一年間
3月末
私にとっての今期の最終戦、龍王戦5組第3回戦が行われる。
相手は府成さんか。イケメンで谷山十七世名人唯一のお弟子さんだ。
奨励会在籍時に新人王戦で優勝したこともある人。
ただ、奨励会を抜けるのにはずいぶん苦労した。
10歳で奨励会に入り、プロになったのは奨励会年齢制限ギリギリの26歳。
奨励会に16年か。それでプロになれなかった時にはどうしていたのだろうか。
プロに入ってからは優秀な成績を残し続けている。
元々自力はあったんだろうね。
さてさて、今期の最終戦だし、勝って終わりたいな。
~アババTV~
『森村先生、将棋界は3月で一区切りな訳ですが、今年は色々ありましたね』
『女性初の棋士誕生、藤谷 王太初タイトルと話題に事欠かなかったね』
『そしてこのほど行われた棋玉戦では斉上先生が渡邊先生からタイトルを奪取しました』
『だけど同時期に行われていた玉将戦では渡邊さんがストレートでタイトル奪取、無冠は防いだね』
『現在行われている永王タイトル戦では長瀬先生が2勝と高美永王をリードしています』
『4月からは名人タイトル戦も始まりまるし、将棋界からまだまだ眼が離せないね』
現時点でのタイトル保持者
龍王 羽月 義秋
名人 佐川 天飛虎
永王 高美 大地
玉位 豊縞 忠之
玉座 藤谷 王太
棋玉 斉上 倫太郎
玉将 渡邊 昭
棋精 豊縞 忠之
『森村先生も、タイトル欲しいですね』
『うん、来期頑張るよ』
~49生~
『藤屋先生、君島四段の今期の成績なんですが、ここまで42勝13敗です』
『凄い成績だね。勝率・・・7割6分か、本物だね』
『凄い勝率ですよね。将棋大賞の新人賞は間違いないのではないでしょうか』
『それだけ勝っても順位戦では昇格ならずか』
『正座に弱いのが残念ですね』
『勝率一位は藤谷玉座だっけ?』
『藤谷玉座は8割近い勝率を残しています』
私の高勝率は一般棋戦で頑張った結果。
本当は八大タイトル戦で頑張りたいんだけどなぁ。
『藤屋先生、君島さんがまた藤谷システムで来ましたよ?』
『僕が解説の時に使ってくるのはちゃんと解説しろと言う嫌がらせかな?』
『普段ちゃんと解説してないみたいな言い方ですね』
『www』
今日は振り飛車で行く。
負けたら藤屋先生のせいです。
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~アババTV~
『森村先生、ここまでの流れを解説お願いします』
『第一人者がよそで解説してるかと思うと、下手な事言いたくないんだけど』
『そ、そこは触れない方向でお願いします』
『だれか君島さんに受け将棋やれって言って来てください』
~49生~
『府成五段、藤屋システム対策は完璧かと思われましたが・・・』
『細かい変化で君島さんが優位に立ちましたね。綺麗な駒組みで府成五段は困ってると思うよ』
『どこへ指しても捌かれそうですね』
『さすが藤屋システム。誰がこんな凄い戦法考えたんだろ』
『突っ込みませんよ?』
『www』
藤屋システムは研究が進んだ時代遅れの戦法。
でも橘流の中にヒントを見つけた。
試してみたら見事にハマったな。
『おっと府成五段、退きましたね』
『消極的な手に見えますが、君島さんはこれをどう見るか』
『・・・一気に切り込むみたいですね』
『強気だね。一年前の今頃泣いてた人とは思えない』
プロになって一年か。
この一年で随分強くなった気がする。
トップの世界で揉まれる事により、私は日々進化を続けている。
~アババTV~
『君島さんの今のは疑問手だねw』
『君島さんも気づいたんですかね。指を離す時に挙動が乱れたように見えました』
『でも平静を装うとしてるねw』
『この辺は一年目の棋士ですね』
や、やっば、変なとこに指しちゃった。
ば、バレてないよね?
・・・ああっ、切り返された!バレてる!
