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駒唄  作者: 無二エル
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海外取材

 3月上旬、国立放送杯の予選が行われた。

 18のブロックに分けられた予選トーナメント。

 持ち時間が20分と短いので一日3局、勝ち抜けば一気に本戦トーナメント進出が決まる。


 そして本戦に進めば持ち時間が10分になる。

 正座の苦手な私としては、有り難い棋戦だ。


 結果は2勝出来たんだけど、ブロック予選の決勝で更屋敷先生に負けた。

 うーん、持ち時間が短いとは言っても3局目はキツかったなー。


 更屋敷先生も強かった。

 さすが最年少タイトルの記録保持者。


 ふう、切り替えて行こう。もうすぐ持ち時間が6時間の順位戦最終局。

 長時間の正座との戦いが待っている。

 わずかながらの昇格の可能性も残っている。

 踏ん張りどころだ。




 3月中旬 C2順位戦の最終局


 現在私は6位。

 C1昇格への切符は3枚。

 まあ私にとっては順位差もあって実質1枚なんだけどね。


 順位戦の最終局は一斉対局だ。

 これはどのクラスも同じ。

 2週前にはA級順位戦最終局でリポーターを務めた。

 現場のピリピリした空気に刺激を貰った。


 さて、本日の相手は20代の若手棋士。

 プロ入りしてから勝率5割を行ったり来たりしてる。

 実力的にはそこまで結果を残せてない人だったんだけど・・・


「君島さん、ここはどういう狙いだったの?」

「そこは桂馬が差し込んで来るかと・・・」

「ああ・・・そうだったんだ。全然考えてなかった」


 負けた。

 実力で負けた訳では無い。警戒し過ぎて負けた。

 こっちが深読みし過ぎて負けたと言った方が良いかな。


 相手が指して来るだろう候補手をことごとく読み間違えた。

 最善手を殆んど指してこなかった。

 その微妙なズレの連続で、私の形勢は次第に悪くなっていった。

 結果惜敗。


「運が良かったよ」

「・・・」


 結果的には読みを外された形になった。

 相手の力を読み間違えての敗北。


 負けたことにより、他の対局の結果も関係無く昇格の芽が消えた。

 はあ、結局最終局まで粘ったものの、自ら転げ落ちちゃったな。


 私の一年目、C2での成績は7勝3敗。

 最終順位は10位だった。



-----------



「・・・・・・」

「どうしたの?流歌ちゃん」

「ママ」


 家でぼーっとしてたらママに話しかけられた。

 私、変な顔してた?


「放心してるように見えたわよ?」

「うーん、また一から白星を重ねなければならないのかと思うと」


 長く続くリーグ戦の結果が出た。

 結果は10位、決して悪くは無い。

 でも来期、またC2で一から出直しだ。


「長時間の正座に苦しんだ挙句の昇格ならず、甘い世界では無いと改めて思い知らされたよ」


 順位戦は持ち時間が一番長い。

 負けても一定数は戦うリーグ戦。

 戦い終えて残った物は、来期10番目というC2の中での優先順位。

 いや、それだって大事なんだけどさ。


 先日のA級順位戦の最終局を思い出す。

 A級棋士の対局を身近で感じたことにより、自分もそこで戦いたいとの思いが強くなった。

 でも来期はまたC2からだ。

 また一年、C1に上がる為の戦いを繰り返す。

 はあ、遠いな。

 

「んー・・・」

「気分転換でもしたら?考えすぎは良くないわよ」


 そだね。

 でもすぐに龍王戦の対局がある。

 本当はボーっとしてる余裕もないんだけど。


 容赦なく次は来てしまう。

 こっちの気持ちなんてお構いなしだ。

 

「あ」

「どうしたの?」

「保留になってた宇宙戦、上で3連勝が出たから私は脱落みたい」

「・・・そう」


 何気なくスマホを見たら、連盟からメッセージが来てた。

 うーん、容赦なく突き付けられる。


「大丈夫?」

「うん・・・大丈夫だよママ、これがプロの世界だからね」


 私も棋士になってもうすぐ一年。

 この世界にも少しずつ慣れて来た。

 すぐに回復とはまだ行かないけれど、適応していかなければ。



---------------



 花音ちゃんの親の会社のCMの為に四国に来た。

 撮影場所は吉野川。

 えーと、まだ三月ですけど川に入らされるんですか?

