命ずるままに相手を討ち、とどめをさした。一瞬のことだ。

 戦闘というのは圧倒的な力の差があればこんなもんだ。というか長引けばこちらが不利になるだけだ。

 姉が横たわった夫の姿をみて左目から涙を流した。私はそれを横目でみながら、敵の首を切り、持ち帰ることにした。さらすためではない。脳が生きていれば、再生が可能かもしれないからだ。

 私にはすでに幸せに暮らす二人の姿が見えていた。


 姉のボディが修復されて間もなく。私は剱をもって父母のいる実家を訪れた。

「やあ、小次郎の剱は役にたったかね。」

「小次郎の剱?」

「あれ?いわなかったかね。家伝の剣は佐々木小次郎が使っていたものと同じ形をしているんだよ。」

「小次郎って巌流島で負けたやつでしょ。」

「ああ、雪(姉)には話したんだが・・。

 小次郎は、日本の三種神器のうちの剱の技を伝承していたんじゃよ。

 しかし武蔵が徒党を組んで待ち伏せしていた。それでも複数の真剣相手を木剱で倒したんじゃ。そのまま全員倒して終わらせることもできた。それを武蔵に見せつけた後、祝詞を唱え手下に自分の身をきらせたのじゃ。剱は人を傷つけるためのものではないということを武蔵に教え、争いを封ずるための神聖な剱を争いの種にしたことを小次郎は天に詫びたんじゃな。

 武蔵はこの時はじめて後悔した。我ことにおいて後悔せずという言葉はまあ武蔵の強がりじゃな。」

「え?じゃあ武蔵は戦っていないの」

「うむ陰でみていて衝撃をうけ、それ以降私闘をやめたらしい。」

「う~ん。でもなんだか負けた剣で勝ったってことか?」

「いや、お前は、雪の旦那の首を持ちかえったではないか。そして彼は生き返った。活人剣の面目躍如というところじゃな。」

「そうそう二人とも軍を除隊できるんだって?」

 姉は綺麗に修復された顔を挙げて言った。

「ええ、夫の脳に埋め込まれた素子から敵国の情報端末にアクセスができるようになって、こちらが圧倒的に優位になったからもういいって。戦争も終わるかもしれないって。」

「へえ。そんなに重要なカギになるとはね。まあなんとなく大事だとはわかっていたけどさ、どっちかというと私は姉さんに貸をつくりたかったのよ」

「一生いわれそうね。」

「一生いうわよ。」 

「あ、そうかそれで下司野郎の顎一発が許されたのか?」

「お前最近言葉悪くなったな。」

 父親が顔をしかめて注意したが、あとには笑い声が社務所に響き渡った。 

 

 言い忘れたが私の名は麗華レイカという。・・・・・・・・・


 誰だ。ふきだしたやつは。


平穏な日々が続いていた。


壊れた姉の身体は完全に修理され、沖縄のビーチで見事な肉体美を披露していた。


5歳年上とは言え、大人の女を感じさせる姉の容姿に・・・・正直、私は負けている。


姉と並んで歩くと、日頃スタイルがいいといわれている私が、幼児体型と揶揄される始末である。


群がりくる軟派師どもをさばいていると、姉のままぶたが僅かに痙攣した。脳内通信に内閣特務室から連絡が入ったのだ。


昨年いったんは攻撃をやめたかに見えた敵国の戦艦が、我が国の海域を超えて侵入してきたというのである。


しかも現場はここから近い。


すでに戦闘が始まっているが、敵の戦艦の周りにはサメ型のロボット魚雷がいて味方の艦を沈め、カモメ型の無人機が、味方のヘリや航空機に激突してくるため、苦戦しているのだという。


姉の身体は防水仕様になっているとはいえ、何ができるというのだろう。破損がひどければ身体に塩水が入り込み、ショートする。


「軍は依頼を求める相手を間違えているんじゃない?」濡れた髪をふききながら、私はつぶやいた。


「敵がサメとカモメだけなら私の出番はないだろうけど、どうもまだおまけがあって、この先の島を占領しようとしているみたい。」


「え?上陸して占領?」


「ええ。上陸するのは敵のサイボーグ部隊らしいのよ。」


「部隊というと、一人じゃないってことね。」


「敵は傷ついた兵士をどんどんサイボーグ化していたみたい。」


「こっちは人権の問題でサイボーグ計画は中止されたっていうのにね。」


「作戦がないと勝つのは無理だわ。」


「私たちもう退役したんだし。軍にまかせれば?」


「そんな私に電話してくるなんてよっぽどだってことだわ。」


 姉は自衛軍の洗脳に染まっていると思った。私ならわざわざ出ていかない。


「義兄さんだって反対するわ。きっと。」


「いえダディはもう向かってるって。」


 この馬鹿夫婦。


「しょうがないなあ。」


「なによ。」


「私が行かなきゃまたボロボロ半泣きでしょ。」


「民間人の出る幕じゃないわ。ひっこんでて。」


「はいはい。」


 姉の命令口調にもなれた。喧嘩することもなく、軽くいなした。


 私は上官を殴って勝手に姉を助けに行った件で軍法会議にかけられ、刑務所に入れられるところだった。

 姉が、私を刑務所に入れるなら軍に協力しないといってくれたので、司法取引という形で除隊、姉は軍に復帰した。


 姉は再び軍の命令で前線に向かったが、私は姉と別れ、母の実家に向かうことにした。母ならなにか策を用意しているだろう。


 姉は木陰でサーフィンボードをバズーカにトランスフォームさせ、前回の修復で兵器化した身体をチェックした。

次の戦闘準備



 声をかけようとしていたチャラい兄さんが、腰をぬかして失禁していた。海パンを履いててよかったね。



 日本の自衛軍はすでに島に基地を作って敵の攻撃に備えていた。前回の姉の戦闘のことは軍部内では知れ渡っていて、姉は兵士たちはにリスペクトされ、歓迎された。


「敵の上陸時間は何時頃になりそう?」


 屈強でどこか俳優に似たイケメン司令官が問いに答えた。


「上陸はさせませんといいたいところですが、早くて明日の夜半には上陸するかもしれません。」


「敵の武器はサメやカモメのおもちゃの他には?」


「サメは陸上では問題外としてカモメは陸上でも厄介です。数が多ければ防ぎきれないかもしれない。それで我々は基地をこんな洞窟に設置しているのです。他にどんなおもちゃが出てくるかは予想できません。敵のサイボーグの性能については身体に兵器を内蔵しているそうです。」


「兵器の性能がわかるといいんだけど。」


「まだあまり表にでてきていないのでサーボーグ部隊の威力は把握できていません。あの、失礼ですがご主人もサイボーグだとか。」


「ええ、しかも敵に改造されたね。間もなくここに到着するわ。でも1年もたっているから技術が格段に進歩しているでしょう。夫の情報が役に立つかどうか・・」


「ないよりはましでしょう。」


「・・・場合によってはない方がいいかもしれない。遥かに進歩しているかもしれないから・・予想外の動きをすると思うわ。」


 姉は修復時に自分の身体を強化した。前回の戦闘では敵の作戦にはまり、スピードでは上回っていたが相手が見えないために遅れをとった。特定の能力が抜きんで居るだけでは勝てない。総合的な能力が勝敗を決する。


 しかし相手が見えないと手の打ちようがない。



「とりあえず、相手は光学迷彩をすでに実用化しているので、見えない敵も想定して、小型のレーダー探知機を用意しておいて。

 音波や金属探知機のポータブルなものも必要ね。といっても間に合わないかしら。」


「すでに用意してあります。このヘルメットは以前少佐が戦った敵の情報をもとに対サイボーグ様に作られています。昔の光学迷彩なら、この部分のグラスを目に当てれば電子的にみることができます。 」


 少し離れている間にわが国の装備も変わっている。味方にとっては喜ばしいことだが、敵はその上をいってくるだろう。人権の国日本は、勝つこと第一の無法者国家の技術が予測できない。


 私は母のいる実家の神社にもどり母に近況を報告した。案の定、母は今回のことを予知していた。


「こんどの敵は数が多いわ。」


「どれくらい?」


「サーボーグ百人だわね」


「ひゃ、ひゃくにん?」


「ええ」


「そんなにいるの・どうやって勝てるの?」


 そこに夕の祭祀を終えた父が戻ってきて言った。


「力では勝てない。姉にそう伝えることがおまえの役目だ。まともにぶつかれば、いかに雪の身体がバージョンアップされていても勝てない。しかし私は母さんに40年前からこのことを聞いていたので手は打ってある。」


「え、ほんと?」


「敵が百人いても統率がとれていなければ攻撃力は下がる。つまり、統率を乱せばいい。相手の統率がどのような仕組みで行われているかがポイントだ。プログラムされているか、通信でコントロールされているか、あるいはその両方かだ。

 雪の亭主の身体の仕組みを分析させてもらったが、敵は脳にチップを埋め込み洗脳する技術。衛星通信をハッキングする技術、その両方を持っている。この1年でそれが進歩しているとしても、基礎技術が飛躍的に変わったとは思えない。敵の通信を混乱させ、脳に埋め込まれたチップの機能を停止させる技術を開発した。」


