紹介
玲奈が記録係をクビになった。
「クビになったは酷いですわね。爆多川賞作家にそんな事をさせられないと言う連盟の配慮ですわよ」
受賞後、玲奈が将棋の記録係をしているという情報が世間に駆け巡ったらしい。
連盟まで問い合わせが来たとか。
ちょっと前には白湯女将棋部の取材にも出てたから、元々顔バレはしてるんだよね。
「変わりに観戦記者の依頼が来ましたわ」
「ああ、作家がやる事あるんだよね」
大きなタイトル戦とかでは、有名作家が将棋の観戦記者をやる事がある。
そっか、玲奈はそういう対象になったのか。
「でもタイトル戦となると、泊りがけで数日間の拘束になるよ」
「わたくしも学生ですし、そこまでヒマではないので、君島さんがタイトルに挑戦する時にでもと言っておきましたわ。おーっほっほ」
「うう、嫌なプレッシャーをかけてくるね・・・」
そんな簡単じゃないんだよ?
玲奈だって解ってると思うけどさ。
さて、今何をしてるかと言うと車の中だ。
日曜なので玲奈を自宅にご招待の途中。
「ですが、爆多川賞を獲った途端のご自宅への初招待と言うのも複雑ですわね」
「ああ、有名人になったから扱いが変わったとでも言いたいの?」
「そこまでは言いませんが・・・」
「親友でしょ?わざわざ迎えに行ってまでの招待に他意は無いんだよ?」
「露骨さを増す説明ですわね」
「いいじゃん、まるで私が爆多川賞を獲ったかのようにパパ達に紹介するから」
「なんのフォローにもなってないような」
どうやら今まで招待しなかった事を根に持ってたようだ。
だってあんな豪邸に住んでる人を招待するってなかなか勇気いるよ?
『可愛いお家ですのね』とか言われたらパパが可哀そうじゃないの。
「まあでも、爆多川賞を獲った親友を自慢したいってのは確かにあるのかも」
「そういう物なのでしょうか?」
「こういうのは庶民感覚かもね。玲奈は超美人な女性初の棋士の親友を誰かに紹介したいとか無いの?」
「会ったらガッカリさせるような気がして」
「どういう意味よ?実物はそんなでも無いとでも言うつもりなの?」
「中身の問題なのですが」
なんだ、中身の問題か。
って酷い!玲奈ったら私の事そんな風に思ってたの?
「君島さんの自信過剰な性格は好みが別れると思いますが・・・」
「確かに・・・女流の子には疎まれてるもんなー」
咲子は元気かな。
いや別に元気じゃなくてもいいんだけど。
「でも、私って人に紹介できない友達だったのね」
「会わせてくれと言う人は居ますわよ?ですが、煩わしくないですか?」
「うん、正直に言うとそうだね」
「余計なしがらみを作る事は無いですよ。わたくしも君島さんの邪魔になりそうな事をするつもりはありません」
「うーん、それを言われちゃうと、これから玲奈を親に紹介するのも迷惑だった?」
「何故ですか?わたくしは君島さんのご両親に会ってみたかったですわよ?」
「いや、サインくれって言われるかもしれないし」
「赤の他人と親友のご両親では関係性が違います。比較する事では無いですわよ」
そう?なら良かったけど
あ、もうすぐ着くよー。
「ですが、時々不安になる事があるんですの。わたくしは君島さんの事を親友だと思ってますが、君島さんはそう思ってくれてないのではないかと」
「ええ?私だって思ってるよ。玲奈は親友だよ?」
でも親友の定義って何だろう。
その辺は人それぞれ違うだろうし、気持ちは見えないから不安になるのも解る。
「私は返しきれてないけどさ、玲奈にはたくさん支えて貰ったと思ってるよ?」
「別に、見返りを求めている訳では無いのですが・・・君島さんは薄情な時があるじゃないですか?」
うぅ、話がそっちに行ってしまったか。
親友相手に薄情な事してたら信用ないのは当たり前だ。
「悪気はないんだよ?」
「それは解ってます。ですが寂しさを覚えるこちらの身にもなってください」
「ぐぅ・・・わ、解ったよ。これから気を付けます」
それより着いたよ?
