プロローグ
「行ってきます」
快斗は少しはねた寝ぐせを直しながら、高校指定のバッグを持って外にでる。快斗の行ってきますの言葉に対しては何もかえってこない、
(まあ、いつものことだな。)
返事が無いのは別に家に誰もいないわけじゃない、快斗の家庭は父と俺そして妹の三人家族で暮らしはサラリーマンの一般的な収入と同じくらいだろう。
ただ、普通じゃないところが一つあった、快斗の家庭環境は冷え切っていた。
快斗の父の浮気をきっかけに夫婦間で大喧嘩になり、母がこの家を去った。快斗は父に対して許せないまでも父としての考え方を理解しようとしたが、妹はそうはいかなかった。
(返事がないだけでどうしてこんなに嫌なことを思い出しちゃうんだろうな・・・)
快斗は歩きながらあの日のことを思い出す
(母を失った妹は泣いて父を責めた、妹がそうなるのも痛いほど分かる。浮気が理由だとしても、母に捨てられたっていうのは事実だからだ。そして、だんだんと家族の間での会話はなくなっていったんだ。
そしてあの日。
それが父のストレスになったのか、父が妹に手をあげた。
軽く頬をはたいた程度だったが、それがとどめで俺たちの家族の仲は冷え切っていったんだ)
(そのせいで、嫌な癖もついた)
それ以来、快斗は人の顔を見て行動するようになったのは。
快斗の考え方を変えたのは、これ以上家族の仲を悪くさせたくないという思いからだろう。
いつも通学に使う道を歩いていると公園の中に、快斗とら違う高校の制服を着た女子生徒がいた。きょろきょろと何かを探しているようだ
もしかして・・・
快斗はコミュ障を押し殺してなんとか話しかける
「もしかして、探してるのはスマホ?」
快斗の声に一瞬驚いたが、彼女は快斗の方を振り向くとコクコクと頷く
「ど、どうしてわかったんですか?」
「えっと・・・」
(う、正直あまり言いたくない。
彼女をじろじろと見ていたのがばれるからだ)
「・・・探しながら遠くにある公園の時計をよく見てたから、今の時代携帯もってない高校生はあまりいないと思うし」
(携帯の画面を見れば時間を確認することは容易で、わざわざ遠くの見にくい時計を見る必要はないからな)
「な、なるほどです」
彼女は感心したようにうんうん頷く
どうやら気持ち悪がられている様子はない
時計を確認すると、まだ登校時間には余裕がある
「よかったら探すの手伝うよ」
「え、いや、悪いです!あなたまで遅刻しちゃったらいけませんから!」
彼女は悪そうに首をふるが、困っているのを知った以上放っておけないのが快斗の性格だ
「人は助けて合わないと生きていけないの、だから、快斗も人に頼られる人になりなさい」
この言葉だけが、今はどこにいるかも分からない母の言葉だった。
元々甘い快斗の性格から、この教えはよくこころに響いた
「2人で探した方が2人とも遅刻しないで済むかもしれないだろ?」
「わ、分かりました、でも!あなたが遅刻しそうになったら無理やりにでも行かせますからね!」
絶対ですよ!という彼女の優しさに快斗は少し笑ってしまった
捜索を始める前に、快斗には1つ思いつくことがあった
「もしかしたら手洗い場の下じゃないかな?」
「え?どうしてですか?」
彼女の手は少し濡れているし、腕がまくられている。
なにより、さっきから水道の水がポタポタと落ちている、詮の緩い公園などにありがちだが、強くしめてもたまにこうなる。
今公園にいるのは彼女1人だから、彼女が手を洗った可能性が高い。
「それに、ほら、スカートのポケットが少しでてる」
「あ、本当だ」
ハンカチなどを取り出す際にポケットから出たのだろう
彼女はじとーっと快斗を見る
「・・・よく見てるんですね」
「ご、ごめん、流石にキモかったか」
快斗は女性に対してずけずけと指摘してしまったと後悔したが、彼女はフフっと笑う
「いえ、あなたは優しい人ですから、何も嫌じゃないですよ」
「あ、ありがとう」
その後、手洗いばの下で彼女のスマホを見つけた
「ありがとうございました!あの、何かお礼を・・・」
「あ、そろそろ登校しなきゃギリギリになるな、それじゃ、もう落とさないようにね!」
快斗はそういうと、バックを持って駆け出した
「あ・・・」
少し走ると、公園はもう見えなくなっていた
快斗の学校は8時30分までに登校すればよく、その時間にはまだ余裕があった
お礼の話をさせないための快斗の優しさだろう
(学校までもうすぐか、少し早めに着くな)
そう思って、快斗が歩く足の速度を緩めた
(あれ・・・?)
急に足元がふらつく、妙に頭がぼーっとしていき、ついには立てなくなってしまう
(っ!なんだよこれ!)
遂には消えかけた意識のなか、快斗に近づく足音が聞こえる
「勇者候補の確保に成功、これより本部へと運送します。」
快斗が最後に、わずかに聞こえた言葉だった。