「なるほど。でもそれでは姉さんと義兄さんもやられるのでは?」


「そう。だから一番いい方法は彼らが現地に行かずに、この装置をおまえが操作することだ。」


「でも、もう・・・行ってしまってる。てか、もう敵と戦っているかもしれない。」


「雪の脳内チップが機能停止すると否定的な感情があふれ出てや痛覚がコントロールできなくなって苦しむかもしれない。」


「死ぬことは?」


「直接的に生体を破壊することはないが、間接的に感情が暴発して一時的に錯乱状態になるかもしれない。そうなると自らを傷つけることもないとは言えない。」


「わかったわ。できるだけ姉さんと義兄さんを遠ざけて操作すれば問題ないのね。


「そうだ五百メートル以上離れてもらうことが必要だ。」


「でもね、その島小さいのよ。島から出てもらわないと無理だわ。」


「範囲を狭く調整することはできる。その部分を操作する。」


そういって父は機械の操作方法を教えてくれた。


「この機械は両刃の剣だと思ってくれ。刃は敵と味方にむいている。」


「ていうか例の剱に内蔵できなかったの?」


「バッテリーの開発が追いつかなかった。」


「姉さんの身体のバッテリーを使えば?」


「足りない。」


「あの島にそんな電源ないわよ。」


「ヘリのバッテリーを使えばなんとかなる。」


「何回くらい?」


「一台のヘリで一回だ。」


「足りないわよ。」


「タイミングを狙うしかない。敵を一か所に集めて作動させる。」


「四方から狙われたら隙ができるわ。たぶんそうするだろうけど。」


「2軍3軍がいたらかなわないわね。」


「母さんの預言では敵は百体。いまのところそれが全てだ。人間をサイボーグにするには結構金がかかるが、あの国には金がないんだ。」


「百体が四方向から攻めてきてもかなりのものだわ。基地を狙わせる以外に手はないかも。」


「軍を撤退させるわけにはいかない、余裕もない。しかし姉さんと兄貴を撤退させなくちゃならない。敵を引き付けなくちゃならない。と忙しいわね。今回は。」


「その機械の近くで剱を使うと剱がアンテナの役目を果たして、機能に指向性が生まれる。」


「どういうこと?」


「剣先に向かって効果は遠くまで及ぶようになり、周囲への影響がやや減衰する。」


「つまりこれを敵に向けると、味方への影響は減って、敵は乱れやすくなるというわけね。」


「そうだ。」


「装置と剱との距離は?どれくらいがリミット?」


「およそ十メートル。それ離れると効果はない。」


「それはまた短いわね。」


「現代の技術とヘリコプターの電源ならそれが限界だ。」


「バッテリーと装置を身近に置き、敵を撃退するほかないわね。敵がこの機械を狙ってくる可能性もある。」


「それは予知能力で察知できるわ。剱で六感を鋭くするから。」それまで黙っていた母が口を開いた。


「敵がこの装置を狙い始めたらどうする?」


「電源をもとのヘリのバッテリーとセットにして移動するほかない。」再び父が言う。そろそろ父のアイデアも限界に近づいたようだ。


「このことは自衛軍には話したの?」


「いや、私は自衛軍とはいろいろあってね、あまりよく思われていない。」


「姉さんには話しておかなくちゃ。」


「そうだな心配かけまいと思って・話していない。」


「今の話、全部姉さんにも聞かせたからね。」


「え?」


 私はポケットからスマホを取り出してスイッチがオンになっていることを見せた。


「家族には会話が必要なんだからね。」決め台詞を言って私は立ち上がった。両親が照れくさそうな顔を向けた。


「ありがとう。」


「そろそろ自立しなくちゃね。」


 私は自衛軍と連絡を取り、事情を話して現地に送ってもらうことにした。間もなく軍のジェットヴィートルが迎えに来て両親に別れを告げた。


「これを雪に飲ませてくれ。」


 父は懐から薬瓶を取り出した。


「万一のためだ、サイボーグの身体が破損したときに瞬時に防水機能を働かせるナノ薬剤だ。」


「わかったわ。」


「母さんからなにかメッセージはない?」


「着いたときには、たぶんすでに戦闘は始まっているわ。敵は上陸して、雪は前線で何体かのサイボーグと打ち合っている。雪は撤退しようとしてできない状況に追い込まれている。その時あなたは装置を使い始めるでしょうけど、雪や行雄さんの痛覚が戻って倒れるかもしれない。その時にその剱でエネルギーの矛先を敵に向けるのよ。」


「わかった。」


 今回も姉が先走りしないで私に任せればよかったのだ。姉夫婦がいると余計なことに気を使って戦わなくてはならない。


 母のよると、自衛軍が私の協力を求めに来るらしい。


 「あ、来た。」


 爆音をたてて自衛軍のヴィートルが、空き地に着陸する。この音、近所迷惑だわ。





「予想通り四方からこの基地に向かっています。間もなく上陸します。」


「敵はおよそ百。二十五人ずつ分かれて占めてきているわね。ここを死守するか前線に出るか。」


「ここにいてください。最後の砦です。海岸には自衛軍の兵器もあります。できるだけ相手を倒しておきましょう。」


「犠牲も増えるかもしれない。」


「覚悟の上です。」


 海岸に上陸したサイボーグはパワードスーツを装着しているため、普通の銃は役に立たない。自衛軍はバズーカを用意して敵を狙ったが、敵は弾をよけている。高性能のレーダーと俊敏な動作に改良がくわえられているのだ。速い。動きのスピードは夫の倍近くある。


「私もスピードはアップしているが、相手が複数では対応が難しい。」


 対応が難しいとは、勝てないということを意味している。


「しかも光学迷彩をつけているから視認できにくい。」後から到着した姉の夫、すなわちわたしの義兄である行雄が姉の後ろについていた。


「このままではやられる。」雪が珍しく、標準的な日本語を使った。


「何か方法はないのか・」夫が心配そうに顔をしかめる。


「麗華がこちらに持ってくる兵器を使えば、相手の指令系統を混乱させられるわ。」


「そうか。」


「でも、その兵器は私たちにも作用する。素子の機能を混乱させ破壊するのよ。」


「つまり、これまで抑制されていた苦痛や恐怖を感じやすくするということか。」


「ええ、私達がいないほうが麗華も動きやすいと思うわ。」


「しかし今から撤退はできない。囲まれている。」


「耐えるしかないってことよ。」


 敵のサーボーグは自衛軍の兵器の性能を知りつくしていたかのように回避して見せた。


「私が行く。」


 雪は夫が止める間もなく敵前に向かった。


 彼女の手にはサーフボードからトランスフォームしたバズーカがあった。

戦火の中



「バズーカを肩に担ぎながら俊足で移動し、脳内レーダーで相手をキャッチしながら狙いを定めた。新しい攻撃法である。


 スピードはバズーカを持ってる分こちらが不利だ。だが相手のスーツはスピードではなく装甲を重視しているようで動きは同じくらいだ。スピードが同じなら地形を知っているこちらが有利だ。


 雪は岩陰を利用して、敵のサイボーグの一体を吹き飛ばした。


 すると他の24体が振り向き雪に襲い掛かってきた。


 姉は腹部を開き、中から特殊な弾丸を取り出してバズーカに装填そうてんした。


 向かってきた二十四体のど真ん中めがけてバズーカを放った。


 バズーカの弾丸は勢いよく発射され、敵の近くで突然弾頭が拡散して小さな物体に分かれた。


 「あれはなんだ?」


 自衛隊の隊員たちが口々に叫んだ。敵も一瞬戸惑った。


 小さな物体は遠目で見るとトンボか蠅のような形に見える。縦横無尽に動き回り、敵のサイボーグに回り込んでゆく。


「パックマン・スリー、妖精って言ってほしいわね」


 姉はつぶやいた。


 多人数対サーボーグ対戦を想定して自衛隊が秘密裏に開発したものだ。


 よく見ると妖精のような形にも見える。


 空中を飛翔する一種のロボットで、自動制御ではあるが、雪の脳内にリンクしている。


 発射される時には細いペンのような形で弾丸に収まっているが、拡散後は羽根を出してターゲットに向かい、至近距離で爆発する。複数で狙うので捕獲しにくく回避しにくい。むろん相手のサイボーグよりも動きは速い。


 相手の背後に回り込み、至近距離で爆発する。


 ただ砲弾はこれ一発しかない。


「ウエストをもう少し太くすればもう一発入れられるのだが・・」という研究者をにらみつけた雪だが、


 この期に及んで・・・・・も、「やっぱりウエスト優先だろ」という思いがよぎった。


 パックマンは一つの弾頭に十体しか装填できない。すべてのパックマンが相手に命中しても正面の敵は十体しか倒せない。八体は命中したが二体は敵の銃で撃破された。


 パックマンの攻撃をかいくぐってきた数体のサイボーグが雪に襲い掛かってきた。


 すると斜め後方からユキの夫がバズーカをもって参戦して一体を撃破した。


 敵は二手に分かれて二人に向かってきた。敵は銃を発砲するが、雪や行雄のレーダーはそれを先に察知して弾をよけていた。敵はバズーカをもっていない。身体が重いので装備を軽くしたのだろう。バズーカでなければ致命傷まではおいにくい。


 雪は左腕を敵に向けると腕の中から銃のような装置が繰り出して、敵にレーザーを照射した。これには敵も面食らった。


 しかし、敵もこちらの攻撃方法に慣れてくると、巧みによけ始める。残り五体。しかし島の周りにはまだ七十五体はいるはずだ。


 右手の岩陰からその一部が顔をのぞかせた。


 雪とその夫がフル装備でも七十五体を相手にするのは無理だ。


 雪と夫は脳に埋め込まれたチップのおかげで冷静ではあったが、自衛軍の敗北を計算していた。


「このままでは負ける。早く麗華が父の装置を持ってこないと・・。」


 前方の敵が小型のレーザーを発射した。雪は弾切れのバズーカを投げてなんとか防いだ。


 雪の右腕が捕まれた。強化した左手で相手の腕をつかみ捻り上げて蹴りを入れた。相手はもう一方の手を短剣に変化させて、雪の腹部をえぐろうとする。相手の短剣は腹部をかすめたが、雪は掴んだ相手の手を捻り折った。


 相手は一瞬傾いたが痛みなど感じないように短剣を顔面に突き立ててくる。


「顔は女の命だっていってんでしょうが。」


 雪は少々粗っぽい言葉を発しながら、突き出された短剣を交わして腕を絡ませ、小手返しで相手を投げ飛ばした。


「合気道はサイボーグでも役に立つわね。」


 だが投げ飛ばした次の瞬間、別のサーボーグが雪の左腕をレーザー銃で破壊した。


「くっつ!」


 細かい部品とともに雪の左腕が吹き飛んだ。


 しかし、なんと雪の肩からは兵器のついたアームがせり出してきた。


 腕を吹き飛ばされても体幹にもう一本銃付きのアームが装填されていたのだ。


 そのアーム銃で雪は左腕を吹き飛ばした相手を粉々にした。



 「まったく手の焼ける男だちだこと。」


 最初の二十五体を始末したところで右手の二十五体が射程圏内に入ってきた。


 自衛隊の武器はほとんど役に立たなかった。


 雪と夫は自衛隊に避難するように指示をだした。


「いやそういうわけにはいかない。」


「あなた方がいると足手まといなんです。」背後の味方も気にしなければならないとなると動きが制限される


 自衛隊員はプライドを傷つけられた。しかし、その判断が間違ってはいないと察して洞窟の奥に退避した。洞窟には奥に逃げ道が数か所あり、敵がそれに気づいていなければ、そこから海岸に逃げられる。


 

 敵のレーザーが雪の脚に命中した。ところが今回は特別仕様のブーツで、レーザーや小型の銃では破壊できなかった。


「そう簡単には生足はみせないわよ。」


 麗華が到着したときは、雪は顔面の軟組織がそげ落ちて、またメカバレモードで戦っていた。


「待ったわ。」


「素直でよろしい。」


 私はヘリの電源に装置を接続した。


「姉さん引いて、影響があるわ。」


「そのままやって頂戴。引くのは難しい。」


 状況は切羽詰まっている。雪の夫も片腕を失って、脚を引きずっている。私は一瞬ためらったが、スイッチを入れた。


「ぎゃーーーーっつ」


という声が鳴り響いた。サーボーグ戦士たちの脳内チップが停止し、苦痛と虚脱感が襲ってきたのだ。


姉とその夫もまたうずくまって叫んでいた。


何名のサイボーグに効いたのかわからない。まだ島の反対側に五十体はいるはずだ。


私はすぐに次のバッテリーとなる重機をさがした。使えるヘリの電源がない。敵の兵器カモメが徹底的に破壊していたのだ。しかし装甲の分厚い戦車の残骸が残っていた。


私は戦車に向かい、バッテリーに装置を父の作った機械に接続した。バッテリーが生きていた。


その間2体のサイボーグに襲われたが、敵の射撃をかわしながら斬鉄剣で切り抜けた。ただ敵の動きは以前よりも数段速くなっており、予知をしてもよけて返すのはぎりぎりだった。