どう?我が家は。
「素敵なお宅じゃないですか」
「それが爆多川賞を獲った作家さんの感想ですか」
「ど、どう表現しろと?」
もっと独創的な表現をしてよ。
無茶振り?どうせ普通の家だから他に言いようも無いんでしょ?
「ここが薄情な友人を産んだ根城ですのね」
「・・・」
そっちに話の流れが行くと、私も都合が悪い。
あまり、無茶振りはしないでおこう。
「パパ、連れて来たよ」
「おお、いらっしゃい」
「お邪魔いたします」
ちょっとパパ随分うれしそうね。
あくまでも私のお客さんなんだからね。
あ、今ちょっと玲奈の胸見たでしょ?
まったく男って奴は・・・
「しゃ、写真良いかな?」
「3人で撮りましょう」
「流歌も?まあいいか」
「何よ人を邪魔者みたいに」
美人に挟まれて光栄な事じゃないの。
あ、ママ、写真撮ってー。
「まあ、ママはのけ者なの?」
「ええ?じゃあ皆でタイマーで撮る?」
ママも玲奈に興味津々だったみたい。
・・・ママまで玲奈の胸見ないでよ。
「織華ちゃんも見事だったけど三ノ宮さんもなかなか」
「ま、ママ、何言ってるの?」
「何の話ですの?」
あんたの胸の話だよ。
君島一家で寄ってたかってあんたの胸に興味津々なんだよ。
でもセクハラにはうるさい子だからパパもママも空気読んで。
「ふう・・・そう言えばスポーツ新聞にも巨乳爆多川賞作家と書かれましたのよ。現在訴える準備中です」
「お、おお、それはひどいな!」
「え、ええ、それはひどいわね」
パパもママも空気読んでくれたようだ。
どこの新聞社?西スポ?将棋には関係無い新聞社だからガンガン訴えちゃって。
はいはい、じゃあ写真も撮ったしそろそろ二人きりにさせてよ。
玲奈、自室に行こう。
「まあ、ここが薄情な親友の・・・」
「そ、それはもういいから」
きょろきょろと興味深げに部屋の中を見渡す玲奈。
なんかおかしい?それとも庶民の暮らしに興味があるの?
「女の子らしくない部屋ですわね」
「まあねw」
ベッドと机とパソコンと本棚。
後はウォークインクローゼットがあるだけ。
本棚はほぼ将棋関連の本だ。
「まあ、古い将棋の本もこんなにたくさん・・・」
「古本屋で買ったんだよ」
将棋の本ってすぐに絶版になるからね。
まだまだ欲しいけど山ほどあるから集めきれない。
「将棋も進化してるのに、古い本でも勉強になりますの?」
「古い知識だって知っておいて損は無いよ」
古い定石が見直される事もあるからね。
知識は邪魔にはならないと思う。
コンコン「流歌ちゃん、お茶を持って来たわよ」
「ありがとう、ママ」
さてさて、お茶を飲みながらお話でもしようよ。
どうしたの?玲奈そわそわして。
「美味しいですわ。これが親友宅のお茶」ズズズ
「ふ、普通の紅茶だよ?」
「そしてこれが親友宅のケーキ」
「近所のお店のだよ」
「このフィルムをべろんべろんしてもいいですか?」
「どうしちゃったの玲奈w」
お嬢様でしょ?そんなはしたない事しちゃいけません。
子供じゃないんだから。
「むう、家では出来ない事を出来ると思ったのに。親友なら見逃してくださいな」
「そういう欲求があるの?」
「ありますわね。思いっ切りお行儀の悪い事をしてみたいですわ」
ふーん、羽目を外したいのか。
確かに良家に産まれるってのも、良い事ばかりじゃないんだろうな。
「でも・・・ウチに来て玲奈が行儀悪くなったんじゃ、ご家族に申し訳ないと言うか、私が悪影響だと思われそうじゃない?」
「別に家では今まで通りの優等生を演じますわよ」
「演じてたの?」
「そういう訳ではありませんが・・・親の目の届かない場所で気の許せる相手の前なら羽目を外しても良いじゃないですか」
うーん、そう言われると・・・
別に、ケーキのフィルム舐めるくらいいいけどさ。
「むっ、大した事では無いと言いたげですわね。では君島さんが今までにした一番行儀の悪い事を教えてください」
「え?!急にそんな事を言われても・・・」
一々覚えてないよそんなの。
ケーキのフィルム舐めたこともあったっけ?
