はじめに(1878年08月13日, アリシア・トインビー)
隣国での事件に関しては、既に読者諸兄もご存知のことであろう。
否、この事件に関心を抱かない人間など、余程の僻地に住んでいない限りは我が国にいない、と言ってもいい。
状況が見えない時分は、開戦の可能性から少なからず動揺した筈だ。
事実はまだ詳らかになっていないものの、他でも報道がなされているように、これは隣国のお家騒動を利用した本国辺境領地の奪略と見ていいだろう。
当然ながらそんな茶番に付き合う謂れもなく、事態は既に終息に向かっている。
なので諸兄も散々目にしてこられたであろう、政治的な話や隣国のお家騒動の内容には、ここでは触れないこととしたい。
今、それよりも気になるのは、騒動の発端の方である。
――― 何故、あの方が疑われるようになったのか?
勿論、立場的なこともあろう。しかしながら、隣国の第一王妃を増長させるに至った存在…… あの方が持っていた、かの品そのものに、私は興味を抱いた。
あらゆる文献を調べても、かの品と 『呪い』 の関連性は否定できないものである。
そうでありながら、なぜ、あの方はかの品を所持し続けたのか。
かの品がもたらす呪いとは何なのか。
残念なことに、かの品と、それにまつわる呪いの全容、あの方とかの品との関わりを解き明かすには、得られた情報を並べるだけでは不足であった。
そこで私は敢えて、取材した事実に想像を交え、物語風にその考察を行いたいと思う。
取材に応じて下さった関係者の方々、そして、このような形式での記事掲載を決断して下さったデスクに、心よりの感謝を。
――― 物語始まりの舞台は、令嬢たちの茶会から、である。 ―――
(太陽神歴1878年08月13日, 記事:アリシア・トインビー)