賞
2月某日 サークル
唐突だが、玲奈が爆多川賞を取った。
昨日のニュースで知っておったまげた。
爆多川賞とは、純文学の新人に与えられる文学賞。
私でも聞いた事があるくらい大きな賞だ。
「れ、玲奈、本なんて書いてたの?」
「はい」
「ええ?そんなあっさり?・・・私、何にも・・・あ、皆は知ってたの?」
「知らないよぉ」「寝耳にウォーターデース」
「本くらいなら誰でも出せますわよ」
そ、そういうもんなの?
まあ、私もその内将棋の本を出す事になるだろうけど・・・
「人の事を薄情とか言っときながら、何も言わないなんて」
「ノーベル賞を取るとは言ってたじゃないですか」
「ああ、文学賞狙いだったんだ?というか玲奈って文系なの?」
「・・・君島さん、貴方って人は」
今日初めて玲奈の専攻を知った。
例によって薄情者を見る目で見られる。
こ、今回はお互い様じゃない?
ちなみに私は理系数学科。
「まあ応募した事は恥かしいので黙ってましたが」
「その前に本を出した事を言いなさいよ」
「それは・・・し、知り合いに読まれるのも何だか気恥ずかしくて」
そう言って頬を赤くする玲奈。
うーん、気持ちは解らないでもないけどさ。
で、どんなエッチな話なの?
「人聞きの悪い。それに君島さんは純文学なんて読まないですわよね?」
「どんな印象持ってるのか知らないけどその通りよ。眠くなるのよね」
「将棋ってぇ、文系と理系でどっちが強いとかあるのぉ?」
「ああ、理系が強いとは言われてるけど。でも一概には言えないと思う」
計算、読みの深さは理系の範疇だよね。
でも発想力、想像力も大事だと思う。
そっちは文系になるんじゃないかな。
「さて、じゃあ取りあえず玲奈の本を買ってこようかな」
「あぁ、頼子も買いに行ったけど売り切れ中だったよぉ。都内の何処にも無いみたぃ」
「ネットでも売り切れデシター」
「ええ?さすが爆多川賞。じゃあ再版するまで買えないの?」
玲奈がいそいそと自分のカバンを開く。
「あげますわよ、そんな君島さんじゃあるまいし」
普通にくれればいいのに何故嫌味を足すのだろうか。
お、初版本。
とっておいてくれたんだ。
タイトルは駒唄。
・・・へえ、将棋の話なんだ?
って、主人公は女の子だ。
「私の人気にあやかったの?」
「言い方があれですが、結果的にそうなってしまった感は否めません」
でも主人公は地味な子みたい。
・・・私とは性格も真逆だな。
環境も違う。天涯孤独の設定なのか。
逆境に負けずに戦うと言う点はちょっと似てるかも。
「でも情に熱いみたいだよぉ」
「ルカとは真逆ダネー」
「五月蠅いわね」
ちょっと読んでみたけど、師匠が外国人だった。
結構ぶっ飛んだ設定にしたんだね。
「シショ―はシャリーがモデルデスカー?」
「いや、男の人みたいだよ」
「ナンダー」ガックシ
「あながち間違いでもありませんのよ?身近な人で設定を作った方が書きやすかったので」
変えはしたけどベースは私たちなのか。
だとしたら本の売り上げに応じたキャラクター使用料を・・・
うそうそ、みんなそんな眼で私を見ないで。
「ですが本のタイトルも君島さんの名前をもじったのも事実です。やはりいくらはお支払いした方が・・・」
「冗談だってば」
そっか、結構安易にタイトルつけたんだね。
なんだかウェブ小説サイトに投稿したらブクマが伸びそうもないタイトルだけど。
内容の問題?あはは好みの別れる題材だからでしょ?
私は一人でいったい何を言っているのだろうか。
「と言うか、玲奈って小説家として生きて行くつもりだったの?」
「小説家は夢の一部ですわね。出来れば多方面で頑張りたいと思ってますわ」
そだね、本もなかなか売れない時代になってるし。
純文学は特に厳しい分野だとも聞く。
ガチャ「玲奈ー」「・・・久しぶり」
「おお、那由と遥じゃん」
就職活動中の二人が来た。
勿論玲奈に会いに来たのだろう。
「ビックリしたよ!玲奈ったら何にも言わないんだもの」
「恥ずかしくて・・・それに一次選考も通らなければみっともないじゃないですか」
「・・・自信無かったの?」
「なにぶん、応募するのも初めてなので、手ごたえもどこまで行けるかも・・・」
それなのに大賞か。
頭の良い子だとは知ってたけど、特別な才能まで持ってたとは。
「でも凄くない?白湯女将棋部の中に女性初の棋士と爆多川賞作家が居るんだよ?」
「那由、女性初の将棋タイトルホルダー候補とノーベル文学賞候補って言って欲しいわね」
「お、おおお」
那由がビビってる。
ツッコミ待ちだったんだけどな。
「ぼ、ボクも就職活動頑張らなきゃ」
「そうだ、二人ともそっちはどうなってるの?」
今月でインターンが終わり、いよいよ企業エントリーやら説明会が始まるらしい。
私って就活の事何も知らないけど、そんな流れなんだね。
「目星の企業は決まったの?」
「・・・うん、私の第一志望は日毎新聞」
「へえ、結局新聞社にしたの?」
新聞は現在進行形で先細り気味だ。
でも無くなる事は無い企業だから良いのかな。
「ボクは不動産関係にしようと思うんだ」
「証券はやめたのね」
二人の中で目標が定まって行く。
形は違えど二人だって頑張ってるんだね。
「でも、流歌や玲奈が凄すぎて自分が小さく見えるよ」
「そんな事無いよ。私の仕事なんて華やかに見えるかもしれないけど不安定だよ?」