子供の頃ならやってるかも・・・あ、一つ思い出した。
「子供の時だけど、プリンをストローで吸って食べた事はあるね」
「ええええ???!」
玲奈が衝撃を受けている。
ケーキのフィルムどころじゃなくなったって顔だ。
「そ、そんな事が可能ですの?!」
「いや、あんまり上手くは食べれなかった気がする」
「な、なんという・・・恐ろしい子供だったのですね」
なんでよw
子供ならやった事ある人多いはず。
別にそこまで特別な事じゃないよ。
「それに比べ、ケーキのフィルムを舐めたいだなんて幼稚でしたわ」
「いや別に、こんなので競う事じゃないし」
「今までやって来た悪逆非道の数々をもっと教えてくださいな」
「なんか腹立つわね」
私だって基本は優等生だよ。
パパが怖いからあまりやんちゃな事しなかったし。
「話は変わるんだけどさ、来年の白湯女の学校案内のパンフの表紙、玲奈がやるんだって?」
今年の表紙は私がやった。
夏ごろに撮影してもうとっくに出回ってる。
学校側は、女性初の棋士である私を広報として起用した。
「はい、だから今年もわたくしにしておけと言ったのに」
「学校側だってまさか玲奈が爆多川賞獲るなんて思わなかったでしょ」
女性初の棋士と爆多川賞を輩出した白湯女。
元々女子校としては日本一だけど、これでまた評価が変わるのかな。
「そのうちノーベル賞も獲るのでより評価が上がりますわね。おーっほっほ」
玲奈の高笑いが響き渡る。
白湯女は名門大学だけど、ノーベル賞受賞者は未だに居ない。
まあ受賞者は圧倒的に男が多いからね。
「君島さん、この前部室で言ってた事を実現しましょう」
「え?何の話?」
「私達が女性初の将棋タイトルホルダーとノーベル文学賞を獲ると言う話です」
「ああ、那由に言ってた・・・」
「本気で言った訳では無いのですか?」
・・・あの時は半分冗談だった。
でも、もちろん私はタイトルを目指して戦っている。
「勿論実現させたいよ。でも玲奈の夢の方が難易度高いと思うけど」
「わたくしは必ずノーベル賞を獲ってみせます。ですから君島さんもタイトルを獲ってください」
「・・・」
「無理なのですか?」
安請け合いはしたくない。
でもより高みを目指している人にここまで言われてしまっては逃げれないな。
「解った、約束するよ、私は必ず将棋のタイトルを獲る」
「ふふ、約束ですわよ」
玲奈が満足そうに小指を出して来た。
え?ひょっとして指切りげんまん?
