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05_庭園

 私はフリーダと一緒に食堂で待っていたシャオとミッシェルに合流した。シャオとミッシェルは私を見て、「クスッ」と声を出して笑い、私が不機嫌な顔をするとミッシェルが言った。


「すまん、不意打ちだった」


「不意打ち?」私が首を傾げて言うと、ミッシェルはソフィアがそのような女性らしい服を着ることがなかったので、腹にパンチを一撃食らったような衝撃だったのだと言った。ミッシェルいわく、ソフィアは少々男勝りなところがあって、出会った頃から決まって黒い服に、鎧という何とも飾り気のない恰好を好んでいたそうだ。私が、「それではなぜ、着替えてこいと言ったのかな?」と尋ねると、シャオは、ソフィアのそういう姿をみてみたかったと言った。遊ばれていることに気が付かなかった自分に少々嫌気がさしたが、彼女らに対して、そこまで悪い気はしなかった。友人からのいじりには昔からの免疫があったし、慣れていた。なにより、フリーダが選んでくれた服がとても良いものだったので、少し寛容になっていたのだ。はぁ、私も大人になったものだ。もう少し若ければ、こんな些細なことでも腹を立てていたのだが、もう私はそんな子供ではないのだよ、全く、私がこんなことにいちいち腹を立てる人間にみえるのかね、彼女らは……。


 シャオが「グフッ……」と、こみ上げる笑いを抑えきれずに言った。私はシャオに「コノヤロー」と言って飛びかかり、本気というものがいかなるものか、体で理解させることにした。


「おおおらー、コーチョコチョコチョコチョコチョ」


「ひゃうっ!」とシャオが言った後、「もーダメ」と言うまで私はくすぐり続けた。ミッシェルが「もうその辺にしておいてくれるか」と言ったから、私も「それもそうだ」と思い、手を止め、床に転げていたシャオを起こした。シャオが「もーひどいよ……」と言ったので、私は流石にやり過ぎたと思い、「ごめんね」と謝った。するとシャオは「うん……」とだけ言って黙り込んでしまった。


 このときのシャオの様子はいじけているようで、とても可愛らしかった。


 私たちは長い階段を下りて、広いエントランスを抜け、城の外へ出た。城の外には庭園があった。太陽がじりじりと石造りの歩道を焼きつけ、大きな噴水のせいか、目に見えない熱を帯びた絹が覆いかぶさってきた。私はそれをかき分けるような気分で前へと歩いたが、十歩にも達していないというのに、汗がにじみ出てきた。フリーダが「お気をつけて、いってらっしゃいませ」と言ったので、私は振り返って、「いってきます」と言った。ミッシェルは帰りが夕方ごろになるので、昼飯は外食にすることを伝えた。そして、シャオはいじけたような様子のまま、日陰からそっと手を伸ばし、手をずっと日の光にあてていた。ミッシェルが「いくぞ!」と声をかけるまで、ボーっと手が焼けていくのを眺めていた。シャオが私の隣を歩きだし、「あついあつい」と言い出した。


 城の門に着くと、ミッシェルが門の脇にある小さな鉄のドアを開け、私たちを通し、ドアを閉めた。外に出ると、海が近いのだろうか? しおの香りがした。


 ミッシェルが歩きながら言った。


「さてと、それじゃ、これから街に向かうとするか、食べたばかりだから、腹ごなしにでも、少し海岸でも歩いてみるか? どう思う?」


 私は「いいね、海……」とミッシェルに言い、彼女は「うん、そうか」と返事をした。


 しかし、シャオは「しっぽが重しになって沈むから嫌だ!」と言った。


「別に泳ごうといっているわけではないから大丈夫だ」とミッシェルがシャオを見て言うと、シャオは「じゃ、いいよ」と言った。


 海岸に向かうために城を囲むように植えられた木がたくさんある森を歩いた。森は自然なものではなく、城を美しく見せるために計算して、植えられているようであった。これと言って話すことも思いつかなかったので、私はこの世界にもこんな技術があるのかと関心し、気を紛らわせていた。


 10分も経たなかっただろう、直ぐに、海岸が見えた。海岸は賑やかで、海に入って泳いでいる者たちや、ベンチに座って日光浴をする者、それと、漁師だろうか、異様に黒く焼けた肌の男たちが船を岸に運んでいた。船は小型で木造、引きずられて底が削れていた。シャオが「漁師が海から魚を捕って来たんだな」と、それを見て言った。海岸からそう離れていないところに、きれいな白い石でできた街が見えた。この海岸で遊んでいる者たちも、その街の住人なのだろうと、今度は彼らの暮らしについて、想像を膨らませるのであった。


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