吐く息、白。
なんだかいつもとはほんのり違ったテイストの掌編になりました。
よろしければご一読ください。
冬のことだった。
12月だったか、1月だったか、或いは2月のことだったのか、それさえも覚えていないのだけれど。
雪が、降っていた。
チラチラと舞う雪は、都会では珍しく、何となく特別な感じがあって、街も何処か浮き足立っていた。
天使かと、思った。
莫迦みたいだけれど、本当にそう思った。
雪に紛れてしまいそうな白磁のような白い肌。寒さで頬が紅をさしたように少し紅く染まり。
「さら……?」
もう呼ばない筈だった名前が、咄嗟に口から零れていた。
更は、物憂げにこちらに振り向くと、
「ゆき、」
と僕の名前を呼んだ。
「なんで、ここ……」
「ああ、ゆきに、会いたくて」
はあっ、と更が白い息を吐く。
此処は、更と僕がまだ恋愛関係にあった頃に、よく待ち合わせていた、学校からは1つ先のバス停だった。
「なん、で」
「わたし、ゆきに謝らなくちゃならない」
「何を……」
「わたしは、まだ、ゆきのことをすきだ。大好きだ」
ふわり、と目眩のようなものがして、
更は消えた。
「さら」
呼んでも、居ないはずの、更。
突然、僕にいつもの様ないたずらな笑顔を向けて
「もう、ゆきのことが好きじゃなくなったんだ、バイバイゆき」
と言って、
その1ヶ月後に逝った君。
その日、僕は初めて涙を流した。
はらり、はらり、
白い雪が舞う中。僕は。
ご一読頂きありがとうございます。
冬の空気感が描けていたらいいな、と思います。