04_真夏と花柄のワンピース
私はメイドに連れられて大きな衣裳部屋に連れていかれた。
「ソフィアさ……失礼いたしました。アヤネ様、お洋服、お持ちいたしますね」
メイドがそう言うと、楽しげに鼻歌を歌いながらクローゼットを開けて何着か服を取り出した。メイドの服のセンスは華やかなものが多く、クローゼットの端にある仕事着が浮いて見えるほどだった。私が気に入ったのは、白地に裾だけが花柄で、麦わら帽子が似合いそうなワンピースである。
「これがいい」と指をさして私が言うと、メイドが――
「やっぱり、アヤネ様のお気に召すと思って、一番最初に出してみましたのよ」と言って微笑んだ。
服を着替えて鏡の前に立ってみると、私は満足するのであった。
メイドが「アヤネ様、素敵です」と言ったので、
私は「ありがとう」と彼女を見て答えた。
この時、私は初めてソフィアをしっかり見た。しかし、不思議なことに、全く違和感というものがなかった。別人であるはずなのに、鏡に映っているのは、紛れもなく私であり、ソフィアという女性ではないと感じた。ただ、これが自分なのかどうか考える気もあまり起きなかったので、私はそういうものなのだと納得しておくことにした。
「あの……そういえば、メイドさんのお名前って、何て言うんですか?」
メイドは『フリーダ』と名乗り、またニッコリと笑った。彼女は、私よりも少し年上に見えた。落ち着いた大人の女性の雰囲気を漂わせつつも、幼い少女のような可愛いらしい丸くて大きな目をしていた。体は細く、背はおそらくヒールを履いた私よりも高かった。彼女の容姿からして、この部屋にあるすべての服が似合うことは一目瞭然であった。この部屋が彼女のためにあるのだと言われたら、全くその通りと万人が答えるに違いない。
「フリーダさんってお綺麗ですよね」
フリーダの顔が急に赤くなり、照れながら言った。
「え、そうですか? でも、そんなことはないと思いますのよ。私よりもきれいな方なんて、この世界にいくらでもおりましてよ……その中にはアヤネ様もいらっしゃいます」
ちっ、可愛いじゃねぇか、それにうまく切り返してきやがった。素直に喜ばないあたりもなかなかの高得点じゃないか、学校の先生だったら、男子からも女子からも好かれちゃうなこれ、可愛い上に良い人過ぎて、ちょっと意地悪したくなっちゃいそうだ。小学生の男子が女の子にちょっかい出すあれだ。それに相まって、主人とメイドという力関係があるこの状況……。
――アヤネ脳内劇場スタート――
フリーダ「ご主人様、おやめください、それは、いけませんのよ、超えてはいけない一線というものが……」
アヤネ様「フッフッフー、何だ貴様、ご主人様の言うことが聞けないというのかねー」
フリーダ「いいえ、決してそんなことは……」
アヤネ様「だったら言うとおりにしろ! それができないならこちらにも考えがあるのだよ、いいのかねぇ」
フリーダ「はっ! アヤネ様、それだけは、それだけはおやめください!」
アヤネ様「それじゃ、できるよなぁ」
フリーダ「くっ……」
アヤネ様「ほれーほれー、やりたまえ」
フリーダ「……。ごしゅじんさまぁー、だーいちゅき」
アヤネ様「やっぱり猫耳つけろ、あと、語尾は『ニャー』だ!」
フリーダ「えーそんなー」
――FIN――
……いい感じだ。
フリーダが窓の外を眺めて言った。
「そういえば、今日は朝方に洗濯物を干していたのですが、お外は気温が高い割に湿気がないようで、直ぐに乾いてしまいましたの、普段であれば、その間にテーブルを拭いたり、朝食の準備をして、皆様を起こしに向かうのですが、今日は順番が入れ替わってしまって、久しぶりにお城の中を全力疾走してしまいましたの、それで、ソフィア様――そのときはもうアヤネ様?――を起こしに参ったのですが、丁度焦って変な気をまわしてしまいましたの、というのは、それらしく勇者様とお呼びするのがふさわしいのではないかと急に思い立って、ソフィア様ではなく勇者様とお呼びいたしましたの、私ったらウフフフ、おかしいですわ」
彼女の話を聞いていると、育ちの良さが伝わってくる。私よりも彼女の方がこの城の主にふさわしく、お姫様のようで、着替えを手伝わせていることがなんだか申し訳ないような気がしてきた。
「よし、これで完璧だわ、アヤネ様、シャオ様とミッシェル様のところへ戻りましょう」
「はい、ありがとうございます。ところで、このお洋服を洗える場所は、どこかにあるのでしょうか」
「あら、どこか汚れていましたの?」フリーダが首を傾げて言う。
「いいえ、今日は暑いので、きっと汗をかいてしまいますから、返すときには洗って返したいと思いまして」
「まぁ、そんな、いいのですよ、洗濯なんて毎日していますので、その時にまとめてしてしまいますの、それに、仕えている者としてそれはできないのですよ、私のお仕事がなくなってしまいますから」このときのフリーダの声は優しい声だった。
私は申し訳ないと思いながら「そうですか、ありがとうございます」と言った。彼女はまた可愛らしい笑顔を見せながら部屋のドアを開けてくれた。
「アヤネ様、お足もと、お気をつけくださいませ」