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08_少年

 私は喫茶店があった場所からひったくりを捕まえるために走った。ひと気のない森の中に逃げ込んだようだが、まだ何とか影を見失ってはいなかった。私の前にミッシェルがいて、シャオは私の横に並んで走っていた。シャオが私とミッシェルに「なんで走ってるの? 食後の運動? でも食べたばかりは体に良くないよ。ちょっと休んでからにするべきだよ、ダイエットっていうのはね、無理してたら続かないもんだよ」と息も切らさず言った。すると、ミッシェルが「そうじゃ……ない……はぁ、はぁ、あいつ、あいつを捕まえろ!」と前を指さした。シャオが「うーん?」と目を凝らし、「あのガキを捕まえればいいのか?」と確認した。私が「そう!」と返事をすると、シャオは、「はいよー」と言って、私の倍以上うの速さで、前の陰に追いつき、どうやったかまでは分からなかったが、転ばせて、そいつを止めたようだった。近づいてみるとそいつの正体は、海岸で見かけた少年だった。少年の服は少し破けてしまっているボロで、裕福には見えなかった。


「いってー、なんだよ」少年はこっちを睨んでいた。


「なんだは、こっちのセリフだ! いきなり人の者を盗みあがって!」ミッシェルが怒って言った。


「うっせー、金持ちのくせに! 宝石なんていくらでも持ってるんだろ! ちょっとぐらい、いーだろーが!」


「いーわけねーだろ! ああああん!」


「まぁまぁ、お二人、ちょっと落ち着いて……」シャオが二人をなだめた。


 すると、二人は黙った。


 シャオが続けて言った。


「少年、一様聞いておくが、どうしてそのペンダントを盗もうと思ったんだ?」


「ちっ、なんだよ、俺よりチッコイ癖に……」


「うっ……」とシャオは耳をぴくっとだけさせた。


「何とでも言えばいいさ……それより、質問に答えてくれないか?」


「金にするためだよ! それだけだ!」


「うーん……そうなのか、クンクン、クンクン、におうぞー」


「な……なんだよ……」


「これは……嘘つきの匂いだ!」


「はぁ? なんだよ、嘘なんてついてないぞ! 金が欲しいんだ!」


「金……はね……他にはないか?」


「うっ、何? 何もないよ」


「ホントか、誓うか?」


 少年は「何にだよ……神様か? 悪いが俺はそういうのは信じてないんだ! だって、本当にいるなら……」と言って下唇を噛んだ。


「いいや違う、この勇者にだよ」


「え、何? 勇者?」


 シャオがテーマパークのマスコットのように、両手を広げて片足を前に出したようなポーズをとって、言った。


「ふっふっふー、少年よ、きーて驚けぇ! ここに居らせられる方を誰と心得る! その目をよーく凝らしてみるがよい!」


「ちょっと、シャオいきなり何……」と、私は恥ずかしがりながら言った。


「はぁ? 何言ってんだ、勇者? ゆう……しゃ……って、はっ!」少年の顔は急に青ざめた。


 少年は地面に頭をつけて、おでこを地面にこすりつけながら言った。


「ご、ごめんなさい、あの勇者様だったなんて! いつもと格好が違うから、いつもはもっと、なんていうか……そう! 戦闘向きの服で! いつもはこんなにイケてないから!」


《おいソフィア、言われてるぞ……》と私は思った。


「分かればよいのだ! なー人間!」シャオが腕を組んで頷きながら言った。


 ミッシェルが家畜のウサギのように少年の首根っこを掴んで言った。


「フェッフェッフェー、なー人間! どーしてくれようか! まだとぼけるようなら、八つ裂きにして皮でも剥いでやろうか、なーに、ここらは人も少ない森の中だ、殺しちまってもどっかに埋めちゃうか、怪物の餌にでもしちまえばいいんだ! フェッフェッフェー、なぁ少年! ヴぁああああああああん、ごぅらああああ!」


