王宮から追放された無能な悪役令嬢の私はSSS級王子に告白されて聖女スキル覚醒。戻ってこいと言われても、もう遅い。あの王宮の陥落をほのぼのと見届けます
「アマエ・レキシード。 我が第一王子、アルファ・マイルドとの婚約を破棄。 子爵令嬢の権威を剥奪し、この国から永久追放する」
「えっ……」
国王の言葉を聞いた瞬間、私の表情は真っ青になり、苦悩に満ちた。
「な、なぜ私がこんな目に合わなきゃならないんですか…!?」
「お前は私が溺愛する息子、アルファの食事に毒を盛り、あまつさえ殺そうとした。今は昏睡状態ではあるが、意識が戻るかはわからん」
「私はやっていません! 信じてください!」
「ここまできてまだ言い逃れするか。 もう聞き飽きた、兵士たちよ。 この者を連れていけ」
国王の間から多くの兵士たちが現れ、外へ追い出されそうになる。それを外野からパーティーに招かれた人たちが冷ややかな目で眺めている。ひどく私は気持ち悪くなった。
「お気持ちお察しします。 エキサエ・レキシード様」
「ええ、まさか私の姉が第一王子様に毒を盛るなんて…」
メイドに慰められている横で泣いている彼女は私の妹だ。私たちは子爵令嬢の姉妹で、エキサエは〝聖女〟としても有名だ。
私には、第一王子に毒を持った犯人が誰か、瞬時にわかった。妹は、私と第一王子が結ばれることが憎かったのだ。
妹は小さい頃から、私の陰に隠れ、様子を伺い第一王子と私がお茶会で話しているところをずっとそばで見てきたのだ。きっとその中で第一王子の魅力に取り憑かれたのだろう。
そして、彼女は死なない程度に第一王子の口にするものに毒を入れ、昏睡状態にさせてのちに自分のものにする計画を立てたのだ。この日が来る前に聞いた噂話でしかないが、これはただの推測だ。
私は国王の間から追い出された後、パーティーの前に通された客間で待機させられた。抜け出せないように窓と扉には鍵がかかっている。私はため息をつきながら、ベットに疲れるように座った。
パーティーの賑やかな音が消えた真夜中。客間の外にある廊下から国王とエキサエらしき会話が聞こえてきた。
「私の息子の妃にさせるのは気後れしておったからな。 世の情勢も分からん、あのおぞましい娘1人にこの国を統べさせることはさせたくはなかった」
「私の姉はとんでもない悪女です。 第一王子を使えない身体にさせておいて、ご自分のみでこの国を裏で操ろうとしていらっしゃったのではないでしょうか。 それ以外、毒を盛る理由が見つかりませんわ」
「そうだな…私の息子にも悪いとこはある。 昔から、女性を見る目がなくてな。 淑女たるものが何かとまではまるでわかってはないのだ」
「大丈夫です。 その第一王子のそばにはこの〝聖女〟の私がずっといますわ。 ここはひとつ、アルファ様の看病をお任せいただけないでしょうか?」
「ああ、任せた。 あの虫図の走る娘をこの国から追放して正解だったな」
「はい。私の姉はもう昔の姉ではありません。 ただのゴミ女ですわ」
随分、蔑んだことを言ってくれると思った。この調子だと、国王もこの事件に関与、もしくはグル?なのかもしれない。
どっちにしろ王子のことが心配だし、私はこの国を追い出されるしで言うまでもなく、絶望感で胸の内があふれていた。
***
「ほら、門が開いたぞ。 さっさと出て行け。 この犯罪者」
「痛っ…!!」
国璧の外へと放り出されてしまった私。外は、大きく広がる大草原が待っていて、どんな盗賊やら暴漢やらいるか分からない怖い世界だと私はすでに知っていた。
だからこそ、死の次に刑が重い「追放」という手段をもちいられたのだ。旅するにも、なんのユニークスキルも力も持ち合わせていない無実の私にとって、これ以上もない重い罰だった。
「いてて…なんで、何もしていない私がこんな目にあうんだろうなあ」
国璧を守る門番に無理やり追い出され、尻もちをついた私は仕方なく、何があるか分からないがこの先にある隣の国。ユーザール王国を目指して歩き出した。
少し歩いた先で誰か行き倒れた人影が見える。旅は道づれとも言うし、心配になりそばに駆け寄っていく。
「み、水……」
「は、はい! 私の持ってる水を飲んでください!」
ゆっくりと、持っている水を飲ませるがゴホッゴホッと息苦しそうに吐血し始める旅人。
どうやら、肺に骨が折れて突き刺さってるらしい。素人でもそんな予感がした。
「どうしよう…私にはあなたを救えるユニークスキルは全く持ってないし…」
「き、君のその白い髪色と青い瞳は…まさか〝聖女〟様なのか…」
「私の妹は聖女で人の傷を癒すスキルを持っていたけど、私はただの人間で…」
「祈るんだ…この地の神と恵みに…祈りを捧げるんだ…」
私は言われた通りに、両手を握りしめ、この地の神に願うように祈りを捧げた。小さい頃、妹の真似をしながら、よく祈っていたことを思い出した。
「だ、ダメ。 私にはできない! 血は繋がってたとしても、とても〝聖女〟の力なんて…」
そんな時だった。心の中からこの地の神様の声が聞こえた気がした。
(罪なき子よ。 あなたに幸運と、〝真の聖女〟の役割を与えましょう)
瞬間、天から一筋の光が私めがけてほとばしる。そして怪我をした旅人の傷をその光で瞬く間に直し、癒すと。柱ような形をした光は、ゆっくりと消えていった。