もし、あと1年先ならこちらも新兵器を開発しないと勝てない。


姉と姉の夫が気になるが、背後の残りの五十体も気になる。


自衛隊は逃げようとしていたが、逃げ道を防がれて、徐々に元居た洞窟内中央の指令室に戻らざるを得なかった。


「この装置はサーボーグの脳内チップを混乱させますが、大量の電気を食います。ヘリや戦車のバッテーリーをできるだけ集めてください。」麗華は自衛軍に大声で叫んだ。


 自衛隊はやっと仕事を得たかのように、洞窟から繰り出していった。バッテリーが使える戦車は5台、つまり装置が使えるのも5回。


「バッテリーを外して、洞窟の中央に集まってください。入口から近づいていくる敵が分かるよう伝令を置いてください。ただし撃たれないよう気づいたら早めに引いてきて結構です。無駄死にする必要はありません。」


 私は母の予知を聴いていたのでこの危機を回避できると思った。


 いったん洞窟にもどり、みなを集め敵の一陣が洞窟内に近づいたところで一回目の攻撃を行った。洞窟内でどのくらいの効力があるかは実際わからない。


 電波を利用している限り、威力は制限されるだろう。普通の人体には影響がないので敵の配置を把握する伝令は敵の動きが止まったことを伝えてきた。


 装置の操作方法を司令官に教え、敵が洞窟の入り口に近づいたという報告があったらスイッチを入れるように伝えた。私は姉が心配になり、正面の海岸に見に行くためにその場を離れた。。

 脳内チップが破壊された後、強烈な頭痛と虚無感が海岸のサイボーグ達を襲っていた。


 ただ、驚くべきことに姉はその中で頭を抱えながら立ち上がり、傷ついた夫を岩陰に隠し、よろめきながらも近くのサイボーグ兵士の背部に忍び寄ってアーマドスーツのバッテリーと銃を外していた。


「姉さん。」


私は声をかけて近寄った。


「こいつのバッテリーはあの装置に使える。小型だが我が国よりも進んでいる。貴方のもってきた装置と接続して携帯化しなさい。」


「あの、あたし、機械は苦手で。」


「隊にエンジニアがいるから聞きなさい。」


 私は姉を置いて洞窟内にもどった。


 ところが指令室になる洞窟の中央はすでに攻撃を受けた後だった。隊員の屍が転がっていた。


 敵のスピードは予想以上に早く、伝令が司令官に敵の接近を連絡する前に倒され、敵は司令官が装置のスイッチを押す前に装置をすべて破壊して隊員を抹殺してしまったのだ。


 待ち構えていた敵が私を狙って銃の引き金を引いた。速い。やっとの思いでよけ、来た道を引き返した。やり返す余裕もなかった。


「私のせいだ、わたしのせいだ。」隊員たちの無残な姿が頭に焼き付いて離れない。


 状況を姉に説明する。


「しまった。洞窟に誘導した私の責任よ。」


 姉は頭痛に顔を歪めながら、必死に打開策を考えようとした。


「お父さんからもらったのはあれだけ?」


「あと、防水用の薬だけ。」


「防水用の薬?」


「ナノ薬とか。」


 姉はその薬を私から受け取ると飲んでみた。飲んで30秒ほどで、破損した身体部分が半透明の膜で覆われはじめた。


「なるほどね。」


 洞窟から敵が出てきた。まだざっと五十体は残っている。


「母さんの預言とはちょっと状況が変わってきたわね。」


「装置がないと私たち勝てない・・。」


「実はね。」


「何?」


「父さんが開発した装置は自衛隊がこっそり監視して、同じものを作っていたの。ただこれはあくまで最後の一手。私の身体に埋め込まれているから、さすがに私の脳神経にどのくらいのダメージが来るかわからないのよ。」


「それをバッテリーにつなぐ?」


「ええ。やるしかなさそうね。」


 そういって姉は腹部から端子を引き出し、先ほどの敵のスーツから取り出したバッテリーと接続した。


 すでに姉の脳に埋め込まれた素子は最初の一撃で機能を停止している。そのため姉は、機械との接合部分にかなりの痛みを感じているはずだ。


 姉はバッテリーの一つを腹部の弾頭の入っていたスペースに入れた。


「麗華。剱を敵に向けて。」


「分かった。」


 姉は体内スイッチをオンにした。とたん声を挙げながらうずくまった。同時に敵の五十体も悶絶して転がり始めた。


 私は敵の群れに単身踏み込み、斬鉄剣で敵のスーツを切り裂き、相手の銃とバッテリーを奪った。


「コノヤロウ、コノヤロウ。自衛隊の司令官はイケメンで私好みだったのに。」


 おそらくこれで全部だと思われたが、姉の脳内レーダには敵の影がまだあった。姉の身体が赤くなりはじめた。オーバーヒートし始めている。


「姉さん!」

 

「あ、熱い!」 


 私は姉の近くにもどり、姉の腕をもって海にむかって引きずった。

「ジュッ」という音がしたかのように思えるほど発熱していた。

 姉の生身の部分がダメージをうけていないかが心配だった。

 おそらく父はこれを怖れて、姉の体内に装置を埋め込まなかったのだ。


 妙な形で父のナノ防水薬が役にだった。海水が姉の身体を冷やした。


 姉を浅瀬に置いて、10m以内。波が時々脚を洗うところで、私は敵を迎えた。


 敵は洞窟の入り口から日本軍から奪ったバズーカでわれわれに狙いをさだめた。私は剣先を洞窟にむけ姉の顔を見た。


 姉は奪ったバッテリーを装着し直し、頷いた。


 音もなく正面にいた敵が倒れるとともに、背後の姉も、海中に倒れ込んだ。


「ねえさん!」


 私は姉を抱えてもう少し浅いところまで引き上げた。


 その時、左から再びサイボーグ部隊が現れた。


 姉はすでに気を失っている。 


 敵は10人。武器はレーザー、バズーカ、守らなくてはならない姉。


 さすがにあとは運を天に任せるほかない。  

  

 神経を研ぎ澄ませ、相手の動きを予測した。どう動いても勝てる方法が見えない。


 万策尽き、天に祈った。


 神を我に力を与えたまえ。


 すると剱の先が天に向けられ、いわゆる天剱の型をとった。


 なにかが剱に満たされ、剱先が螺旋を描いて回り、敵に向かった。


 私は無意識のうちに剱に内蔵されたレーザーを敵のもつバズーカに照射した。敵の動きがとてもゆっくりに見える。


 次の瞬間私は敵の背後に回り、5体のアーマドスーツを切り裂いていた。


 何が起きているのかわからない。残りは45体。だが突っ立っていてこちらに気づかない。


 とにかく剱が動くのに身体がついていくだけだった。


 次の瞬間、私は姉を担いで洞窟の入り口にいた。敵のサイボーグはすべて武器を破壊されて倒れていた。


「麗華!」


 姉の声で我に帰った。


「今のは何?」


「え?今のって?」


「みえなかった。みえなくなったわよあなた。」


「わからない。」


事態をなんとか把握しようとした。天剱のあと、私はたぶん高速で動いて敵をなぎ倒したのだろう。だが記憶がほとんどない。


「何をやったか自分でも覚えていないの。」


 島で生き残ったのは敵と姉と私と姉の夫だけ。味方が全滅した。悲惨な戦いだった。


 姉は父親が作ったナノ薬剤の思わぬ作用で意識が飛ばず、生身が守られた。防水だけではなく、生体を急速に回復させる作用もあった。つまり脳に埋め込まれた素子がなくとも、苦痛や虚脱感が軽減されるようになった。


 しかしそれでも派遣されていながら隊を全滅させた責任は負わなくてはならない。


「姉さん残念だったわね、イケメンだったのに。」深刻な気分を払拭させようと冗談を言った。


「バカ、ダーリンの前で言うセリフじゃないでしょ。」姉もすべてを理解したうえで軽口をたたいた。


 苦痛に顔を歪めていた夫が苦笑いした。

島での戦闘はあまりにも悲惨で、妹の麗華は精神的に打ちのめされてしまった。


 今回の報告は姉の私雪が行うこととする。


 これまで私は麗華のおかげで何度も窮地を救われてきたが、そのために味方が大勢殺されたということはなかった。

 大概、姉の私が敵に追い詰められたところで、麗華が登場。後片付けをするという筋書きだった。

 私がボロボロになっているので、彼女も敵を倒す事に集中し、戦闘での見方の死傷者がでても作戦遂行に迷いはなかった。


 ところが今回は、妹の出した指示によって洞窟内の味方がすべて惨殺されてしまった。麗華は責任を感じ、父母のところに身を寄せて引きこもるようになった。


 亡くなった隊員の家族と面談したときは、自責の念でおしつぶされそうになり、麗華の口からは謝罪の言葉すら出なかった。それがまた隊員家族の気持ちを逆なでした。なかには、麗華を罵倒する家族もいた。


「相手を殲滅せんめつする技術があるなら、なぜ息子が殺される前に使わなかったのか。なぜ隊員を危険な場所に置き去りにしたのか。」家族は怒りを麗華にぶつけることで悲しみを解消しようとした。


 なんといっても大勢の隊員よりも身内である私一人を心配して持ち場を離れたのだ。身びいきといわれても仕方がなかった。

 しかし、そのおかげで私はこうして報告書を書くことができている。


 後悔が妹を襲う。


 それにしても、あれだけのサイボーグ兵を一瞬にして殲滅した技はなんだったのか、何が起きたのか、今もってわからない。・・・私の高性能の義眼でさえ視認できないほどの速さだった。

 生身の人間である麗華が、いかに剱に仕掛けがあるとはいえそんな速さで動けるものなのだろうか。


 父によれば「それはスピードではなく次元を越える技」ということだった。


 見えないような動きは神と一体になった時に無意識におきるという異次元の移動術なのだろうか。昔の忍者は修験道からこの技術を学んで時々使っていたらしい。合気道の開祖もこれを披露したことが記録に残っている。その技は頻繁に使えるものではなく、年単位で命を縮めるらしいが、彼らほそれを意図的に使えたのである。


 そんな、荒唐無稽とも思われる話を隊員の家族に信じてもらうのは難しい。

 

 まの当たりにした私でさえ半信半疑なのだ。


「あんたは昔から不思議を信じなかったからねえ。」母はいうが、科学技術で生きながらえている私がそうそう神の奇跡など信じられるものではない。


 麗華はうつろな面もちで、ほとんど一日、実家の縁側に腰掛けて庭の椿を眺めていた。


 私としては妹を回復するまでゆっくりと側についていてやるべきなのだろうが、軍に戻った手前、いつまでも妹の憂鬱に付き合ってはいられなかった。


 本部から連絡が入った。


 敵国が新型の兵器を開発したのですぐ来てほしいというのだ。


「新型というのは?」


「空飛ぶサイボーグだ。作戦会議に加わってくれ。」


「空を飛ぶ?そんなことは私にもできない。」


「地上に引き寄せるから戦ってくれ。」


「数は?」


「五百から千。」


「ば、ばかな。私はワンダーウーマンじゃないんだから!」


「島では100体を相手にしたと聞いたが。」


「そのためにどんな犠牲をはらったかわかっているのですか?」


 上官の認識の甘さにさすがに脳がオーバーヒートしそうになった。


 敵はとてつもないスピードでバージョンアップしている。千体の空飛ぶサイボーグ兵士と戦って勝てるわけがない。


 これは作戦なんてもんじゃない。サイボーグを使い捨てる特攻だ?