 風邪をひいて本業に支障が出たら困るんですが・・・


「いえ、河原で黄昏てもらうだけで結構ですよ」


 良かった。純茶の時のイメージで勝手に思い込んでた。

 それでも結構寒いんだけどね。

 暦の上では春とは言え、清流の近くだと身が縮む。


 そして脚の露出の多い衣装。

 これは共通だったか。

 うう、風が吹くと身を切るように寒い。


「では、散策するようにゆっくり歩いてください」

「石が多いので気を付けてくださいね?」


 今回のスタッフさんは優しいな。

 過剰に心配されている気がする。


 空港までの送迎も黒塗りの高級車だった。

 花音ちゃんのお爺ちゃんだと言う徳島知事の公用車だとか。

 それって公務以外に使ったら批判されるやつじゃ・・・

 でもその後県庁に行って大歓迎を受けたから、公務の範囲内なのかな。

 知事と握手してる所を地元新聞に写真撮られた。


「寒くないですか?」

「寒いけど我慢出来ますよ」

「私が壁になって風を遮ります」

「え?そ、そこまでしなくていいですよ」

 

 まるで大女優みたいな扱いだ。

 スタッフもやたら多い、こんなに必要なのかな?

 うーん、花音ちゃんが田舎者は卑屈だと言ってたけど。

 過剰接待だとこっちも恐縮してしまう。


「はいカット!次のシーン行って良いですか?それとも休憩します?」

「だ、大丈夫ですよ、まだ来て10分くらいだし」


 私も日帰りだからちゃっちゃとやっちゃいましょう。

 天気が変わっても面倒だ。

 シーンの繋がりがおかしくなってしまう。


「おお、さすが東京人・・・」

「私達には無いプロ意識だわ」

「・・・・・・」


 アバウトなのは田舎の良い所なのか、悪いところなのか。

 でもせっかく出るんだから良いCMにしたい。


「本日は徳島にお泊りなんですか?」

「いえ、日帰りですよ?最終便で東京に戻ります」

「お忙しいんですね」

「残念です、徳島の名物をたくさん食べて欲しかったのに」

「渦潮も見て欲しかったです」

「阿波踊り会館も・・・」


 気持ちは嬉しいけど、ゆっくりも出来ないんですよ。

 明後日には海外雑誌の取材があるし。

 ・・・阿波踊り会館?そんなのがあるのか。


「まあ棋士は出張も多いのでまたこちらに来る機会もあると思います。その時にでも」

「是非阿波踊りの時期に来て下さい!」

「お遍路!」「徳島ラーメン!」


 おおう。

 卑屈なのかもしれないけど、ごり押しも凄いな。

 なんだかんだ地元を愛しているのだろう。

 ちょっと羨ましいな、東京に生まれると故郷と言う言葉にピンと来ない。

 東京は地方からもたくさん人が来るし、外国人も多いし、自分達の街だと言う感覚が薄い。


 まあ機会があったらね。

 ここは社交辞令でお茶を濁そう。



------------



 2日後 将棋会館


「女性として初めて棋士になり1年になりますが、男だらけの世界でここまで活躍できると思っていましたか?」


 ニューズウォークというアメリカの雑誌の取材中。

 てっきり外国人が来るものだと思っていたけど、記者さんは日本人だった。

 世界中に支社がある大きな会社らしい。


「ここまでの結果は出来過ぎな面もあれば、不本意な面もあります。私自身はもっと向上していきたいと思っています」

「女性と言う事で苦労したことは?」

「とくには・・・足を崩せない事をよく言われますが、私の為に伝統を変えろとも思いません」

「日本では女性の社会進出が遅れてると言われますが、女性初の棋士としてその辺思うところはありますか?」


 わあ、答えが難しい質問だな。

 どこまで本音を言って良いのやら。


「もっと色んな分野で女性に活躍して貰いたいとは思っています。でも自分はそうなれたんだから皆も頑張れと言うのも差し出がましいと言うか」

「現状では女性が活躍しにくい環境だと感じたことはありませんか?」


 うーん、この記者さんはフェミニストなのかな。

 聞きたい答えが固まってる気がする。


「私が解るのは将棋界の事だけなので、他の世界の事は解りませんが、私自身は女性初の棋士と言う事で注目も浴びてますし、他の男性棋士より優遇されているくらいだと感じています」

「ほう、では差別は感じないと?」


 おお、ハッキリ聞いて来たな。

 記者さんの要点はそこなのだろう。


「長く男性だけが所属してきた世界ですから、女には負けたくないと相手から感じる事はあります。ですがそれはプライドとも言えます。私は自分に負けてへらへらしてる人よりも、そういう人の方が正直だと思いますよ」

「な、なるほど、女性に負けたくないと思うのは当たり前の事だと」


 長い歴史の中でやっと一人目だからね。

 女が不甲斐なかったのも事実、舐められるのも仕方のない事だろう。

 言わないけどね。


「ですが将棋界は実力で伸し上れる世界、結果で認めさせる事が出来ます」

「なるほど、君島さんも結果で認めさせてみせると?」

「そこまでは言ってないですがwでもそれを目指し日夜励んでいます」


 取材が終わった。

 記者さんの望む流れにはならなかっただろうけど、それでも満足そうだった。

 私なら大丈夫です。

 自分の地位は、自分であげますよ。

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