「…なんだったの…今の光は?」
「す、すごいよ、君。 やっぱり、聖女の血を引く者だったんだね」
「わ、私が?」
今まで、いくら祈ってもスキルを使えなかったのに、今日いきなり〝聖女〟の力を使えるようになったのだ。
これはいわゆる、「覚醒」というものじゃないだろうか。
「名乗り遅れて失礼。 私の名前は、ベータ・シクレイという者です。 この先にあるユーザール王国の第一王子なんだ。 よろしく」
ただの旅人だと思っていたが、彼は隣の国の美しい第一王子だったのだ。髪はサラサラとした金髪で、瞳は純粋無垢なベージュの色をしていた。なんとも爽やかで、カッコいいイケメンなのだろう。
私の視線は彼の魅了する瞳に吸い込まれていた。
「私は、アマルフィー王国から追放された子爵令嬢の1人、アマエ・レキシードと言います。 以後、お見知り置きを」
「とりあえず、いく場所もないだろうから、私を救ってくれたお礼に、城に案内しよう。 さあ、馬車に乗って」
「はい!」
***
「なるほど、君はそれで無実の罪で、生まれ育った地から追放されてしまったわけか」
「はい、今までの私の行いが悪かったのでしょう…」
全ての事情をベータ王子に説明した。無実の罪とわかった上で、土で汚れたドレスや靴を新しいものへと変えてくれたり、お腹をすかしていた私に食事を与えてくれたりと、なんて優しい方なんだろうと思った。
でも、優しいからこそ、そこにつけ込んで甘えたりは出来ない。私は、感謝しながらもここを早くも去ることを決意した。
「今日は何から何までありがとうございました。 でも、あなた様方に迷惑をこれ以上かけるわけにもいきません。 私は旅の続きへと戻ります」
「待ってくれ。 君がいることが迷惑なんてとんでもない。 むしろ、助けてくれたことに感謝しきれないほどさ。 君は私の命の恩人だからね」
「ですが、助けてもらった私には何も恩返しは出来なくて…その…」
「大丈夫。 私が君の婚約者になれば、君の恩返しはそれで済むよ。 私ではダメかな?」
「婚約者なんてそん…ってえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!?」
王子の言葉を聞いた途端、私は淑女あるまじき声で叫んでしまった。
一度は婚約破棄された身の上もわからぬ女に婚約を申し出てくれたのだから驚いてしまったのだ。しかも、私が惚れてしまった相手から。
「わ、私でいいんですか!? こんな私で本当に!?」
「ああ。 結婚しよう。 アマエ」
ああああ。脳がとろけそうになる声と仕草。私は即、そのプロポーズを受諾し、2人はまでたく結婚した。
***
結婚して7日経ってからのことだった。ユーザール王国がアマルフィー王国に10万の兵を送り出すという話を耳にした。アマルフィー王国の兵が2万に対して、ユーザール王国の兵が10万。圧倒的な差をつけて進軍するというのだから末恐ろしいものだ。
「君を無実の罪で追放したやつらにこれ以上、いい思いをさせておくのは嫌だろう? 大丈夫。 きっと私達の無実の人を殺しはしない」
「でも、幾ら何でもやりすぎじゃあ…」
「悪人を懲らしめて、反省させるのも私の役割の1つさ。 それに、このまま肩身の狭い生活を送るのはもったいない!」
そして、アマルフィー王国に兵を送り出すと同時期に城下町全体でパレードが行われた。
もちろん、妃になった私と王太子になったベータも一緒で。
「きゃ〜!! 王妃様、こっち向いて〜!!」
「俺も、あんな真の聖女様と結婚したかったなあ〜」
「ばかッ!! 王太子様に聞こえるぞ!!」
民衆の様々な声が聞こえてくる。中には、私を褒め称えてくれる人たちまでいた。
「私達の王太子様を救ってくれて、ありがとう!! 王妃様」
「このまま、この国のため聖女のお恵みをくださいませ。 王妃様」
「私も王妃様みたいな真の聖女になりたい!!」
「いいな〜私も〜」
***
一方、その頃。アマルフィー王国にて10万の兵に進軍され、取り囲まれた王宮の者達はみんな拘束され身動きができなくなっていた。
「くそッ…なんで私達、王宮の人間がこんな目に合わなきゃならんのだ!!」
「そうですわ…私達より姉であるアマエの方が圧倒的に悪いはずなのに」
「おい…どこかで私達を見て嘲笑っているんだろ!! アマエ!」
重い国王の間の扉が開かれる。
「嘲笑っているわけではありません。 それはあなた方のとんだ被害妄想です」
「私の妻に対する今までの言動と無実の罪によるなすりつけ。 今日からこの国の権限と国益は支配した私たち、ユーザール王国に移された!! よって、貴様ら王宮の人間みな、追放の刑に処す」
「そ、そんな。 あんまりな…」
「それ相応の報いだな。 甘んじてその罪を受けるがいい」
「くそッ…くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ1!」
国王の悲鳴が王宮内にこだました。
***
それからというもの、私達はこの事件に巻き込まれた人たちを救いながら、国を再建し直し、幸せに暮らしている。
「君の白色の長い髪はいつ見ても美しいよ、アマエ。 これからもずっと一緒だよ」
「はい。 ベータ様」
この5年後。2人の子供にも恵まれ、ユーザール王国とアマルフィー王国の国交は円滑に今でも結ばれている。