 通信中の私の顔がひきつるのをみて母が言った。


「次は千体ね。」


「え?」


 母はこれも見通していたのだ。


 父は真顔で話し始めた。


「武器の開発はとどまることを知らない。母さんはずいぶん以前にそのことを予知して聞いていた。おまえは敵地に潜入せざるを得ないだろう。」


「あの予知を話した時は、お父さん押し入れに引きこもったのよ。」


 私が一対千の戦に出るというのに両親の落ち着きようは何なのだ。


「なにか策があるとでもいうの?」


「お前達は今度も切り抜ける。だから真っ二つにされてもあきらめるな。」


「なんてこというのよ、親のくせに!」笑いながら私は出撃の仕度を始めた。


 だが、この父の言葉が文字通りであることが分かったのは、後になってからだった。


 

 戦略本部はサンシャインビルの地下十二階に作られていた。高速エレベーターを使って降りる。政府はここが秘密の戦略本部であることを隠している。


 初めて知った時には、なんてところに作るんだと思った。ここはかつての戦犯がととじこめられていた巣鴨刑務所の跡地である。昭和の生き残りが太平洋戦争の無念を引き継ぐとでもいうのだろうか。


 現在も日本国憲法は専守防衛であり、自衛隊は軍隊ではないとの建前を貫いている。何度か国会で憲法改正が議題に上がったが、野党の反対がすさまじく、改正に至っていない。憲法が現実に一致していない。米国が日本を弱体化するためにつくった憲法であったとしても、天皇がそれを支持している限りにおいて、日本の世論もギリギリのところで一致しない。


 平和のために戦うことができない。

 では相手が襲ってきて妻子供を虐殺したとしても笑顔で話し合えというのだろうか。こういう議論は戦場から離れたやからがスクリーンを通して話し合ってばかりいるから起きる。民間人の大量虐殺され、巻き込みまれるのを目のあたりにして、それを止めようとして抵抗するのは生物の防衛本能である。

 守るために「武」は必要である。


 だが、確かにこの憲法があるからこそ、わが軍がアメリカの言いなりにならないで済んでいるという面もある。屈折した状況だ。


 エレベーターを降りるとまっすぐに廊下があり、その先に戦略会議室がある。ドアが開くと、忙しそうにスタッフが動きまわっている。


「少佐、お待ちしておりました。」


 隊での私の階級は少佐という事になっている。中央のテーブルには総理大臣をはじめ国防大臣、官僚、技官がいる。


 おのおのの自己紹介を済ませて、私もテーブルについた。


 総理は戦場経験がある自衛隊出身。戦時にあっては適材といわれている。ここに戦略室を作り、自衛隊出身の国防大臣に仕切らせるようにしたのは、悪くない。


 だが、官僚たちはいわば事務屋である、戦争や技術に疎い輩も多く、そういう輩が作戦に口を出すと、こちらがいかに優秀でも犠牲がでる。彼らに言わせれば私たちは法律や人権を知らなさすぎるというわけだ。


 しかし、戦争がエスカレートすると、往々にして一線を越えてしまうことがある。国際法や国内法の専門家がいないと後々問題になることもある。官僚たちに頼らざるを得ない局面もある。一発の発砲が大戦の引き金ともなるのだ。満州事変が世界大戦に拡大したことを総理は学んでいた。


 若い技官が敵の新兵器について説明し始めた。

「敵はサイボーグを飛行させる技術を開発しています。これが先日竹島で撮影したサーボーグですが、御覧のとおり、脚の下にボードをつけて時速二百キロで飛んでいました。」


 空を飛ぶというのはこういう事か。サイボーグ自体に飛行能力を装備するのではなく、一種の乗り物を使ってサイボーグを飛ばすという事なのだ。これだと敵地に着いた後、飛行装置をはずして身軽になることができる。


「ジェットエンジンを搭載し、操縦は足の下のペダルでバランスをとりながら行います。」


「滞空時間は?」


「現在確認されている時間は最長で約30分です。」


「背中にリュックのようなものを背負っているようだが。」


「おそらくはパラシュートだと思われます。」


「しかしこれでは武器は持てまい。」


「武器は体内に格納しているようです。ほら、この映像では右腕が銃に変化しているのが見えるでしょう。」


「こんな小さなボードで空を飛べるとは驚きだ。しかし、通常兵器で、例えば機関銃で落とせないことはないだろう。」


「当たれば落とせます。」


「というと?」


「高く舞い上がれば地上からの発砲はあたりにくくなります。」


「そんなに高く飛び上がれるのか?」


「彼らが呼吸や体温操作をコントロールできれば数百メートルでも可能です。」


「数百メートルなら私が狙えば当たる。だが狙える数がさほど多くなければだ。彼らの標的と対応策は?」その程度なら私の体内の装備でねらえる。


「目標は原子力施設か、または国の中枢、国会、ここ戦略室でしょう。対応策はいまのところ開発中のレーザー兵器と・・・」


みなの目線が私に注がれた。


「・・・・みんな私に期待しているようだが、私には飛行能力はない。我が国が同じような板を開発していれば別だが・・・・。」と私がいったところで別の技官が立ち上がった。


「その同じようなもの。いやより高性能なものを我が国ではすでに開発しています。ただのりこなすには、かなりの身体能力を要します。」


「敵は一体二体ではないだろう。どのように戦えというのですか。」


 戦いありきの議論が少しカンに障った。どうせ先頭に加わるのは私や私の夫であり、立案者や技官は本部でスクリーンを眺めて評論するのだろう。


「この飛行ボードの弱点は装甲がないということと、飛行が通常の飛行物体よりも不安定という事です。」


「それはこちらも同じ条件だろう。撃たれればすぐに墜落する。機械の不調でも墜落する。」


「そのためにパラシュートを・・。」


「パラシュートは有効な高度を下回れば間に合わない。」


「それではハングライダーを・・」


「そんなものもって戦えるか。敵が上から来たときはさらに上にゆかねばならない。開発するなら、飛行装置を担ぐムササビスーツにしてくれ。」


 ムササビスーツとは腕と足の間に丈夫なカーボン製の布を張ってムササビのように飛ぶ方法である。



「分かりました。」


 技術者はいとも簡単に承諾した。おそらくこうした注文が出ることを予想してある程度の開発はすでに進めているのだろう。日本の技術チームは優秀だ。だが政治的決断が邪魔して金が出ないことがあるだけだ。そういう場合には実績あるものが後押しするだけでいい。


「敵の施設はどの程度わかっているのか?」


「アメリカから提供されている監視衛星により、敵が出てくる位置が数か所判明しています。しかし、それ以外にも工場はあると思われます。」


「そこをミサイルかターミネーターで叩くことはできないのか?」


 ターミネーターとは爆撃機能を搭載した無人機である。


「ミサイルならおそらく可能でしょう。しかし我が国は専守防衛ですから、こちらから先制攻撃を仕掛けるわけにはいきません。ターミネーターでは近づく前に敵のカモメに撃ち落とされるでしょう。こちらに近づいてきた敵を現在開発中のレーザーで撃ち落とすのが精いっぱいです。」


「敵の基地をできるだけ多くみつけ、秘密裏に叩く必要があるなあ。」


 会議が終わった後、私は作戦室の隣にある窓のない部屋に向かった。


 ドアには第二課別室と書いてある知らなければ物置部屋と思って通り過ぎるところだ。


 ドアをノックすると中から返事があった。「どうぞ。」


 中では数名の職員がコンピューターに向かって作業していた。

 眼鏡をかけた背の高い男が責任者の篠崎中佐である。


「やはり、やるしかないようですね。」


「そうか。わかった。では地下の装備室に行ってくれ。必要なものは用意しておいてある。」


「感謝します。」


 私はエレベーターで更に下に降り、装備室に向かった。


 手術室のようなドアを足で蹴って開く。


「お待ちしておりました。」科学者3名が迎えた。


 私は白衣を来た若い科学者風の男の前でためらいなく衣類を脱いで裸体をさらし、慣れたしぐさでリクライニングシートの上に横たわった。


 ここで裸になる必要があるのかって?


 正直素っ裸になる必要はなかったが、頭脳を誇示したがる若い科学者へのけん制とでも言っておこう。まあこの若い男の子をからかってやろうという気持ちが働いた事を否定はしない。


 若い科学者は一瞬照れくさそうに目を落としたが、瞬きをしながら自分の仕事にとりかかった。


「少佐のお父様が作ったナノ技術は素晴らしいものです。生体と機械の接合部を安定させるだけでなく、人工皮膚の色や形態を変化させることができます。つまり、あなたの体表を覆っている大部分の皮膚を変化させることができます。」


「知らなかったわ。どうやって?」


「あなたがなりたいイメージを意識して、ア、オ、ウ、エ、イと発音してください。それがスイッチになります。」


「声が出せないときには、意識で音を念じてください。」


 私は妹の姿をイメージして、発音した。」


「・・・ア、オ、ウ、エ、イ・・・・・」


 すると顔や体中にむず痒い感覚が走った。


「どうぞご覧になってください。」


 若い科学者が自分の身体が写ったモニターを横たわった私の前に引き寄せた。


 そこには妹の姿をした私がいた。


「これから話すことは、デリケートな内容になりますがどうかお気になさらないでください。」


「なんでも話せ。」


「少佐の頭部は半分が最初の戦闘で破損されましたので、機械によって置き換えられています。機械といってもバイオメタルを使っていますので金属探知機、磁石には反応しません。


 さらに有機細胞をもとにして作成したコンピューターを使っています。顔の皮膚の大部分は消失してしましたので、大部分を人工皮膚にしなくてはなりませんでした。ナノロボットはこの人工皮膚と相性が良く、皮膚と人工筋肉の緊張を自在に変えてくれます。」


「つまり損傷された部分が多いだけ、化けやすくなったというわけだな。」


「い、いやその、つまり。」


「遠慮はいらない。」


「そうです。変装は顔認証、指紋、光彩認証のレベルまで一致させることができます。」


「その前提として、なり替わる相手の情報が必要だと思うが。」


「少佐にはこの女に変装していただきます。」モニターに相手の顔が映し出される。


「リー・ピョン・ジン?」


「はい。敵国のサイボーグ研究の第一人者です。」


「家族はいるのか?」


「結婚はしていませんが、母親と一緒に住んでいます。ほとんど一生をサイボーグ研究にささげています。彼女のデータを今転送します。」


 頭部の枕から頭へ彼女のデーターが入ってくる。私の脳は一部電子頭脳である、記憶容量とスピードは昔の私からは想像できないほど大きい。昔はかなり天然なやんちゃでだったが、今やノーベル賞を何個もとれるほどの知識と演算能力をもっている・・まあ、そんなことはどうでもいい。


「みかけはきゃしゃな東洋の女性といった感じだが・・。身長差があるな、少し。私の方が大きい」


 そういうやいなや私は手足の関節部分を調整し骨盤と胸郭のサイズを彼女に近づけた。


「髪は黒髪、ショートカットか・・。」


 自分の頭髪の色を金髪から黒に変化させ、長い頭髪が頭部に引き込まれてショートカットになる。


「こんなものか・・」


黒髪に変身




 室長の篠崎中佐がやってきた。裸体でリクライニングシートに横たわる私をみても眉一つ動かさない。見慣れているのか、同性愛者か?