「そうですわ。爆多川賞なんて獲っても、その後大半の作家が消えてますのよ」
そうなんだ。
やっぱり難しい世界なんだね。
「地に足の着いた仕事を選ぶ方が家族も安心しますわよね」
ギクゥ「うう、耳が痛い」
実際、私の場合は今がピークかもしれないんだよね。
若くて綺麗だからCMとか来るわけだし。
棋士としても歳をとると弱くなっていく訳だし。
先細って行くのは、棋士も一緒なんだな・・・
「・・・流歌が凹んじゃったよ」
「ま、まあ、そんなつもりで言った訳じゃありませんのよ?」
解ってるよ。でもその通りなんだろうなと思った。
改めて特殊な仕事を選んでしまったのだと気付かされたよ。
「まあいいわ。羽月さんみたいに長期間活躍すればいいか」
「その脈絡のない自信の根拠を聞きたいところですが・・・」
「流歌ちゃんってネガティブなのかポジティブなのか解んないよねぇ」
「ところで織華ちゃんと花音ちゃんは?」キョロキョロ
「お二人なら棋玉戦の為に四国に行きましたわよ」
ああそっか。
花音ちゃんの親の会社がタイトル戦の協賛になったんだよね。
前夜祭で花音ちゃんがタイトルホルダーに花を渡すとか言ってたっけ。
織華ちゃんは付き添いかな。
「・・・今回流歌は呼ばれてないの?」
「うん、棋士もいっぱい居るからそんなにしょっちゅう呼ばれるもんでもないよ」
「頼子はぁ、挑戦者が斉上さんだから行きたかったなぁ。前夜祭応募したけど外れたんだよぉ・・・」
まだ狙ってたのかこの子は。
でも斉上さんには頑張って欲しいな。
渡邊を引きずり落とし・・・
人に期待しちゃ駄目か。
自分で引きずり落とすくらいの気持ちで居なきゃ。
「さて、じゃあ今日は帰って玲奈の本を舐るように観賞しようかな」
「もう、粗探ししないでくださいね」
人聞きの悪い。
貰ったお返しに、ネット通販レビューに五つ星くらいはつけるつもりだよ?
今世紀最高の傑作とかタイトル付けて。
「評価は正当にお願いしますわ。不相応な評価を貰っても良い事はありませんわ」
確かにそうかも。
絶賛してる人を見かけると、それまでレビューを書く気も無かったアンチが目覚め始めるからね。
それがネットと言う世界。
まあいいや、帰ろう。
家
「貰ったのか。俺も探したけど売ってなかったんだよな」
「パパ、読みたかったの?私の後で良いなら貸すけど」
「おう、娘の友達だって自慢したいから早めに頼む」
「パパは娘にするなら女性初の棋士と爆多川賞を獲る子とどっちが良かったの?」
「いきなり凄い二択を迫って来るなよ」
「・・・それとも、安定した職業を選ぶ子が良かった?」
「・・・・・・」
考え込んじゃった。
いきなりこんな事言われても困るよね。
「若い頃は娘なんて金かけて嫁に出すだけだと思っていたからな」
「え?男の子が欲しかったって意味?」
「そうじゃないよ。でもどこに出しても恥ずかしくない子を・・・と思ってたと思う」
「・・・私は、パパにとって誇れる子?」
「それはもう・・・お前は女として初の事をやり遂げたからな」
「でもそれは、パパの望んだ道とは違ったでしょ?」
「俺の理想がどうとかよりも、一番はお前自身が幸せかどうかだよ」
「だとしたら叶ってるよ。私は望んだ道に進めて幸せ」
「・・・そっか」
何か言いたげだけど飲み込んだようだ。
本当は思うところがあるんだろうな。
「それよりその本面白いか?」
「玲奈が書いたかと思うと凄く面白い」
「どういう意味だ?w」
玲奈がこんな事考えてたんだなぁ、とか。
まるで心の中を見てるよう。
「玲奈は私にこうあって欲しかったのかなぁ、とか思っちゃうんだよ」
「理想を投影して書いたとは限らんだろ」
「そうなんだけどね。でもなんだか読んでると責められてる気分にもなるんだよ」
「なんだよそれw読むの苦痛にならないのか?」
ならないよ。客観的に見る事が出来て面白いよ。
人とは違う見方かもしれないけど、玲奈の考え方が伝わってくるのが新鮮だ。
「パパって玲奈に会ったことあったっけ?」
「高校の卒業式の時に答辞読んでた子だよな?直接は話した事無いけど」
「今度家に連れて来るよ」
「マジで?一緒に写真をお願いしても良いのかな」
そっか、これからは玲奈もそういう対象なんだ。
悪用しないなら頼んであげてもいいよ。
「無理なら無理で良いんだぞ?俺だってお前の写真くれとか会わせろって言って来る奴の対処に苦労してるし」
「やっぱりそういう人居るんだ?」
パパは一流企業の部長さん。
同じ会社の中でも今まで話した事もない人から声をかけられる事が多くなったとか。
取引先でも仕事の話をしたいのに私の話になるとか。
「迷惑かけてる?」
「・・・どっちとも言えないな。顔が広くなるのはビジネス上では悪い事じゃあ無いし」
良い事もあれば弊害もあると。
ごめんね、娘が超絶美人棋士で。
「俺としては娘をビジネスに利用したくはないんだぞ?」
「でも著名人なんだからどうしても興味は持たれるでしょ?」
「そうなんだよなぁ・・・」
パパも複雑と言ったところか。
別に利用してくれてもいいんだけどな。
でも思わぬ見返りを求められかねないからパパも慎重らしい。
「見合いの写真を何度渡されそうになったか」
「www」
ごめんね。苦労かけます。
見合いは絶対に断ってね。