《ミッシェルの由来って、確か天使だったような……天使はどこへ行った!》


「おい……ミッシェル……」と私は思わず声に出した。


《こいつらは本当に勇者の仲間なのだろうか? 今はどっからどう見ても悪者だ。なんだろうこの光景……貴族に弱みを握られて抵抗できない哀れな貧しい少年って感じだ。心が痛む……。少年の目、あぁ、もうすべて諦めたって表情だよ全く……何やってんだよこいつら、可哀そすぎる……》


 そのまま少年は気絶してしまった。


 シャオが「まぁ……これくらい怖い目にあえば、もうひったくりなんてことは考えないだろ……ね」と、ミッシェルを見て言った。


 ミッシェルがスッキリした表情で言った。


「あー、そうだな! 今日は良いことをした! とってもいい気分だ!」


 シャオが両手を空に上げ「目覚めよ、少年!」と唱えた。すると、空から水の塊が落ちてきた。少年は飛び起きて、せき込み、周りをキョロキョロ見渡していた。


 少年が私を見ると、涙を流しながら言った。


「アノアノアノアノアノアノアノアノ……シュ……シュミマ、ヒックッ、シュミマシェン、ヒック、グシュン、シュミマセンデシタ、ユウシャサマあああああああああー」


《あぁーあ、どーすんの、これ!》私はミッシェルの方を見た。すると、ミッシェルは得意げに私に《やってやったゼ》みたいな表情で私にウィンクを返してきた。


 私はミッシェルを軽く睨んだあと、少年を慰めるように言った。


「まぁ……なんだかこっちもごめんなさい……だから、そんなに謝らないでください、ひったくりは悪いことですが、幸い、今このペンダントは盗まれてはおりませんし、ちょっと運動をしたと思えばいいだけのこと……大丈夫ですから、表をあげてくださいな……きっと、そうせざるを得えなかった理由があるのでしょう、私たちがちからになれるかどうかはわかりませんが、話してはくれませんか……それと、勇者という呼び方……周りにもし聞こえたら厄介なの……そうね、私のことはアヤネって呼んでね」


 ちなみに、このとき私は焦っていたので、自分でもなんと言ったのかは覚えていない。


 少年がピタッと泣き止み、言った。


「優しいんだな! お前! よし、わかったぞアヤネェ!」


「ねぇ、僕、どうして、ペンダントを盗んだりしたの? お姉さん、知りたいな」私は少年の頭を撫でて、優しく言った。


「僕? 僕って誰だし、エディって呼べよな! エルフのアヤ姉!」少年は腰に手を当てて、片方の眉毛をぴくっと上げて言った。


《おい、さっきの涙はどこ行った……それとアヤ姉ってなんだし……って、その前に気になる言葉が……でも、話が脱線するからそれは後にするか……》


「じゃー、エディ君、どうして君は、ペンダントを盗もうと思ったのかな?」


「僕はね……ペンダントなんてどうでもいいのさ、持って来いっていわれたんだよ」


「へぇー、そーなんだ! じゃー誰に持って来いっていわれたのかなぁー、アヤ姉、しりたいな!」


「えーっと、本名ではないとおもうけど、その人のことをクラウンって呼んでる人がいたよ」


 それを聞いた瞬間、シャオの表情が曇ったのが見えた。私はシャオに「知ってるの?」と聞いてみると、シャオは「あぁ、よく知ってる……」と表情を曇らせながら言った。


「そいつは一体、何者?」


「魔王の手下だったやつだよ……雑魚のくせにしぶとくて、大っ嫌いだ。やつは純粋に人が嫌がっているのを見るのが好きなんだよ、目的もなく、ただそれを眺めているのが快感だって、自分で言っていたよ」


 「そうなのか………」と私は合わせて相づち、シャオの困ったように眉間にしわをよせている様子を眺めた。少しの間があったので、私は何気なく「ところで……エルフって何?」と聞いてみたら、みんながキョトンとした……。


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