ず、随分と古い事すんだね。
「親友同士の約束です。儀式も必要かと」
「儀式って・・・まあいいか」
「指切りげんまん♪嘘ついたら・・・はりせんぼんって針が千本なのか魚のハリセンボンなのか解りにくくないですか?」
「どっちでもいいんじゃ?どのみち飲むの大変そうだよ?」
「現実的に考えて、シラス千匹くらいにしておきますか」
「もう罰になってないような・・・多いのかどうかも解らない」
「はい、指切ったー♪」
ははは・・・なんだかなぁ。
こっちの戸惑いとは裏腹に、楽しそうな玲奈。
何かいつもよりテンション高いな。
子供みたいにはしゃいでる。
「親友宅に初訪問で楽しく無い訳が無いじゃないですか」
「そ、そう?楽しんでくれてるなら良いけど」
「そう言えば対談番組の依頼が来たんですのよ」
「テレビ?誰と?」
「そちらにはまだ来ていませんか?」
「・・・え?私とって事?」
「あと、囲碁の女の子だそうです。『私らの時代』と言う番組だそうですよ」
ああ、あの番組か。
よく解んないけど3人でお話しする番組。
囲碁の女の子って言うのは?
「仲村 霞さんだそうです」
「ああ、あの子か。歳離れすぎのような」
「君島さんが出るならわたくしも受けようかと」
「玲奈とテレビで話すの?なんか他所行きの変な会話になりそう」
「素は出せないですわよねえ」
テレビ側としては異なる分野で活躍する女性として3人を選んだらしい。
でも仲村さんは若すぎると言うか今何歳だっけ?
確か数年前に10歳でプロ入りしたんだったよね。
「仲村さんはもうすぐ14歳らしいですわよ」
「へえ、知らないうちにそんなに大きく・・・」
「将棋棋士は囲碁棋士にあまり興味が無いものなんですか?」
「どうなんだろう?私は名前を2、3人知ってるくらいだよ」
「市ヶ谷に住んで居てもそんなものなんですね」
おっと、さりげなく私の住所を言ったね。
今まで濁していたが、私の家は市ヶ谷にある。
交通の便が良くて治安も良い住みよい街。
そして、囲碁の日本棋院がある街でもある。
でも囲碁には全く興味無く育ったなぁ。
市ヶ谷に住んでるからってみんなが囲碁に興味持つ訳じゃ無いよ。
「囲碁棋士と交流のある将棋棋士も居るけど、私は全く接点ないなぁ」
「囲碁界のお話も聞いてみたい気もしますが・・・」
確かに。
でも、学年にすると7つも違うよ?
話あうのかな。
「その辺はテレビなのですから上手く誘導してくれるのでは?」
「うーん、解った。連盟に相談してからになるけど出る方向で考えるよ」
でも何を話せばいいのやら。
ジェネレーションギャップを感じたら私も歳をとった気分になりそう。
あ、13歳の弟子でシュミレーションしようかな。
「ふう、君島さんと一緒なら安心ですわ」
「どうしたの?ひょっとして、急に有名になったから大変とか?」
「そうなんですの。テレビの依頼も多いのですが、おかしな仕事はしたくないですし・・・」
まあ受賞したばかりだからそうなるよね。
でも私もプロになった時には山ほど仕事依頼が来たけど、最近は落ち着いて来たよ。
「それも怖いですわね。減ったら減ったで不安になりませんか?」
「最初が異常だったからね。私は今くらいで丁度良いけど」
「そうですか・・・」
怖いか・・・
確かに注目度が減ってると考えれば怖い事なのかも。
玲奈の場合は特にそうなのかな。
爆多川賞を獲っても大半の作家が消えてるって言ってたもんな。
「注目される苦労を学びましたわ。君島さんはこんなプレッシャーとも戦っていたんですね」
「え?私はそんなに気にしてないけど・・・」
「図太い性格が羨ましいですわ」
「悪かったわね」
まあ困った事があったら相談してよ。
今度は私が支えるからさ。
しかしこうやって玲奈と二人きりで過ごすのも久し振りだね。
高校時代に戻ったみたい。
「貴重ですわね。今度はいつこんな機会が訪れるか」
お互いが忙しくなっちゃったね。
今日は時間を作れて良かった。
懐かしい気持ちでその日は玲奈と過ごした。