 リー・ピョン・ジンはロボット工学教授の父と生体工学の研究者の母から生まれIQはなんと280。天才教育を受け、幼少期から国に尽くすために育てられた。


「最近の生活データはありませんか。」中佐相手には私だって敬語を使う。


「警護が厳しく入手困難なのです。」


「それでは話にならない。すぐにバレます。」


「彼女を拉致してすぐに彼女の脳データーを取り、それを君にインプットするほかない。」


「あっちに行ってそれをやる装置はあるのですか?」


「大使館の地下のラボにはある。」


 リー・ピョン・ジンは最重要人物であり、彼女には最高の待遇と警備が与えられていた。彼女とすり替わることは至難の技だったが、自宅に帰る時がチャンスだった。警護も薄く、接近しやすい。


 私はオペ台のようなシートから降り、下着をつけ、ちょっとおしゃれなワンピースを着てコートを羽織り、空港に向かった。

大使館に到着してからまず、大使館の情報員から情報を得てリー・ピョン・ジンの女性警護官に変身した。彼女の記憶を読み取り、すりかわって潜入した。本物の警護官は大使館に監禁した。未だに大使館があることが驚きだが、今度の作戦後には二国間の関係はさらに悪化するであろうから、大使館は撤収の準備を進めている。


 相手の脳の情報を読みとる技術は我が国の方が進んでいる。脳波と刺激を加えて帰ってくる信号の反応で、私生活、生育歴、癖や研究内容まで読み取ることができるようになっていた。


読み取った後どういうわけかこの警護官のこれからが気になった。警護官にも人生がある。手引きしたとなればこの国では処刑だろう。


「この警護官は日本へ連れかえって、普通の生活をさせてあげて。」 

 妙な同情心がわいて私はこの女警護官を救うことにした。この女警護官には家族はいない。日本に連れ帰っても人質になる家族はいない。彼女は洗脳され国に忠誠を誓っていた。日本の生活を見せ、この国の首領がやっていることを説明すれば味方になるかもしれない。


 警護官に成りすました私は、彼女の記憶にしたがってリー・ピョン・ジンに近づいた。他にも護衛が6人いたが誰も私が変装しているとは気づかなかった。


 私は彼女の住まいに忍び込んだ。彼女が自宅でトイレに入った瞬間、天上にセットされていた催眠ガスが噴霧され、彼女は気を失った。

 大使館付きの我が国の工作員が、トイレの後ろの壁を開いて、彼女をゴミ処理車に偽装した車にひきずり込んだ。そしてそのまま彼女を大使館に運んだ。


 変身した私はすり替わり、トイレに入り、何食わぬ顔でリビングへ、移動した。


 大使館の地下では、記憶転写装置で彼女の記憶を読み取り、そのデータを私の脳に伝送した。

 しかし残念ながら彼女もサイボーグ計画全体を知っているわけではなかった。どこの国でも極秘研究を行う場合には個々の科学者に軍事計画の全体を教えない。私が彼女から得たデータはサイボーグ研究だけだった。


 戦闘に特化したサイボーグは、想像以上に兵器をたくさん内蔵しており、戦闘能力は非常に高い。だが、耐用年数やサイボーグ化した人間のことなどあまり重視していないため、壊れたら捨てる。つまりは使い捨てだ。そのため機械部分と生身の部分の接合についての研究が遅れていた。 


 私自身は父が開発したナノ薬剤で驚くほど身体が楽になった。だがこのナノ技術はまだこの国には知られておらず、多くのサーボーグ兵士が機械との不適合で苦しんでいることが分かった。おそらく千体の兵士を作る為に一万人の兵士を実験台に載せただろう。失敗作は消去されている。


 私は、周囲の同僚に気づかれることなく作業しながら、手掛かりを探った。不用意にコンピューターを探れば怪しまれる。


「例のアルゴリズムはできたかい?」


 不意に上司に声をかけられた。


「ええ、できていますわ。」


 リー・ピョン・ジンの記憶から、アルゴリズム依頼の件を検索抽出する。こういった一つ一つのやり取りがうまくできないと、潜入はばれてしまう。


 上官は、しきりに声をかけてくる。どうやら、気があるらしい。邪険に扱うわけにはゆかない。


 敵の全基地のデータがほしい。おそらく極秘でごく一部の軍人しか知らない。端末から探ればばれる。どうすればいいのか。私は同僚たちに怪しまれないように仕事をしながら、全基地の探索方法を考えていた。


 この国の軍事上の指導者なら最高機密を入手できるだろうが、さすがに将軍の宮殿に忍び込むのは今は不可能だった。我が国の諜報員も将軍の宮殿までには侵入できてはいない。


 時間だけがむなしく過ぎていった。サイボーグの機能に関する機密に関してはほとんど入手できた。しかしその開発の規模がわからなかった。一部を倒しても、また製造されれば、元の木阿弥である。


 私が施設で捜査を続けている間、リー・ピョン・ジン本人は大使館地下のホテル並みの監禁部屋で過ごしていた。


「日本がうらやましい。」日本の状況を映像などで見せられ、リー・ピョン・ジンの心が揺れていた。彼女が将軍につかえるのは、反対すれば母親ともども殺されるからである。心から将軍に忠誠を誓っているわけではなかった。科学者は軍人とは違う。海外の文献を読みながら海外の文化に触れる機会がある。もともと頭が悪いわけではないからおのずと自分の置かれている状況がどれほど異常なのかもわかってきていた。


 最初の作戦ではリー・ピョン・ジンは元の仕事場に戻すことになっていた。ところが彼女は日本への亡命を希望し始めていた。


 大使館員が日本政府に打診したところ、政府は彼女の亡命を許可した。日本にとっても彼女の頭脳はメリットがあるとみたのである。 私は大使館からの電脳通信でその事実を確認。彼女を戻さない前提でありったけのデータを脳に詰め込み、逃げ出すことに決まった。


 逃げ道を確保し、幹部のコンピューターからハッキング。この施設から連絡をとって連携している基地が5つあることが分かった。更に探ろうとしたが、警報がなった。みつかったのだ。コンピューターはシャットダウンされた。今回はとりあえずこの情報を持ち帰り、作戦を立て直さなければならない。


 私はドアを蹴破り、廊下を駆け抜ける。普通の人間に追いつけるスピードではない。後ろで発砲する音も聞こえるが、音から弾道を計算して弾をよける。


 すでに門の近くに来ている。塀を一気に飛び越え、走り抜ける。車もバイクも追いつけない。今回私に装着された脚は前回よりバージョンアップしている。課題はバージョンアップするたびにやや太くなることで、私はそのたびに若い研究者をにらみつける。しかし今はそれに救われている。


 自分だけが逃げるのなら大使館までたどり着けばいい。だが、日本人だとわかれば国際問題に発展する。だから大使館とは違う方向に駆け抜けながら相手をまく必要がある。しかも変装がばれないようにしないといけない。


 敵が車だけならどうということはない。10体のサイボーグが、飛ぶ板に乗って追いかけてくる。


 しかし想定済みだ。


 私が大使館と反対方向に走り出したのは、その先に装着型の飛行装置を隠してあったからだ。街角のブロックを破壊するとアタッシュケース程度大きさの装置が姿を現す。私はその装置を背負う、操作は私仕様に電脳でできるようになっている。


 飛行装置のエンジンをかけた。


 装置から噴射が始まるとともに、白衣が派手な赤と紺のデザインに変化し、白衣手足の間に分厚いカーボン製の布が広がった。


救出



「なんてデザインだ。」


 あの若い科学者は私の要望に応え、見事ムササビ型飛行装置を開発した。この形では腕で武器の操作がしにくいが、スピードは板型よりも速い。つまり逃げるときにはこっちのほうがいい。


 私は海岸に向かった。水面すれすれを飛び、レーダーを回避し、日本の海域まで飛びぬける作戦だった。


 崖からシュッと滑り出し、海上数メートルをまっすぐに飛び始めた。瞬く間に背後のサイボーグたちを引き離した。


 このまま日本海に抜け、待機している潜水艦に拾われれば問題はなかった。


 だが、油断していた。


 数分飛び続けたところで、水面にサメの群れが現れた。


 「しまった。」と思ったときには、サメが飛び上がって右膝に咬みついて、私を水面下に引きずり落とした。通常のサメなら噛まれたくらいで破損する脚ではない。だが右足の骨格があらわになり、動かなくなった。


 このサメは敵国のロボットだったのだ。うかつだった。前の戦闘でサメロボットを使っていたことを計算に入れておくべきだった。前回はロボットというよりは魚雷に絵を描いたようなものだったが。今回は動きが実際にサメに似ている。


 海中に落ちた私は、何十体ものサメの群れに手足を咬まれ、引きちぎられようとしていた。


 私はとっさにウナギのように全身から放電してサメに電気ショックを与えた。電気系統を狂わされたサメは活動を停止して海底に沈んでいったが、私の四肢もサメの攻撃により半ば活動機能を失った。


