今日も空が青いのは(百合。モブ男子出ますが、すぐ退場します)
「お前、美人の隣にいて恥ずかしくねぇの? 女ってよく美人のこと僻むじゃん!」
そう言って不躾にからかって来たクラスメイトに、
「馬鹿ね。女の方が、美人好きよ」
彼女は、さらっと返した。
背が高く、肩幅もしっかりした彼女は、キリッとした精悍な顔つきもあいまって男性のようにも見える。それが私には羨ましく映っても、彼らウケするかと言えば、しないのも確かだった。
だからこそ、からかってやろうとしたのだろうけど。
「え……?」
「決まってるじゃない。だいたい、アクセサリーだの服だの置き物だの、女は綺麗なものを見るのが大好きなのよ、知らないの?」
彼女は、動じずに淡々と述べる。
ただの事実を。
「人だって、同じ。そこに綺麗なものがあれば、そりゃあ眼福ってもんよ」
それから、肩を竦め、くすりと笑った。
「あなただって、『清潔感なんてまるで気にしません!』みたいなむさくるしい男子よりも、天使と見紛うばかりの男子がいたら、眼福眼福って思うでしょ? 女もまるっきり同じよ」
「!」
彼は、そそくさと教室を出て行った。
彼女は別に彼のことを指したわけではなかっただろうけれど(何故って、先ほどの言葉が真実だからだ)、『清潔感なんて』と言ったときに、周りのクラスメイトが明らかに彼を見てクスクスと笑ったからだ。
「……ありがと」
「別に、アンタのためじゃないけど?」
「でも、前にアイツに陰口叩かれたから」
「そ」
あいつは前に、私のことを「東は可愛いけどさ、絶対青島のこと引き立て役として連れ歩いてるよな。そういうとこ性格悪くね? 付き合うのは無理なタイプ」と言っていた。
勝手な憶測で。
ありもしないことを言って。
げらげら笑う。
その品性に吃驚したのと同時に、全く違う『私』を私として話していることにムカついた。
「お前、何様だよって」
「思ったわけだ。アイツに」
「うん」
隣の彼女を見上げる。いつだって、彼女は真っ直ぐに私を見てくれる。
「だって……」
くい、とそんな彼女の……青ちゃんのシャツの裾を引っ張った。
「青ちゃんが、誰より美人で恰好良いの、私知ってるんだから」
彼女と遊びに行くとき。
彼女にメイクを施すのは、私だ。彼女の服を選ぶのは、私だ。
だから知っている。
どれだけ彼女が美しいか。恰好良いか。こんなダサい制服姿じゃわからないくらいの、魅力的な彼女を。
「……うん」
青ちゃんが、ふ、と目だけを綻ばせて笑う。
それが、あまりに恰好良くって。
「は~~~~」
私は盛大にため息を吐いた。
「どうした?」
「私は、自分の心の狭さが悔しい」
「心の狭さ?」
「だって……青ちゃんのカッコいいとこは、私だけが知ってたいって思ってるんだもん……!」
もちろん、制服だって、着こなし次第ではもっとより良く見えるのも知っているし、メイクだって(先生にバレないレベルでだけど)控えめに、けれども良さをわからせるようにすることはできる。
でもそれを敢えてしないのは、私のエゴだ。
彼女を独り占めしたいと願う、どうしようもない私のエゴなのだ。
「可愛いもの恰好良いもの素敵なものはすべてみーんな平等に分かち合うべきってわかってはいるんだけどわかってはいるんだけど」
「ふふっ」
彼女が、いきなり笑い出した。
「青ちゃん……?」
「いいんだよ、そんなの」
それから、私の肩を抱いて、
「私は、アンタだけの『カッコいい人』でありたいんだから」
耳元で囁いた。
「!」
そのあまりに恰好良すぎる仕種。
「わーん、青ちゃんカッコいい! 好き!!」
「はいはい、知ってるよー」
思わず抱き着いた私を、難なく受け止め、彼女は高らかに笑う。
ああ。
今日も私の彼女が、誰よりも尊い。
きっと今日の空が美しく青いのも、すべては彼女のためなのだ。
END.