『これで形勢はどうなりましたか?』
『君島さん有利には変わりないよ』
はあ、ここまで完璧な指し回しだったのに。
棋譜が乱れちゃった。残念だ。
よし、今一度集中しろ。
悪手が2度も通じる相手じゃ無い。これ以上は駄目。
大丈夫、まだ私の方が全然有利だ。
このまま押し切って見せる。
~49生~
『うおお、痺れる手だな』
『か、カッコいい、君島さんの今の一手は相手の飛車の動きを完全に殺す物ですね』
『府成五段の大駒は完全に封じられたね。終局は近いよ?』
~アババTV~
『はあ、若くて強い人がどんどん出て来て嫌んなっちゃうよ』
『森村先生www』
『おじさんだって頑張ってるんだよ?でもさ、いつもあと一歩でタイトルに届かないんだよ』
『まあまあ、強い人が出てくる事は良い事じゃないですか』
『そだね。将棋界の為にはもちろん良い事なんだけどね』
『あ、先生、君島さんが指しましたよ』
『決まったね。一つだけ悪手があった物の内容の素晴らしい対局でした』
勝った・・・
勝ちで今期を締めくくれて良かった。
これで、棋士としての一年目が終わったか。
君島 流歌、一年目の成績は43勝13敗 勝率0.767
将棋大賞で新人賞と最多勝利賞を獲るほどの成績だった。
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大学 部室
「・・・・・・」
「どうしましたの?君島さん」
「え?・・・ああ玲奈、この一年を考えてたんだよ」
今日は私の21歳の誕生日。
皆が部室で誕生会を開いてくれるそうだ。
でも来てみたらまだ準備中だった。
時間間違えたっけ?
「まだ棋士としては始まったばかりの一年だったけど・・・大変だったなぁと」
「優秀な成績で終えられたと思いますわよ?」
「うん・・・一年目としては上出来だったと自分でも思う」
必死に駆け抜けた1年。
いや、奨励会から数えるともっとか。
我武者羅に頑張った挙句、プロとして通用した事が満足だ。
「・・・何か、気が抜けたような顔してますわよ」
「んー・・・?」
そう?・・・・・・
・・・・・・・・・・・・え?
あ、ヤバイ!
「ヤバイヤバイ、これ、渡邊に勝った時のアレかも!」
「ええ?」
「大丈夫ぅ?流歌ちゃぁん」
また満足してしまった。
この後は成果を出した事による油断がやってくる。
「オー、ルカ、ドウシタノー?」
「ま、まだ一年目ですわよ?タイトルを獲ると言う約束を忘れてませんわよね?」
「う、うん」
「雷王戦に出て、勝ってくれると言ったのだ」
「も、もちろんだよ」
「郡上にも勝つんだよねぇ?」
「そ、そうだった」
「君島先輩、まだ羽月さんとも対戦しとらんのに」
「!!」
そうだ。
私はまだ羽月さんと戦ってない。
それが一番の目標だと言うのに。
「あ、危ない危ない、油断というやつは、本当に心の隙を突いて来るね」
「もう大丈夫なのですか?」
「うん、自分でもびっくりして今は冷や汗をかいてるけど大丈夫」
ああ、びっくりした。
私とした事が、当初の目的をすっかり忘れて・・・
・・・ショックだ。その程度の思いだったのかな。
「モチベーションを保ち続けると言うのは難しい物だと思いますわ」
「そうだねぇ、他の棋士さんもぉ、急に調子悪くなったりするもんねぇ」
長いプロ生活、波があるのは当然かもしれない。
区切りがついた事による油断、落とし穴はどこに待ち受けているか解らない物だね。
「ああ、でも良かった。みんなに気付かせて貰えて助かったよ。一人だとまたぼんやりして気付かなかったかも」
「いつでも支えますわよ」
「丁度誕生会をやって良かったのだ」
本当に良かった。
私はやはり、支えて貰わないと駄目なんだろうな。
ガチャ「ケーキ買って来たッス!」
「君島先輩、おめで・・・どうしたんですか?」
買物に行ってくれてた1年生ちゃん達が戻って来た。
ごめん、まだ動揺しててね。
「よし、21歳の君島 流歌はより一層頑張るわよ!」
「お、おおッス」
「な、何かあったんですか?」
何も無いよ!
それより今日は、私が主役!
女王のように扱ってよね。
「調子に乗り始めたのだ」
「イツモドオリにモドッタネー」
「私のいつも通りってこれなんだ?」
いいから女神の生誕祭を始めましょうよ。
また一年頑張るわよ!