 私の体内には海水から酸素発生させる装置があるため、生身の部分の酸素供給に心配はなかった。しかも非常時は人工肺に酸素を送り、浮袋として使って浮上することができる。


 しかし、サメロボットの第二波がすぐさま近づいてきた。放電を繰り返せば消耗するし、生身の部分が焼けてしまう。


 その時、聞きなれた声が耳に鳴り響いた


「懲りないねえ。」


「麗華あんた。」


「トリのお出ましだよー。」


 麗華が潜水艦で救援にきてくれたのだ。


 潜水艦のマジックハンドで私を回収する作戦である。


 「気をつけて!ロボットサメがいるのよ。」


 サメは私の回収を妨げようと、潜水艦に襲いかかっていった。


 サメロボットは潜水艦に体当たりし、次々と爆発していった。ロボットサメの得意技である。


 潜水艦はダメージを受け、浮上せざるを得なくなった。だが浮上したところを、こんどはカモメロボットが襲ってきた。


 潜水艦は上下から攻撃に会い、今度は沈没し始めた。


 敵はほとんど無傷で攻撃を仕掛けてくる。麗華の脳裏には一瞬戦闘で味方を失った情景がよみがえった。


 その時、後方に味方の駆逐艦が現れた。駆逐艦からは追尾型ロケット、パックマン3が多数発射され、カモメロボットを次々と落とした。そして鮫が襲ってくると追尾型の魚雷が発射され、サメを追い回した。


 水中では潜水艦を乗り捨てた者達が、回天に似た小型の乗り物でサメを駆逐し始めた。


 回天はかつての日本軍の捨て身兵器である。日本軍はこれを、サメよりも駆動性に富んだ、水中パックマンという多弾頭兵器を装備した水中スクーターに改造していた。これにより、複数のサメを撃退した。


 麗華もこの回天に乗り込み、私の側までたどり着いた。


「あらあら、見えてるわよ。中身が」

 中の機械部分が露わになった私をみて麗花が軽口をたたく。


「ん~見せてんのよ。」わたしも負けずに返す。


 軽口をたたきながら麗華はユキをマジックハンドでつかみ、駆逐艦に向かって私を運んだ。駆逐艦は次々と現れ、サメとカモメロボットの数は減っていった。



駆逐艦が5メートル先に迫った時、背後から最後の巨大サメロボットが猛烈なスピードで迫って私の下半身にかみついた。


 振り返った麗華は声を出す暇もなく顔をひきつらせた。


 父の予言が現実のものとなった。



 私は冷静に瞬時に下半身を切り離してサメに食わせた。


サイボーグVSサメロボット




 数秒後、サメは大爆発を起し、巨大サメロボットは粉みじんになった。下半身に装填してあるミサイルを遠隔で爆発させたのだ。


 「女の下半身は武器なのよねえ~。」


 私はまた後世に残る名言を吐きながら、駆逐艦に助けあげられた。


 麗華は無残な姉の姿に目を向けながら、下半身に肉体部分があったのではないと心配していた。


「姉さん大丈夫なの?」


「私のどこが生身かは国家機密よ。狙われるからね。」

 私は妹を安心させようとまたおどけてみせた。

 正直、女としてここは憂いを見せるところだろうが、潜水艦を失い、気落ちしている麗華の前で私まで憂鬱そうな顔をするわけにはいかなかった。考えても仕方がないことは楽しむことにした。新しい装備がつけられると思えばいい


 今回は潜水艦の乗組員の半数以上が犠牲になった。回天は優れた兵器とはいえ、サメロボットとは互角だった。いやロボットは無人。人的被害を被ったこちらは負けと考えていい。


 麗華も雪もこの報告を聞いた時に軽口を言えなかった。


「早く。戦争を終わらせなきゃね。」麗華がやっとの思いで言った。



 だが戦争は公式にはまだ始まってさえいなかった。



 下半身の修復をあの若い科学者にやらせたあと、私たち姉妹はまた故郷の父母に会いに行った。



「今回も犠牲が出たわ。」麗華が声を落とす。


「それは私たちの責任でもある。研究が足りなくてすまない。」父が頭を垂れた。


「水中での動きがあんなに悪いとは思わなかった。」私はサメロボごときに負けたことが悔しかった。


「サメロボットは水中戦闘に特化しているが、お前は人間だからな。」


「そうね。これ以上足が太くなるのも嫌だし。水かきつけるのもねえ。」そうは言いながら私はさらにバージョンアップした自分の脚を見せながらいう。


 今回セットした新しい脚の踵には実はスクリューが内蔵されている。


「やんわりとあの若い科学者に頼んだつもりなだけど、私をパワハラで訴えてきたのよね。」


「何したのよ。」と妹がにやにやしながら聞いてきた、


「あんたのせいでこうなったんだから何とかしなさいよっていいながらスリッパで頭を叩いたら、ちょっと力が入りすぎてむち打ちになっちゃったのよ。今の若い子ってやわなんだから。」と答えた。


 麗華は噴き出した。

「いや姉さん。腕も強化されてんだから気をつけなよ。」


「んー、そうね。」


「そういえばあなたの腕も少し太くなったね。」と麗華に訊ねると


「最近 女子も鍛えるのはやってるから。」と元気そうに返答したので安心した。


「なるほど。」麗華は憂鬱に引き込まれることなくなんとか持ち直したようだ。



 後日、私の得た情報から5つのサイボーグ基地が攻撃された。しかし残りにどのくらい残っているかはまだわからない。実はこれらの攻撃は一般の報道にはまだ公表されていない。


 つまりすでに戦争は始まっているのだが双方に都合の悪い部分があるので、戦闘状態であることを国民は知らされていないのである。


 国は福祉のための税金を増やすと言っているが、実際には福祉に当てられていた費用が巧妙に国防費に回されていた。

 

 本部に帰るとリー・ピョン・ジンが来ていた。


 「あなたが雪さんですか。」


 「お母さんを救えなくてごめんなさい。」私は気になっていたことをすぐに謝罪した。


 「私は日本軍に全面的に協力します。そして母を必ず救い出します。」


 リー・ピョン・ジンは日本に協力する見返りとして母親の救出を依頼していた。


 「私もお手伝いするわ。」側にいた麗華も協力を申し出た。私たちは固い握手をかわした。


 リー・ピョン・ジンと入れ替わり、その母親と接触している時に、母親の身体に特殊な染料によるマーキングをしておいた。そのマークは特殊な染料を使っており、衛星カメラで追うことができる。それで母親の所在が分かる。


 この国では研究者の家族が裏切った時、強制収容所送りになり、通常は処刑される。


 時間はあまりない。


 私は下半身の修復をしている間、電子脳で母親の行き先を探り、修復後すぐに潜入作戦を展開した。


 大使館は拉致に協力したとして、破壊されたが、大使館員はすでに国外に逃亡していた。大使館はもう使えない。


 強制収容所の警備員に内通者がいた。


 下半身の修復が終わると、私は再び現地に向かったが、今度は入国が難しい。


 反対側の闇ルートから変装して入国し、僻地の強制収容所まで飛行装置と加速装置のついた脚で近づいた。低空で飛ぶことで敵のレーダー網を回避した。


 情報によれば、リー・ピョン・ジンの母親は公開処刑されることになっており、その映像は全世界に向けて公表される。


 急がなければならない。なんとか収容されいてる施設の地域にたどり着いたが、警備が厳重で入り込むことができない。


 見かけは化けることができるが、記憶の転写ができないので話せばばれる。


 強制収容所は、日本の府中刑務所のように高い壁で囲まれていて、飛び越えて入れば警報が鳴る。入ることは簡単だが、その状態から救い出すことはできない。


 母親は独房に入れられている。しかも刑務所の奥深くで、外壁を破ることもできない。上空にはカモメ型ロボットが監視している。


 まず20機ほどあるカモメをなんとかしなければならない。警備しているのは軍だからバズーカも持っている。これらに対抗する策を練る。


 収容所の構造について、本部からデータをもらう。なんとリー・ピョン・ジンを警備し、亡命させていたあの女性警備員がこの収容所の情報を知っていた。


 本部の情報局はこの国のコンピューターをハッキングして、建物の構造を探り出した。


 地下三階、地上三階。母親が監禁されいるとしたらおそらくは地下だが処刑前には地上中庭に引っ張り出される。


 だがその時は全世界がみているという事で、警備はいつもより厳重だろう。敵の準備が整う前に救わねばならない。


 どこに監禁されているか、本部では地下三階の独房と記載されたデータがあったという。


 第二課別室の課長に連絡した。


「なんとか、攪乱できないかしら。強行突破は少しきついわ。」


「公開処刑の話を全世界にリークし、人道的措置としてそれを防ぐためということであれば無人機がとばせる。」


「しかし、科学者を拉致したことがばれて国際問題になってしまうのではないか。」


「リー・ピョン・ジンは母親を助けるためなら、協力してくれる。公開映像で、拉致ではなく、亡命であり助けを求めれば世論の指示を得ることができる。」


「すぐにやって頂戴。」


 仕事は早かった。1時間後にはネット配信。全世界でこの国の残虐さが知れ渡り、リー・ピョン・ジンが涙ながらに訴える姿に、敵国も動揺した。



 本部はアメリカと交渉し、人道的措置として無人の戦闘機を現地に飛ばし、この収容所の正門を破壊した。敵国の防備は正門に集中し、カモメはパックマン3によって撃ち落とされた。


 私は裏手から侵入し、地下三階の独房をさがした。部屋は多いが、看守室の端末で名前が確認でき、母親が監禁されている独房を発見した。


「リー・ピョン・ジンさんのお母さんですね。」


「はい、そうです。」


「いっしょに逃げましょう。」


 私は彼女に光学迷彩フードつきの防弾コートを着せ、本部の指示にしたがって敵の少ない脱出ルートを探索した。敵のカモメが群れを成して襲ってきたが、腹部に装填したパックマン3を投げつけて第一波を切り抜け、第二波を前腕のレーザービームでなぎ倒した。地下三階から地上まで彼女を背に担いで駆け上がったが、光学迷彩のおかげでなんとか切り抜け、少し離れた小籔にたどり着いた。


「これからが大変です。貴方を国外に連れ出さなくてはなりませんが、この板の上に寝てください。」


 私は背負っていた折り畳み式の担架に彼女をねかせた。


 「担架は私の電脳で制御されます。」というや否や少し浮き上がった。


 例のスリッパで頭をたたかれた若い科学者は、敵のジェットボードからヒントを得て、空飛ぶ担架を開発していたのである。意外に優秀だ。褒めてやらないとな。


「私はこの飛行装置で飛びますが、あなたの担架を国境まで誘導します。国境近くなれば味方の軍が待機しています。」


 二人は国境めざして移動し始めた。


 光学迷彩服を使用しているので気づかれにくい。


 途中何度かカモメロボットが上空を通り過ぎたが、光学迷彩を深くかぶって身を潜めただけで気づかれなかった。おそらくカモメは攻撃に特化して、銃弾や小型のミサイル兵器を内蔵するため、余計と思われる高度なセンサー類はとってしまったのだろう。


 国境には何重にも鉄条網が張り巡らされているが、山奥であり、さすがにカモメロボットもいなかった。


「もうすぐです。」


 私は彼女の担架を鉄条網のむこうがわに送り込み、あとは自分が乗り越えれば任務完了というところだった。


 だが、次の瞬間背後に衝撃が走った。

 迂闊にも空中を浮遊するたった一騎のサイボーグに撃たれたのだ。


 飛行装置が破壊され、私は地上にころがり落ちた。敵は空中をとびまわりながら腕を変形させた銃で打ち込んでくる。私は前腕からせり出したビーム銃で応戦するが、動きが早く、当たらない。


 こちらの他の銃器の弾はすでに使い果たしている。前腕ビームしか武器がない。


 右に左に敵は回り込み、私は高速で相手の攻撃をよけた。


 「は、速い!このサーボーグはほかのと違う。」


 よく見るとボードではなく、脚からジェットが噴射しているようにみえる。敵国はついにボードなしで空を飛ぶサイボーグを開発したのだ。


 私は岩陰に隠れたがじりじりと追い詰められた。


 一発の弾丸が腰に当たり。下半身の動きが鈍った。高速移動は封じられた。


「クソっ」


 敵はにやりと笑った。どうやら私を生きたまま捕えようとしているらしい。


 敵の右手が銃の形に変化し、銃の先端がこちらに向けられたところで、私の意識は途絶えた。



 気が付いた時、私はキリストのように貼りつけにされていた。キリストと違うのは、私の下半身が、なかったことだ。

 

 敵の研究室らしきところで、やけに汚らしい。まるでバイクマニアの修理小屋だ。


 さっきのサイボーグが、盗撮魔のように下から覗きこんでいる。


「この変態ヤロー」思わず私らしからぬ下品な言葉が口をついてでた。


「ああ、すまん。修理しようと思ってな、動かないでくれ。」


 私の身体には国家機密がつまっている。敵に渡るくらいなら、自爆しなければならない。


「最初に言っておくが、私は敵ではない。軍に所属していない。」

 男は私の下からドライバーらしき道具を突っ込みながら話をしている。

 

「じゃなぜ攻撃した。」


「君が速かったから止める方法がなかった。」


「なぜ戦った。」


「説明する時間すらなかった。」


「早くもとに戻せ。」


「わかっている。君の国の技術は、やわだが繊細すぎて応急処置しかできない。」


「女の体は繊細なんだ、とにかく、下半身をなんとかしろ。」


「いまやっている」


 無骨な手で下腹部を探られるのは気持ちが悪い。だが事情がはっきりするまで自爆は、思いとどまった。


「お前は脱走サイボーグか?」


「まあ、そういったところだ。」


「ほかのサイボーグとは性能が違うようだが。」


「ああ、試作段階で逃げ出した。」


「よく逃げられたな。」


「能力を高め過ぎようとしたのが、裏目にでたんだな。」


「脳内に命令を受信して実行させる素子を埋め込まれなかったか?」


「当局はいつぞやの君たちの攻撃で、脳内素子が弱点になると知り、脳内素子なしで軍を組織する方法を模索していた。その過程で、・・・まあ失敗作である私が生まれたというわけだ。」


「軍と敵対するということは、亡命を希望しているのか?」


「いや・・・・」


「では、我が国の敵という事か?」


「自分の国を立て直そうという人間は、お前の国では敵なのか?」


「いや・・・」


「一般的な用語でいえばレジスタンスという事になる。」


「しかし、一人で?よくみつからないな。」


「俺の頭の中には国の探査技術がすべて入っている。その上を行くことはそう難しくはない。」


「・・・簡単に信じるわけにはいかない。私を狙ったのだからな。」


「それはすまないと思っている。しかし、実力が近接していると、相手にダメージを与えないで捕獲するのが難しいという事はわかるだろう。」


「それは理解できるが、脳内通信はできないのか?」


「そちらの電話番号がわからなかった。あんたの脳のガードが固くてね。」


「まあそうだな、簡単に教えるわけにはいかない。」脳内通信を許せばハッキングされるリスクがある。


 話を聞き、表情を分析する限りでは、嘘ではなさそうだった。彼は研究の出来損ないとして生み出され、自立して国を再建しようとしているのだ。


「何を話したかったのだ?」


「肉体との接合部が痛む。君の国ではその問題をどう解決したのだ。」


「国というより父が研究者で、ある技術を開発してくれた。」


「それは?」


「簡単には教えられない。お前を信じられない限りは。それだけか。」


「この国を変えるために手伝ってもらえまいか?」


「私の一存ではどこまで協力できるかわからない。私は軍の人間だ。組織の一員として動くことが義務づけられている。」


 偉そうなことを話してはいるが、私の下半身はないままで、腰から下をまさぐられているのだ。上から目線で話している場合ではないのだが、せめてそのくらいしないと、自分の立ち位置が保てない気がしたのだ。相手が比較的紳士的にふるまってくれているのが救いであり、それは認めてやらなければならない。


 無骨な男が下から言う。

「お前の国を全面的に信用することはできない。お前の国はアメリカの奴隷ではないか。」

 

 こいつは国家に不信感を持っている。物事を個人のレベルで考えるか、国家のレベルで考えるかはそれぞれだが。両者は根本的によって立つところが違う。普通話し合っても理解し合えない。


 だが、実はなにを隠そう私も脳内素子が破壊されてから、こいつと同じく物事を必ずも国家レベルで考えてばかりはいなかった。


「国は奴隷でも、私は奴隷ではない。」


「ほう?」


 奴の手が止まった。


「君は軍の士官でありながら、個人として動けるのか。」


「場合によってはな。」


「では、私に手を貸すこともできると?」


「内容による。」


「内容とは?」


「戦争を望んでいない。平和的な解決を望んでいる。」


「平和的に奴隷になれと?降伏せよと?」


「そんなことはいってない。だがアメリカと事を構えて本当に勝てると思っているわけではないだろう。」


「もちろん、わざわざアメリカに戦争を仕掛けるつもりはない。しかし向こうがスパイを送り込んで国家の転覆を図ろうとするのであれば話は別だ。」


「それも時と場合によるだろう。国家は誰のものだ、国民は誰かの所有物なのか?違うだろう。お前の国も独裁的将軍がいながら民主主義が標榜されている。国民は将軍の奴隷ではない。つまり国民は将軍のものではない。国家として度が過ぎれば、アメリカでなくても私は口を出す。」


その時急に私の下腹部でキューンという音が鳴り始めた。


「よし、これでいけるだろう。」


 腕が括りつけられた私の十字架はゆっくりと横たわり、傍らにあった下半身が接合された。


「本当はそんな拘束、すぐはずせるんだろう。」


 彼が言うや否や、私は腕拘束を引きちぎって立ち上がった。


「まさか衣類をはがしてないだろうね。」


「実は・・」


「はがしたの?」


「興味はあったが後が怖いのでやめておいた。」


「さっきの話の続きをしましょう。」


「その前にひとこと。一応応急処置なので、破損箇所はありあわせの部品でつないである。無理はするなよ。引きちぎれる。」


「それはなに、自分には勝てないぞっていう脅し?」


「おいおい。もう立ち回りはごめんだぜ。」


 そういいながら男はアルコールをあおった。


「痛いの?」


「うむ。アルコール飲まないとやってられない。」


「もし貴方の言う事が本当で協力関係を築けるならば、絶対に相手に秘密を洩らさないという条件で接合部分の秘密を教えるわ。」


「それを教えてくれるなら、全面協力する。ただし、立て直した国がお前んところのようにアメリカの奴隷になったのでは意味がない。」


「奴隷は言いすぎよ。」


「じゃあ犬。」


 私は苦笑した。一理あるからだ。


「で?作戦はあるの?立て直す。」


「君はリーピョンジン脱出の時、変身しただろう。」


「あら、知ってたの。」


「ああ、ハッキングして待っていたんだからな。」


「じゃあサイボーグの開発拠点すべてわかる?」


「さすがにそれは将軍と一部の幹部しかしらない。」


「だから君が将軍にハニートラップを仕掛ければ、情報だけでなく国を動かせる。」


「まあ、それが有効だってのはわかるけど、私にはこれでも夫がいるのよ。」


「なに?どうりで精密な下半身だと。」


「ゲスヤロウ!」


「ん?なに?翻訳不能とでたが。」いまさらながら、お互い違う言語を翻訳機を介して話していることを思い出した。


「まあいい。とにかく、変身で近づくのはいいが、ハニートラップには限界がある。」


「気にいった。一戦を超えないで将軍に近づく。」


「そこからが問題だろ。情報がどこにあるかだ。」


「将軍の頭のなかだな。」


「将軍を転写装置にかけるということか。」


「なんだそれは?」


「相手の記憶をデジタル化してこっちの脳内に転送する。」


「お前の国の技術は驚きだな、でその転写装置の大きさは?」


「特殊なへッドギアとソフト。PCだが、処理速度と早く容量が大きくないとだめだから。」


「研究室レベルのやつか。」


「そうね。」


 ぞの男はしばらくの考えこんだ。


「この国ではそんなコンピュータは軍事施設でないとないな。」


「もぐりこんで使うのは現実問題として無理ね。」


「将軍と接触すること自体が難しい。ガードが硬すぎる。日本のバックアップがほしいな。いいか?」


「ああ。」


「ただし約束だ。我が国を日本の属国にはするな。」


「政府が介入すれば、私の力だけではどうにもならない。かつて第二次世界大戦の時も石原莞爾という陸軍の策士が大陸の民族を救おうとしたが、軍に横取りされた。」


「結果がどうなるかではない。お前がどう考えるかだ。お前がこの国の再構築を考えるなら、それにかけてみたいと思っている。結果がどうなろうとそれはいいのだ。」


「・・・なに。お前私に惚れたのか?」


 笑いながら、酒をあおる。


「ん。やっぱり、布切れはがしておくべきだったな。」


「馬鹿野郎。」


 私は奴の尻めがけて回し下蹴りを放ったが、軽々とよけられた。




 私は直ちに本部と連絡を再開した。


「なに?その怪しげな男と宮殿に忍び込むだと?無茶だ。」


 篠崎中佐は反対したが、私が頑固であることをよく知っている。


「君の場合はあの素子が頭の中に入っていてちょうどいいんだがな。」


「二度とごめんよ。」



 麗華が心配して通信に出る。



「姉ちゃん、また変な男ひっかけて。ダディが泣いてるわよ。」


「一線は越えてないと伝えておいて。」


「自分で言いなさい。」そう言って麗華は夫と通信を替わる。


ユキあまり無茶をするな。サーボーグ機能を過信するんじゃないぞ。」


「ごめんねダディ。来週には帰れると思うわ。」


 

 家族との一通りの会話を終えて、今回の相棒の顔をしげしげと見た。


「ところであんた名前なんての?」



狙うタイミングは晩餐会。ホステスとして忍び込み、将軍に接近する。宮殿のホステスの出入りは厳重にチェックされていたが、金を渡してすり替わった。仕事と仲間の性格やり取りなどをできるだけ細かく聞いいておいた。記憶の転移装置があれば楽なのだが今回はないからだ。


「あとで返せよな。」チワイと名乗った相棒が金を渡したあと、私につぶやいた。


「日本政府がついてるわよ。福祉の名目で吸い上げた血税だけどね。」


 晩さん会が始まり、将軍にわたるワインには媚薬を混ぜる。実は私の薬指には潜入用に媚薬が装填されている。ワインを飲んだ将軍の目つきは見る間にうつろに変貌してゆく。


 将軍は我慢できなくなって退席し、部下に命令をする。


 相手をする女性を連れて来いというのだ。


 晩餐会の途中で退席してまで、別室で行為に及ぼうとする。


 ゲスノ極み


「なに?」


 ここまで得意のハッキングで誘導してくれた、チワイが聞き返す。やつの翻訳機には過去の日本のスラングの一部が欠けているようだ。


「いやなんでもない。それよりこっちの電話番号をおしえたからといって、ハッキングしようとしたら、貴様の脳を焼き切るからな。」


「おい、女が化粧室にはいるぞ。」


 指名された女がはいる化粧室は給仕のとは別のところにあり、女性の軍人が護衛についている。すり替わろうとしたが、隙がない。護衛を倒せば護衛官理者同士相互に連絡をとっているので気づかれてしまう。


 私は光学迷彩を使って将軍の後をつけ、部屋に入り込んだ。すぐに女がやってきて部下が退出するや否や、将軍は女をベッドに押し倒し、衣類を着たままズボンを下げて、のしかかった。


 騒動を起こしたくない私は、部屋のすみで事が終わるのをまたねばならなかった。


 将軍は狂ったように何度も行為を重ねたが、やがて疲れたようにベッドに横たわった。


 20分ほどして薬の効果がきれると、将軍は接待中であることを思い出し、女に退出を命じ、服を整え始めた。


 私の右手の第三指には自白剤が装填されている。女が部屋を出た次の瞬間、将軍をうつ伏せにおさえこんでまたがり、自白剤を首に打ち込んだ。


中指の武器



「サイボーグ開発の拠点は何カ所ある?」


「35箇所」


「全部いえ」


 将軍は酩酊状態で拠点をあかす。私は電子脳にその情報を刻みこむと同時に本部にその情報を送る。


 最後に戦いの切り札を聞く。


「奥の手は?」


「サイボーグに内蔵した核兵器で都市を壊滅させる。」


「なに?」


「小型の核兵器を開発しているのか?」


「試作機に搭載したが、逃げられた。」


「そいつの名前は?」


「チワイ3057Bと呼ばれている。」


「!」


 相棒と思っていた通信の相手、チワイが、つぶやく。


「私だ。」


「何故話さなかった?」


「いうタイミングがなかった。亡命しなかったのはそのためだ。俺が亡命すれば、いつか迷惑がかかる。」


「わかった。信じよう。」


「え?これはまた簡単に・・許してくれるんだな・スパイだったらとうするんだ。」


「お前の音声を分析して嘘でないことがわかる。しかも作戦中だ。疑えば私が命を落とす。他に聞き出すことはないか?」


「核以外になにかあるか聞いてみてくれ。」


「ほかになにかあるか?」


 将軍は流延を流しながらうつろな目でいう。


「サリン部隊、VXガス部隊が準備されている。すでに日本・アメリカには潜入部隊が潜んでいる。」


 私は驚かなかった。平和の国日本は潜入天国でもある。この国のように潜入に対して厳重にガードがなされていない。


やりたい放題なのだ。これはやっかいだ。


 その時、ドアがノックされた、部下が呼びに来たのだろう。


「誰か来たようだ、そろそろ撤退する。」私は再び光学迷彩で身を包み、部下がドアを開けて入るタイミングで出ていく。


入るときは厳重だが出るときはガードが甘い。


 ただ相手がサーボーグなら見つからないようにしなければならない。彼らの中には義眼の特殊な機能で光学迷彩を見破るものがいる。


 相手がサイボーグかどうかは私の方からは自分の義眼と電子脳で見分けがつく。出入り口に構えているのがサイボーグである。しかも義眼を持っている。そうなると騒動を起こさず切り抜けるのはかなり難しい。


「私が騒動を起こす。」


 チワイが門の外側に遠隔の鳥型ロボットを飛ばした。敵もカモメロボットを用意していたが、チワイのロボットは燕型でスピードが上回る。


 こいつ、技術も優秀だな。燕ロボットはカモメロボット3体の間をぬって、出入り口近くに小型の爆弾を落とした。


 これで義眼のサイボーグは持ち場を離れた。


 私はこの隙に宮殿の外へ出て、義眼のサイボーグに見つからないよう門に向かった。


 だが門までの距離は100メート以上ある。私の足では1秒かかる。



 義眼のサイボーグは私が走る音で気づいたらしく、顔をこちらに向けた。


 高速で駆け抜けると義眼のサイボーグも高速で追いつこうとする。


 宮殿で警護しているだけあって優秀なサイボーグだ。スピードは互角。


 門をでる一歩手前で、腕をつかまれた。  


 だが腕をつかんだのが運の尽きだ。私の腕は兵器満載。瞬時に腕からレーザーが飛び出して、目の前のサイボーグを破壊した。


 捕まえようとせず遠くからでも銃で狙えばよかったものを。

 もっとも銃で狙ったところで私はよけるだろう。まあ、それが分かっていて私を捕まえようとしたんだったら、その点はほめてやりたい。


 門を出れば後はカモメロボットしか敵はいない。宮殿内のサイボーグがボードで押し寄せてくる前に、チワイが待機している車に乗り込む。チワイの車はこれまたただの車ではない。一種の装甲車で近寄るカモメをことごとく撃ち落とす。


「敵のサイボーグ部隊が追ってくるのでは?」


「彼らの脳にはまだ例の素子が入っている。私はあの素子に命令が伝わるのを阻止する技術を開発した。一種の妨害電波を発するのだが、君たちが徳之島で使った兵器を改良したものだ。あれはエネルギーを食うが、私が開発したものは車のバッテリーで稼働する。相手の素子を破壊する威力はないが、一時的に機能を混乱させる力がある。それを宮殿のまわり12か所に設置しておいた。」


「お前ほんとに優秀だな。」


「お、信じてもらえるかな?」


「技術と誠実さは一致しない。」


「それは日本のことわざか?」


「私の名言だ。」


「あいわかった。」


 車は時速200キロで街を走り抜けた。


 だが、このまま基地と呼ばれるあの山小屋に帰ることはしない。


「おい。将軍は開戦宣言をしたぞ。」


「私がきっかけになってしまったか。まずいことをしたな。」


「しかし、君も政府の指示で動いたんだろう。」


「ああ、おおむねな。」


「おおむね?」


「戦闘は現場の判断に任される部分がある。隠密裏に動ければよかったのだが。」


「将軍はあの刑務所での負け戦を全世界に知られたのが、頭にきたらしい。」


「それもあの母親を救い出すためだった。」


「一人のために、しかも敵の母親を救うために戦争を起こしたってことか。」


「地獄への道は善意で敷き詰められているな。」


「辛いことをいうな。」


 正直さすがのタフな私もこれにはこたえた。開戦責任は私にある。大東亜戦争の石原莞爾の心境がわかる。


 戦争はいやだが、やむに已まれぬ行動が戦争の糸口になる。


 車はロシエの衛星で探知され、情報は、将軍の耳に入る。


 将軍は必死で我々を追う。


「何か方法はないか?」



 日本国内が心配だ、潜伏していた敵がサリンなどばらまきはじめるだろう。


 将軍の頭には、潜入者の細かいデーターまでない。生身の工作員をふくめると相当数にのぼるだろう。


「開戦宣言は、まだ宮殿内でととまっている。」

「なに?」


「サイボーグ素子を妨害する電波は、将軍の命令系統も妨害する。ただ宮殿外の周りにおいた装置が破壊されたらそれまでた。」


「ならばもどるしかない。」


「それは無謀だ。」


 その時だ、麗花から連絡がはいった。


「今回は姉ちゃんボロボロになる前にきたから。」


 外を見ると麗華が飛行装置を付けて飛んでいる。


「危ないわよ。待機してなさい。」


「なに母さんみたいなこと言ってるのよ。」


 チワイが介入する。


「君の妹か?」


「そうよ。生身なんだから危ない。」


「まあそうだがここは味方が多い方が勝算はあがる。」


「こんちわチワイさんね。無線で話は聞いているわ。作戦は?」


「今考え中よ。」かわりに私が答える。


 チワイは車をターンさせた。



「とりあえず車に乗りなさい。飛行装置のバッテリーを無駄にしないで。」


「オーケー」というや否や、麗華は着地し、車は麗華を載せた。


「チワイさん思ったよりでかいのねえ。」


「初めまして。君はサイボーグではないのでお姉さんが心配しているようだが。」


「姉さんこそ心配なのよ。」


「何いってんのよ。家で泣きべそかいてたくせに。」


「そ、それを、初対面の人の前でいう?」


チワイが仲裁に入る。


「ま、それはおいておいて、作戦は?敵は30体近くのサーボーグとカモメがいる。武装した兵は数知れず。中国の武侠映画ならいざ知らず、突破して将軍の命令を阻止し続けるのは不可能に近い。」


「何事も最初から決めつけるのはよくないわ。」


 麗華が背中の飛行装置の横から小型の機器を取り出した。


 小型の電磁バルス爆弾よ。これで先ず、通信回線は破壊する。


「私の身体にも影響するな・・。」チワイが言う。


「そう。だから離れていてほしい。姉さんの身体はバイオメタルとバイオコンピューターで大丈夫だから・・・」


「チワイあんたが直した部分は大丈夫なの?応急処置とか言ってたけど。」


「え?」


「こいつが私の身体の一部を修理するときに通常の電子部品を使っているとしたら動かなくなるわ。」


「・・・すまん」


麗華の顔がくもる。


「じゃ、使えないわこの案。あたし一人でやるわ」


「それは無謀すぎる。」雪とチワイが声をそろえていった。


「だってあなたたち二人が入ったって機能しないんじゃだめでしょ。」


「それを使わないで突破する。」


「突破した後どうやって止めるかよ。」


「将軍を殺して入れ替わる。」チワイが言った。


すかさず雪が言う。

「それをやっていいならとっくにやっているわよ。将軍を暗殺することは禁止されている。」


「なんだそれは?」


「昔、張作霖という将軍を軍が卑怯な手で殺したことがあったのよ。軍はそれを隠そうとしたけど結局ばれてね。」


「それで?」


「総司令官が大臣にやめるよう言い、大臣は辞めたんだけどしまいには気を病んで自殺したの。」


「だって戦争だろ。」


「混乱した時代だったからだけど、節度があったのよ。そして私にもある。」




 



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